ヤンデレ達の夜~貢がれるYAMA育ち~   作:春玉サロン

13 / 15
 【fgo×まほよ記念】

 お気に入り登録、高評価、感想ありがとうございます。
 モチベーションが爆増しております!

 不定期投稿する場合は
 投稿する前に活動報告に記載いたします。
 お気に入りユーザー登録して頂くと
 マイホームで確認しやすくなりますのでご検討をお願いします。

 次回の投稿は14話と15話(温泉回)+18禁版を連続投稿したいので
 投稿日は未定でございます。

 投稿する前に活動報告で
 告知投稿するのでご確認ください。
 (早くても3週間、遅くて一ヶ月を予定しております)

 (21,227文字)







第13話 第五魔法「魔法・青」

 12月25日・19時20分・旧校舎

 

 雪原に仰向けのまま驚愕する青子。

 目の前で起きた奇跡をまだ理解することができなかった。草十郎は足元でうずくまる少年に興味ない様子で視線を外して青子を見つめる。

 

「もう終わったよ。青子」

 

 草十郎は自然な口調で話しかける。

 

「アンタ! 自分が何をしたか分かっているの!?」

 

 怒鳴り声を出して体が痛むがそれどころではなかった。青子たちでは手も足も出ない人狼を一瞬で倒していまい気が動転する。草十郎は首を傾げて考え込む。

 

「あれ? 青子は覚えていると思ってた」

「はあ──── ? 何のことよ」

 

 少しため息を漏らして────

 

「前にクマを倒す話しただろう? 

 こんな事は山では日常茶飯事だぞ?」

「──────」

 

 彼が何を言っているのか理解出来なかった。記憶を振り返ると他愛もない会話を思い出した。”クマを倒すのに修行なんてするか”とか言っていたと振り返る。からかって話した雑談だったから流していたが草十郎にとってクマのような獣は珍しくないという意味だった。

 

 そこまで思い至って無理やり納得する。会った時から常識外れだったがここまで規格外だとは思ってもいなかった。そういえば、有珠から遊園地での跳躍について話した時も三十メートルの高さから飛び降りたのを見たと聞いた。けれど、その時は有珠の見間違いだと思っていたがこの調子なら本当の事だろうと納得する。

 

「──── 流石は。私の使い魔ね」

 

 嫌味のような、思考放棄のようなに独り言を呟く。

 納得できないことや聞きたいことは山ほどある。だが、今は最大の脅威が無くなって肩の荷が下りる。

 

 一方、橙子は冷静に状況を判断していた。雪原にうずくまっている金髪の少年。その傍で立っている長髪の少年。青子と有珠は重症だが各々の魔術刻印が治癒を始めて数分もしたら戦う事ができるだろう。

 

 対して、余裕そうに演出したが実際のところ使用可能なルーンは四つしかなかった。勿論、祖父を密閉している結界を解除すればかなりの余裕が生まれるが────

 

 ”流石に…………このタイミングで解き放つのは下策だな”

 

 祖父の結界を解除した場合、霊脈の支配権を瞬きする暇もなく、この場で支配権を奪われるだろう。ここで手打ちにして再度襲撃しても切り札を失くした橙子には勝ち目はない。

 

 この奇襲は蒼崎の結界をすり抜けたこと。

 

 三年間の魔術の成果を協会に売りつけて資金を調達。

 

 二十年以上も育てた髪を代償にして

 最強の使い魔を手に入れた。

 

 この機会を逃せばこれ以上のチャンスは二度とない事は子供でも理解できた。一番の敗因は黄金の人狼に頼り過ぎたことだろう。ベオがいなければ森林公園で有珠にすら負けていたため間違った選択肢ではない。神秘を扱う時点でベオに勝てる魔術師などこの世に存在しない。

 

 

 しかし、何事にも例外は存在する。

 もう一度少年を凝視し、傷を確認する。左拳と右肘が血が滲んでいるが未だ万全に近い状態。ベオの衝撃をどうやったか不明だが、衝突した周囲の地面が波打っており、突進した衝撃の殆どを地面に流したのだろう。ベオを貫通させた一撃も草十郎は方向を変えただけで大怪我には至らなかった。

 

 倒れている人狼の少年は完治している。

 拳と肘にヒビが入っている草十郎よりも万全な状態である。だが、仮にもう一度、黄金の人狼に変身して草十郎に襲い掛かってもまた再現されるだけだろう。理性も技術、全てを超越したかのように長髪の少年は奇跡を幾らでも再現する予感があった。

 

 それにうずくまって泣いている少年が再戦できるとは思えない。あの瞬間、両者の格付けは終了したのだ。恐らく、安い挑発で激高した時点で草十郎の勝利は確定していた。心が折れた人狼は二度と冷静に戦うことはできないだろう。

 

 どの生物にも欠点が存在する。

 それは肉体面だけでなく、精神面の話でもある。子を身ごもり警戒心が高い時、空腹で集中力が低下した時、如何に森の神であろうとも獣である以上逃れる事が出来ない本能の話。

 

 ”しかも、正面から打ち倒すとはな…………”

 

 うずくまるベオはまだ震えている。

 子供には相手が悪いと、自身への甘さに反吐が出る。このままでは橙子の敗北は必須。逃走しても二度と彼女らの前に立つことは出来ない。

 

 ただ一つの選択肢を除けば────

 

 敗者とは思えない表情で嗤う。

 もはや用済みの人狼に興味はなく、長身の少年に向かって左腕を持ち上げる。気が付く者はひとりもいない。新しい使い魔に心を震わせながら少年の左目に意識を向けるのだった────────

 

 

 

 


小休止


 

 

 

 

 同日・同時・同場所

 

「間に合って本当に良かった」

 

 照れくさそうに苦笑いを浮かべて少女らの無事を確認する。青子が血塗れの姿だった時は強い激情で一瞬、意識が飛びかけたが青子たちの傷が塞ぎ初めて安心した。

 

「ああ────、俺はこうしたかったんだな」

 

 優しい笑みを浮かべて青子に微笑む。何がしたかったのかイマイチ分からず、眉を潜めていると草十郎が話し始めた。

 

「前にも言ったけど、俺は青子たちが好きだ。

 だけど、理由がずっと分からずに悩んでいたんだ。

 でも、ようやく、理由が分かった気がする」

 

 本当に嬉しそうに上を見上げて夜空を見る。

 

「きっと、届かないほど綺麗な星だから────

 今も手を伸ばし続けている──────

 誰よりも傍にいたかった。それだけだった────」

 

 青子は呆然とその言葉を聞いている。

 きっとこの少年はまだ好意が何か理解してはいない。それでも告解のような、その願いは青子の中に澄み渡る。返す言葉が見つからずにただ少年を見上げている。今更だけど、青子は草十郎のこと何も知らない。

 

 なぜ人狼を倒す事が出来たのか、なぜその願いが生まれたのか、生まれも育ちも何も知らない正体不明の人物。なのに、どうしようもなく彼の純粋さに惹かれていた。

 

「……本当に、アンタってやつは」

 

 此方を見つめて右手を差し出す。

 まだ足の傷は治っていないのだが、この手を今すぐにでも掴みたかった。

 

 しかし────

 

「そこまでだ。青子」

 

 凛とした声がふたりを遮る。

 翠緑色のコートを着た魔術師が此方に左腕を向けていた。手を掴み取ろうとした少年の瞳は黄金の光を放ち耀き始める。青子が手を握る直前、うめき声を出す暇もなくその場に倒れる草十郎。

 

「草十郎──────!!」

「────────!!!」

 

 雪原に倒れた草十郎を見て驚く二人の少女。青子はすぐに体を仰向きにして気道を確保しようとするが────

 

「おいおい、それはもう、私の使い魔だぞ? 

