【完結】竜殺しの孫   作:扇架

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十五話

 路は、二人並んで歩ける幅だった。あえて整える必要性を感じなかったのだろうか、地下洞は粗く掘り抜かれただけ。装飾らしい装飾はない。イシドーラの業を封じ込めるためだけの場所だ。空間さえ確保されていればよく、他は二の次だったのだろう。無駄を省き、魔力を封印に振り分けたのだ。

 ざりざりとした地を踏み、セラは進む。前を行くのはギルとフィグ先生。杖明かりがなくとも問題はなかった。淡い光が漂っている。それに、セラの眼には黄金の輝きが映っていた。数え切れないほどの鳥。

――腕の立つ者の仕業だろう

 それは鍵に見えた。形はばらばらだ。双子の呪文で増やしたわけではない。作りだし、動かしている。呪文学の専門家だろうか。未来のどこかで、この仕掛けをほどこした者は。

 さっきは悪魔の罠。だとすれば薬草学に秀でている誰かの仕掛け。

「鍵を見つけなきゃ」

 幼い声がした。ふと振り向けば、小さな影がある。緑の眼の男の子が、鳥の渦に眼を凝らしている……。

「スネイプに追いつかないと」

 賢者の石を奪わせたら駄目だ。

「……は?」

「セラ?」

 手で触れられそうなほどにはっきりとした幻が解けていく。ギルが振り向いていた。

「少し躓いただけ」

 咄嗟に言い訳をして、歩を進める。隣のヘクターの視線が痛い。もちろん彼はセラが「躓いた」わけではないと知っている。なにを視た? と問われているのはわかっていたが、とても答えられるものじゃない。

――賢者の石

 なにがどうなって賢者の石の話が出てくるのだろう。いつかの未来の話とはいえ。確かあれは、ニコラス・フラメルがつくった傑作だ。老いと病を退ける命の水。そして黄金を生み出す魔法具。守護者たちと時代が重なっているかもしれない。彼らは死んで肖像画となり、フラメルは今なお生きている。

 これから先、フラメルの手に負えない事態になって、ホグワーツに賢者の石を預けたということだろうか? そして石を狙う誰かがいて……きっと罠を仕掛けたのだろう。

 と、いうことは。罠を仕掛けるためにこの空間を――地下洞を改造したのだろう。辻褄は合う。

 小鬼どうこう、古代魔術どうこうなど頭から消し飛んでいた。気づけばセラはヘクターに手を引かれ、広場に出た。導かれるがままに、石段を越えたり段差を降りたりしていたのだろう。先視はこれだから困るのだ。

 足下が震える。ヘクターが舌打ちした。

「フィグ先生、ギル、止まって」

 腹に響く衝撃とともに、土煙が上がる。岩壁が破られ、銀色が姿を覗かせた。

「やりやがった」

「早く行かないと」

 ギルが苛立ちも露わに言う。フィグ先生がため息を吐いた。

「小鬼の銀とて容易には破れないはず……なりふり構っていない」

 唸りとともに銀のドリルが姿を現す。あちらこちら焦げ、欠け、酷い有様だった。大穴から、小鬼たちが飛び込んでくる。誰も彼もが眼を赤く染め、雄叫びをあげていた。

 ぼんやりと幻が重なる。磨かれた床と舞台。並ぶチェスの駒……。

「ランロクは、同胞がいくら死んでも構わないということか」

 どれほどの怒りが下されるか。

「力にとりつかれた愚か者どもだ」

 ヘクターが鼻を鳴らす。殺到してくる小鬼にも、眉一つ動かさない。

「だから――自分たちがなにをしているか、気づきもしない」

 風が吹いた。ひょう、と鋭い音とともに、小鬼が悲鳴を上げる。血しぶきが飛ぶ。蹈鞴を踏んだ連中を、どこからともなく現れた、氷の槍が刺し貫く。と、思えば石化し……黄金の炎で灼かれていく。

