「はい、どうぞ。颯季さん」
「わうー……ありがとうございますっ……」
ボクは、目の前に出されたシキちゃんの霊力で出来た火の玉を餌を待つ雛のように口を開け、シキちゃんの指に包まれたそれをパクっと食べます。今、ボクは妖怪の山の頂上にある勇儀さんの屋敷の日当たりのいい縁側でシキちゃんに膝枕されています。あの勇儀さんとの闘いの後、シキちゃんとお父さんのことについてお話した後に一度眠りました。そして、朝になってから、シキちゃんにボクを叩き起こして貰い、こうして『朝の陽ざし』とチー特性の『炎熱支配』さんを使って身体の傷を回復させています。
幸い、勇儀さんの四天王奥義でぽっかりと空いた肩の大きな穴は眠っているうちに無意識で妖力による再生を行っていたのか、起きた時には治っていました。その後に眠ってれば全回復するんじゃないか?と考え、二度寝してみましたが、そんな都合のいい話はありませんでした。どうやら、放置していたら致命傷になるような傷しか治してくれないみたいです。生存本能という奴でしょう。
「うーっ、ぐぬぬっ……わふー……やっぱり動けませんっ」
「颯季さん、余り無理はしちゃダメですよ?」
ボクは、手足に力を込めて立とうとするのですが、まるで肩から先が切り落とされたかのように、脳からの命令が手の先まで届いている感覚がしません。
ボクの身体はもうある程度回復していて、本来ならば既に動けるはずなのです。でも、あの無茶苦茶な奥義と名付けはしましたが、未完成にも程があるあの技の反動で全く動けないんですよね。『ギガインパクト』、『ブラストバーン』は元からそういう効果だったからいいんですけど、『ブラストバーン』含めて『Vジェネレート』と『燃え尽きる』を本来の技の使い方からかなり逸脱させた代償もあるんですよね、これ。
最も、ボクが動けない一番の要因は先ほども言った体内に宿る炎の不足ですね。恐らく、歩けるようになるまで一日から二日。戦闘出来るようになるのは一週間後とかもっと後かもしれません。
ここだけの話ですが、ボクの身体はかなり特別製でして、ボクが食事などの行為で口に含んだものの殆ど全てが、ボクの体内で炎に変換されています。そして、人間でいうアミノ酸やらブドウ糖やらの栄養素がボクの身体には必要最低限の生命維持分しか存在しません。
その代わりとして、ボクの身体を動かしているのが体内で生成した炎が発する熱エネルギーによって動いています。謂わば、ボクそのものが一種の蒸気機関のようなもの、と言えば分かりやすいと思います。
ですから、ボクの身体に炎が灯っていない今の状況はタービンが回っていない蒸気機関みたいなもの、簡単にいうと、脳は起きていて、身体も起きているのですが休眠や冬眠状態に限りなく近く、身体機能が殆ど機能を停止している状態です。
「もう1つどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
逆に言えば、反動なんて日の当たるところで身体を休めれば割と直ぐ治るので、後は炎さえ灯らせれば良いわけなのです。そこで白羽の矢が立ったのが、チー特性さんを使った貰い火をすることだったんですね。
だから、こうしてシキちゃんが霊力を使って小さな火の玉を出して、ボクに食べさせてくれてるんですよね。とてもありがたいです。ありがたいんですよ?でもね?でもですよ?
「あの、シキちゃん?先ほども言いましたけど、焚き火を焚いてその中にいれてくれればいいんですよ?わざわざ、シキちゃんの力をお借りしなくてもいいんですから」
なんなら、焚き火の方が火力が高いので、そっちの方が早く回復するまであるんですよね。ボクは今の発言通り、この事を既に何回かシキちゃんへと伝えているのですが、当のシキちゃんがですね……。
「ダメです。颯季さんは動けないのですから、わたしが全部お世話してあげますからね?」
「いえ、あの?聞いてました?ボクのお世話をしてくださるのは大変ありがたいんですけど、それだと時間が掛かりすぎてしまいます」
「はい、分かってますよ?颯季さんが言ってましたし」
「いや……えぇ……」
この通り、シキちゃんは聞く耳を持ってくれないんですよね。シキちゃんが頬を緩めながら、ボクの頭を左手で撫でてきます。ん……気持ちいいですね。
「わふわふ」
「ふふっ、気持ちいいですか?颯季さん」
「わふ~♪……はっ!」
危ないです、危なかったです!危うく、シキちゃんによるグルーミングの虜になるところでした。諏訪子様とシキちゃんとで違いがあるのがいけませんね。癖になってしまいます。因みに、諏訪子様は安心するような身を委ねられる感じの気持ち良さで、シキちゃんのはぽかぽかと落ち着ける感じの気持ち良さです。
このままでは、ボクがまるで飼い犬かのような醜態を晒しかねません。ボクはそこら辺にいる犬っころなんかでは無く、諏訪子様の神獣であり、誇り高きでんせつのウインディなのですからしっかりしないといけませんね。というわけで、話を戻しましょう。
「あの、シキちゃん。ボクが早く回復したいのには、理由がありまして、それがシキちゃんの――」
「お父さんの弔いをしたいから。ですか?」
え?分かってたんですか?じゃあ、なんで?