 気安く触れるんじゃない」

 

 橙子の上機嫌な口調で左腕を振り下ろす。

 すると、青子の周りで爆発が起きたかのように雪が飛び散り、何かが上空に跳躍した。粉雪が少し落ち着き周囲を確認すると倒れていた草十郎がいない。

 

 再度、橙子の周囲で流星が落ちたような衝撃音が鳴り響く。雪が此方まで飛び散り、雪が剝げて地面が露出した中心にひとりの少年がいた。彼女の足元には従者のように片膝を折りながら首を垂れる草十郎の姿が見える。

 

「左眼のルーンが馴染むまで時間が掛かってね。

 あの場では支配する事は出来なかった。

 彼のことは全てが終わり次第、

 回収するつもりだったが──────」

 

 橙子はこれまでにない程、上機嫌な口調で語る。

 

「まさか、ここまでのモノとは予想外だった

 しかも、彼がここまで来てくれて手間が省けた」

「────────」

 

 俯いたまま傍に控える草十郎を見ていられずに有珠が右手を向ける。

 

「──────、ッ!」

「無茶は良くないぞ、有珠。

 まだナナカマドが効いているのに魔力を使えば、

 そのようにはじけ飛ぶ」

 

 黒衣の少女の右腕が割けるように血飛沫が飛ぶ。彼女の魔術刻印はまだ魔力を受け入れる準備段階には入っていなかった。体に巡るナナカマドの薬効が魔力を暴走させる。

 

 橙子は傍にいる彼の頭を右手で撫でまわし、指先で弄ぶ。しゃがみ込み、後ろから彼と視線を合わせる。草十郎は虚ろな瞳で彼女を見つめる。少年の顎先を撫で続けていた。

 

「正直、ベオが倒されたのは想定外だった。

 魔術師ではベオの神秘の前にはひれ伏すしかなく、近代兵器では周囲を巻き込み圧倒する。例え、猛毒でも体を変形することですぐに適応しただろう。

 しかし、毒と認識出来ない、いや本人ですら猛毒であることを自覚していない怪物なぞ幼いベオには荷が重過ぎた。本来ならばこの時点で私に勝ち目はなかったが────」

 

 愛しい人を見つめるように歪んだ愛情を少年に向ける。撫でる指先は淫猥さが増し、左手を首元から挿入して直に草十郎の肉体を堪能する。彼の胸を弄り筋線維を指でなぞり、右手で顎先を持ち上げて鎖骨下から舐め上げる。

 

 この瞬間だけは霊脈や少女らのことも忘れて、新しい玩具にご執心。少女達は怒りを通り越して声も出せずに震えている。橙子としては欲望に身を任せて今すぐにでも草十郎を貪りたい気持ちもあったが先に邪魔者を排除するために思考を切り替える。

 

「すまないな────

 少し興が乗ってしまった。

 先にお前達を処理しよう────

 草十郎……青子と有珠を殺せ」

 

 草十郎から指を離すと彼は立ち上がり、左眼を輝かせながら青子に歩きながら近づいてきた。足取りは重く、しかし着実に青子の元へと引き寄せられる。青子は魔術刻印を起動して右腕を彼に向けるが体が震えて標準が合わない。

 

 雪原を一歩一歩踏みしめて青子の元へと歩いてくる。もう一度、体に力を入れようとするが言うことを聞かない。草十郎は青子の前に立ち、彼女を見下ろすように右腕を振り上げる。

 

 ”……ダメ……私……”

 

 彼女の心は何処かで折れたのだろう。好きな人に殺されるなら後悔もないと心の隅で受け入れてしまった。夜風が吹き抜け、冷たい広場には瞼を閉じて運命を受け入れる少女。

 

 有珠はまだ諦めずに彼の支配権を奪うために魔力を生成しようとする。けれど、ナナカマドの呪いは彼女を苦しめ続けて吐血することしか出来なかった。

 

 逃げることを許さない彼女が初めて自分の意志で諦める選択をした。

 

 その光景に長髪の少年は────

 

 

 

 


草十郎視点


 

 

 

 

 少年には夢がなかった。

 ただ生きるだけの生活。植物のように存在して虫のように這いずり全てを受け入れる。そうしなければ、あの山で生き残る事はできない。指示された命令を聴き、日々を無感情にこなし続ける。夢という概念すら知らずにただ生きるだけを目的にしていた。

 

 しかし、都会に逃げてきてからの生活は濁流のような慌ただしい日々を過ごした。原理も知らずに便利な機械に囲まれた醜い動物。何をしているか理解せずに消費を続ける獣。子供から大人までも生きる以外の目標を持ち、何かを犠牲に積み上げる化物。

 

 少年には全てが不気味で恐ろしかった。歪な世界の住人たちは目に見えない情報や社会に揺れ動きながら変わり続けていた。変化し続ける日常は、山の生活とは掛け離れていた。けれど、少年は山での生活のように全てを受け入れる事しかできなかった。

 

 日々の変化を受け入れ続ける。

 なのに、少年の中には何も残らず疎外感だけが強まる。彼を気遣い、助けてくれる人も大勢いた。けれど、何処か違う生物のようで怖かった。都会に降りてきて、学校まで通わせてくれた。

 

 しかし、コレも自分の意志ではなかった。全てを受け入れ流し込み、何処にも彼の居場所はなかった。ここでも同じように生きるだけだ、と頭の片隅に置きながら夢を知らない少年は会議室で待機する。

 

 だが────

 

 睨みを利かせて入室してきた黒髪の少女は、

 今までに会った事がない未知の生物。美しく凛とした少女は今までと違う予感を齎し、不思議と視線を外すことが出来なかった。これまでも知らない人に囲まれてきたが受け入れ難いと思ったのはこの町に来て初めての経験。

 

 彼女は横暴で破天荒。

 これまでも似たお客様の接待をした事はあったが何処か異なる気高さを感じる。その高潔さは何処か来るのか分からないのに彼女との会話は楽しかった。

 

 しかし、事態は急変して彼女は自分を殺そうとしてきた。理由は魔術師としての理念と聞いたが草十郎にとってはどうでもいい話。日々を惰性で生きていた草十郎は”彼女になら殺されても構わない”、と思うほどあの夜は特別だった。

 

 その後、彼女らと同棲生活が始めり、お互いの事をより知ることが出来た。しかし、何故彼女らに惹かれるのか未だに分からずに悶々とした日々を送っていた。そんな時に詠梨神父からの問答でひとつ分かった事がある。

 

 俺は彼女らに生き方を変えて欲しくなかった。

 勿論、傷ついて欲しくない気持ちもあったがそれ以上に彼女が消耗される姿を見たくないと気づかされた。意識が目覚めると頭がぼやけて耳も聞こえない、機能が失われたはずの大脳基底核を弄られたのか、目の前には白黒のフィルムカメラを通したような光景が見える。

 

 眼前には雪原に座り込み、諦めた様子で瞼を閉じた青子が映し出されている。一番受け入れ難い光景に息を吞もうとするがその自由も奪われていた。

 

 右腕は天をかざし、彼女の頭蓋骨を粉砕しようとしている。しかし、少年にとって度し難い事は自分が彼女を殺そうとした事ではなく、未練のない様子で諦めている彼女を見たくなかった。腕からは血が滲みだし、足元には小さな血の水溜りが生まれる。全てを終わらすために拳を振り下ろす。

 

 しかし、終わらすのは青子ではなく、

 自身の人生だった。

 

 自由のない身体を足元の血で滑らせて拳の軌道を変える。腹部や内蔵では駄目だ。きっと、それでも俺は彼女らを殺してしまうだろう。一撃で命を刈り取らないといけない。失敗は許されず、全てを賭けて抉り打ち込む。

 

 少年は倒れこむように自らの心臓を突き刺した。

 右腕は肘まで貫通して血に染まり、ドクッドクッと心臓の感触が全身を伝わる。覆い被さるように青子に倒れ、左眼の違和感が無くなる。橙子も何が起きたのか理解できずに右手で口を覆っているが誰も気づかない。

