ヤンデレ達の夜~貢がれるYAMA育ち~   作:春玉サロン

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 (今回のイベントストーリーとても面白いですが、予想外の設定が…………)
 (鳶丸と草十郎の職業は本当にビックリしました)

 (11,768文字)






第3話 認めたくない侵入者

 11月30日・23時20分・三咲町運動公園

 

 いつも最悪なことは夜から始まる。

 

 ”月のない夜は、決して振り向いてはいけないよ──────”

 

 それは青子が生き方を定めるずっと前の頃。

 突然、不安に祖父の工房に逃げ込んだ夜の話。

 気休めにもならない、むしろ絶望的な言葉を残して、家を追い出された。

 

 背中から気配を感じる。何から逃げているのか分からない。しかし、走らずにはいられなかった。もちろん、背中の亡霊は錯覚。後ろからは誰もいなかった。

 

 ただ──────きっかけになったのはあの夜。

 あの時の不安(ぜつぼう)恐怖()が根付いている。

 

 夜に出歩くといつも祖父のこの言葉を思い出す。

 今では二度と顔も合わせたくない祖父だが、この言葉だけは深く刻みこまれている。

 

 夜の公園には青子と彼女(ありす)だけ。

 今日は私にとっての”今の自分”の誕生日。

 初陣にして、今までの自分ではいられなくなる不吉な夜。

 

 分厚い雲は星光を遮り、公園の時計の針は二本とも月を示すように上を向いている。あいにくと月も雲に隠れて暗闇だけが広がる夜だが。冬の大気は狂気を増すように冷え込み、骨の髄まで直接冷まされる感覚は意識が薄れていく、それなのに孤独だけ強く心に残る感覚だった。

 

 この後に待っている戦闘のため、指に吐息をかける。引くことはできない……体が寒気で化石にならないように、青子は鼓動と感情に炎をくべて覚悟を決める。

 

「触覚は譲るわ。……幸運ね。

 あの位置なら刻んでおいた鬼火が灯る」

 

 有珠の言葉に無言で頷く。

 

 足が微かに震える。今日は寒くて良かった、もし夏に足が震えていたら寒さのせいにはできず、余計に力んでしまうと少し心の余裕ができた。

 

 そんな感傷に浸る間もなく、結界の感覚が有珠から私に移ってきた。

 

 この公園一帯は透明な鏡。

 ────―夜に響く、童話詠唱(マザーグース)

 ざわり、と体にめぐる異物の感覚に鳥肌が立つ。

 結界内部に侵入者が入ってきた証拠でもある、気持ち悪さを抑えながら敵に備える。今は正確な情報、敵の決定的な位置を確認する。視覚を総動員して闇に潜む侵入者の姿を捉える。右舷後方、100尺ほどの茂みの奥に四つん這いになりながらこちらに向かっている。

 

「────―そこ!」

 

 体が振り向く。

 敵の腕は槍のように伸びた。高速で放たれた一撃は髪を掠めながら回避する。頬をかすったのだろう「っ────―!」遊んでいる暇はない。一撃で仕留めるため、血液と別の循環(かいろ)を全力でたたき起こす。

 

「────―接続(セット)

 

 熱量として計測不能、不可知の運動エネルギー。

 未だ人の手が及ばぬ神秘。

 ありとあらゆる奇跡の動力となる生命の陽。

 腕が示す方向は意思の代行だ。

 

 私がすることは、予め仕込んだ魔術式に火をくべるだけ。

 

「────―燃えろ!!」

 

 数メートル先では腕を伸ばしたまま燃え続ける敵の姿が見える。夜の公園ということもあってキャンプファイヤーを連想させるが炎の中で蠢く影絵は人影を示し狂気的なシーンではある。冷静に落ち着きながら深呼吸をして、心拍数は平均を幾分かオーバーしていて、呼吸の乱れを落ち着かせる。気がつけば消し炭はもう目の前。

 

「…………?」

 

 近づいても、残骸からは生命の香りはせず、青子が燃やしたのはマネキンであった。

 

「ちくしょー、またやられた!」

 

 叫びながらマネキンを蹴っ飛ばす。

 

「はあ……いつになったら一人前にって……あれ?」

 

