クソボケな元先生は今日も行く   作:富竹14号

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 呪術廻戦の三期が決まりましたなぁ…楽しみだなぁ。


混沌

 

 

 

 澄み渡るような青空が特徴的な、とても良く晴れた日だった。

 

 絶好の青空日和、光の消えた瞳で見つめられたあの後からようやくと言ったように立ち直った三人に連れられ…いや、正確に言うなら半ば引きずられながら俺は外へとその一歩を踏み出した。

 

 予想通りと言うべきか何と言うべきか、やはり外は青空満天の晴天だった…憎たらしいくらいに輝く太陽を眩しく思ったのはきっと俺だけではないのだろう。

 

 外の喧騒はある程度に収まっていた、鳴り響き続けていた銃撃音は一定の落ち着きを見せ、暴れ散らしていたスケバンやヘルメット団の姿も少ない。

 

 シャーレの先生がどうにかしたのだろうな…なんてことを頭の片隅で考える、あれほどの喧騒をここまで落ち着かせたというのであれば寧ろそれ以外は考えられないだろうとも。

 

 ワイヤワイヤと騒ぐヒヨリとそれを面倒臭そうに止めるミサキ、ニコニコとした笑みを常時浮かべているアツコとそれら全員に自然な形で囲み込まれている俺…お偉いさんかな? なんて疑問が頭の中で過ぎらせながら、俺達は目当ての銃火店を目指していた。

 

 アツコ曰く、俺専用の武器がそこに置いてあるらしい…武器ならシャベルとか適当に拾ったもので良いから金は別のことに使った方が良いんじゃないかと言ったら…濁った目でアツコが口を開いた。

 

 

───駄目だよ…ね?

 

 

 有無を言わせないような迫力がそこにはあった…決して否とは言わせない、言ったら殺すとでも言わんばかりの迫力、何がお前にそこまでさせるのかと言いたくなるレベルの迫力に俺は発言を取り消すことしか出来なかった。

 

 これも悪いものではないんだけだどなぁ…と、肩にぶら下げたシャベルと拾ったライフルに目をやる…適当に拾ったものではあるが、キチンと手入れの行き届いたこの二つの武器はまず間違いなく良質の括りに入るような武器であった。

 

 それでも駄目と言われてしまえばもうどうにもならない、何せ向こう側に此方の話を聞く気が無いのだ、それでは説得のしようがないのも当然のこと。

 

 そもそも専用の武器とは何なのか…俺が先生やっていた頃に使っていたのは貰った拳銃を俺なりに改造していった物と、ウタハが遊びで作った半ば自爆機能染みた火力を持ったガンブレードモドキである。

 

 アツコにそれとなく聞いてみたら見れば分かるとしか言わないので何とも言えないが…呼び方はまだしも、ここでの記憶? が無い俺にはそれが何なのかがまるで分からないのが不安の種でしかなかった。

 

 鬼が出るか、蛇が出るか…何方にしろ、何処となく色物とかロマン武装な気配がするのを感じながら憂鬱だなぁっと空を見上げた…そんな時だった。

 

 

 俺は攫われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは…あまりに唐突な出来事だった。

 

 ワイヤワイヤと騒ぐヒヨリ、あれが欲しいあれを食べたいと目を煌めかせながら騒ぐヒヨリに後で食べに行こうなと鏡が窘めていた…そんな時だった。

 

 ふと、背後から猛烈なエンジン音が聞こえてきた。

 

 力強くそして快活なエンジン音、明らかに改造が施されているであろう独特な音に鏡と他三人は思わず音の方向へと振り返った…その瞬間だった。

 

 強烈なスキール音と共に車体が姿を現す、黒塗りのオープンカーとでも言うべきなのだろうか、黒い髪を揺らした少女の手によって操られたその車両が高速のドリフト走行をしながら真っ直ぐと鏡達の側へと突っ込んでくる。

 

 速い、あまりに速い、ニトロでも積んでいるのかと言わんばかりの加速を行いながらギュンギュンと鏡達との距離を詰める車両、これには全員揃って危ないと道の脇へと身体を動かした…その時だった。

 

 車両は…あからさまにその車体を横へと…鏡達の方へと移動させた。

 

「───ん?」

 