 

 青子の学生服は血に染まり、未だに壊れた蛇口のように血が流れていく。有珠は声にならない悲鳴をあげるが青子は気づかない。目を開けた光景が非日常過ぎて、彼女にのしかかる彼のことを認識出来なかった。

 

「そう……じゅうろう……?」

 

 一瞬に出来事に頭は整理ができない。

 耳鳴りが高まり、激情などとうに振り切って甲高い生命の警戒音が聴こえる。現実感のない光景だが鼻腔から伝わる生々しい血の匂いが現実だと突きつける。草十郎の顔を見つめると血を流しながら口だけが動いていた。

 

 ”……あき……らめ……る……な”

 

 こんな時に何を言っているのか。

 怒りは振り切れてどこか冷静な彼女には確かにそう聞こえた。胸の血液は止まらないが少年の瞳の色は完全に抜けて屍となっていた。彼の頭を優しく抱きしめる。

 

 怒りは自分のためにしか使わないと決めていた。その激情は彼女の原動力としてこれからも生きるために使おうと。だが、この瞬間だけ誓いすら忘れて旧校舎に視線を向ける。

 

 橙子の琥珀色の瞳は驚嘆と憐み、

 後悔が入り交ざった色。

 

 ふざけるな、と憤激するが心はとうに怒りのパラメータを振り切っていたため、冷たい瞳で彼女を見据える。魔術刻印のお陰で足は繋がった。草十郎の髪を撫でて、脚に力を込めて立ち上がる。

 

 彼の死体を背に向けて対峙する。

 ふたりの距離は遠く、夜風だけがこの場を支配する。しかし、彼女たちには距離など関係なく、それぞれの憎悪だけが膨れ上がる。青子は自分の甘さを振り返り、橙子は自身の執着を後悔する。二人の足元からはそれぞれの魔力が唸りをあげる。

 

 互いに切り札を失い、この後に待つのは千日手。

 

 ────青子が本気にならなければ

 

 軋む、軋む、軋む────

 

 世界が揺れ動き超越者がここに誕生しようとしている。魔力の質は変わり、青いエーテルは加速し続ける。奇跡の扉に少女は手をかけた。

 

 祖父への結界を解いて本気になる橙子。この瞬間、三咲町の結界は修復されるが気にする余裕はない。この場で刻印を使わなければいけないと第六感が訴える。

 

 ”…………中途半端だな”

 

 この時点で橙子が三咲町の霊脈を奪うことは不可能になった。ここで青子を倒しても意味はない。だが、自分の強欲さが招いた結果のケジメも込めて、ここで引く選択肢はなかった。ただの当てつけのはずが歯車は既に狂い、彼女にあるのは殺意だけだった。

 

 魔術刻印の数は青子の倍以上になる。 

 例え、遊園地で魔力を借りた状態の青子でも橙子に勝つことは不可能だろう。しかし、まるで興味もないように眺めている青子。彼女は外部の情報より、心の中のモノを捕まえるのに集中していた。

 

 彼女の中にあるのは強大で、矮小で、

 強固で、貧弱な魔力の根源を手中に納める。

 

「いいわ…………橙子」

 

 小さな呟きだが荒れ狂う粉雪の中でも響く。

 

 

 

 

「本当の『魔法』を見せてあげる」

 

 

 

 

 右腕の刻印は新たな光を放つ。

 これより再現するは青の魔法。終わりを意味し、意義を失った孤独な魔法。魔法とは神の摂理、星では御しきれない未曾有の災害。地上の生きとし生けるモノは全てを否定する

 

 魔法とは星にとっては明確な敵であり、

 決して許されない存在。新たな魔法使いはこれまでも赤い影に殺されてきた。

 

 

 

 

「──── 聴け、万物の霊長」

 

 

 

 

 これは始まりの言葉。

 魔力は空間を裂き断裂を生む。冬の空は歪み、伽藍の崩壊、魔法の生誕を拒むように空間は軋み続ける。

 

 橙子は霊脈が異常に青子に集中していることに気が付く、これから起きる魔法を前にして最善の手段を取るため、背中の刻印を更に展開する。魔術師としての技量は青子の十倍以上あり、全力の有珠ですら殺す事ができるだろう。

 

 それだけのリソースを使わなければ祖父を抑えることができなかったこと。それが今回の一番大きな敗因なのだが今は青子に集中する。

 

 全力を出した橙子を倒せるのはベオのような神秘の幻獣、時計台の一部の化物くらいだろう。ただしコレは神秘や魔術に限った話で魔法は別だ。魔法とは未知であり、その特異性、超越性を確認した魔術師はいない。いたとしても本当に理解したのならば抑止力に存在を消されている。

 

「────────」

 

 だが、本当に魔法が使えたらの話だ。

 青子の周囲に魔力が集まっているがそれだけ、別段に特別な事は何一つ起きていない。橙子は魔法に選ばれなかった。けれど、魔法が世界を変える事だけは理解していた。

 

 星を敵に回す暴挙にあの少女は耐えられるのか疑問である。黄金の人狼と戦った時はその片鱗すら見せずに蹂躙されていた。

 

「──── もう、逃げないって決めたから」

 

 少女の心から迷いも恐れも消える事はないだろう。だが、それでも立ち止まる理由にはならない。少年との一方的な約束をここに結ぶ。

 

 瞳を閉じて、魔法の最終工程に開始する。

 

 時は止まり、自己の闇へと侵入する。全てが消え、果てのない宇宙すら超えて星の彼方に身投げする。砂漠に佇む赤き影は此方を見つめる。途端に新しい記憶が蘇る。草十郎の記憶を媒介に交換した結果だろう。

 

 

 

 

何も望むな

何も求めるな

 

 

 

 

 こんな記憶を捨てて、ゼロへと結合しなくていけないのに、どうしてか悔しくて涙が止まらない。

 

 

 

 

生の価値を知るな

死に尊さを覚えるな

 

 

 

 暗い森林の中でその声が鳴り響く。

 集中しなくては至れないのに──────

 どうしてもこの言葉が心を乱し続ける。

 

 ”…………うそ…………でしょ”

 

 赤い影は戸惑ってこちらをにらんでいる。

 覚悟を決めてきたと思った宿敵が──────

 

 ”オマエハ…………”

 

 ”まさか、そんな理由で! ”

 

 ”ワタシを敵に回すつもりか────―! ”

 

 世界は反転し、森へと帰る。

 

 

 

 

それが貴方のすべて

他には何もない

 

 

 

 

 青子は右手で打ち消し払う。

 この記憶は要らないと、全てを捨てるように。無垢な心に呪いが降り続ける。無欲で無意味な肯定しか許さない命の在り方。青子は全てをなぎ倒し、目指す未来を変更する。

 

 

 

 

 ”こんな過去は私が許さない…………! ”

 

 ”貴方は私が救ってみせる────! ”

 

 

 

 決意を込めて、彼女は瞼を開ける。

 現実に意識を引き戻すと青子の周囲はエーテルで満ちていた。髪は魔力の奔流でかき上げ高まる激情をここに示す。

 

 

 

 

「──── 告げる」

 

 

 

 

 自身から引き上げたモノを汲み上げる。青子の記憶には先程の過去は残らない。しかし、決意だけは残り、今ここに青の魔法のフタは開かれる。

 

 劇的な変化が起きる。

 足元の魔法陣は高速で回転を始めて、周囲の魔力は全て魔法陣につぎ込まれる。少女の中心は雪が消えて、緑の野原が現れる。野原からは春の香りが立ち籠めて全く別の風景に書き換わる。それを否定するように世界はあらゆる手段を使い彼女の行為を止めようとする。

 

 突如、放電現象が起きて、彼女の体を紫電が駆け巡る。全身の細胞が焼ける感覚に意識が飛びかける────

 

 だが、彼女は進み続ける。魔法を継いだ時から、この痛みに耐えるために修行してきたのだから。

 

「────!」

 

 巡る、巡る、巡る、星は彼女の存在を許しはしない。

 負荷は増し、神経は燃え尽きて彼女の体が光を放つ。

 

 

 

 

「秩序を示す我が名において告げる」

 

 

 

 

 やめろ、やめろ、やめろと赤い影は悲鳴をあげる。

 その先にあるのは破滅だと警告するが

 ワタシには関係ない────! 