 その時、ふと違和感に気がついた。木からカサカサと小さく聞こえた。けれど、今は有珠の結界内部。音を遮断する効果もあるため、そよ風だろうと感知する。

 

「──― 誰ッ!?」

 

 自分で言うのもあれだけど、失敗だった。

 木の上から人が飛び降りてきて、そのまま物凄い勢いで走り出したのだ。背中から見慣れた学生カバンが見えたので三咲高等学校の生徒ということは分かる。

 

 けれど、走る速度があまりにも速い。深夜で視界も悪いこともあって逃げ出した姿を明確に確認することはできなかった。

 

「追いかけて! 見られた!」

 

 急いで相棒に言うけど、彼女は第三者にも気がついていなかった。自分も動こうとするが情けないことに今の戦闘で足がすくんで前に進まない。

 

「だめ、逃げられる! 

 捕まえて始末しないと……!」

 

 この現場を見られることは私たちにとって生死にかかわる問題────―! 

 

「待て、この……!」

 

 足の痺れを振り切って公園の外に出る。

 ……なんて見事な逃げ足だろう。一部始終を目撃していた何者かは、跡形もなく住宅地の闇に消えていた。

 

「ああもう、結界にあいつの感触なんてなかったのに……!」

 

 などと、文句を言ってみても学生の人影が戻ってくるはずもない。自分の情けなさを恨めしく思いながら、私は追跡を諦めた。公園の結界は有珠の”森”になっているから人物の特定、声すらあやふやになる。一連の出来事は見られたが、私や彼女の顔は知られてないはず────―

 

「あの背中……」

 

 公園に戻る。学生カバンから間違いなくうちの高校の生徒だろう。手がかかりとしては十分だ。うちの生徒なら洗い出すのは簡単であるのだが……

 

 逃げる背中から長身の男だろう。しかしその後ろ姿からは長いポニーテールが見えたように感じた。いや……夜も更けた時間帯、見間違いの可能性も低くない。

 

 自分にそう言い聞かせながら不安を胸にしまい込み有珠の元へ帰る。先ほどの目撃者の口封じは確定事項だ。最優先で、迅速に、容赦なく始末をつけなくてはいけない。

 

 顔を上げると、離れていた有珠の姿が見えた。

 魔術師としてのあり方を目撃され、ピンチなのは彼女も同じなのだ。

 

「…………これは困ったことになったわね」

 

 抑揚のない声から冷静に無反応に発言する。一度、久遠寺邸に戻って、作戦会議をしなくていけない。二人は屋敷に帰るのであった。

 

 

 


小休止


 

 

 

 12月1日・18時00分・久遠寺邸

 

 色気のないコートを脱ぎハンガーにかけ、青子はソファーに腰を下ろした。正面にはテーブルを挟んだ有珠が座っている。

 

「どう」

「そっちは?」

「良くないわね。偵察に行けるのは七個が限界だし。ここのところ作り置きをする余裕もなかったし──── あの夜、街を監視していたヤツはいないの? 街の偵察は完璧なんでしょ、そいつら」

「それは昼間の話よ。夜間飛行は危険が多いわ。……そういうあなたは? 朝はずいぶんと強気だったけど?」

「ん? ……まあ予定通りよ。

 明日までには絞り込めると思う、今朝鳶丸にうちの生徒の自宅と行動範囲を調べさせたから。あの時間に公園をうろつく奴は滅多にいないし、簡単に割り出せるはず……」

 

「そう、それにしては何だか不安そうだけど」

「────生徒会には月一のバイト先から親しい友人宅の移動時間、優先順位まで調べ上げているんだから。……私が心配したのはその生徒が死んだら鳶丸から疑われる可能性を考えてるだけよ。そっちはそっちで対策を立てないといけないわね」

「……そう。徹底しているわね、相変わらず」

 

 やや呆れ気味に漏らす有珠。

 青子が心配していたことは別にあるのだが、杞憂で終わることを祈りつつソファーに沈む。

 

「ま、私もアレがこんな風に役立つとは思ってもみなかったけど、ほんと、備えあれば憂いなしとはこの事ね。それよりも原因は分かったの? 結界の結びに不手際があったなんてのは聞かないわよ」

 

