電子生命体は青春の物語の夢を見るか 作:デンキヒツジ
義体が製造に成功し、あらゆる場所、学校に義体もとい長門は送られた。特別意識したわけではないが、長門は重なりが少なく多くの学校に通っている。
大量に作られ外へ出る長門、その総数には限度を設けた方が良いと思う。もしこのキヴォトスの人口の一割でも長門で埋め尽くそうものならその異常性に気づくものが現れる。今でも表立って指摘されないだけありがたいものだ。というより気づかれていないような。いくつかの学園のトップは気づいているようだけど…。
現在でも長門という苗字の生徒が増え続けているので、どこかで押さえをつけなければならない。そろそろ製造の打ち止め命令が必要か。
「…そういうわけだからさ。なにかいい案のある私は挙手しなさい」
「この会議って側から見たら独り言の拡大バージョンだけど恥ずかしくないの?」
「シャラップっ」
上でも語ったようなことを、私たちのネットワーク、形式上長門ネットワークと呼ぶそこで会議の議題として話し合いの場を設けてみた。
実際問題、困る時が来ると思う。長門は作り続けられるだろうしそれを止めたとてすでに作られている量が多い。ブラックマーケットに流れても良いのだがそれではアングラな市場が一気に身内だらけのマーケットに変わってしまう。大変にロマンとしてよろしくない。
「一箇所にいればいーじゃん。外に出るから問題なんでしょ」
「そーゆーわけにもいかないでしょ。全ての長門は既存の長門のスペアになる可能性もあるんだから。もし破壊されたとしてもすぐに辿り着かなきゃ」
「この義体って破壊される可能性あるんですか…?」
壊されることはほぼないと考えていいよ。世界を滅ぼすオーパーツから構造は何一つ変わっていない。自己修復のナノロボットもあるし相当消耗して身体の欠損や破損をしない限りは大丈夫さ。
…こうして、会議を開き会話を聞いているだけでも思う。全て同一人物だというのに対人関係の差なのか経験、環境の差か。性格にばらつきが出始めているように思う。かくいう私も。変化としてはなんとも言えないが、この変化を私は喜ばしく許容しよう。多様性は良いことだ。
話がそれた。戻すとしよう。
それで。一箇所に集めるとしても何か案はあるか? 土地もそんなに持っているわけじゃないから。
「集まってても不審がられなければ良いんだけどねー」
「それこそ無理でしょ。あの三大学校にはそれぞれ諜報機関とかあるんでしょ。敵作りたくないなら怪しいことはなるべく…」
「みんな学校に行ければいいのにねー」
「それじゃね?」
誰かの発言をとっかかりに、一人の長門が声をあげた。
「学校作ればいいんじゃん! 私たちだけの学校をさ! そしたら外部からの干渉を受けずに私たちだけの世界ができるよ!」
明るい声に場を静寂が支配する。規模の大きな話についていけないものもあると思う。学校は、この世界で一国家と言ってもいい。土地を預かり、市民を預かり、その自治を行うのが学校だ。故に巨大であるほどわかりやすく力は強い。
今の話は国を起こそうという話と同義なのだ。
だが。
ぶっちゃけ有りだ。
むしろ止める要素がない。土地はある。金もそこそこ。人は十分。あとは校舎と連邦生徒会の承認だけで。できてしまう。学校の立ち上げが。
正直楽しそうだ。一人のための学校と聞けばなんともヘンテコなものだが、そんなもの関係なしにやりたい。
決まりだね。学校。作ってみようか!
「あ、はいはい! 学校名決めたいです!」
「気が早いなぁ。長門をいい感じにして、長原門学校で」
「あんたも乗り気じゃん。シンプルに長門学校」
「長門専用学校!」
「学園!」
「やっぱ横文字にしようぜ。ナガトスクール」
全員が自分だと意見の違いが起こりにくいのか、全員何も考えていないのか。反対意見も怒らずそのまま学校名を決めに行く始末。これは作るのには賛成として受け取ろう。
さて。私もその命名大会参加しまーす!
