この世界は簡単に人が死にます。当たり前ですね。
「どうして、こんなに同じところをぐるぐる回ってるんですかね?」
ボクは、一人シキちゃんの臭いを辿りながら、山の中を歩き回っています。それにしても、本当におかしいですよね。少し、北に進んだと思ったら、今度は真東に向かったり、またすぐに南に行ったりとしっちゃかめっちゃかな子どもが作った迷路を辿っているみたいな感覚になってしまいます。
夜になって、それなりの時間が経ったからか、妖怪の数が多くなってきました。一体、今日だけで何回フレドラで妖怪を消し炭にしたんでしょうかね?もう、数えるのすら億劫になってしまいます。こんな状態でシキちゃん達は大丈夫でしょうか?シキちゃん達は2人いるはずなので、ある程度は安心出来ますが、一番心配なのはシキちゃんのお母さんです。まだすれ違わないので、結構不安になっています。何もなければいいのですが……。
「皆さん、無事でいてください……!」
余りにも進展しない事態にボクの中で焦燥と不安が募り始めています。そんな強い感情がバレたのか、目の前に5体ほどの妖怪が出てきます。
「しつっこい、ですね!」
――『神速』
――『ブレイズキック』×5
ボクは、刹那の内に炎を足に纏わせて妖怪5体を纏めるように空高く飛ばす。ドンドンっと、吹き飛ばされた妖怪がぶつかり合って一点に集まります。
「消し炭になってください!」
――『クロスフレイム』
元○玉みたいに、炎を球状に形成して頭上に創りました。そして、両手を天に向けて妖怪達へ向けて振り下ろします。それと同時に直径20m近くの巨大な火球も妖怪達へと向かい、今までボクが使ってきた技なんかとは比較にならない爆発が起きました。勿論、妖怪達は跡形もなく消え、近くにあった木々も消滅していました。
この『クロスフレイム』ですが、実はボクが持ってる技の中でも、単発技かつ威力という一点においては最強です。『クロスフレイム』とは、複数の技を掛け合わせる時にお世話になっている『蒼い炎』でお馴染みのレシラムが持っている専用技です。この、『クロスフレイム』にはとある特徴があります。
それが、レシラムと対をなす存在であるゼクロムが使う『クロスサンダー』という技が使われた直後に『クロスフレイム』を使うと、何と元の威力である100の2倍となる脅威の威力200になります。しかも、命中100です。
ここまで言えば、何となくの予想が付いたと思います。そうです、ボクの『クロスフレイム』は常に威力が200なのです。ぶっ壊れでしょう?ですが、流石に威力200を連発されるのはボクの内側にいるチートさんも困るのでしょう。デメリットが用意されていました。
それが、絶望的なまでに命中率が低い。と言うことです。大体35%と、一撃必殺技よりマシ程度の命中率を誇ります。実際に、ボクの投げた『クロスフレイム』はまるで、避けてください。とでもいうかのようにとても遠距離攻撃とは思えないほどゆっくーりと進み、妖怪達が空中で衝突して怯んでなかったら恐らく軽々と避けられていたでしょう。
「ふぅ……シキちゃんの臭いは……こっちですね。結構、臭いが強くなってきましたし、そろそろでしょうか」
ボクは、北東の方へ向きを変えて走り始めます。ここら辺からは、特に変な方向へと切り替わることもなく、ほぼ一直線でしたので一気に加速して突き進みました。そして――
「この臭いは……血、ですか?」
開けた崖の前で唐突に、ボクの鼻を刺激した鉄のような血の臭いが、ボクの思考を止めさせました。
――――――――――――
「おい、小娘。ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「ひっ……」
「ちょっと、勇儀。その子、完全に怯えているじゃないの」
「……いや、すまん。まさか、私がここまで怯えられるとは思わなかったわ」
