今回も短いです。
「わうー……集中出来ないです……」
「別にほっとけばいいじゃん。そんなこと言う奴ら」
ボクは、近くの水路から畑へと通じる穴を堀っています。ですが、先ほどからシキちゃんのことが心配で作業スピードはあまり速いとは言えません。ボクが掘った穴を即座に創造した岩で舗装していく諏訪子様は、ボクがシキちゃんのお母さんに言われたことを気にしているのか、かなりお冠の様子です。
ボクの為に怒ってくれるのは、とても嬉しいのですが、それでもボクはやっぱり心配が勝ちます。
「くーん……ですが、やっぱりシキちゃんは悪くないですし……もし、シキちゃん達が妖怪に襲われたら今度は村まで来るかも知れないですし……。見捨てるなんてことしたくないですよー……」
「んー……じゃあ、早く終わらせて探しに行く?でも、それだと行き違いになりかねないよ?」
そうなんですよね、変に探しに行ってしまうとミイラ取りがミイラになってしまいかねません。仕方ありません。今、うだうだ悩んでても事態は好転しませんからね。ここは早く終わらせて、どんなことが起きてもなるべく早く対処出来るように、準備をしておきましょう。
ボクは、『穴を堀る』速さを上げます。ボク達ポケモンの穴堀りがどのくらい速いかと言うと、アニポケの『穴を堀る』を見て貰ったら分かると思うんですけど、数秒で10メートルは離れているであろう相手に向かった上で、よくアニメとかで見る浅いところを掘っている時に見えるぽこぽこっとしたこいつ穴掘ってるなって分かるやつが出ないじゃないですか。つまり、結構深いところを掘った上でその速さなんですよ。
何が言いたいのかと言いますと、ボクは毎秒10メートル近くを掘ることが出来るんですよね。そんなボクと、ボクに合わせた速度で穴を石で舗装していく諏訪子様の二人さえいれば土木作業はあっという間に終わるのです。水路が大体、100メートル先だったので本気を出せば、色々と気を使わないといけないと言う点を加味して少し時間が掛かりましたが、それでも数分ちょっとで終わってしまいました。ボクってば、どれだけ集中出来てなかったんですかね?
「こんなに早く終わるなら、さっさと終わらせれば良かったのに」
「ごもっともです……諏訪子様」
諏訪子様にも言われてしまいました。ここからはしゃんとして頑張ります。でも、もうボクのお仕事は殆ど終わりなんですよね。最後に、諏訪子様が、水路からの水を塞き止めていた石板を消して水が溜め池まで無事に流れたのを確認して、本題の畑を復活させる作業に移ります。
ボクは、犬みたいにぶるぶると身体を震わせて髪や巫女服についた土汚れを落とします。本当にこれ便利ですよね。ボクは体質的に鼻水や涙以外の老廃物は出ないので、基本的に汗とかで服が汚れることがないですから、わざわざ作業着に着替える必要ないんですよね。砂ぼこりも全部落とせますし、ポケモンクオリティ万歳です。
「うん、大丈夫そう」
「ふぅ、ちょっと緊張しました……」
諏訪子様が神力を使って石板をパッと錯覚のように消しました。堰が消えたことによって、水の行き場が出来新たな流れがこちらに向かって来ます。深めに掘った溜め池にどんどんと水が溜まり、満タンになると水の流れが落ち着き、それを見た諏訪子様がまた新たな堰を創り流れを止めました。
「よし、後は畑を戻せば今日の仕事は終わりね」
「はい、お願いします。諏訪子様」
「んー」
頷いた諏訪子様は地面に手を着いて岩で出来た巨大な器のような物を創り、溜め池の水を掬って荒れて死んだ土地に撒きました。岩の器を消してから、畑に向かって神力を解放します。前に豊穣の力を使われた時は、範囲が狭かったからか特に何の現象も起きませんでしたが、今回はその範囲の広さのせいかキラキラと金色の光が畑全体を包み込んでいました。
「わーっ、凄いキレイですね」
「凄ぇなー、これが洩矢神の力ってことだべかぁ!たまげたべ。ありがてぇなぁ」
ふふん、そうでしょうそうでしょう。諏訪子様は凄いのです!この畑の持ち主さんは分かってますね。
まだ、諏訪子様による畑の修復は続いています。金色の光によって畑は色を取り戻し黒になります。水分も十分に含まれている良い土です。
そして、諏訪子様が扱う神力を切り替える為に一度金色の光は消え、もう一度神力を解放します。次に畑を覆ったのは薄い緑の光でした。ピョコンと音がして幾つもの芽が生えそのままスクスクと伸びていきます。
ボクの隣で見ているここの所有者であるお兄さんは、それは目が飛び出そうな程驚いていて声もでない様子です。こうは言ってますが、ボクも見たのは2回目ですから結構驚いています。
まだ春も始まってすぐだった為か、実が実るほど成長していた訳ではないので何の種類なのかは地球で学生やってたり、ポケモンになっていたボクには分かりませんがパッと見ただけでも5種類はありそうですね。そして、葉っぱがキレイな緑なので、とても状態がいいのは確かです。これは収穫が楽しみですよ。おいしい、お野菜。早く食べたいです。
「うん、こんなところかな?どう?元の状態と比べて」
仕上げに、一度神力を切り替えてからもう一度土に栄養を与えた後に、膨大な神力をその小さな身体に納めて、お兄さんを威圧させないようにした諏訪子様が微笑みを浮かべながら話し掛けます。凄いですね、あの神力で威圧感マシマシだった笑顔とは天と地の差を感じます。
とは言え、諏訪子様は元から浮世離れした容姿を持っていますから、神力に頼らなくとも十二分に超越存在としての威厳が出ています。そして、天性のカリスマに加え、更にそこへ、可愛らしい笑顔と言う愛嬌が加われば最強のさいかわつよつよ女神様になるのです。ほら、ボクは諏訪子様のかわいいオーラに慣れてますけど、お兄さんは慣れてないですから思いっきり顔が赤くなってますね。というか、お兄さんにはお嫁さんいましたよね?まぁ、諏訪子様がかわいいのは当然の摂理ですので、諦めて後で奥さんに一杯搾られてくださいね。あ、間違えました、絞られるでしたね。他意はありませんよ、他意は。……本当ですからね?
