ま! よ! け! の! 塩! (120年分)   作:哀しみを背負ったゴリラ

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顔の有る怪物

 

「失礼っしたー!!」

 

 放課後。

 良く言えば快活、悪く言えば粗雑な挨拶と共に、二郷は職員室から出てその扉を閉めた。

 不登校になる直前の間宮二郷少年を覚えていた教師の一部が、驚いた様子で二郷を見ていたが、二郷はそれを気に留める事は無かった。

 教室での怯え具合はどこへやら。背筋を伸ばしキビキビとした様子で、リノリウムの廊下に足音を響かせる。

 

(いやー、金髪連中をシバき倒した事で何か言われんのかと思ったけど、ただの出席日数の話で良かったぜ)

 

 どうにも、この中学の教師達は悪い意味で生徒に無関心であるらしい。

 二郷を職員室に呼んだ担任教師の三塚女史は、二郷が登校してきた事と不良達の事について話を切り出そうとしていたのだが、横で話を聞いていた壮年の男性教師に肩に手を置かれ、話を中断させられてしまっていた。

『この学校にいじめなどなく、仮に有ったとしても教師たちはその事実を知らなかった』という事なかれ主義を貫きたいのだろう。

 そのスタンスは教育者としては下劣極まりないが、しかし不良達との力関係が逆転している今の二郷からすればかえって都合が良かった。

 いじめに無関心という事は、逆に言えば、不良たちがどうなっても教師達は興味を示さないという事だからだ。

 

(まあ、連中は色々へし折ったから暫くは大人しくしてんだろ……それよりも、だ)

 

 いじめについての話に圧力をかけられた事。そして、それに屈してしまう自身に恥じ入り、悔しそうな表情を浮かべた三塚女史。彼女が語っていた言葉を二郷は思い返す。

 

『間宮くんは出席日数が足りないので、暫くの間、放課後は補習です。先生、予定表を作ったので……無理せず、来れるようなら来てくださいね?』

 

「……補習、かぁ」

 

 間宮二郷少年が、中学3年生への進級と同時に不登校になって約半年。つまり現在の暦は10月である。

 公立中学校なので事実上留年はないとはいえ、学校側としては、外聞の為に不足している出席日数を少しでも補填したいのであろう。それが故の補習の提案であり、二郷の側としても、元の世界に帰れるのかどうかも判らない現状、自身の将来を考えればそれを断る理由はない。ないのだが……。

 

「この学校、異様にバケモンが多いんだよな……ぬ○べ~の童守小かっての……うひいっ!? ま、また居やがった!!」

 

 ただただ心情の面で、二郷は補習に気乗りしていなかった。

 それは、この学校の校舎に奇妙な程に多くのバケモノが住み憑いている事を、この一日で理解させられたからだ。

 廊下の隅や壊れたロッカーの隙間。体育館やら科学室やら、果ては花壇に至るまで。

 二郷の瞳は異常な数の……それこそ、かつて『青年』であったときに訪れた、戦中に建造された廃病院に近い数のバケモノを捕捉していた。

 幸いというべきか、教室で見かけた3体程に禍々しい存在は目にしなかったが、二郷にとって数多のバケモノ達と放課後を過ごす時間がこのうえなく恐ろしい事であるのは変わらない。

 

(けど、補習バックれたらクラスの連中が犠牲になる可能性が高まるんだよなぁ……選択肢がねェんだよなぁ!!!!)

 

 さかさネジ作中の単話『モリガミサマ』、『スイガラ』、『アナログジャック』。

 二郷のクラスに同時存在しているバケモノ達は、それぞれ恐怖の方向性が異なる存在であるが、その全てに共通している事が2つ有る。

 

 それは、作中で明確に死者が出ているという事。

 そして、バケモノを放置した場合の犠牲者が膨大な数に上るであろうという事だ。

 

 であればこそ、心底嫌ではあるものの、自身が学校に身を置く時間は長ければ長い程良いと、二郷はそう考える。

 でなければ、二郷の知らない内に事件が発生し、手に負えなくなったうえで膨大な被害を出しかねないからだ。

 

(それだけは、あっちゃならねぇ……『主人公』が現れるまでは、『主人公』に引き継ぐまでは、俺がなんとしてでも対処しねぇと)

 

 大きく深呼吸をする。

 それで身体の震えを何とか抑え、自身にそう言い聞かせた二郷は、今後について思考を巡らせる。

 

(幸いな事に、俺はどのバケモノの特徴も正体も知ってる。物語の内容も、巻末おまけからカバー下まで全部読み込んである。それに────)

 

 二郷は、その右の掌に少量の淡く光る『塩』を生み出すと、廊下の水飲み場に置かれた水の入ったバケツ──落ちくぼんだ目のゾンビのような人の顔が水面に浮かんだ其れに対し、投げつけた。

 

「だっそおおおい!!!!!」

『グギゲ!? ゲ、ギエエエエイイイ──―……!!?』

 

 すると、塩に触れた水面の顔は断末魔の叫びを上げ、ナメクジのように溶け消えてしまった。

 後に残ったのは、米粒ほどの大きさをした半透明の薄紫色の石だけで……それの石も、数秒の後に空気に溶けるように消えてしまう。

 

「ひ、ヒぃ……こ、怖ぇ……けど、そうだ。やっぱそうだ」

 

 涙目の二郷は、何かを確認するかのように塩を投げた右手を開閉してから、確信を持って呟く。

 

「多分、この『塩』なら、どのバケモノにも効く……リスクあり過ぎて使いたくねぇけど、最後の手段としては『アリ』だ」

 

 そして、視線を階段の先へ────自身の所属する教室が有る3階へと向ける。

 バケモノに対して有している情報。作中描写から推定出来る事件の発生時期。今の自身が持っている『塩を出す能力』。

 その全てを加味したうえで、間宮二郷が初めに対処すべきバケモノは

 

 

 

 

「顔の有る怪物、偽りの祟り神、生贄を弄ぶ怪異────『モリガミサマ』。テメェだ」

 

 

 

 

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