 凛とした視線を有珠に突き刺す。

 結界の仕上げは有珠の役割だ。昨夜のトラブルの原因を究明せずに目撃者を始末しては第二、第三の目撃者が生まれてしまう。ここは責任の所在を明らかにせず進むことはできなかった。

 

 同居人であり、相棒でもある有珠だが、それはあくまでも利害関係が一致しているからである。二人の関係は、本質的には味方ではなく敵に近い。最終的には蒼崎青子と久遠寺有珠は殺し合う関係にある。

 

 失点があれば叩き、隙があらば追撃を。機会があればすぐにでも殺すだろう。青子の視線は大の男でもたじろぐ程強く睨む。しかし、有珠の表情は微塵も変わらない。

 

「……仮の話だけど、あの結界に落ち度があったのなら、今まで何度もこういう状況になっていたでしょうね」

 

 分かりきっていた返答に「でしょうね」と青子は頷く。立場上、糾弾したが青子にとって師匠でもある有珠のことは信頼している。

 

「…………有珠の結界。その場所に用があっても、今は無いように思わせれば誰もそこには立ち入らない。隠したい場所の周りに一時的な意識の改竄を促して結界を張り一種の異世界空間にする。……手間はかかるけど一時間程度の人除けとしては信憑性の高い結界よね」

 

 一度、息を吐き厭味たらしく続ける。

 

「有珠の鏡を使った一級品だし、途中で破れることもない。事実、入ってきたのはあの人形だけだとはっきり感じられた。これで完璧じゃなかったら何が完璧なのよ、有珠?」

 

「…………わたしも分からない。今まで通り信頼できる結界のはずよ。けど例外があったなら見落としがあったのね」

 

「そう、ならもう……たんに運が無かったってことね」

 

 ばふ、とソファーに凭れる青子。

 

「青子、覚悟を決めておいて」

 

 超然とした師匠としての有珠。

 天井を見上げる青子の瞳に変化はない、焦りや不安よりも実感のなさにぼんやりと天井の木目を眺めている。

 

「貴方にできないなら、私が行ってあげてもいいけど」

 

 冷徹な彼女は、真実、冷酷な意味をもっている。

 それはゆっくり、自分に許される精一杯の誠意で飲み込む。万が一、目撃者が彼でも曲げることはできない。蒼崎青子として生きると誓ったその日から。

 

「…………そうだ。覚悟なんて、もう決めたでしょう」

 

 自分に言い聞かせるが、それも誤魔化しだ。

 やることは同じでも、その対象の立場違う。前回の覚悟は真剣勝負、こちらが引けば死ぬのは自分。戦いを挑まれたのならこれに応える。

 

 むこうも人でなし殺人鬼。殺し合いでしか決着がつかないのだ。少しの感傷が致命傷になる。そう思い敵を魔術でも燃やし尽くした。前回はマネキンだったが生身の人間でも躊躇いなく魔術を行使しただろう。善悪の天秤の話ではない、殺し殺される等価の秤の上で行われる儀式。

 

 けれど今回の相手は違う。

 相手は敵でもなければ、魔術師でもない。こっちは殺す気なのに相手に殺意はないのだろう。これは善悪の天秤の話。無関係の殺戮を、果たして自分は負えるのか。――― もし彼だったらどうする………魔術師と生きる前の自分を思い出させてくれた彼を…………

 

 だが、この問答に意味はないのだろう、殺す以外の選択肢はない。魔術師として生きると決めてから人間としての幸せを捨てる覚悟はしていた。例え約束を反故したとしてだ。けれど、心に確信のないまま、分からないまま行動することは、青子の性分(プライド)が許さない。これは覚悟の話ではなく、蒼崎青子としての根幹の話だ。

 

「うん、やるしかないだろうね」

 

 さばさばした一言とともに、ソファーから背を離し立ち上がる。いい加減天井とにらめっこをするものも飽きてきた。有珠はあえて言及はしなかった。「じゃあ、これ」ご褒美、ばかりに有珠は小瓶を取り出した。不吉なものを感じて、胡散臭そうに小瓶を睨む。

 