▲▽▲▽▲
「…長積門高等学校…ですか」
天井高く白色が基調とされたデザインの一室。夜空を背景に部屋中央に設置されたテーブルで、連邦生徒会長は頭を悩ませる。悩みの原因は呟きにあった長積門高等学校。アホどもが考え、立ち上げんと活動している学校。
ぱらりぱらりと吟味するように提出された学校運営の許可書類を見やる。すでに要項は全て満たし、あとは連邦生徒会長の承認さえあれば学校として動けるようになっていた。ただ一つ。今だ学校の運営を許可し損ねている原因は、長である生徒の名前と生徒会長の個人的な都合によるものだった。
「長門…ですか」
最近になり、全校生徒の中でも長門という名前に触れることが多くなったように思う。思い当たる範囲でも相当。ミレニアムに生まれた四人目となる学位:全知を納めた生徒、ブラックマーケット何でも屋として名を馳せている生徒、ゲヘナの風紀と生徒会にも所属が確認されているし、レッドウィンターの出版物の製作者にもその名前を見た。
転校手続きや入学手続きもある程度目を通している。その中でも長門という名を多く見たように思う。
ある程度の影響力のある存在のそばに長門という名を見かけるようになった。ハッキリ言って異様だ。
だというのに、諜報機関などからは怪しいと考えられることはないそうだ。この名前の一致は偶然なのか。どうにも見落としがあるようで不信感が拭えない。
「…先生」
未だ迎えることをできずにいる、ただ一人の大人に縋るように呟いてしまう。
私たちはキヴォトスを終焉から救えるのか。運命は曲がりくねり複雑に絡み合い、暗がりのその先は視えそうにない。これを行うことでその暗がりの先を少しでも照らすことはできるのか。
でも私が信じられる大人である、あなたなら、あの捻れて歪んだ終着点とは別の結果を。この選択肢だって…あなたはきっとその選択を選ぶはず。…だって大人は子供を守るものですから。
置き土産を一つ。面倒事かも知れませんが残します。よろしくお願いしますね。先生。
その選択が正しいと信じて。ペンを握る手は未だに判断に迷い真っ直ぐに進まなそうだけれど。もう一度力強く握り直して。
長積門高等学校、ここに学校として活動を認める。
▲▽▲▽▲
総数20000体の長門。その収容所もとい学校はそこに完成する。
町積門高等学校は連邦生徒会から正式に学校として認められた。
だからと言って長門たちの生活が劇的に変わることはなく。すでに学校に属している長門はそれが一番気に食わなかったりしている。
砂漠の中。ポツンとある学校に属する長門もその一人。
「…祝いごとなら行きたかったな」
珍しく一人になっている部室で机に横っ面をつけて唇を尖らせる。
最近の長門のスケジュールは学校に来ては砂の掃除、対策委員会の全員で請け負った依頼をこなし、長門自身が学校を気に入っている節もあるのでそれ以外のお金稼ぎも担い、私生活は忙殺される日々。
ゆえに頭に半分強制的に響く会議の内容から祝いのことまで、それらの楽しげな会話を忌々しく聞くだけだ。道楽好きからしたら生殺しである。
自身の利便性に不便さを感じながら窓の外をみやる。2階にある教室から見る砂漠はやたら雄大で、風景として悪くない景色をしていた。
この景色をどこか観光地として儲けができないものか。後に会議があるならまた提案してみようと思う。アヤネは喜ぶかな。
ぼんやりと外を眺めていると背後でカラカラと扉が開く音がする。
「長門。いま暇してる?」
「…パイセン…見ての通りだ」
「うん。手伝って欲しいな」
開けた人物はシロコ先輩だった。あいも変わらず砂漠でマフラーを装備するというチグハグに思ってしまう服装だ。日が落ちれば砂漠は極寒になるが、日が出ている今はちと暑くないのだろうか。
話は手伝いの依頼。暇なので受けることにする。デイリーミッション開始だ。
気怠げながら手伝う姿勢を示すために立ち上がる。その様子を見てかシロコ先輩は語り出した。
「アビドス工業地帯郊外に…何か建物ができてた。以前カタカタヘルメット団の動きもあった近くだから、一緒に見に行こう」
「…そのドローンは?」
「ん。備えあれば憂いなし」
小脇に抱えるドローンを指摘して不安な回答が帰ってくる。
…できれば備えが活躍しないことを期待しよう。長門も準備としてメインの銃火器であるSRに、グレネードを持ちさらにスモークと緊急用の食料などを入れた小さなリュックを背負う。
「…長門も備えてるの?」
「……憂いがあるもので」
先輩のことだよ。と目を細めて訴えた。訴えられている当の本人は首をコテンとかしげてわかってなさそうだ。かわいい。
「不安でも心配しないで。先輩として後輩は守るから」
「不安の原因が何を…」
「長門?」
すみません。
反射的に謝罪が口から滑り出た。
まだ入学してから間もない。セリカとアヤネは先輩たちと馴染むのが早いしここで選択を間違えたらどうなるかわからない。みんなが居る中で置物になることを恐怖しつつ会話を続けることにした。
そんな様子をシロコは目をパチクリさせる。シロコの目には長門にしては意外に映ったのかも知れない。
「…そんなに緊張しなくてもいい。長門が仲良くしたいのはわかる」
「先輩エスパーだったり…?」
「そんなことない。長門はわかりやすいから」
そんなにわかりやすいものなのか。顔をちょっと顰めてみたりして、考えが筒抜けになっていたことを少し恥じる。
うん。早く向かおう。目的地は遠いよ先輩!