 困惑の声が漏れる、良く良く見てみたら乗っているのは少女だけではなかったのだ。

 

 マネキンの頭を二つがくっつけたような頭をしたタキシードの男…首から上が無く、黒い煙を噴き出しながら何やら板のようなものを掲げているような男…それらが何かをせっせと準備しながら猛スピードで此方側へと向かって来ている姿を鏡は認識した。

 

 嫌な予感がする…そう直感が囁くが時既に遅し。

 

 漆黒のオープンカーが鏡達の真横を通過する…その瞬間、何かがビヨンっと伸び、鏡の身体を絡め取った。

 

 

「───…おっと?」

 

 意識は一瞬、伸びた何かがとてつもない速さで自身へと絡みついた…そう認識した瞬間、鏡の身体は猛スピードで走り去ろうとしているオープンカーに引かれて宙を浮き…そのままスピードの波へと攫われていく。

 

 あっ、これヤバい…そう認識した時点で全てが遅すぎた……来栖鏡の意識が、速度に押し潰される。

 

 ギュンと加速する自身の身体、車に引っ張れるという特性上僅かながらの猶予はあったが…それに反応出来る人間はこの場にはいなかった。

 

 時間にして何秒であろうか、一秒か二秒か、五秒か七秒か…何方にしろ、決して長い時間ではなかったのは確かだった。

 

 引っ張れた肉体は宙を浮き、何かに引き摺られるような感覚と共に鏡の肉体は長大に思える数秒を体験しながら叩きつけられるようにオープンカーの車体へとその身を不時着させる。

 

 不思議と硬い感触は無かった、ぼふんっと言う柔らかい感触と音にその身を包まれた鏡は混乱に包まれながら何とか起き上がる、柔らかい感触故に掴む場所もない不定形四苦八苦しながらもワチャワチャと起き上がる鏡の姿は傍目から見たら遊んでいるようにも思えた。

 

 

「───クックックッ…お久しいですねぇ、()()?」

 

 そんな時だっただろう、その声が響いたのは。

 

 何とか起き上がった鏡、突如としてやってきた猛スピード下での誘拐と衝撃の混乱に包まれながら周囲の状況を理解しようとした…そんな中で掛けられたその言葉に鏡の意識が更なる混乱に包まれる。

 

 鈴の音を鳴らしたような声だった、ハキハキとした高い少女特有の声だった…どうしようもないくらい、聞き覚えのある声だった。

 

 視線を運転席へと向けた、周囲の状況も周りにいるであろうもう二人の存在も後回しにして向けられたその視線の先では…黒い髪を長く伸ばした少女の姿があった。

 

 見覚えのある髪型だった…到着部に経った一本の大きなアホ毛にゆらゆらと揺れる長い黒髪、色さえ除けばその髪型はある少女のソレと全く同じものだった。

 

 少女がポチリっと何かのボタンを押す…恐らく自動運転機能でも搭載していたのだろう、ハンドルから手を離した状態でも車のハンドルは動き続けていた。

 

 

「クックックッ…荒々しい招待、申し訳なく思います…しかし、こうでもしなければ先生との接触は叶わないという結論に辿り着きまして、少々手荒に事を進めさせて頂きました」

 

 話しながら少女が振り向く…見覚えのある顔立ちだった。

 

「ホシ…ノ…?」

 

 その顔立ちは鏡の知るある生徒と…小鳥遊ホシノと全く同じものだった。

 

 垂れた目元に下がった眉、若干赤らんだ頬に緩んだ口元…全体的に脱力しているような気配を感じさせる顔立ちに特徴的な八重歯…全ての全てが小鳥遊ホシノという少女を連想させる。

 

 強いて違いを上げるとすればその瞳であろうか…本来の小鳥遊ホシノの瞳は右目が黄と左目が青のオッドアイであるのだが…此方の少女の瞳は右目が赤と左目が蒼の色合いで構成されていた。

 

 純然たる違いではあるが、逆を言えばそれ以外の部分は全てが小鳥遊ホシノと全くの同一であるということでもある。

 

 混乱が混乱を生む…何故ここにという感情と何故に髪色と眼の色が違うのかという疑問……ではない。

 

 

「……黒服……か…?」

 