 有珠曰く、中国の小説に出てくる名前を呼んで、返事をすると閉じ込める瓢箪の小瓶バージョン。ただし、相手に抵抗する意思や中で暴れると小瓶は割れるからと注意をもらったが……待て、なら昏睡状態の相手にしか使えないってことじゃない。ゴミとしか思えないがポケットに小瓶をしまい、会議は終えて夕飯の準備をするのであった。

 

 今晩の夕飯は土鍋の中に様々な食材が出し汁に浸かっている通称『おでん』。

 有珠はフォークで具材を取り出そうとするのだが、ああもう、卵がぐちゃぐちゃになってる! 青子は箸で応戦しながら鍋の秩序を守るために奮闘する。

 

「────―決めた、有珠。

 やっぱり、騙し討ちは気にくわない。

 やるにしても隠れるのはなし。正面から堂々と向き合って理由を言う。

 それならすっぱり後腐れもないし、文句ある?」

「…………迷いのがないのはいいことだけど、……悪い癖ね、青子。

 文句はないわ。この際好き嫌いは関係ないでしょうし、けど失敗は許されないわよ」

「確実性でしょ? それならアイディアはあるから安心して、有珠」

 

 彼女なりの案があるのだろう。報告も終えておでんを食べるのを再開する。青子が先に食べ終えると「先にお湯使うね」と洗面所へ向かうのであった。

 

「……………………」

 

 黒衣の少女は考える。役立たずのコマドリの提言に耳を傾ける。青子がやると言ったのだから、任せるのが正しい信頼関係なのだが、黒衣の少女の腕が上がる。

 

 

「…………嫌な話だけど、信頼と信用は、また違う話よね」

 

 

 


閑話休題


 

 

 

 12月2日・17時00分・三咲高等学校

 

 翌日。空は相変わらずの雨模様。

 狭い生徒会室でパイプ椅子に座りながら副会長を待つ青子。待ち時間はまだ数分しか経過していない。けれど、内容が内容だ。一秒でも早く結果を知りたい青子は貧乏ゆすりをしながら待っていると――――

 

「──── 蒼崎はいるか」

「遅い! 鳶丸。大至急って言ったでしょ! 

 早くその封筒を寄こしなさいよ!」

「酷ェなあ、これでも急いでもってきたんだぜ。

 それが骨を折ってまとめた副会長に対する態度かね」

 

 雑談を挟みつつ、生徒会室に入ってくる鳶丸。

 生徒会室のパイプ椅子を動かして蒼崎の正面に座り、その手には青い封筒を抱えている。その封筒には『通学路安全案内調査』と書かれている。

 

「それで調べ終わったの?」

「ああ、さっき最後の聴取を済ませてきた。

 詳しいことはその封筒の中にある。お前から渡された例のファイルもその中だ」

 

 ぱさり、と机に置かれるA5サイズの封筒。

 蒼崎は封筒を手に取り「そう」と一言、封筒の中を開き中の資料を確認するのであった。

 

「………………なあ」

「なに?」

「ひとつ、聞きたいんだけどよ」

「だから、なに?」

「蒼崎、そういうの作って楽しい?」

「楽しいわけないでしょ。こんなの、作ったところであんまり役にたたないだろうから」

「そうか。ならいい」

 

 鳶丸も本当はそんなことが聞きたかったわけではない。なぜ、この年度替わりの月にそんなことをするのか聞きたかったが普段より一段と冷えた態度に聞くことができなかった。

 

「最後まで読めば分かるだろうが、あんまり確証は取れなかったぜ。というより、一昨日あの辺りにいた生徒はいないって話になりそうだ。ま、断定はできないけどな」

「──────― 、そう……」

 

 鳶丸はつれない態度でドアへ向かう。

 青子は内心ほっとしていた。一昨日の目撃者が草十郎ではない。この学校の生徒と予想したのは学生カバンだけで確証はなかった。逃亡する背中はポニーテールに目がいってたがYシャツだったはず。

 

 このファイルの中に無いなら他の学校の生徒だろう。三咲高校の生徒会長権限を振りかざすことはできないし、調査が難航するだろうが心の底では一安心していた。

 

 青子は一度、気を引き締めるために給湯器から空になっている急須にお湯を注ごうと立ち上がろうとした時、

 