「山の四天王の一人が酔っぱらいながら話し掛けたら、恐がられるに決まっているじゃない!」
「わはは、華扇。その位にしてやれ。ほら、小娘。お前も飲むか?」
「ひっ……い、いえっいりません…っ」
「何だぁっ?私の酒が飲めねぇのかぁ?」
「子どもにダル絡みは辞めなさいよ、萃香。それに、その子に手枷が付いてる以上飲めないわよ」
「あー?……だったら外せばいいじゃん」
「そう簡単にもいかないのよ。妖精のせいとはいえ、こっちまで入ってきちゃったんだもの」
「そんなことはいいじゃねえか、華扇。そんなことより、さっきの炎の奴がどんな奴か知りたくてよ。なぁ、萃香は何か知らねぇか?」
「あー、そいつなら今こっちまで全力疾走って感じだなー、ひっくっ……。結構、ぶちギレてる感じだね。ちびっこの父親の血か死体でも見たんじゃない?」
「っ……お父さんっ……」
「へぇ、他人の血くらいで怒るなんて、随分と人間臭いやつなのね。ソイツ」
「ソイツが強くて酒が呑めるってなら、私ぁそれで十分だ!」
「違いないっ!」
「「わっはっは!!」」
「はぁ……」
「うぅっ……颯季さん……」
「「「……」」」
「おい、今のは」
「凄まじい威圧感ね」
「ひっくっ……あー、ちびっこの親をやった天狗がぶっ飛ばされたみたいだ」
「へぇ、あいつって天狗の中では結構やる奴だったよな?」
「そうね、一応両手で数えられる程度ね。でも、そのせいで最近調子に乗ってたから、今のでいいお灸になったでしょ」
「颯季さん……助けて……」
酒臭い山の四天王に囲まれる子どもの一幕であった。
――――――――――――
「大丈夫ですか!?」
切り立った崖から少し離れたところでボクが知覚した錆びた鉄のような血液の臭いを辿ると、そこにはシキちゃんのお父さんが血の池を作って倒れていました。ボクは慌てて近寄り、声を掛けます。
息と脈はまだギリギリありますね。そ、そうです、怪我の確認をしないといけませんね。
「緊急ですから、失礼しますね」
ボクは、シキちゃんのお父さんが着ている服を捲って身体を露にして、怪我を見ていきます。怪我はお腹が一文字にスパッといかれちゃってますね。結構な出血ですが、どうやら霊力を使って応急手当をしたと言ったところでしょうか?どのみち、このままでは死んでしまうのは明白です。であれば、
「一度、村に連れ帰って治療を――」
「まって、くれ」
ボクが、シキちゃんのお父さんを背負って、一度村へと戻ろうとすると、何かがボクの腕を掴んで引き止めました。そして、この場には、ボクとシキちゃんのお父さんしかいません。
「目が、覚めたのですか?大丈夫ですか?痛いところはありませんか?」
「だい、じょうぶ、とはいえない、な。もう、すぐ、おれは、しぬだ、ろう……」
「もう少しだけ頑張ってください!今すぐ村に連れ帰りますから!」
ボクがシキちゃんのお父さんにそう言いますが、シキちゃんのお父さんは首を横に振りながらゆっくりと口を開きました。
「おれのことは、いい……しきを、たすけてく、れ」
「そうです、シキちゃん!シキちゃんは何処にいるのですか!?」
余りの動揺で忘れていましたが、シキちゃんがこの場にいないです。それに、恐らくかなりの時間をここで倒れていた筈なのにも関わらず、妖怪の気配がしません。この感じは、ミシャグジ様の山で感じたものと同じ気配です。つまり、ここは何かの縄張りの中だと言う事です。ボクの中で極めて強い嫌な予感が胸の内側から湧き出てきます。
そして、その予感が正しいのだと、シキちゃんのお父さんが山の頂上を指差して告げた言葉で実感するのでした。
「しきは、このやま……おにがおさめる、ようかいの、やまのちょうじょうに、いる……。たのむ、おれのことは、おいていって、かまわ、ない。しきを、まかせ、る……」
そこで、だらんと手が地面に落ち、開いていた目が閉じていきます。そして、ボクの優れた聴覚が、彼の心音が止まっている。彼は今この場で死んだのだ。という、どうしようもない事実を突きつけてきました。