「は、はい。畑が、ひ、被害に合う前よりも状態が、よくなってる、です……」
あぁ、もうガッチガチじゃないですか。ですが、恐怖を覚えていると言う訳ではなさそうですね。諏訪子様もそれが分かっているのか嬉しそうですし。
「なら、良かったよ。また何かあったら気兼ねなく声かけてね?私と颯季で出来る限りの力は貸すからさ。ね?颯季」
「勿論です!」
「は、はいっ!ありがとうございました!」
ボクと諏訪子様はお兄さんと分かれて、近くの原っぱで少し早めのお昼ごはんを取ることにしました。今日のお昼ごはんはボクが作ったお弁当で、中身はおにぎりとお漬物に、諏訪湖で取れたおさかなの塩焼きです。
「いただきます」
ボクは食前の挨拶をしてからお弁当に手を着けます。まずはおにぎりを食べようと手を伸ばしたところで、諏訪子様にくいっと白衣の袖を引っ張られたので手を止めて其方へと向きます。
「颯季」
「どうかしましたか?諏訪子様」
「山がざわついてる」
「???????……わう?」
諏訪子様は中二病患者でしたっけ?などと無礼な思考に陥ってしまったボクは悪くないと思います。
この時の諏訪子様の言葉が正しいと分かるのは少し後のことでした。
――――――――――
「お父さん、わたし疲れた……」
「すまない、シキ。もう少し歩いたら一回休もうか」
「うん……」
予定では、早朝に出て山の中腹までを軽く散策して、昼前には戻る筈だったのだが、二人の親子は小さなイタズラ好き達の洒落にならないイタズラによって、見事に遭難していた。何度も引き返そうと踵を返すが、その度に通っていない獣道に出たり、崖で通せん坊を食らったりと散々な様子だ。
「また崖なの?」
「どういうことだ?ここら辺に崖が何個もあるなんて聞いてないし、知らないのだが……?一体どうなってるんだ?取り敢えず、ここで少し休憩するか」
「うん……」
二人の親子は崖を背にして座り込んだ。その時だった、突然バサバサと鳥か何かが羽ばたく音が幾つも響き渡る。何てことない鳥の飛び立つ音にしては余りにも大きな音に、子ども――シキは無意識のうちに父親の服を掴んで恐怖を誤魔化していた。父親は、空を見渡し、そして――
「嘘だろ?俺たちが入った山はあいつらの縄張りじゃない筈だ……」
「お父さん?」
「逃げるぞ、シキ!ここは不味い!」
シキの父親は、無理矢理にシキを引っぱり起こして自分の娘を引き摺るようにしてでも走り出す。だが――
「おい――」
声と共に幾つもの羽ばたきが聞こえる。
「――ここを我らの縄張りとしての狼藉か――」
幾つかの鳥の羽が舞い落ちるのと同時に二人の行く手を阻むようにソレが二人を囲い込む。
「――人間」
「て、天狗っ」
空からの襲撃者――天狗を認識した父親は自身の背中に娘を庇おうとする。だが、完全に包囲されている現状では無駄のあがきと同じ。
「黙りか……」
天狗は呆れの表情と共に腰に佩いた刀を抜き放ち、一言。
「子どもは拐え。大人は適当に処せ」
諏訪の大地が荒れる予感を感じさせる、大きな大きな風が吹き荒んだ。
漸く、諏訪子様とミシャグジ様以外の原作キャラを出せそう。恐ろしく早いフラグ回収、ボクでなくても見逃さないね。
今回でプロローグと言いますか1章は終わりです。次回から、古代スタートのテンプレ妖怪の山編になるので章タイトルを付けます。
次回 でんせつ、山に行く