「君の仕業?」

 ギルが問いかけ、歩を進める。そろそろとした歩みだった。いや、とヘクターが答えた。

「ロウェナが読んでいたんだろうな」

 そうして、創設者たちは仕掛けた。招かれざる客があれば、排除するように。

「少なくともいくらかは削ったか」

 フィグ先生が呟く。悲鳴の中を進みながら、彼はひょいと杖を振る。ドリルを光が覆った次の瞬間、銀色が砕け散った。

 よくも、としゃがれた声がする。傷だらけになりながらも、小鬼たちが向かってきた。四人が杖を構えた瞬間、小鬼たちが樽となった。

「ここは任せて行くんだ」

 岩棚の上に、ウィーズリー先生がいた。杖十字会の何人かも一緒だ。

「おいマチルダ。私たちまで吹き飛ばすつもりか!」

 フィグ先生が悲鳴じみた声をあげ、セラたちを急かす。今頃、地下には教師や杖十字会が集結し、各所に散らばっているだろう。いつの間にやらヘクターが姿現しの制限を解除し、呼んだらしい。

 いや、それよりも。セラは足を早める。さっさと広場を抜けないとまずいことになる。先視がなくてもわかる。とても、大変、嫌な予感がした。フィグ先生に急かされるまま、飛び出すようにして広場を抜ける。直後、轟音と熱が背を襲った。

「小鬼を変身させて……爆破かあ。先生容赦ないね」

 ギルが乾いた笑いを漏らす。背後でセバスチャンの「先生! あいつら巻き込まれたらどうするんですか。僕がイライアスに殺されますよ!」という呻きが聞こえた。

「手っ取り早いな」

「やめなさい。いくらなんでもあれは邪悪だ」

 ヘクターが言い、フィグ先生がたしなめる。セラはなにも言わないことにした。相手は侵入者で、ランロクが遺物を手に入れたら……きっと虐殺に及ぶだろう敵だ。上階へ上がり、城に入り、生徒たちを殺すだろう。ウィーズリー先生にどうこう言えない。殺さず捕らえるなんて余裕はないのだ。

 一行は小走りになっていた。先々で小鬼に遭遇し、排除していく。といっても、援護者たちの「取りこぼし」だ。ガーリック先生は悪魔の罠を使い、小鬼を締め上げている。可愛らしい先生と悪魔の罠の取り合わせはそれこそ悪夢のようだった。杖十字会の面々――主に男子――はガーリック先生を見て胸を押さえていた。理想と現実の間で葛藤しているのだろうか。中には「先生素敵っす」と眼を輝かせている者もいた。ガーリック先生は人気なのだ。

「気をつけてね!」

 ガーリック先生がぶんぶんと手を振る。悪魔の罠に締め上げられた小鬼たちが呻いた。

「先生、ありがとう!」

 ギルは抜かりなく愛嬌を振りまいた。戦場だろうがなんだろうが、である。

 小鬼は複数箇所に穴を開けて侵入しているようだった。なんとトロールまで投入していた。苦戦は必至。無駄に時間を食う……はずだった。

「ここは任せておけ」

 下って、段差を飛び降りて着いた場所にはトロールが転がっていた。二体。

「さすが元魔法警察ですね」

 そんな場合ではないのだが、言わずにはいられない。さすがに骨が折れたのか、疲れたように岩に腰掛けているシャープ先生は、片足を撫でた。

「全快とはいかんな」

 どこか不満そうである。トロールを二体相手にして倒しているのだから、誇っていいと思うのだけど。

「行けポッター、急いでいるんだろう」

 ええ、と頷く。ちらとシャープ先生を見る。転がるトロールを、浮遊呪文で飛び越えた。

 じんわりと両眼が熱くなる。倒れ伏したトロールが見えた。シャープ先生が倒したものより大きい。

「何箇所穴を開けたんだか」

「ランロクより先に着けばいいだけだ!」

 ヘクターが怒りの唸りをこぼし、ギルがさらりと言う。セラは息が切れてきた。箒でも持ってくるのだったと思っても後の祭りだ。

 細い橋が見える。人ひとりが渡れる幅だ。小鬼の姿はない。代わりに、人影が三つあった。

「お行き。片づけといたから」

「といっても落としたんだけどね」

「這い上がって来られないでしょう」

 大叔母とヘキャット先生とイライアスだった。詳細を聞く気にもなれなかった。すぐそこに手軽な断崖があるのだ。向こう側へ渡ろうとしたのだろう小鬼たちは、哀れ真っ逆さまだったのだろう。