「わたし達、人間は颯季さん達よりも圧倒的に寿命が短いんです」
「……はい、知ってます」
悲しいですけどね。いつかは来るものだと覚悟はしています。特にこの時代なんて、医療なんて概念すらありませんし、栄養のある食事もままならないんですから、余計寿命が短いでしょうし。30年生きれれば偉業に近いでしょうね。そして、シキちゃんのお父さんは22歳でした。ボクから見れば若いです、若すぎます。だから、助けられなかったことがこんなに苦しいし悔しいのでしょう。でも、シキちゃんからしたら、
「お父さんはもう十分生きました。わたしと一緒に色々な思い出を作ってくれましたから。だから、最後はわたしから最大の恩返しをしたいな、と。その為に今こうして颯季さんのお世話をしています」
「恩返し、ですか?」
今、現在進行形でお父さんを放置しているこの状況が恩返し?ボクに無言で火の玉を食べさせるこれがですか?わけがわからないよ。
「そうですよ、恩返しです。諏訪子様に聞いたのですが、颯季さんが考えた弔いの仕方に火葬と言うものがあるみたいじゃないですか」
「まぁ、よく知ってますね」
考えたのはボクではないんですけどね。諏訪子様もボクが別の世界から来たことを、上手く誤魔化してくれてるみたいです。それにしても、火葬ですか。確か、この時代だとカプセルみたいな棺に入れて土掘って埋める土葬が主流でしたっけ?
「颯季さんにお願いがあるんです」
「お願いですか?ボクに出来ることであれば、聞きますけど……何ですか?」
恐らく、このお願いとやらが、ボクの回復を長引かせる要因なんでしょうね。一体、どんな内容なのでしょうか?
「それが――」
「おーい、シキぃ持ってきてやったぞー!」
「あ、萃香さん。ありがとうございます」
シキちゃんがボクにお願いを言おうとしたところ、山の方からシキちゃんを呼ぶ声が聞こえました。其方の方へとボクが顔を向けると、肩に布でくるまれた何かを担いで茂みから顔を出していました。
えっと、この感じからすると、シキちゃんが萃香さんに何かを頼んでいたみたいですね。一体、何を頼んでいたのでしょうか?
「シキ、こっちも用意出来たわよ。何処に置けばいいかしら?」
「ありがとうございます、そこに置いて下さい。華扇さん。萃香さんは、華扇さんが持ってきてくれた物の中に入れて下さい」
「おー、分かった」
「あ、あの、シキちゃん?これは何ですか?」
今度は、屋敷の裏側から木で出来た大きめの箱を持ってきた華扇さんが、シキちゃんの指示でボク達の目の前にその箱を置いて、萃香さんがその箱の中に手に持っていた物を布ごと入れました。
本当に何が起こってるんですかね?それに、萃香さんが持ってきた布の中から微かに臭うこの臭いは……血、ですかね?
「おうおう、私らが動いてるってのに自分は信者の膝の上で呑気に日向ぼっこです。ってか?随分なご身分だこって」
「あ、勇儀さん。いや、動くも何もボクは今動けませんし、そもそも皆さんが何をしているのかすら分からないんですけど……」
「冗談だ。颯季はのんびりと休んでろ。これはそういう約束なんでな」
そう言って、ボクの真横……シキちゃんの横に座って赤い盃に入ったお酒を飲む勇儀さん。
それにしても約束、ですか?
「もしかして、シキちゃんのお願いとやらがその勇儀さんと交わした約束に関わる感じですか?」
「いいえ、私達が約束したのはアナタのご主人様とよ」
「諏訪子様とですか?えっと……」
「あぁ、名乗って無かったわね。茨木華扇よ。そんで、こっちが――」
「伊吹萃香だ。よろしく頼む」
「不知火颯季です。こちらこそ宜しくお願いします」
取り敢えず、これでお二人の名前を呼べるようになりましたが……諏訪子様も関わってるんですか?一体、ボクが眠ってる間にどんな動きが?そんな、ボクの疑問を解消してくれたのはシキちゃんでした。
「颯季さん、これを読んでください」
そう言ってシキちゃんがボクの目の前に木簡を持ってきました。えーっと……勇儀さん達山の四天王と、諏訪子様とボクとの間での約束みたいですね……ボクですか?ま、まぁ、いいでしょう。ボクの身は諏訪子様のものですからね。諏訪子様がそう判断したのなら構いませんとも。
それで、肝心の内容は……勇儀さん達にボク達が依頼をすることが出来て、その報酬として村で出来た作物やお酒を提供するって感じですね。それ以外にも新月の日に一定量のお酒と作物を渡すことで、妖怪の山所属の妖怪は村を襲撃してはいけない、と。成る程、固定給ありの歩合制での雇用契約って感じですかね?