 

 ”魔法の責任とか、人類滅亡とか、いい加減にしろ! ”

 

 ”ワタシが魔法を使う理由は────────! ”

 

 ”好きな人を助けるのに理由なんかいるか───!! ”

 

 

 

 

「──── 全て(NOT)正しく(SANE)

 

 

 

 

 暴風のように巻き起こる魔力。

 

 世界はここに逆行する。

 

 全ての風景が書き換えられる。

 

 空を覆うほどの桜吹雪、生命を謳歌するような新緑、郷愁の念を思い出してくれる山粧う光景、全てを包み込み静寂が広がる銀世界。

 

 幾度も周廻する世界はここに新たな奇跡を降臨させる。

 

 一面は白く、だが暖かな花の香りがする。

 雪原は消えて、真っ白な名前もない野花が(さざなみ)のように世界を包み込む。そして──────

 

 

 

 

「──────秩序(five)は、ここに崩れ落(timeless words)ちた」

 

 

 

 

 この瞬間、五番目の魔法は降臨する。

 前人未到の白花の海。夜空も変化し、原初の星々が蘇る。空は青く、赤く、満天の星空は心地良い風と共に彼女たちを包み込む。穢れも慈しみもない本来の風景。何もない世界、何も必要としない世界は彼の唯一の世界。その中心に魔法使いの少女が立っている。

 

 少女の綺麗な黒髪は血よりも濃い赤髪に変化し、学生服も白いジャケットとダメージジーンズに変わっていた。魔術刻印は黒いアームカバーで覆われて、手首には銀のブレスレットを着用している。

 

 景色が一変して、啞然とする橙子。

 しかし、彼女が望んでいたのはこのようなロマンチックな光景でなく、『魔法』を求めていた。大掛かりな仕掛け、大規模な魔法陣だが周囲の魔力は雪原だった頃と何も変わらない。久遠寺有珠のフラットスナークの方が世界を書き換えていただろう。しかし────

 

 青子の出で立ちは大きく変化していた。

 肉体強化と見るべきだが、それでも橙子の優位性は覆らない。世界を変えるというには余りにもお粗末な結果。

 

「まさか、これで終わりか?」

 

 挑発して相手の出方を伺う。

 

「ええ、これでおしまいよ」

 

 青子からの返答に違和感を覚える。仕草や口調も変わっていないが雰囲気が異なる。言葉にできない違和感を探ると────

 

「────、ッ 何!!!」

 

 青子に集中して気が付くのが遅れた。しかし、変わったのは雪原や青子だけではなかった。有り得ない光景に眼を見開く橙子。青子の足元に胸を貫通して絶命した少年。

 

 しかし、目に映る光景は初めから貫通してなかったかのように仰向きになりながら肩を動かして呼吸をしている長髪の少年がいた。

 

 死者の完全蘇生は魔法ですら不可能。体を復元しても不可逆の世界の法則。”死者の完全蘇生”が蒼崎の魔法かと考察するが祖父の理念からかけ離れた思想に違和感を覚える。その答えが出るより先に、青子の違和感の正体に気がつく。

 

 青子の肉体面は髪以外、変化していないが注目すべきは魔力の流れだった。これまでの青子は見習い魔術師のように零か百かの出力しか出せなかった。しかし、今の青子の体を巡る魔力は熟練の魔術師のように魔力を操作している。

 

 

 

「────回路(タービン)接続(セット)

 

 

 

 魔術刻印がないはずの左腕をかざし、

 魔力は加速し見たことがない速度で荒れ狂い、耳に聴こえる程の馬鹿げた速度で回し続ける。青子の魔術回路は単一性能の低級の代物。

 

 だが、あの速度、耐久性は常軌を逸する。光すら置き去りにする魔術回路など聞いたことがない。魔術で空気を振動させるのは難しくない、だが魔術回路を起動するだけで空間が歪むなど協会ですら知らない未知の領域。

 

 

「我が眼前に勝利ありき────!」

 

 

 背中の刻印は橙子の前に移動して、勝利(トゥール)のルーンを防壁に刻み、複数の魔術刻印で障壁を作る。この壁を打ち抜くにはフラットスナークを壊した時よりも倍以上の衝撃が必要である。

 

 しかし、青子は気にもとめず視線を合わせるだけで

 

 

 

「──── 魔弾、展開」

 

 

 

 短く呟き、二十発の魔弾を同時掃射する。

 

「────ッ、!!?」

 

 橙子は確認も出来ずに全弾直撃する。

 一発一発が対戦車ミサイルを超える威力の魔弾が流星群のように降り注ぐ。橙子のルーンの防壁や礼装のコートに仕込んでいたプロテクトも剝がされた。

 

 揺れる魔術刻印、衝撃のよってたぢろぐ橙子。防護のルーンを貫通したことで外傷はないが内蔵に甚大なダメージを受ける。もう一度受ければ完全に破壊されるだろう。更に信じ難いことだが、青子の底がまるで見えなかった。

 

 

 

ANSZ(アンサズ)SWEL(ソウェル)INGZ(イングズ)ッ!」

 

 

 

 宙に刻む三重のルーン。

 火種は業火となり青子に迫りくる。

 

「──── 遅い!」

 

 青子の一言で炎は消えた。

 コレはルーンに内包する魔力よりも青子の言霊の魔力がルーンを飲み込んだのだ。ルーンの対策が熟練の魔術師が知っている最適解に息を吞む橙子。一連のやり取りで魔法の正体を確信する。

 

経験(じかん)を持ってきたのか────!」

 

 青子の性能に変化はない。例え、魔術回路が増えても正しく扱えなければ豚に真珠、魔術師としての力量に変化はない。だが、現実として今の青子は魔術師として橙子を凌駕している。つまり、この少女の成長は自身の時間を早送りして経験を前借りしたのだ。

 

「────────」

 

 無言で旧校舎の中に逃げ込む橙子。

 ここでは勝ち目がないと判断して、工房へと戦場を移し替える。青子は背中から掃射することはなかった。橙子への慈悲ではなく確実に彼女のすべてを叩き潰すために敢えて見逃した。

 

 旧校舎に入るのを確認すると後を追いかける。

 …………その前に小さな声で足元を見つめて────

 

「有珠…………そいつをお願い」

 

 花びらを散らしながら返事を待たずに進む。

 赤い髪をなびかせて旧校舎に侵入した。

 

「──────」

 

 擦れ違うように草十郎は目覚める。

 瞼を開けると、どこか懐かしい光景が広がっていた。その星空は息を吸うことすら忘れて、魅入るほど美しかった。自分の状態を確認すると眠る前の記憶がない。

 

 それどころか過去の記憶も虫食いされたように所々、失われていた。自分が誰かも分からないが森の中であった女性のことを思い出す。

 

「……静稀君」

 

 心配そうに袖を掴む黒衣の少女。

 真横から誰かの声が聴こえる。正座で待機していた少女は確か久遠寺有珠だったと思う。しかし彼女のことは気に留めず、月明かりに照らされた春の花園から目線を外すことができなかった。無意識に首を触れて傷を確認しようとしたが首輪が邪魔して触れる事は出来なかった。

 

「静稀君」

 

 少年の呼びかけで首から指を落とす。

 白花から少女に意識を向ける。心配そうに此方を見つめる少女は非難と安堵が混ざった視線を向ける。

 

「えっと……有珠? 