「ここは守っておくから」

 イライアスはにやりとする。セラはなんの心配もしなかった。少なくとも、小鬼の波はどうにかなる。

「上は?」

 ヘクターが鋭く問いかけた。

「ああ、有志で城の守りも固めてるよ」

 一応だけれどね。校長は邪魔だから寝かせておいた。イライアスは気楽に言い、セラはちらりとヘキャット先生を見た。

「だってあのバカはいらないからね」

 純血主義者の襲撃だとかだったら人質にできるんだが。小鬼相手だとなんにもならないし。

「そのほうがいいでしょうね」

 こんな戦場に来られて怪我でもされたら、奥さんと子どもがかわいそうだ。ギルがつらつらと言う。校長がいかに奥方を騙しているか、セラも知っていた。校長の私室にあった手紙からは、奥方が夫である校長を「有能」で「すばらしい」校長だと思いこんでいるのが窺えた。あまりにいたたまれなくて、セラとギルは手紙を読み終えると無言になったものだ。

 大叔母たちに促されるまま、橋――細い細い橋に足をかける。セラは念のために浮遊呪文をかけた。それでも、下に広がる闇は怖かった。落とされた小鬼たちは無事では済むまい。

 橋の向こうはただの壁だった。ギルはためらいなく壁に手を突く。その瞬間、青白い光とともに扉が現れた。進めば、そこは室だった。滑らかな床と壁、銀色で古代魔術の象徴らしき印が刻まれている。

 前方には門番が待ち受けている。

「この局面で戦うはめになったら厭だなあ」

 ギルが腰のベルトから杖を――守護者の杖を取り出す。白銀のそれを掲げ、ゆっくりと前に――門番たちに近づいた。

 その背に、誰かの姿が重なる。小さな背。黒髪の男の子。

――ああ

 あの子だ。セラの先視に出てくる男の子。今は小さいけれど、彼は大きくなる。そして酷く苦しんでいた……。名前も知らない、決して会うことのない彼が、なぜいるのか。

 闇色の炎が、彼の行く手を塞いでいる。杖を持ち、誰かを待っているようだった。

「どういうこった」

 呟きが「どこか」にこぼれる。同時に、彼が引っ張られた。握った杖に――雪白のそれに引きずられるように。黄金の炎が花開く。闇色の炎を祓っていった……。

 腹の底に響く振動に、セラは我に返った。門番たちが膝を突き、ギルに頭を垂れている。そして姿を溶かし、銀の球体となり宙に浮いた。ギルはなにをすべきかわかっているかのように、杖を振る。浮かぶ銀色がまたもや姿を溶かし、行き止まりの壁に吸い込まれた。ぼう、と白銀の輝きが壁に浮かび、扉が現れた。そしてギルが言った。

「行こう」

 ◆

 下っていくと、赤黒い光があちらこちらに見えた。ここが最奥の保管庫。求めるものは近いのだ、と悟っていた。

「ギル、君はどうするつもりだ?」

 フィグ先生が、並んで歩むギルに問いかけた。

「封印された力を隠したままにするか……解き放つか?」

「数百年の間に、どれだけ力がすり減ったかによりますね。さっさとブラグボールの器を壊し、中身を拡散させたいです」

 いつまでも眠らせるわけにはいかないでしょう。問題を先送りにするだけだ。

「力を扱えるのは、守護者の君だけだろう。イシドーラが奪い取った心の欠片は相当な量で、手にすればなんだってできるだろう」

「世界征服とか?」

 ギルがくすくすと笑う。

「そんなの興味ないですよ、先生。古代の遺物はないほうがいい……ミリアムさんみたいに巻き込まれるかもしれないし」

 ギルが振り向いた。

「ヘクターはさっさと片づけたいでしょうしね」

「お前が力を悪用しようとすれば、始末するところだよ」

 ほらね、とギルが肩をすくめる。セラは安堵した。イシドーラのように何度も何度も殺されて、遺体をばらばらにされて灰になってなんて末路、ギルには似合わない。イシドーラだってそうだ。犯した罪が罪とはいえ、酷いことだ。

 ひたすらに歩を進める。赤黒い輝きが強くなり、風が錆びていった。肌がじりじりと焦がされるようだ。

「ああ、間に合った」

 ギルが吐息をこぼす。

 細い橋がかかった先は、円形の広場。セラは向こう岸を――「それ」を見上げた。巨大な銀が編まれ、球体を成している。隙間から覗くのは、どろりとした何か。イシドーラの業罪。