「────― っと、そうだ。

 そういえば一人だけ該当しなかった奴がいる。

 季節外れの転入生までは、調べることはできなかった」

「──― 、は?」

 

 同時に、青子は抱えていた書類を落とした。

 

「…………そんな、まさかね」

 

 考えすぎだ、と自分に対して軽口を言ってみる。

 先ほどの安堵が反転し、急速に不安が広がってくる。こういう時の自分の直感は大抵合っている。特に悪い方の予感は外したことはないを、蒼崎青子は知っていた。

 

「──── 馬鹿らしい」

 

 兎も角、ここで悩んでも始まらない。

 仮に鳶丸が目撃者だった場合、青子は躊躇いなく殺せるだろう。けれど、それが彼だったら? まだあって間もないが青子の中では言葉では表せない位置にいた。

 

 昨日にも決めたことだ。『もしも』そうであっても殺すと誓ったはずだ。けれど、目撃者のピースが集まっていくうちに心が揺さぶられていく。二年前に祖父の言葉を思い出す。

 

 ”選択の話をしよう。おまえは常に二者択一を迫られる。”

 

 ”善良な愚者と醜悪な賢者。すべてを救う手段はない。どちらかを選ぶこと。それだけが、おまえに許された自由となる”

 

 姉に代わって跡継ぎになった日に祖父から贈られた言葉を呟く。

 本当。そんな台詞、口にしなければよかったのにと。

 

 青子は戸締まりを済ませ、生徒会室を後にした。

 すれ違う同級生や教諭に挨拶をしながら昇降口に向かう。表面は取り繕ってはいるが心の中では焦燥感だけが広がる。魔法使いになると決めてからここまで冷え切ったことはなかった。

 

 革靴に履き替え、下校の準備をする。けれど、校門はいつもよりも騒がしい。原因は校門前で立ち往生している男子生徒たちだ。寄り添って密談をしながら、校門の支柱の陰に隠れて表通りに立っている一人の少女について、ざわざわと論じている。

 

 少女は黒いファートック帽を被り同色のケープに身を包んでいた。

 一見すると普段着だが、三咲町の人間なら、ケープ下の服がとある名門女子校の制服であることを知っている。もっとも三咲高校とは縁もゆかりもない、距離的にも精神的にも遠く離れた存在である。

 

 彼女たちの大半は寮生活を強いられている。両親から学院への援助、学院関係者など理由がなくては外からの通学を認められていない。お嬢様学校と名は響いているが、実際にはそうお目にかかれない『礼園女学院』の制服だ。

 

 それだけでも狼どもが寄ってくるのだが、くわえて、その少女は可憐すぎた。セミロングの髪は黒く艶やかな光沢を放ち、その立ち姿は華奢な絵画を思わせる。

 

「…………まったく、うちの馬鹿どもは、家に帰りもせずに陰でこそこそとやっているとは」

 

 呆れながら、青子は男子生徒たちの横を通りすぎ、道端に立ち続ける少女へと向かう。

 背中では男子生徒たちが「ヤバい! 蒼崎女史の鉄拳制裁か!」「今すぐあの子を保護せねば!」「……立ってるだけなんだ、見逃してあげてよ……」と人のことをなんだと思ってるんだか。青子は少女の前まで歩き、片手を挙げた。

 

「どうしたの有珠? こんなところに来たの? 何も面白い事はないわよ」

「あのことを確かめに。──── 青子。

 あの人たち、邪魔なんだけど」

「分かってる、いま追っ払うから」

 

「「「ちょ、ありえね──────ー!!!?」」」

 

 …………そんなに有珠と知り合いだったことが驚いたのか耳障りな大声で叫びが聞こえる。

 一度、男子生徒の方を振り返り話しかける。一か所に集まる馬鹿どもの中に「生徒会長が用意してくれた俺の未来の嫁か?」など阿呆の極みが混ざっているが無視。一言、小言を送ったら女々しい捨て台詞を残し、負け犬のようにハラハラと散っていく男子生徒たち。

 

「楽しそうね、青子」

「あ、わかる?」

 

 有珠の一言に、つい即答する青子。

 事実、三咲高校の生徒との会話は嫌みのない人間が多いので彼らとのやり取りは愉快ではあるのだ。

 