「ん。70キロは遠くない」
叫び声をあげてしまった。
▲▽▲▽▲
新年度が始まって、意外にも後輩ができた。それも三人も。
可愛げのあるツンデレと怒ると怖いしっかり者。そして怖いもの知らずそうな態度のビビり。
みんな個性的で奔放なところもあるけど入学したての硬さも抜けてきて色んな一面を見る機会も増えたように思う。
その中で少しだけ気になっていることがある。新入生の長門という子だ。
走りながら少し声をかけてみる。
「ん。長門、いま出発から何キロくらい?」
「いまぁ、出発地点から64.572キロメートルだ」
走りながら片手で器用にスマホをたぷたぷ叩きながら答える。測っていたにしても返答が速く思えた。
最近聞いた話をいくつか振ってみる。
「…長門は髪伸び人形の都市伝説の正体って」
「接着に使われた素材の劣化で植え付けの髪がズレて伸びたって最近ミレニアムサイエンスで話題になってた」
「…クルセイダーって戦車は」
「トリニティの制式戦車。最近新型へ入れ替えのためにいくつかPMCに流れたって話が」
「クラブ・ふわりんって」
「素晴らしいスマホゲームだ」
長門は何か聞いたらだいたい答えが帰ってくる。今みたいなくだらない質問も。
勉強だって分からないところを聞けば分かりやすく説明してくれる。まだ一年生になったばかりなのにすごく物知りで頭がいい。だから少しだけ気になる。
「なんで長門はアビドス高校に来たの?」
素直に聞いてみたら、怪訝な顔をしていた。
「…入りたいなって思った。それに近かったから」
嘘では、ないみたい。
そろそろ目的の建物も見えてきて走るスピードが落ちる。それをどう受け取ったか長門は言葉を続けた。
「……別にどこか行く予定もないし、先輩たちの、ぁー学校が好きだから別に」
「長門。言ってた建物が見えてきた」
シロコは先ほどの話題をすでに打ち切っていたようで。ただ急に恥ずかしくなり長門は両の手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。シロコはそんなことを知ってるのか丸まっている長門の頭に手を置いて言葉をかける。
「ん。嬉しかった。先輩たちの学校が好き、なんだね。あとでホシノ先輩やノノミに聞かせなきゃ」
「やめてくれ先輩……」
いじりがいがある可愛い後輩。絶妙にコミュニケーションがズレてたり仲良くなれないことを怖がっていたりして、シロコは少し気に入っていたりする。
そんな長門いじりもさて置いて、遠目に件の建物に目を向けた。
その建造物は…全体が大きな灰色の陰で、荒っぽく作られた要塞のように見える。要塞城壁までに遮蔽物になるものが散乱し、要塞自体もコンクリートの打ちっぱなし。
望遠して中を覗いてわかった。要塞の内側にいる人間はカタカタヘルメット団だ。そして、ブラックマーケットで有名な顔も何名か。
貫通力のある兵器なら要塞の破壊も叶うだろうけど…要塞規模があまりに大きい。詳細なことは分からないが今の装備で攻めては必敗だ。
先ほどの話題に上がったクルセイダーも何台か見える。
拳に力が入る。すごく悔しいけど、二人でどうにかもできそうにないから。
「…撤退する」
悔しい気持ちで要塞を睨み、踵を返す。ふと長門に目を向けると気分の悪そうな顔をしていた。
「…大丈夫。みんなでどうにかしよう」
「……うん。ごめん先輩」
「……?」
二人は重い足取りで帰路に着いた。
ちょうせきもん。
長門の間に生まれである集積サーバーから文字をもらった名前。語呂がいいからそうなった。
学校の立ち上げとかも設定は妄想です。二次創作の辛いとこ。
電子生命体ちゃんの名前を少し変更します。
長門は苗字として使うことにしました。作者の都合です。すんません。つまり長門◯◯みたいな感じ。
突然の設定変更。許してヒヤシンス。