 もしかして君に何かしたのか?」

「……今まで、静稀君は何をしていたの?」

 

 質問で返されてしまい、困り果てて沈黙する。

 何も思い出せないけど、

 唯一覚えていた事を説明する。

 

「…………誰かの声が聞こえた気がする。それは説教だった気もするし、頼み事だった気もする。でも、最後まで何も言うことは出来なかった」

 

 死んでいた時間の中で本人ですら認識出来ない断片的な記憶を引き出す。大切なことだったはずなのに思い出せない事に顔を曇らせる。

 

 有珠は続けて質問する。

 

「……欲しいものは見つかった?」

 

 脈絡もない問答。

 けれど、今の草十郎に最も必要な追究だった。

 

「……そうだった。見つけたんだ。

 ずっと見つからないと思っていたのに……」

 

 草十郎の瞳に生気が宿り、気恥ずかしさで苦笑する。

 

「思い出したよ。確か自殺したんだっけ? なのに生きているのは、どういう事なんだろう。橙子さんに操られている違和感もないし」

 

 不思議そうに顔を傾ける。

 黒衣の少女は拗ねるように口元を隠す。

 

「……静稀君は過去に戻ったのよ。

 この花園も静稀君の記憶から再現されたものよ」

「でも、ここ知らない所なんだけど……

 本当に俺の記憶なのか?」

 

 おかしな説明に草十郎は困惑する。

 

「今は青子が貴女の記憶を対価に未来の記憶を得ているから。今の静稀君には思い出すことはできないわ。でも、この奇跡を覚えていられるのは残念。元に戻れば、私と橙子さんしか思い出せないわ」

 

 空いた手で花びらを摘み取る有珠。

 有珠は納得しているがまるで理解不能とばかりに困り眉になる少年。

 

「有珠……もっと分かりやすく説明してくれないか?」

「意味もないけど、聴きたいの?」

「有珠の言葉が大事っていうのは覚えているからね」

 

 少し赤面をしながら、”そう”と呟く。

 

「結論を言うと静稀君は生き返ったの。

 左眼のプロイもルーンも消えているしそこから修正したのね。橙子さんに操られた静稀君は自殺を選択したけど、その結果を未来に置いてきた。

 更に橙子さんに勝つために貴方の十年分の過去を対価に青子は未来の自分の記憶を前借してきたの。ただ、それは肉体面ではなく、精神の時間の話だからここを懐かしく思うのは青子だけね」

 

 いずれ魔法は解けて、奇跡は戻る。今の光景を覚えることが出来るのは第三者である有珠と橙子だけになる。

 

「……つまり、二つの奇跡が起きたの。

 一つ目は静稀君の蘇生。

 二つ目は橙子さんを殺すために

 足りない知識を未来から引き出したわ」

 

 説明を聞いても半分も理解出来なかったが──────

 

「……殺す? 青子が橙子さんを?」

「今の青子ならもう終わっているでしょうけど」

 

 仰向けの体を起こして青子の元へと向かおうとする。

 

「待って」

 

 草十郎の袖を離さない黒衣の少女。

 無理やり引き離す事も出来たが少女の表情を見て躊躇ってしまう。

 

「これ以上……

 静稀君が抱え込む必要はないわ」

 

 まだ体調が万全でないのか震える指先で引き留める。

 

「…………ふたりで食べた昼食の時にも言ったけど、

 青子に人殺しをして欲しくないんだ」

「──── それは」

 

 有珠が”なぜなの”と続けようとするが──────。

 

 

 

 

「俺は有珠が好きだ」

 

 

 

 

 草十郎の先制攻撃に言葉が出ない黒衣の少女。

 

「二人との屋敷での生活は楽しかった。

 欲しいモノは見つからないと思っていたけど、

 俺にはあの日々が大切なんだと気が付いた。

 だから、あの日々を……ここで彼女を諦めたくない」

 

 少女はあの雪の夜を思い出す。誰かのために必死に動く彼の邪魔をしたくない気持ちが芽生え、嫉妬と愛情が入り混じる。それでも手を離す事が出来ない有珠に────

 

 

 

 

「それに俺は君たちの使い魔だろ」

 

 

 

 

 草十郎は”主を助けるのは当然だ”と言わんばかりに笑顔で黒衣の少女を見つめる。恋する乙女は赤面し、少年の服から指を外してしまう。草十郎はすぐに走り出し、白い花びらを散らしながら駆ける。その背中は人狼と対峙した時のような、身体を預けたくなるほど頼もしく、有珠は惹かれていた。

 

 これ以上、引き留めることもせずに無言で見送る。草十郎はすぐに旧校舎に侵入する。校舎内からは爆発音や瓦礫が崩れる音がする。けれど、一切の躊躇うこともなく、彼女の元へと走り抜ける。

 

 黒衣の少女は消えゆく花園で少年の無事を祈り続ける。

 

 

 

 


場面転換


 

 

 

 

 同日・19時30分・旧校舎内

 

 窓から光を放ち、校舎全体が揺さぶる。

 飛び交うルーンの数々を神罰の裁定者のように魔弾で叩き伏せる。魔術師にとって、魔術工房は最終防衛ラインであり、最後の切り札である。冠位の魔術師である蒼崎橙子のアトリエがそこらの工房とは訳が違う。

 

 幾重数多にも仕込んだ罠や呪いが古びた校舎を異空間に変貌させる。職人気質でもある彼女が創り上げた工房は不遜なる侵入者は一度、足を踏み入れたら最後。肉片ひとつ残らず消滅する魔境である。

 

 なのに──────

 

「──ッ! このバケモノが!」

 

 廊下を駆け抜けながら、百を超える罠を起動させているが何一つ通用しない。罠以外にもルーンを飛ばし続ける。しかし、赤き死神は歩調も変えずに近づいてくる。卓越した反射神経、熟練の軌道予測。両手に纏う魔弾はルーンの障壁ごと吹き飛ばす。廊下は青子の魔弾の余波で吹き飛び、青い凶弾は橙子のルーンを飲み込む。

 

「馬鹿の一つ覚えのように撃ちやがって! 

 熟練しても魔弾しか使えんのか────!」

 

 罵倒することでしか時間を稼げず、天井の重力のルーンを発動させる。青子は右足を振り上げルーンを蹴り上げる。ヒキガエルのように押し潰すはずが大気を裂き、天井ごとぶち抜いた。青子は前傾姿勢になり、暴風の如く突き進む。板張りの廊下や老朽化した校舎の壁を蹴散らしながら猛威を振るう。

 

「こんなものが魔法であるものか────!」

 

 完成した青子は一種の時間旅行をしたがそれは第二魔法、平行世界の運営である。ならば、第五の魔法とは呼ぶはずがない。全方位からルーンの魔弾が青子を襲うが触れることもなく消滅する。青子の熟練度は魔術師として最高位だろう。その知識は何処から持ってきたか────

 

「青子! その年月をどこから持ってきた────!」

「あの馬鹿からよ! 後で返すんだから

 十年分くらい別にいいでしょう────!」

 

 それなら時間の総量は変わらない。だが、────

 

「──── 彼はどうなる

 私を殺した後は元に戻すのか……?」

 

 橙子は自分で言って反吐が出るが

 この矛盾に青子は足を止めて、苦虫を嚙み潰したような顔をする。この隙は余りにも大きすぎた。背中の刻印が真価を発揮するため黄金の回転を始める。刻印から独自の魔力提供により最大の仕掛けを起動する。

 

 三枚の円状のルーン石。これまでとは規模が違う幾重にも重ねて再現した”原初のルーン”。水晶のような楕円曲線を描くルーン石から太陽光のような光を放つ。出力で言えば青子の魔弾ですら受け止めるのは不可能。正面からこの灼熱の呪いを躱すことはできない。

 

 しかし、──────

 

 

 

「──── 主観軸(メイン)固定(セット)

 

 

 

 青子は原初のルーンの正面突破するため、

 全てを溶解する灼熱のエーテルの中に突進する。衝突する瞬間、青子の体は幾重にもブレながら加速する。直撃したはずの体は何事もなかったかのように駆け抜ける。

 

 橙子は秒単位で時間旅行を繰り返していることを理解する。しかし、そのやり方では魔力が尽きるのが先だと勝機を見出す。

 

「一枚!」

 

 皿を割るかのようにルーン石を一蹴する。

 残り二枚は十メートル、橙子の魔力量では十秒が限界だがこの瞬間に全てを賭ける。しかし、幾千の自分を重ねることを止めずに突進してくる。連続で時間旅行などもう魔力が尽きて可笑しくないのに一向に鈍る気配がない。あの魔力は何処から捻出していやがる。

 

 青子の魔法は世界を全てを移動する並行世界の運営ではない。世界を換えずに行う時間旅行では過去を無くすことは不可能。彼を救う手段は死者を蘇生させるか、または、──────

 

 

 

 ”現実にあった死の瞬間を”

 

 ”このまま戻さずに遠い場所に棚上げするしかない”

 

 

 

「二枚目!」

 

 青子の猛攻は止まらない。

 最後のルーン石を盾にして青子に怒鳴りつける。

 

「────ッ! この愚か者────! 

