今日は早いですね。でも、短いです。
ボクがこの村に来て、早くも一週間が経とうとしていました。この一週間でボクの生活サイクルは殆ど完成されました。簡単に教えますね。まずボク、不知火颯季の朝はそこまで早くないです。
「諏訪子様、朝ですよ。起きてください」
「んー、今何時?」
「そろそろ
「……早すぎ。もうちょっと寝る」
「いえ、もうお日さま顔出してますよ?」
「私は神様だからいーのー」
このように、諏訪子様の朝が遅いのでボクが早起き出来ないだけですけどね。ボクが先に起きようにも、基本ボクが寝る時にはウインディになって諏訪子様の枕になるか人型で抱き枕になるかですからね。因みに、今日は抱き枕でした。
こうなると、諏訪子様が起きるまで最低でも一時間は掛かるので、その間にあの恥ずかしい自己紹介の後から今までの話をしましょうか。
まず、ありがたいことにボクは、普通にこの村で諏訪子様の神獣として受け入れて貰いました。何故か、やたらと娘扱いしてくるのは本当に疑問ですが、きっとボクのケモミミ尻尾がお気に召したのでしょう。村の子供達もかなりの頻度で触ってきますしね。
ボクが怖くないのか村人さんに何度か聞いてみたところ、諏訪子様がボクには優しい笑顔を見せるからだとかなんだとか。どうやら、諏訪子様は村人と関わろうとして、ボクに見せてくれたような明るい笑顔で接し、特段無愛想と言うわけではないのですが、笑顔が怖かったとのこと。
ちょっと意味が分からなかったので、実際に諏訪子様にその村人に見せたと言う笑顔を全く同じシチュエーションでやって貰ったのですが……。まぁ、神力が滲み出てる+笑顔のコンボはそりゃあ人間からしたら怖いですよ。ボクも狩られるのではないかとちょっぴり怖かったです。神としての威厳を保つ為かもしれませんが、人間は霊力か魔力でも持たない限り本当にか弱い存在なんですから、そんな相手に神力を使えば怯えられるのは当たり前じゃないですか。
つまり、諏訪子様が言っていた村人と上手くいかない。と言うのは、神様と人間と言う上下関係があれば、必ず起こる当然の問題だった訳ですね。恐らく、史実ではこのすれ違いが解消することなく、ミシャグジ様含めた祟り神との関係が深まり人間が余計に諏訪子様と祟り神達を畏れていき、というある種の無限ループに陥ったのでしょう。
ですが、この時間軸にはボクがいますからね!そのようなことにはさせませんよ!この村に来てからはずっと、諏訪子様と村の関係改善を目指して頑張っています!皆さんに諏訪子様の素晴らしさを知って欲しいです!
「ふんす、今日も頑張らないとですね!」
「颯季ぃ、今何時ー?」
「今は
「んー、そうしよっかなー」
「そうですか。では、おはようございます。諏訪子様」
「おはよー、颯季」
「では、御髪を整えますから座って待ってて下さい」
「んー」
ボクは諏訪子様が回していた腕が解かれるのを待ってから、起き上がり着替えに向かいます。こういう時、諏訪子様みたいに姿が一定ではないことを利用して、一瞬で着替えられるのが羨ましくなります。
ボクがこの世界に来るときに着ていた簡素な貫頭衣っぽい布を脱ぎ、村に来てから仕立てられた巫女服に着替えます。下着の上からボクの耳と同じオレンジ色の襦袢を着てその上から白衣を着込み、これまたオレンジ色の袴を履き、前帯と後ろ帯を結べば着替え完了です。仕上げに、腰まで伸びてるくすんだ金髪を一本に結んで肩から流して終わりです。