「破砕呪文にするか?」

 ヘクターが杖を構える。古い、強力な魔法だ。粉々呪文なんてちゃちなものではない。守りを打ち砕き、敵に絶望を与える魔法だった。

「そうしようか」

 四人は杖を構え、一斉に唱えた。

「破砕せ――」

 よ、という音の尾は、轟音に砕かれた。いいや、砕かれたのは壁だ。セラたちがいる場所の、右手の壁が崩れ、口を開ける。出てきたのは銀の頭――小鬼のドリル。

 重い音がする。一歩、二歩、三歩……小さい種族のはずなのに、どうして足音がこれほどに響くのか。

「苦労をさせてくれる」

 唸るように言い、姿を現したのはランロクだった。

「これだから魔法族は」

 我々を煙に巻き、さげすみ、知性が劣ると決めつけ、杖の特権を手放さない。

「小鬼のものは小鬼のもの」

 魔法族のものも、小鬼のものとなろう。

 楽しげに言ったランロクは、愛おしげになにかを撫でる。淡い色の杖。

――ランロクが、ミリアムを殺して奪った、杖だ

 風切り音が響く。フィグ先生が放った武装解除呪文が、ランロクに迫る。

「妻の杖、返してもらうぞ」

 フィグ先生の声は不気味なほど平坦だった。予想していたのだろう、惨殺された妻の杖を誰が持ち去ったか。そして決めていたのだろう。必ず取り戻すと――だが。

 ランロクの鎧が輝きを纏う。武装解除の光線が揺らいで消え、ランロクの手の中には変わらず杖があった。奪った杖が。

「お前の妻のものだったか。バカな女だったよ……小鬼をたぶらかす、悪い魔女だ」

 ランロクの眼はフィグ先生など見ていない。ギルも、セラも、ヘクターも見ていない。彼が捉えているのは銀の器。小鬼の封印と、うごめく力。

「そんなことはどうでもいい。今日、すべてが変わるのだ」

 魔法族などいらない。小鬼の前に膝を突かせてやる。

「支配者は――」

 小鬼だ。

 ランロクが杖を振る。輝きがあたりに満ちる。穢れた光。不当な手段によって奪われた、心の欠片。澱み、欲望を駆り立てる力。

 虫の羽音のような、耳障りなそれが木霊する。セラはたまらずに耳をふさいだ。ブラグボールの器が砕け、力がランロクに収斂していく。

――耐えられなければいい

 内側から、弾けてしまえばいいのに。それか身を裂かれてしまえばいいのに。セラは瞬きもせず光のほうを――うごめく影を見る。

 先を視る。膨れ上がる影。巨大なそれ。広げるのは翼で……。

「防護を!」

 叫ぶと同時に杖を振る。盾の呪文を展開し、変形させる。球体へと。セラの呼びかけに応えた面々が、次々に盾を出現させる。四重の守りが創られたと同時に、黒板を爪でひっかいたような不協和音が奏でられ――衝撃波がセラたちを襲った。