 彼の時間を何処に捨ててきた────! 

 熱量の帳尻をどう合わせる──────!」

「……そんなの遥か未来に置いてきたわよ!」

「──────!」

 

 言葉も失い、青子を見つめる。

 時間とはそれだけでも莫大なエネルギーが内包する。どれだけ、膨張しようともいつかは冷却される等価の法則。しかし、青子はその時間そのものを無くしてしまった。これは魔術界だけの話ではない、宇宙全ての秩序が崩壊する歪みとなるだろう。

 

「この星どころか、宇宙そのものを消滅させる気か! 

 貴様が創り出した負債は確実に世界の寿命を縮めたぞ!」

「な──────!」

 

 青子も具体的にどうなるか知らなかったため、今の喩えに堪えるが知ったことではない。突き進む足は廊下を突き抜け前進する。

 

「その時はその負債を過去に送ってやるわよ! 

 歪みで潰されるのは過去だけなら文句ないでしょうが!」

「それで救われるのは人類だけだ。

 問題は総量が狂い、宇宙の負債は増え続ける! 

 青子! 貴様はどうするつもりだ──────!」

 

 宇宙は膨大するが永遠ではない。

 そのエネルギーは際限なく消費され、

 必ず熱量はゼロとなり無くなり、全ては無に帰る。

 

「この魔法は結末を速めるだけだ! 

 その責任をどう────────」

「五月蠅い────────! 

 そんな問題! 私が何とかしてやるわよ!」

 

 残り、二メートルとなり、

 青子の魔力が直に肌を掠める。

 

 最後の原初のルーンは橙子の憎悪を宿し、発射する。その熱線を避けるために地面を蹴り上げ、飛びかかるように右拳を振りかざす。

 

「なら! どうやって解決する!」

 

 

 

 

「そんなの────

 これから考えるに

 決まってるでしょうが!!!」

 

「ッ! お前は最悪だ─────!」

 

 

 

 

 振り下ろした拳は最後の砦を粉砕する。

 姉妹の距離は手の届く距離まで近づいた。橙子の赤いルーンと青子の青いエーテルが混じり合う。撃ち出された最速の魔弾は背中の魔術刻印ごと橙子を吹き飛ばした。

 

 

 

 


閑話休題


 

 

 

 

 同日・19時40分・旧校舎内

 

 そこには何十年も耐えた旧校舎は残骸となり、建物としての役割を終えていた。雨漏りもなかった堅牢な学び舎の天井には大きな穴が開き、廊下もそこら中が穴だらけになっている。階段も崩壊してその役割を果たしていない。徹底的に破壊尽くした姉妹喧嘩は二階の突き当りで終わりを告げた。

 

 三階の階段の前で座り込む橙子。

 壁に背を預けて満身創痍だが青子から視線を外さない。翠色のコートは血で赤く滲み、折れた腕が千切れた袖から露出する。足のタイツも生々しい裂傷があり、額からは血を流している。先程の一撃で橙子の内蔵は破裂して意識が飛びそうになるが最後の意地で堪える。

 

 眼前には赤髪の少女が見下ろしてくる。

 

「……もう少し保つと思ったが……」

 

 自称気味に小声で呟く。

 

 十年の経験を持った熟練の魔法使いは冷たい視線を橙子に向ける。肉親としての情はなく、ただ、冷酷で、どうしようもない現実を突きつける。青子はこれ以上、近寄らずに引導を渡すように右手をかざす。

 

「──────」

 

 月明かりが二人を照らし、屋根の雪がこの場を冷やす。憎悪も、執着も、全てを賭けた戦いは終わり、裁きの時間を待つ。

 

「最後に言い残すことはある」

「…………もし、彼を本当に蘇らせたいなら

 イングランドにある私の工房を探せ…………」

 

 橙子の口調は憎悪も敵意もなく淡々と話す。

 

「…………工房の解除方法は胸ポケットに入っている、

 ロケットペンシルの三番目を解析すれば分かる。

 場所は悪いが自分で探してくれ──────」

「…………何で、そんなことを」

 

 一服するため、折れていない左腕でコートのポケットを叩くが空だったのか渋い表情をして、ため息をつく。

 

「工房には精巧な人形があるの。

 そこに彼の魂を移すことが出来れば、

 今回の負債は消せるはずよ…………

 ただ、ユスティーツァの軌跡を辿る必要があるし、

 そのためにはキシュアを探さなければいけないけど

 そこは魔法使い同士で好きにやってくれ────」

 

「……だから、なんでそんなことを────」

 

 表情は変えないが鬱憤が溜まり聞かずにはいれなかった。

 

「彼に責任を押し付けたくなかった……

 それだけだよ…………」

「橙子、貴女────」

 

「さあな、もう自分でもよく分からない……

 始まりは祖父との決別だったはずなのに

 蒼崎の復讐心やお前への嫉妬も全て抱え込み──

 終わった今となってはどうでも良い。

 ただ、後悔だけは残したくなかっただけよ」

 

 

 

 

「………………最後に、根源に触れた感想が聞きたいな」

 

 

 

 

 全てを奪われた日。

 壊れる前の少女の頃のように優しく呟く。

 

「──────」

 

 憎しみもない遺言。

 青子は彼への仕打ちを清算するために自分の考える最悪な方法で陵辱し、拷問してから時空の狭間に捨てる予定だった。しかし、彼女の人生を奪った張本人に最後に解決策を提示する姿に心が揺れた。彼女を生かすことは到底出来ない。

 

 しかし、大事なことは全て他者によって蹉跌(さてつ)させられた実姉。自分が最も憧れた、世界一強い人に最後まで運命は味方しなかった。

 

 少年を操り人形にした時。

 少しでも幸運が傾いていたら、あの時に青子は殺されていただろう。好きな人を殺す苦しみは青子にも少しだけ理解できる。それでも最後まで足搔く姿は心の底から尊敬する。

 

 口数少ない祖父の言いつけ。

 魔法の根源、魔法の知識を漏らしてはならない。コレは魔法の唯一性を保護するための処置。祖父に言われなくて言うつもりはなかった。

 

 けれど、命乞いもせずに媚びることもなく、最後まで自分を貫いた生き様に敬意を表す。尊敬する姉の最後の頼みならば、感想だけでも手向けとして贈るべきだろう。

 

 振り上げた右腕を落とせば、姉は死ぬ。

 この寂しい旧校舎が彼女の墓標となる。

 

 

 

 

 

”……姉さん、悪いんだけど”

 

”正直、全然分からなかったわ”

 

 

 

 

 彼女が望んだ答えを出せずに申し訳ないが

 本当の事を告げて、魔力を込めた右腕を振り落とす。

 

 ────しかし、振り落とすことは出来なかった。

 青子の細い腕を力強く掴む、甘い誰かさんがいた。

 