まぁ、結構簡略しての説明だったので実際はもっと面倒ですけどね。覚えるのに丸三日掛かりました。ここまでで大体30分は掛かるんですよね。普通であれば、諏訪子様の御髪を整えた後にやることだったのですが――。
「諏訪子様、二度寝しないで下さいよ」
「だって、颯季が着替えに時間かけるからー」
「着替えなくても変わらないですよね?」
「今日は違うかもしんないじゃん」
ボクは諏訪子様が纏っている布団を剥ぎ取って、あうーと唸っている諏訪子様を引っ張り起こします。そのまま駄々を捏ねる諏訪子様を引っ張って椅子に座らせて、側に置いてある櫛を取って軽く付いた寝癖を整えていきます。諏訪子様も一回櫛を通すと大人しくなり、目を細めてそこで三度目のうたた寝を始めます。
「いただきます」
「ねー、颯季。この漬物おいしかったよ」
諏訪子様の御髪を整えた後は、ボクが朝ごはんを用意して二人で食べます。まぁ、諏訪子様はフライングして先に食べてますけどね。
最初は、諏訪子様にもいただきますを言わせようとしたのですが、諏訪子様は神様ですし感謝される側だったことを思い出しましたので何も言いません。とは言え、ボクが来る少しくらい待ってくれてもいいじゃないか。と、思ってしまうのは許して欲しいです。一緒に食べたかったのに……。
「颯季ちゃん!後でうちの炉に火をいれてくれねぇか!?」
「わう、分かりました。後で伺いますね」
「颯季ちゃん、今朝採れた野菜をお社に持っていきたいんだが、空いてる時間はあるかい?」
「わふ。それでしたら、午後からなら何時でも空いてますよ。でも、日が暮れる前には来てください。あまり遅いとわるーい妖怪に襲われるかもしれませんからね」
「はは、もし妖怪が来ても颯季ちゃんと洩矢神が追い払ってくれるんだろう?」
「わうわう!そうですけど、万が一があるんです!」
「分かってる分かってる、ちゃんと昼過ぎに行くさ」
「わうー、分かってるならいいです。諏訪子様と一緒にお待ちしてますね」
「おう!じゃあ、洩矢神の為に酒でも持っていくかね」
「颯季ちゃん、お昼でもどうだい?」
「わうー……ごめんなさい、お婆ちゃん。お昼は今から諏訪子様とミシャグジ様が潰しちゃった畑の方に行くので、その時にご飯も食べる予定なので……またの機会に良いですか?」
「あぁ、そうかい。それじゃあ、今度でいいさね。せっかく諏訪子様が颯季ちゃんといれるんだ。老いぼれは後回しで構わないさ」
「わふー……ごめんなさい。今度必ず時間を作るので、その時はよろしくお願いするです」
朝ごはんが終わったらボクは散歩も兼ねた村の巡回に出ます。その間、諏訪子様は村に張ってある結界の確認などをしています。この後、ボクと諏訪子様の二人でミシャグジ様が暴れた畑に行って、元に戻した後ある程度の作物を育てる予定ですから、今日の散歩の最終目的地もそこです。諏訪子様とも畑で集まる予定になっています。
畑の修復作業も、やろうと思えば収穫までの全工程を終わらせてしまえるのですが、それをやってしまうと村と諏訪子様のパワーバランスが崩れて諏訪子様に依存する不健全な村になってしまいます。ですから、作物もミシャグジ様に壊されてしまう前の状況まで戻して、そこで今回のお仕事は終わりです。
「颯季ねーちゃーん!!」
ボクが村を歩いていると、後ろから声が聞こえると同時に尻尾やら背中やらに衝撃が来ました。驚いて後ろを振り返ると、そこには3人の子供達がボクの尻尾や腰に抱き付いていました。男の子が1人、女の子が2人です。おかしいですね?いつもは5人の筈なのですが、気のせいでしょうか?