「────― で。

 ここまで出向くって事は、何か分かったの?」

「結界に残っていた気配の識別。あとはここで確かめればいいんだけよ」

「…………そう。有珠はいつからここに?」

「下校時間から」

 

 有珠がここで見張って一時間ってところか。これは本当に覚悟をしなくてはいけないな────

 草十郎が先に下校しているのを願いつつ有珠と一緒に付き合うのであった。有珠が残っているのは、いまだに目撃者を発見できていないからだ。

 

 鳶丸に調べさせた結果について、青子は結果だけを有珠に告げた。無言の監視はあてもなく続く。校門に来た生徒たちは、生徒会長と『礼園女学院』の生徒の組み合わせに驚きつつ下校して行った。

 

「ね、有珠。帰り、黎明(レイメイ)に寄って行かない?」

 

 ちらり、と有珠の顔を覗き込む。

 黎明(レイメイ)は青子お気に入りの喫茶店であり、最近はレリケットに浮気してたのでご無沙汰である。下校する生徒も減り、このまま草十郎に合わず帰る提案する。

 

「……………………」

 

 状況を理解していない青子への非難か、それともわりと同意なのか、有珠は微かに視線を動かした。その視線の先には────

 白いレンチコート姿に長い黒髪を束ねたポニーテール姿の男子生徒が校門からやってきた。

 

「──── そ。やっぱ、そうなるワケか」

 

 星の巡りが悪かったのだろう。有珠の表情から全てを察し、青子の悪い予感は的中した。

 有珠に背を向けて、青子は覚悟を決めてやってきた生徒を見据える。

 

「あれ、青子。待ち合わせか?」

「…………ま、そんなとこよ。草十郎」

 

 こちらの気苦労も知らずに微笑みかける草十郎。

 有珠と目撃者を共有したことで草十郎の死刑は確定した。青子にできることはこの場を平然と終わらせて、殺す準備することだけだ。自然と、口調が澱み胸の靄が広がっていく。

 

「これから、水泳部の部長と社木の温水プールで待ち合わせなんだけど、青子が紹介してくれただろう。だから、そのお礼が言っておきたくてな」

「…………部活の件なら気にしなくていいわよ。草十郎が忙しいのは知ってるし、この時期の水泳部なら大会もないしあなたでも幽霊部員にならずに……」

「ああ、水泳部ならクビになった」

「な、なんでよ────!?」

 

 青子の鋭い視線と張りつめた空気は予想外の返答にどこか気まずいものに変わる。

 

「あ、あんた? 何をやらかしたのよ?」

「そりゃあ、プールで水泳は初めてだったからな。

 競技として決まった泳ぎ方があるとは知らなかった。

 それでも自由に泳いでいいと言われたから自由に泳いだんだが…………

 他の水泳部員が溺れてしまってな。ちょっとした事件現場になった」

「はあああ? どんな泳ぎ方したらそうなるのよ!?」

「ん? 普通に両腕を回しただけだぞ」

 

 後日、水泳部の生徒に事情を聞いたら草十郎の泳ぎ方はバタフライに似た泳ぎを披露したのだが、草十郎のバタフライは水をこれでもかと掴むように振り回し、両端のレーンまで水が暴れ狂い、プールの中は洗濯機状態。両隣でタイムを計っていた男子生徒と女子生徒の一名ずつ溺れてしまったのだ。その後、草十郎の人工呼吸で蘇生するのだが、そこまでは青子が知ることはない。

 

「水泳部には迷惑をかけてしまった。けど、部長が親身になってくれてな。

 これから一般的なプールでの泳ぎ方を教えてくれる事になったんだよ」

「…………なんか色々言いたいことあるけど、私の落ち度よね。

 今度、水泳部の部長に埋め合わせ…………っと、ちょっと待った。

 あんた? これから温水プールに行くって言った?」

「ああ、今日はバイトがないから都合がいいからな」

 

「……静希くん。水泳部の部長は【女子】って分かってるかな?」

 

 眉間をぴくぴくと引きつかせながら青子は草十郎に笑顔で質問する。

 この馬鹿、わたしがこんなにも悩んでいる間に水泳部の部長と水泳デートする気なの? 

 

「青子……俺をバカにしているのか? 