「どうして、ですか……どうして、シキちゃんを残して――」
違う、シキちゃんもシキちゃんのお父さんも、お母さんも、この山の妖怪の誰も悪くないです。悪いのは、行動が遅れてしまったボクのせいです。この山の妖怪は自分の縄張りを守っただけ。だから、喰われていない。ただ、追い払っただけ。
ボクが、もっと早く行動していれば、今まで生きていたシキちゃんのお父さんを助けられました。ボクのせいでシキちゃんのお父さんは死にました。シキちゃんに悲しい思いをさせてしまう。
「いけません、自罰的になってる場合じゃないですね。まずは、シキちゃんを助けにいかないと」
まぁ、ボクがこんな精神状況では、恐らくこの山のボスである鬼の四天王に勝てるとは思えませんけどね。一度、頬をパンッと叩いてからボクは立ち上がって、山の頂上を睨みます。行く場所は決まりました。後は、一直線に駆け抜けるだけです。
「すみません、少しの間だけ野ざらしにしてしまいます。必ず、シキちゃんを連れて戻ってきますから、待っていてください」
ボクは、心を引き締めて崖を『ロッククライム』を使って三回の跳躍で跳び越え、頂上に向かって全速力で走り出します。頭の片隅で今も沸き続ける自身への怒りから逃れるために。
「止まれ、犬っころ」
そんな時に響いた静止の声。ピタリとボクの足が止まります。目の前には、山伏っぽい恰好をした鳥の羽を生やしたヒト。天狗です。
「こちらが、そちらの領域を犯したのは謝罪します。その上で言わせてもらいます。シキちゃんを返してください」
「断る。あの小娘と男はこの山の掟を犯した。罪を犯したのだ、罪人は捕らえられるのも、殺されるのも仕方のないことだろう」
「仕方ない?シキちゃんは、まだ幼い子どもなんですよ!?親の庇護の下で成長して、いずれ一人立ちして新しい家庭を築くことが出来るんです!そんな、シキちゃんから親を奪っておいて仕方ない?ふざけないでください!!」
「下らないな。弱者が強者に従うのは当然だろう?であれば、この山の強者である俺に従うのは当たり前のこと」
あぁ、ダメです。この男だけは許せそうにありません。ボクの理性も野生の勘も、この男が気に入らない。怒りのままに、八つ裂きにしろ。と騒いでいます。ボク自身に向いていた怒りの矢印が目の前の
そうですよ、何を我慢する必要があったのでしょうか?殺さなければいいんです。ボクだって、お前と同じケモノです。だったら、ちょっと躾けをして立場を分からせてやりましょうか。
「最後通告です。シキちゃんを返しなさい」
「何度言われても、答えは変わらない。断る」
「……そうですか。では、無理矢理にでも取り換えさせて貰います」
刹那、ボクの身体から噴き出た、ボクの憤怒を表すかのような劫火が山を越えて、天をも焦がします。それと同時に、この世界に来てからずーっと抑えてきた
――特性進化『いかく』→『炎獣王の覇気』
「手加減はしません。死なないでくださいね。後処理が怠いので」
――『神速』
ボクが、大きく踏み込んで音の壁を叩き割る。たったの一歩、それだけでソニックブームが発生して近くにあった木々が倒れ、近くにいた
――世界が
一番、チートの効果を受けてるのはこのチー特性さんです。以下、説明。
炎獣王の覇気……敵対した相手全ての『こうげき』『とくこう』『すばやさ』を10%ダウン(ランクダウンとは別枠)このステータス減少は場を離れても続く。減少したステータス分、自身のステータス増加。ほのおタイプの技威力が(対象の数×10)%増える
こんな感じです。ぶっ壊れ。因みに、今回のこれは妖怪の山にいる全ての天狗と鬼が対象です。尚、敵という認識が消えると同時に自動で解除されるため、人間時代でお世話になった原作キャラにあった瞬間に解除される模様。しかし、神奈子を除く。
次回 でんせつ、鬼の元へ向かう
お楽しみに