そして、今勇儀さん達が動いているのもこの約束によるものみたいですね。そのお仕事内容が。
「萃香さんが、シキちゃんのお父さんのご遺体の回収。華扇さんが、ご遺体を収める棺の作成ってことですか」
「そういうことよ。まぁ、私のは正確には天狗達に作らせるように命令しただけだけど」
「そして、勇儀さんが戦えないボクとシキちゃんの護衛ですか?」
「そうだな。まあ、こうやって酒呑みながらだけどな!」
別に、お仕事さえしてくれればボクとしてはお酒を呑もうが、喧嘩しようが構いませんよ。それで、これがボクへの指示書でしょうか?シキちゃんも内容知らないんですか?そうなんですね。
『颯季へ。
シキから、彼女の父親についてのこと聞いたよ。私から言えることは1つかな。このことで、颯季が気に止む必要はないよ。颯季の世界ではどうだったか知らないけど、此処で山に入るっていうのはいつ死んでもおかしくないんだ。特に夜はね。夜とか関係なく山に入るのを自殺行為って取る人間もいるくらいだしさ。
まー、私がそんなこと言っても、颯季のことだから気にするんだろうね。だから、そんな颯季の為にこの私が1つ仕事を与えて進ぜよー。
颯季には、一週間後に執り行うシキの父親の火葬で、棺を燃やして欲しいの。それと、シキからの強い要望でシキの父親を燃やす時は、シキの霊力を元にした炎を使って欲しいんだって。だから、これから一週間はシキの霊力以外での炎の生成は禁止ね?
まー、颯季は嫌だろうけど、遺族の強い要望だから叶えてあげたいじゃん。私も本当は嫌だけどね。颯季の炎が全部シキで出来てるなんて、羨ま――こほん、何でもないよ。
それと、神棚の方は用意させてるから心配しないでいいよ。颯季の方で何か入り用があったら、妖怪の山の天狗にでも頼んどいて。費用はこっちで用意するから。
こんなところかな?じゃー、颯季が無事にシキを連れて帰ってくるのを待ってるよ。
諏訪子』
「……成る程」
どうやら、諏訪子様はボクが持ってる罪の意識に気付いていたみたいですね。というか、何でシキちゃんのお父さんが亡くなってから会っていないのに分かったんですかね?
「シキちゃんのお願いはお父さんの火葬でボクに炎を出して欲しいってことで合ってます?」
「はい、そうです」
では、折角の諏訪子様が用意して下さった贖罪の機会です。目一杯やりきってみましょうか。そうと決まれば、色々と用意するものが出てきましたね。
「分かりました、お受けします。それと、すみません、勇儀さん。鈴って作れます?」
「ああ、天狗の鍛治師が作れるが、それがどうかしたか?」
ボクは、勇儀さんへとボクが作って欲しいとある道具の特徴を教えました。勇儀さんは、一瞬の思考の後頷いて了承してくれました。
さて、後は一週間までの間に炎を蓄えておきましょうか。それまでは――
「はい、どうぞ?」
「いえ、もう右腕は動かせるのでボクが――」
「あーん」
「いや……その、流石に勇儀さん達の前では恥ずかしいと言いますか……」
シキちゃんの指で摘まんだ火の玉を口の前に差し出されますが、流石に人前でされるのは恥ずかしいです。それなのに、勇儀さん達と言えば。
「私達のことは気にしなくても結構よ」
「あー、私たちは私たちで酒呑んでるから」
「そっちはそっちで楽しんでてくれて構わねぇよ」
何か、地面に布敷いてピクニック気分で酒盛り始めたんですけど。楽しそうですね、ズルいです。まぁ、ボクは基本下戸ですが。
「食べてくれないんですか?」
「あう……」
瞳を潤ませてボクを見るシキちゃん。うっ、確かに食べないと時間がまずいですし……。シキちゃんも泣いてしまいそうですし……。うーっ、ボクが恥ずかしいだけで済むのなら……。
「あ、あーっ」
「ふふっ、ありがとうございます。美味しかったですか?颯季さん」
「わ、わうー……」
は、恥ずかし過ぎて味を感じられませんでした……。
史実での弔い方法とか時間とかは全く知りません。感覚でやってます。遵守しすぎたら読みづらいだけですしね。
颯季仕様の技解説『神速』
わざタイプ:ノーマル
技優先度+6
次に自分が攻撃するまでの間、ダメージを受けない。
次の攻撃を優先度+6する。
次回 でんせつ、月光の下にて舞い踊る