 みしり、と盾が軋む。一枚が砕かれ、二枚目も同じく。三枚目にひびが入り、揺れが収まる。

「なんと陳腐な」

 フィグ先生が呟く。緊張と侮蔑が色濃く刷かれた声。セラは無言で「それ」を睨んだ。

 眼は赤々と燃え、体躯は闇の色。揺れる赤気を身に纏い、翼を大きく広げている。

 小鬼のランロクが夢見た強きモノ。力の象徴。

 竜が顕現していた。

 ◆

「もはや主張を聞く必要もあるまい」

 また、哀れみをかけることもない。フィグ先生はきっぱりと言い切った。

「始末したほうが彼のためでしょうね」

 ヘクターが応じ、ギルも頷いた。

「的が大きくなるだけなのに」

 セラは言うや否や『狼縛り』を行使する。幾条もの紐が虚空を奔り、竜に絡みつく。口を塞ぎ、翼を封じる。

――自由にさせるわけにはいかない

 ランロクには魔法族への怒りと憎しみしかない。歪んだ力を得て変質し、竜となった今、自我など残っていないだろう。ただ衝動で突き進む。魔法族を血祭りにあげんとする。

 セラは歯を食いしばる。拘束が解けていく。腕に痛みがはしった。何本もの傷が刻まれているはず。

「穏和しく」

 しなさい! セラは吼える。がちり、と開かれかけた竜の口が閉じ、翼が折り畳まれた。高い高い天井近くから、竜が墜落する。

 土埃が降ってきた。それでもセラは力を緩めない。竜はしぶとくもがいている。

――こいつに力を発揮なんてさせない

 時間をかけてしまえば、力に馴染んでしまうだろう。不完全とはいえ遺物の力を使っていたのだ。もたもたしていれば、地下洞もろとも破壊してしまうかもしれない。

 今のうちに、と呼びかける必要もなかった。フィグ先生が石筍を降らせる。竜の鱗を貫通し、その身を縫い止める。だが、死なない。

「イシドーラと同じか」

 ヘクターが呟き、死の呪文を放つ。立て続けに二度。びくり、と竜は痙攣するが、死なない。溢れる力が竜を死なせないのだ。

「ホグワーツは魔法の徒の砦。侵させるわけにはいかないんだ」

 とん、とヘクターの足が地を叩く。どこからともなく蔓が出現した。それは蔓薔薇だった。『狼縛り』を援護するように、竜の身に食い込んでいく。

 一歩、二歩、三歩。ヘクターが竜に迫る。腰に提げた剣――曰く「写し」だというそれに手を伸ばそうとしたとき、彼の手の中に剣が出現した。

 ヘクターが眼を見開く。セラは言葉を失った。柄に紅玉がはまった剣……。ヘクターが持つ写しなどではない。断じてない。ホグワーツの危機という局面に現れる剣など、一振りしかない。

――真のグリフィンドール生の前に現れるだろう

 そう言い伝えられる本物。

「ゴドリック・グリフィンドールの剣……」

 フィグ先生が絶句する。それでも、魔法をゆるめることはない。竜を地に縫い止め続けた。セラも力を抜かない。

 ヘクターがグリフィンドールの剣を振りかぶる。剣身に、黄金のさざ波が立つ。流れるように振り下ろされた一撃は、竜の首に食い込み、黄金の炎を吹き出しながら、肉を絶ち、骨をも絶った。赤い切り口を覗かせ、首と胴が分かれ――命をも解けていく……。

 竜の身から、黒い靄が噴き出る。転がる首が動き、胴と結びついた。

――何度殺せばいいのか

 あまりの執着に怖気が立った。どこまで魔法族が憎いのか。理不尽が憎いのか。彼はきっと同胞すら憎かったろう。実の弟も殺めようとするくらいに。

「しつこいな」

 ばちり、となにかが弾ける。ギルが守護者の杖を持ち、両の眼を燃え上がらせていた。彼が紡ぐのは、セラが知らない呪文だ。歌うように祈るように、魔法を織り上げていく。

 静かに杖が振り下ろされた。

「千に万に砕け散り」

 お前の罪をも浄めますように。

 青白い輝きが満ち満ちる。稲妻が竜に降り注ぎ、闇を打ち砕いた。

 そして灰が吹き散らされ、一本の杖が静かにそこに在った。

 フィグ先生がよろめくように歩を進め、膝を突く。震える手で杖を――妻の杖を手に取った。

「すまない。遅くなった……」

 ミリアム。

 ギルがフィグ先生の背を撫でる。大技を使った疲労が色濃かった。

 セラはほっと息を吐く。穢らわしい力はなくなった。ひどく空気が澄んでいる。

 過ぎるほどに清らかだ。なにかの力が働いているのかとあたりを見回し、橋を渡った向こう岸、円形の広場に眼がいった。細い影が突き立っているように見える。

 興味をそそられ、橋へ向かう。踏み出そうとして肩を掴まれた。

「自分が怪我人なのをわかっているのか?」

 手を掴まれる。ヘクターに導かれるように橋を渡る。ぱしゃり、と水の音がした。広場に着き、セラは突き立てられたものを見た。黄金の杖――長杖である。蛇と翼の装飾が施され、力ある品だとすぐにわかった。息を呑んで立ち尽くすセラに、燐光が降り注ぐ。腕の痛みが引いていった。ずたずたに裂けた傷が、残らず癒えている。

「これ……」

 地下に安置されていた品。きっとこれは、遺物の力を浄化していたのだろう。だからこそ、こんなにも清浄な場が現れている。

 セラが触れていいものではない。ヘクターも同じくだ。予感のままに、杖に眼を凝らし――その名を見つけた。

 スリザリン、と。

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