 

 

「──── 離して」

 

 

 

 短く小さな声で訴える。自分の背中には掲げた手をしっかりと掴んでいる草十郎がいた。橙子も予想外の出来事に素直に驚いている。

 

 

 

「離して、草十郎……」

 

 

 

 振り向くことはせずに掴まれた腕に力を込める。

 

 

 

「お願い、離してよ」

 

 

 

 しかし、草十郎は腕を掴んで離さない。

 

 

 

「草十郎────!」

 

 

 

 青子は振り向き、彼を説得しようとした。しかし、コレが一番大きな失敗だったと、彼の表情を見るべきでなかったと後悔する。前に鳶丸から言われたことを思い出した”草十郎は鏡”だと。

 

 勝手にその表情を読み取ってしまう。

 哀しみなのか、怒りなのか、相容れないはずの感情を勝手に連想させる。その瞳は静かに灰色の世界に自分が映し出されている。

 

 

 

 

「人殺しは、いけない事だ」

 

 

 

 

 何度も訊いた台詞。

 だが、今の青子にはその言葉の重さが分かってしまう。今の状態を解除すれば忘却される静希草十郎の記憶の断片。しかし、今の彼女には胸が裂けるほど痛烈な言葉。

 

 けど、そう易々と頷くことはできない。

 この場を逃がせば、次に窮地に立つのは自分たちである。まず、彼女には二度も殺されかけた。しかも、今後も襲われない保証もない。何より草十郎がまた奪われるのは我慢出来なかった。

 

「──────ッ」

 

 なのに、彼の台詞が離れない。

 人殺しがいけない事なんて小学生でも分かる。けれど、その意味が、その尊さが、彼を生かしていることも憎たらしいほど理解できた。

 

 

 

 

「じゃあ、どうすればいいのよ────! 

 このまま見逃して、どうするのよ────! 

 私も有珠も殺されかけて──────! 

 アンタが死んだのだって──────!」

 

「俺は──、青子が好きだ」

 

 

 

 

 まただ、と思い少女の時間は停止する。

 ふたりだけの忘れられない思い出。半壊した校舎は何処かあの日の光景を思い出させる。命を預けたあの日から彼の事を片時も忘れたことは無い。だが、今回は自分だけでなく、彼の命も掛かっている。”今すぐ突き放せ”、と頭が命令するが口が開かない。

 

 草十郎の願いでも受け入れられない。

 なのに、彼の好意を否定できない自分が甘すぎて頭にくる。

 

「これからずっと傍にいたい。

 君に生きて欲しいと願った────

 だから、君を殺人鬼にさせることはできない。

 きっと、人を殺したら壊れてしまう」

 

 彼は彼女とすれ違うように前にでる。記憶を断片を奪われたからこそ、彼が絶対に言わない台詞と共に橙子を見つめる。

 

「青子がやるくらいなら──、 俺がやる」

「────────」

「ごめんなさい、橙子さん」

 

 満身創痍の彼女は諦めた表情で頷く。

 

「…………因果応報と言うがここまでとはな。

 君になら殺す資格はあるだろう…………

 それに君の最初で最後の女というのも悪くない。

 気に食わないとすれば、動機だが────

 そこまで贅沢は言えんだろう」

 

 全てを受け入れた橙子は首を差し出す。

 草十郎は一歩ずつ近づき────

 

「──────」

 

 青子は素早く振り向き、彼の背中から抱きしめた。

 全身の魔力を抑えて、全力で引き留める。彼の背中に顔を埋めて、泣きそうになる自分を必死に抑える。

 

「青……子……?」

「ずる…………い──────」

 

 この場で彼を見逃せば、

 記憶が戻った時に壊れてしまう。

 草十郎の記憶の断片はそれだけを確信させるモノがあった。草十郎に回す手を離して、口の震えを我慢しながら草十郎と橙子の間に立つ。

 

「それが他者の記憶の断片を取り込んだ代償か。

 飲まれたな、青子────────」

「…………そうよ。彼に殺させる訳にはいかないのよ」

「私には分からないが────、

 その魔法とは大事に付き合うといい。

 それで私を殺すのは誰だい? 

 それとも本当に見逃す気なのか?」

 

 自暴自棄気味に小さく笑う橙子。

 

「仕方ないでしょ。

 コレがこの魔法の代償なんだから」

 

 眼前に座り込む橙子を見下ろし、決断する。

 

「…………橙子、今回は見逃してあげる。

 けど、とっておきの呪いを貴女に贈るわ。

 具体的には草十郎への接近禁止命令と

 今後、この土地に入ろうとすれば

 マダガスカルガエルになってもらうわ」

 

 口元を笑みを浮かべて宣言する。

 ”私たちに文句があるなら逃げずに戦うわ”と言うように堂々と彼女を見つめる。ボロボロの魔術師は眉間にしわを寄せて見つめ返す。

 

「なんだそりゃ…………

 何でそんな奇妙な呪いを覚えているんだ!」

「あら、有珠仕込みの魔術師ですもの

 偏るのは当然でしょ?」

 

 職人気質の橙子から見れば、自己流の呪いも作れない魔術師は二流以下だ。けれど、青子は気にもせずにこの先も魔術師として生きるだろう。そのことに一言、文句を言ってやりたいところだが敗者のたわごと、と飲み込んだ。

 

「…………草十郎、ちょっとこっちに来て」

「なんだ、青子」

 

 俯く青子に問いかける。

 彼女は意を決して、草十郎の首に手を回し、つま先立ちで背伸びする。少年少女の顔は急接近して、遂にふたりの唇が重なり合う。唇の表面だけが重なる優しいキス。だが、長身の少年は今までに見たことのない顔でフリーズしている。魔法使いの少女は色白の頬を真っ赤に染めながら、それでも突き進む。

 

 時間にすれば、十秒にも満たない。

 だが、その瞬間は永遠にも思えるほど幸福な空間。恋する乙女はこのまま溶けてしまいそうだったが、青子から唇を離す。しかし、彼の首に回した手を外そうとはしない。顔だけを橙子に向けて────

 

 

 

 

「こいつは私の使い魔だから──!」

 

「アンタにはぜっーたいにあげないから!」

 

 

 

 

 赤面したまま所有物宣言。

 橙子はイヤそうな目で此方を見つめる。

 

「……傷口に塩とは────────

 十年で随分と魔術師らしくなったじゃないか……」

「何を言われても、

 草十郎は渡さないんだからね。

 ……じゃあ、そろそろ施術を始めましょうか」

 

 固まった草十郎を一階に連れていく。

 草十郎も何か言いたげだが、言葉が見つからずに彼女を見送る。青子はすぐに橙子のいる二階に戻り、彼女のコート剝ぎ取りながら取り掛かる。

 

「なんだ、この悪趣味な術式は……! 

 ここまで不細工な呪い! 見たことないぞ!?」

「うっさい────! 