「わふぅ!?いきなり抱き付くのは止めてくださいって、言いましたよね!?今日と言う今日は怒りますからね!?」
「わーっ!颯季が怒ったわ!!フユ、逃げるわよ!」
「にげろにげろーっ!」
「あ、ハルくん、なっちゃんもまってよー……!」
「はぁ……まだ時間はありますし、ちょっとだけ付き合ってあげましょうか。まてー、くってやりますよー!」
少し、慣れない口調だったので棒読みになりつつも、ボクは子供達と鬼ごっこ的な遊びに興じます。ボクが本気を出してしまえば、それこそ数秒で終わってしまうのでかなーり手加減して走ります。村の人も微笑ましげに見てきますね。まだ、一週間ぽっちしかいないのに、下手したら諏訪子様以上に馴染んでしまいました。
数分ほどで3人全員捕まえて、今はボクの肩に乗っかってウインディ耳を弄ったり、尻尾をふさふさもふもふしたりと好き勝手させています。ボクは、会った時から気になっていたことを聞きます。
「あの、アキくんとシキちゃんは今日どちらへ?」
そう、今日ボクが見ていない2人のことです。ここにいるハルくんと、なっちゃんことナツちゃんに、フユちゃんの3人。そして、今言ったアキくんと、シキちゃん、この5人でいつも一緒にいるんですよね。
「アキくんはお父さんの畑のお手伝いしてるわ!」
「シキのことは知らねぇ。今日は見てないから家にいるんじゃないか?」
「そうなんですね。ありがとうございます」
何かイヤな予感がしますね。アキくんは居場所が分かってるし、ご家族が一緒なら安心です。ですが一応、情報が分かっていないシキちゃんに関しては念のためお家に行って確認しておきましょうか。何かがあってからでは遅いですし。
「ボクはそろそろ行きますね。皆さんはまだ遊ぶんですか?」
「えぇ!このまま3人で遊ぶのよ!」
「今日は、お母さん達がみんな忙しいそうなので……お家にいても暇ですから……」
「そうですか。気を付けて下さいね。くれぐれも諏訪子様の結界から出ないこと。もし、約束を破ったらボク、本当に怒りますからね?」
「分かってるって!毎日かーちゃん達に言われてるからな!」
そう言って、元気よく走り去る子供達に手を振って分かれてから、ボクはシキちゃんのお家へと向かいます。シキちゃんの家は少々特殊な家系でして、珍しく一家全員が霊力を持っているんです。
そして、シキちゃんはその中でも群を抜いて霊力が高いのです。それこそ、諏訪子様がいつか強くなるとお墨付きを送る程には。ですので、かなりの時間を修行に使っているので恐らく今もその時間なのでしょう。
10分程歩いてシキちゃんの家に着きました。玄関前に奥さんがいたので、シキちゃんがいるかを聞きました。
「娘なら今、夫と近くの山まで修行に行ってますよ」
「山ですか!?旦那様が付いているとは言え、妖怪が出るんです!危ないですよ!?」
「私達の家が洩矢神が降臨されるまでの間、この村を守っていたことはご存じですよね?シキも、この村を守る為には妖狩りについて実地で学ぶ必要があります。その必要性はあなたも解りますよね?」
「それは……そうですけど……」
「そもそもケモノの分際で、家の方針に口を出さないで貰えますか?」
「っ……」
「分かったなら、帰ってください」
バンッと音を立てて閉められた戸に向かって、ボクは何も言えませんでした。ボクを受け入れてくれる人が殆どですが、受け入れられない人もいる。
そのことを、見せつけられたような気がします。
「でも、心配なものは心配ですし……」
もう一度、日が暮れたら寄りましょうか。
――――――――
音をなるべく立てないように山道を進む大人と子ども。山の中腹を目指している2人。だが、
「くすくす、ちょこっといたずらしちゃおっかなー」
「おー、いいねいいね!やっちゃおー!」
2人を見ていた小さきもの達は、2人に気付かれないように2人の方向感覚を狂わせた。これによって、瞬く間に2人は気付かぬうちに深い山の中で迷子となっているだろう。
「アハハ!」
「きゃはは!」
その残酷なまでの末路を想像したのか、山の中に幾つもの小さきもの共の愉しそうな声が響き渡った。
不穏な気配
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