 いくら山育ちとはいえ、男女の区別くらいつくぞ」

 

 絶対に相手の気持ちに気づいてないわよ。こいつ。

 どうしよう、私もついていこうかしら。いや、何を考えているの。さっきまでに緊迫した空気はどこへ行ったのやら。一度、深呼吸をし冷静さを保つ青子。

 

「──― そ、気をつけなさいよ。

 私も用事は済んだから、アンタも行きなさい」

「そうか、とにかくありがとう。じゃあ、また明日」

 

 手を振りながら別れの挨拶をする。その背中を見たら一つ聞きたいことができた。

 

「待って、こんな話があるの。聞いてから行って」

 

 本来、これ以上の会話は毒でしかない。

 けれど、青子には止められなかった。温和になりかけていた自分を戒めるため、冷たい心を取り戻すために。

 

「うん?」

「意味のない喩え話よ。

 ……そうね。貴方は空腹で死にそうな時、目の前には同じように空腹で死にそうな二匹の動物がいるとするわ。草十郎には銃をあげる。それでどちらかの動物を撃って。右はライオン、左は子猫。選ぶのは貴方の自由だから」

 

 どことなく童話めいた質問。

 残酷さ教訓とおしつけがましいところがとくに。

 

「いや、撃たないと思うよ。だって、自分の好きにしていいんだろう? それならほら、空腹ならお互い様だ」

 

 迷いのない即答に嫌になる。

 草十郎が子猫で敵対する魔術師がライオン、銃を握るのは青子なのか。ライオンにはハイリスクハイリターンだが罪悪感はない。けれど、子猫はリターンしかないが罪悪感だけが残る。どちらを選んでも失うものがある。

 

 だが草十郎の答えを聞き、獣である自分こそライオンなのかもしれないと思ってしまった。覚悟を決めるはずの問答は余計に心の傷を悪化させるものだった。

 

 そして、静希草十郎はてくてくと坂道を下りていく。 

 残されたのは青子と、今まで背景と化していた有珠だけだった。

 

「つくづく…………ペースを乱してくれるわね」

 

 ぐっと握りこんだ右手は血の巡りを止めるほど強く色が抜け落ちる。

 どこでもいいから、力を込めてないと叫びかねなかった。

 

「青子」

 

 後ろから有珠の声が聞こえる。彼女の発言はちょっと前から分かっている。草十郎を見る彼女の変化を見落とすほどなまっちゃいない。

 

「言わなくていい。あいつでしょ、目撃者は」

「────────」

 

 草十郎はただの知り合いで殺すのだってわけない相手。

 もっと付き合いの長い鳶丸だって殺すのにこんな葛藤しない。けれど、このもやもやは何か言葉にすることはできなかった────

 

「…………信じられない、私がこんな……これは違う。

 ────― こんなの、私じゃない」

 

 後ろにいる有珠を気にもせず、自分を否定していた。有珠に聞かれたくない台詞を聞かれてないか気にしたのだが

 

「彼、首に包帯していたわね」

「────― は?」

「水泳部のクビと首にかけていた?」

 

 唐突な話題についていけない。有珠のつぼは理解不能だが意味のない会話のおかけでいつもの冷静さを取り戻した。帰り道の坂を上り久遠寺邸に帰る二人。

 

「……いいけど、いつ、どこで彼を殺すの?」

 

 …………公衆の面前で話すには物騒な話。

 誰もいない坂とはいえ誰が聞き耳を立てているか分からないので本来、青子が窘めるのだが彼女にそれほどの余裕はない。

 

「…………今夜。場所は特別な場所じゃないとね。夢の国で終わらすわ」

 

 

 有珠への返答は決意を固めるため、けれど、彼女の心の曇りは晴れることはなかった。

 

 


場面転換


 

 

 同日・同刻・喫茶店『黎明(レイメイ)

 

 店内はコーヒー豆の香りが広がり、ジャズの音が心地よい空間を提供する。

 緑色のボディーラインが浮き出る服を着た女性は眼鏡を半分外すようにカウンター席に座る。

 

 顎を手で支え足を組みながら外の様子を伺うように眺めている。そこから見える光景はタイムセールの特売品の一個50円の卵を求める奥様方、期末試験準備期間のために大勢の学生が商店街を通り帰宅し、商店街で買い食いする高校生たちも見える。