 人の男に手を出したんだから

 このくらい、我慢しなさいよ!!!」

 

 上のフロアから昔のように姉妹喧嘩の声が鳴り響いた。

 

 

 

 


小休止


 

 

 

 

 同日・20時00分・花園

 

 花びらが舞い散り、粉雪のように世界を彩る。

 夜空の星は何処までも深く、手を伸ばせば届きそうなほど原初の天体は輝き続ける。この光景は幻想。魔法使いの少女が眠れば、一輪の花も残らずに元の雪原に戻るだろう。

 

 魔法の時間は終演を迎え、現実に引き戻す。

 彼の過去も、この光景も、数分後には泡沫の夢となる。旧校舎からは荒々しい魔力を感じない。暫くすれば、少年少女らが旧校舎から現れるだろう。有珠は無言で立ったままふたりを待つ。

 

 長身の少年は青子をお姫様抱っこしてやってきた。

 青子は瞼を閉じて、落ち着いた寝息を奏でる。

 それは御伽話の眠り姫を連想させるほど熟睡していた。

 

「終わったよ、有珠」

 

 軽快な足取りで青子を抱えて有珠の前に立つ。

 

「……橙子さんは」

「彼女なら帰ったよ。

 青子の魔術で呪いをかけたから

 この先、十年は三咲町に入れないらしい。

 青子は仁王立ちで彼女を見届けると

 そのまま眠るように倒れたんだ」

 

 有珠は素っ気なく返事をする。

 

「青子は……大丈夫なのか?」

「……彼女の中で精神の誤差が発生しているわ。

 静稀君は過去が戻るだけだけど、

 青子は未来の経験を失くさなくてはいけないの。

 その歯車を合わせるまで目覚めることはないわ」

 

 それでも目覚める確信があるのか、

 有珠は森の方に視線を向けて屋敷に帰る意思表示をする。

 

「橙子さんにどんな呪いをかけたのか

 静稀君は知っているの?」

「いや、……聴いてはいたんだけど、

 よく分からなかった…………

 確か、カエルがどうとか、俺に近づけないとか」

 

 有珠は青子が使用した魔術に心当たりがあり、”そう”と短い返事をする。呪いを解除する最も一般的な方法は呪詛返し、呪いをかけた本人に呪いを送り返す事。しかし、呪いをかけた本人はその呪いを修得していないのだから縁を結ぶことは不可能である。

 

「青子の呪いは強力だけど、

 発動しなければ無害な呪詛だから

 静稀君が気にする必要はないわ。

 ……青子にしては優しい処置だけど」

「でも橙子さんは凄く嫌がっていたぞ

 …………いや、あれは別の事か?」

 

 草十郎が気になる事を言ったので歩みを止める。

 

「……何があったの?」

「青子が呪いをかける前にキスされてな。

 初めてだったからビックリしたよ」

 

 眼を見開き、すぐに眉を顰める。

 有珠は草十郎が抱き上げている青子に近づき、右手の黒手袋を外して、手袋で彼女の唇を拭き取る。ゴシゴシと擦り付けるように拭くとコートのポケットから純白のハンカチを草十郎に渡す。

 

「…………大変だったわね、静稀君。

 これで落としなさい──────」

 

 別に汚くないし、拭くつもりはなかったが、

 問答無用と言わんばかりに睨み付けてくる有珠。彼女の言う通りに軽く、ハンカチで顔を拭くと納得したのか、すぐに布切れを回収する。

 

 明らかに不機嫌な有珠の背中についていく。

 青子を抱いたまま広場から森の中に入る。

 その時、草十郎は足を止めて振り返った。

 

「………………静稀君?」

 

 眼差しの先は懐古の念。

 二度と見ることが出来ない風景を懐かしみながら、哀愁の視線を向ける。戻らない、戻りたいのかも分からない白い花園の海。その横顔は抱きしめたくなるほど、哀しみに満ちた表情だったが有珠は草十郎を窘める。

 

「静稀君は帰りたい────?」

「いや、そうじゃない。けど…………

 何故か、知っている場所に似ている気がして。

 面影もないはずなのにな──────」

「そう……なら、前に進まなくてはね」

 

 有珠はもうないモノに焦がれている草十郎を咎めるように、もう止めなさいと微笑みかける。

 

「…………多分、幻影を追っていたんだ。

 きっと、一度限りの夢の中だった」

 

 草十郎は白い花の面影もなくなった

 雪原から眼を背ける。

 

「早く帰ろうか。有珠」

 

 幸福だった野原への郷愁を切り離し、

 あの屋敷に帰ろうと森の中を進む。

 

 この戦いに意味はなく、何の成果もない。

 

 悪い魔術師はカエルに変わり、童話のような締め括り。

 

 黒の魔女は少年への恋心が芽生え。

 

 魔法使いは労力に見合わない、

 報酬に満足して就眠する。

 

 若い騎士はふたりの少女に引き寄せられ、

 人の心を取り戻す物語。

 

 月光は三人の運命を照らし出し、

 足跡を残し、進み続ける。

 

 誰にも祝福されない、恋物語。

 

 それでも ──────

 

 

 

 

この物語(アイ)は────

 永遠に忘れることはないだろう

 

 

 

 


終幕


 

 

 

 




 ご覧いただき、感謝いたします。
 初投稿の素人なので誤字や不備があると思いますが何卒宜しくお願い致します。

 感想、お気に入り登録、評価は凄くモチベーションが上がるので
 気軽にしていただけると嬉しいです!
 感想はひと言『面白かった』だけでも有頂天です!

 (感想は時間が掛かっても返信するのでよろしくお願いいたします)

 ホモサピエンスストア様、トライデントシルバーホーンカスタム様、トシアキ0414様、ソーシロー様、
 誤字・脱字報告ありがとうございます。大変助かりました。

 (誤字、脱字、誤植など、いっぱいあったので修正作業は大変だったと思います。
 皆様のお陰でとても良くなりました。本当にありがとうございます)

 カヤン様、唄鯨様、
 評価10ありがとうございます。とても嬉しいです。




 『魔法使いの夜』メインストーリーは
 これにて終了でございます。

 なので少しだけ、
 ストーリー解説をさせていただきます。

 今回のルートは『青子・有珠・真エンド』となります。

 あの公園で有珠を助けないと
 『青子・時空旅人エンド』
 橙子さんがナナカマドを飲ませていない場合
 『有珠・霧の洋館に軟禁エンド』
 もし、教会で青子たちを追わない場合は
 『律架・依存エンド』
 今回の橙子に操られたまま、青子と有珠を殺した場合
 『橙子・操り人形エンド』。

 他にもバイト先を教会に変更した場合『唯架エンド』
 更に教会のバイト中に選択肢で
 『律架・唯架・姉妹エンド』
 喫茶店のバイト先に青子が向かわずに
 過激なサービスを続けると
 『全員ハーレムエンド』など、
 他にも様々なエンディングがございます。

 (BADエンドは各々のエンドにつき、
 最低でも十数個存在しますが……)
 
 今回は全てのキャラクターが幸せになる
 TRUEENDとなります。

 (全員ハーレムエンドは歪みが強く、ヤンデレ深度が悪化して人間の姿ではない人物も登場してくるので客観的にハッピーエンドではありません。喩え、どんな姿でも彼女らは幸福ですが……)
 



 今まで読んでいただき、誠にありがとうございます。
 何とか皆様も応援のお陰で区切りのいい所まで書けました。

 何度も失踪も考えましたが………
 皆様の応援のお陰でここまで書くことができました。
 
 皆様のコメントや9や10などの高評価のお陰で
 何とかモチベーションを保つことができました。

 (皆様の誤字脱字修正がなければ完結するこは出来ませんでした。特に毎回、誤字修正をして下さった読者様には頭が上がりません……本当にありがとうございます!)




 まだ14話と15話が残っていますので
 最後まで付き合って下さると僥倖です。

 14話と15話はメインストーリーではないので
 「魔法使いの夜」のメインストーリーは
 これにて終了でございます。

 ただ、後日談とIFストーリーが残っていますので
 もうしばらくこの甘々な世界にお付き合いしてくださると嬉しいです。

 (それも終わったらfate世界のifストーリーを書く予定です。いつになるか分かりませんが………)




 次回の14話の投稿日は
 連続投稿したいので未定でございます。

 (早くて3週間、遅くて1ヶ月ほど、………多分)
 (投稿する3日前くらいに活動報告で告知する予定なので、次回をすぐに気が付きたい読者様はお気に入りユーザー登録して頂くとマイページですぐに確認できるのでオススメです)
 (投稿がもっと遅くなる場合も告知します………)

 重ねて、ご覧いただきありがとうございます!

 また、皆様とご一緒に作品を作り上げることを心待ちにしております!



 
 暫しの間のお別れです!
 またの再会を楽しみにしています!

 本当にありがとうございました!!!!



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。