 呟いた言葉が答えだった。

 

 なんとなくだった…本当になんとなくだったのだ、喋り方が似てるからだとか雰囲気が似てからだとか…そんな理由じゃない。

 

 なんとなくで分かった…小鳥遊ホシノではなく小鳥遊ホシノに限りなく近い誰かなのだと、そしてその中身に居るのが妙に縁のあるあの男なのであると、来栖鏡は何となくでそう判断した。

 

 鏡から放たれた呟き程度の言葉に少女は目を見開き、次第にクツクツと笑いながらその顔に貼り付けるように笑みを浮かべてみせた。

 

 

「クックックッ…いやはや、騙すつもりも隠すつもりも毛頭無かったとはいえ、こうもあっさりと見破りますか…流石は先生とでも言いましょうか?」

 

 吐き出されたのは肯定の言葉、前髪を少し掻き上げながら面白いものを見るような目で鏡を見つめる少女の…かつて黒服と呼ばれた男の姿に鏡は混乱と共に言葉を投げかける。

 

 

「お前…何をどうしたんだ…なんでお前、ホシノみたいな姿に…」

 

 混乱が収まり切っていない中で真っ先に聞くのはソレだった、どうしても気になってしまうのだ。

 

 何故生徒と同じ姿をしているのか、そもそも何故性別が変わっているのか…聞きたいことは山程あれど、黒服という人物が人物なだけにそこを真っ先に明らかにしておきたかった。

 

 誰かを…生徒を犠牲にしたのか、生徒を利用し使い潰したのか…やるかやらないかで言えばやる人間であるだけにそこら辺の警戒は一際高かった。

 

 そんな鏡の思考が分かっているかのように吹き出すように笑った黒服は手をひらひらと振って無罪を表明するかのように口を開く。

 

「クックックッ…そう睨みつけずとも、生徒の方々には一切手出ししておりませんよ…忘れたのですか? 私は貴方とそういう約束(けいやく)を結んだではありませんか」

 

「…そうか……いや、そう…だったな…」

 

 やれやれとでも言いたげな態度を浮かべる黒服に腰を僅かに落ち着ける鏡…黒服は強か且つ狡猾な所謂『悪い大人』ではあるが…それでも一方的にルールを破るようなことはしない、約束(けいやく)を結んでいる以上は黒服はそれに従事し続ける…それは、最後のあの時で確信していたことだった。

 

 警戒は解かない、解いてはいけない、黒服はそういう存在だ…しかし、その点に於いて最低限信用しても良いという確信が来栖鏡の中にはあった…そんな鏡に少女と成った黒服は言葉を投げる。

 

 

「…戸惑っているでしょう、現在の状況に」

 

 

 確信を含んだ問いかけに鏡の視線が黒服の目を捉える…迷いの無い、真摯さすら含んだ瞳だった。

 

「クックックッ…理解出来ます、貴方は自身の死を確信し自覚していた…それが今やこれです、ましてや自身の知らない記録や思い出が存在しているのです、戸惑いもしましょう」

 

 故に、だからこそと黒服は続ける。

 

 

 

 

「私の…我々の手を取ってください、先生…信用も信頼も出来ないでしょう、かつての敵対者の言葉を信じることなぞ到底出来ないでしょう…しかし、それでも今は我々の手を取ってもらいたいのです」

 

「事情はこの後になりますが、落ち着ける場所で嘘偽り無く説明致しましょう、何故に貴方がこうして巻き戻されているのかも何故に貴方の中に見知らぬ記録があるのかも…その全てを証言する準備が我々にはあるのです」

 

「もう一度言います、先生…我々の手を取ってもらいたい、この世界は…貴方の事情は、貴方が思っている以上に複雑なものなのです」

 

 

 畳み掛けるように紡がれたその言葉、ギリギリのバランスで積み重ねるように叩きつけるように吐き出されたその言葉に鏡はただ呆然とするしか無い。

 

 何をどう信じれば良いのか分からない、目の前にいるかつて敵であった存在の言葉を何処まで信じれば良いのか分からない…疑心暗鬼になってるわけではない、目の前の人間の言葉を鵜呑みにするのはそれほどまでに危険であるというだけなのだ………だが、しかし……ここで、鏡はふと思い出した。

 

 

 

 

───そういえば…俺、もう先生じゃないや。

 

 

 自分が死んではいけなかったのは、自分が先生だったからだ…たった一人の先生という重い立場を背負った人間だったから、それを安心して託せるような人間が誰もいなかったから自分は安々と死ぬわけにはいかなかったのだ…それを託せる人間がやってくると分かったから、自分はあの時、終わることを選べたのだ。

 

 ならば…何も問題は無いのでは?