 

 けれど、彼女の目当ての人物はまだ見当たらない。

 使い魔を使役して散策してもいいのだが余計なリスクは回避したい。それに帰省して久しぶりのここの喫茶店を楽しみたかったことも非効率な散策手段を選んだ原因である。

 

 二杯目のコーヒーも飲み干し、三杯目のコーヒーを検討したときポニーテールが特徴的な男子生徒を発見した。

 身長は190㎝はあるだろうか、あの時(雀荘)は脱兎のごとく横を通り抜けたから、よく確認はできなかった。けれど、彼が昨日の人物だと確信する。

 

 昨日は人形が破壊されて殺気立っていた。少し殺気を漏らしながら入店してしまったが一般人には気が付けない程度の漏れ。身体能力もだが野生動物並みの警戒心を持つ彼に興味が沸いた。

 

 土桔(じいさん)は喫茶店『レリケット』に行けば会えると言われた。けれど、明日はバイトがないと聞き、待ちや受けはたちじゃなかった。だから三咲高校の生徒が下校でよく通る商店街の喫茶店で待たせてもらった。『レリケット』で見張る事も考えたが下見に行ったら路地裏だった為、監視するには不向きな場所だった。

 

 再度、彼を観察する。

 長い髪を後ろで結び、ポニーテールをなびかせながら隣にいる女子生徒をエスコートする彼の歩き方からは何か拳法をかじったことがある人間特有の軸を感じる。眼鏡を外しより観察に注力する。

 

 白いコートで隠れてはいるが服の盛り上がりからは筋肉質であることが分かる。その筋肉も筋トレで鍛えたものではなく、実戦で獲得した筋肉だろう。でなければ昨日の私が見落とすほどの動きができるはずがない。

 

 より観察するため席をはずそうとするが草十郎は後ろを振り返り、きょろきょろと周りを観察し始める。今回、殺気立ってなかったが良いセンサーを持っている。今日の所はここまでかと諦めをつけ、眼鏡をかけ直す。三杯目のコーヒーを注文し、外から見えない奥の席に座る。

 

 総評すると、静希草十郎は何か武術をかじっていると判る。そしてあのエスコートの仕方、要人警護のSPのような振る舞い、なのに常識が欠如している山育ち。これだけピースが揃えば面白くない想像はつくがそれは彼の背景であって彼の評価ではない。それに────

 

「──── 草十郎くん、か。

 可愛い顔していたわね。そうね、首輪とか似合いそう」

 

 草十郎は厄介な冠位(グランド)の魔術師に目をつけられるのだが

 

 

 それに気が付くのはもう少し先のお話。

 

 

 一方、蒼崎青子は

 

 草十郎抹殺計画のため、大掛かりな仕掛けを準備をするのだった。

 

 

 




 ご覧いただき、感謝いたします。
 初投稿の素人なので誤字や不備があると思いますが何卒宜しくお願い致します。

 感想、お気に入り登録、評価は凄くモチベーションが上がるので
 気軽にしていただけると嬉しいです!
 感想はひと言『面白かった』だけでも有頂天です!

 (感想は時間が掛かっても返信するのでよろしくお願いいたします)

 白河上皇様、ソーシロー様、トシアキ0414様、ヤトラス様、捌咫烏(2代目)様、チキチキ様、よっちゃんイカ様。
 誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。

 (誤字、脱字、誤植など、いっぱいあったので修正作業は大変だったと思います。
 皆様のお陰でとても良くなりました。本当にありがとうございます)

 (今回から誤字脱字チェックのサイトを利用したので、
 今までより誤字脱字が減ったと思います。
 けれど、今後も誤字脱字はあると思いますので
 今後ともよろしくお願いいたします)


 (水泳部の部長デートは原作にもありますが
 二週間程度でナンパもせずにデートって……それこそチート能力なのでは…)

 (前回は文章を8000文字以内にしたら、描写が雑になってしまいスミマセン……
 おにぎりの所とか説明が雑過ぎて恥ずかしい…)


 次回投稿は4月29日(月)の18時40分に投稿しますので
 宜しくお願い致します。

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