 

 この世界にはアロナが言う所の本物がいる、本物の先生が存在しているのだ、ならば自分が好きにやって死んだとしても誰も迷惑しない。

 

 黒服にしてもそうだ…黒服は律儀に自身との約束(けいやく)を守っている、ならば生徒の心配はしなくても良いしそもそも先に言った通りに本物が居るのだからそこら辺の心配もいらないかもしれない……ならば、その手を取ることは何の問題も無いのではないか?

 

 黒服は事情を知っていると言っている、そしてをそれを嘘偽り無く説明すると言っている…例え嘘が混じっていたとしてもそれには自分なりに答え合わせが出来るはず…ならば、何も情報が無い今に比べてみれば遥かにマシであろう……そう、来栖鏡は考えた。

 

 先生という重みの消失とそれによる生徒達への危険の低下、本物であるのならば自分なんかよりも上手くやるであろうという期待…その他諸々全てが来栖鏡にその選択を取らせた。

 

 伸ばされた手へと手を伸ばし…握り締めた…自身の良く知る大きさのその手に違和感を抱きながら、来栖鏡はその契約を結ぶ。

 

 そんな鏡の行動に何よりも驚いていたのは黒服本人であったことに来栖鏡は一生気が付かないのであろう…本人の目の前で大きく瞳を見開いたその表情にもきっと鏡は気が付かないのであろう。

 

 無言であった…澄み渡るような青空の元に交わされたその契約を太陽はまるで見守るように照らし…その照らされた少女の姿をしたかつての敵は…花の咲くような笑みを浮かべていた。

 

 

「くくっ…契約成立ですね?」

 

「……まぁ……そうなるな…?」

 

 

 何処か戸惑いを抱えながら、身の中で弾けた歓喜を必死に抑え込みながら、両者の契約はここに成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───人様の猟犬を、変な団体に引き込むのはやめてくれませんか?」

 

 

 しかしそれを、魔王は決して許さない。

 

 降り立つ一つの影、黒い髪を揺らし紫色の瞳を薄く輝かせながら車のボンネットへと降り立ったその影はジャコンッと自身の得物を駆動させた。

 

 凝縮する光、青白く光を放つその光景に引きつったような笑みを浮かべた黒服と突然のことながら嘘やんと言いたげに顔を引き攣らせた鏡はその光を止めようと前へと踏み出そうとする…が、時既に遅し。

 

 

「───光よ」

 

 静かに、されどその中には確かな怒りと殺意を込めながら自身が王女と仰いだ少女の口癖を呟きながらその光弾は発射される───

 

 

「───私の弟に何をしている?」

 

 瞬間、ガンっという金属音と共に魔王の銃口が蹴り飛ばされ、発射された光弾はあらぬ方向へと突き抜ける、建物の一角へとぶつかって消えた光弾の存在に鏡は呆然としながらも理解する。

 

 

───あっ…ちゃんと出力は抑えてたのな…。

 

 的外れでも場違いでもないその思考はしかし、ことこの状況に於いてはのんびりしていると言わざるを得ない類の代物であった。

 

 瞬時に魔王へと向けられる銃口、その銃口を片手で逸らしながらも魔王は弾かれた長大な銃を鈍器のように振り被り敵手へと叩きつけようとする…が、それすらも先と同じように足で止められる……余程強く蹴りつけたのだろう、火花すら散っていた。

 

 

「…貴女も来ましたか…錠前サオリ」

 

「あぁ…そういうお前は久しぶりだな、天童ケイ」

 

 

 状況は、混沌としていた。

 

 

 

 

 

 

 

「み つ け た」

 

 





 ゴルコンダ&デカルコマニー及びマエストロは犠牲になったのだ…黒服の出番の為の犠牲、その犠牲にな。
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