「いっつつっ…」
戦闘が終わった…そう認識した直後にやってくる腕からの痛み、アドレナリンや戦闘時の興奮によって堰き止められていたその痛みは全てが終わると共に思い出したかのように鏡の意識へと降りかかってきた。
痛い、凄く痛い、シンプルに痛い…次から次へと、身体のあちらこちらからやってくる痛みの連鎖に鏡は顔を顰めながら反射的に痛みの部分を抑え込んだ。
普段からワカモや温泉開発部やら美食研究会やらとの戦闘で慣れていたと思っていたそれは、どうやら自分が思っている以上に不慣れなものであったらしい…そんな評価を下した鏡は大きく息を吸い込んで、吐き出した。
ふらふらと動き出す身体、何処へ行こうとしているのか本人ですら分かっていないのだろう、踏み出した一歩の段階で躓き転びそうになった鏡にツルギは駆け寄ろうとするが…それよりも早くに動き出した人物が居た。
ズンッと重たい音が辺りに響く、鏡が歩き出そうとしていたその先で盾を地面へと突き立て、仁王立ちの如くその場に在る白衣の天使…蒼森ミネはその瞳を鋭く尖らせながら、口を開いた。
「お久しぶりです、鏡さん…早速ではありますが、貴方には選択肢があります」
そう言うが否や、ミネは地面へと突き立てた砂塵と共に引き抜き、片手に構えた散弾銃と共に構えた。
「大人しく私に救護されるか、今直ぐここで私に
何を言っているのだろう…きっと、蒼森ミネを知らない人間が聞けば、そんな言葉が脳裏を過るだろうその発言に鏡は思わず苦笑いを浮かべた。
大人しく救護されるか、それとも今ここで救護されるか…言葉だけきっと同じ意味に聞こえるだろう、選択肢など無いように思えるだろう…だがしかし、蒼森ミネを知る人間であればそうではないとハッキリ分かってしまう。
分かり易く言ってしまうのならば、前者は純粋にトリニティの救護騎士団に連れて行ってキチンとした処置を施すという意味で、後者は恐らく救護(物理)という意味だ…要するにぶん殴ってでも連れて行くということである。
怪我負わせたら本末転倒だろうと昔なら言っていたのだろうが…残念なことにその方法に割かし助けられた部分が鏡にはあるのでそこに関しては何とも言えない…というより、こんな風に事前通告されている時点で大分優しい、何せ普段なら有無を言わさず顔面に一発ドガンッ!! である。
実質選択肢等無いその問いかけ、それに対して心底から堪えきれぬと言わんばかりに鏡はクツクツと笑みを溢しながら、降参するようにその両手を上げた。
「怪我が痛いです…助けてくれませんか?」
「よろしい」
鏡の言葉に、ミネは満足そうな笑みを浮かべながらそう答えた。
───ガチャンッ!!
重々しい鉄の音と共に、自身へと装着された重厚な手錠を前にして、鏡の思考は停止した。
ここはトリニティ総合学園の救護騎士団、無数の医療器具とベットが備え付けられたその部屋は傍から見れば広い学校の保健室である…そんな部屋に早々に放り込まれ、処置を施された鏡は…ベットに寝かされるのと同時にその手に手錠を掛けられた。
ガチャリとベットパーツの一部に繋げられる手錠、半ば宇宙猫のような表示を浮かべる鏡にミネはふんすっと鼻を鳴らしながら腰へと手を当てる。
「暫く安静にしていてください、逃げ出そうなんて思わないことです」
「いや、安静にしていてほしい人間に対する対処法じゃない気がするのですが…?」
ミネの言葉に流れるようにツッコミを放つ鏡、頭に?マークを浮かべる鏡にミネはニコリっと笑みを浮かべながら、ゴキリッゴキリッと拳を鳴らした。
「そうですね、普通ならそうでしょうね、大怪我であろうが何であろうが知ってことかと言わんばかりに何度も何度も医務室から逃げ出し続けた貴方の言葉でなければ私も同意しましたとも」
ピキリッとミネの額に青筋が浮かぶ、言っている最中に何かを思い出したのだろう、酷く冷たく光を映さないその瞳を鏡へとぶつけながら、ミネはニコニコとした笑顔を崩さなかった…そんなミネに鏡は悟った……あっ…これやべぇっ…と。
「…うっす、大人しくしてます」
「よろしい…分かってくれたようで私は嬉しいですよ?」
そう言って、変わらずニコニコとした笑顔の上で青筋をヒクヒクとさせながらミネは鏡の視界から消えていく…彼処までミネを怒らせた生徒がどうなったのかを知っていた鏡は、大人しく安静にしていようと心に誓うのだった。
「───クックックッ…いやはや、恐ろしいものですねぇ、救護騎士団の団長というものは」
そんなことを考えていた鏡の真横から、その声は響いた。
さも当然のように、さも最初からいましたが? とでも言いたげな態度で少女の形をしたソレは…黒服は、パタパタと手を団扇にしながらミネの去った方向へと視線を向けていた。
いきなりだったからだろう、ビクゥッっと身体を跳ね上がらせた鏡は手錠によってその身体の勢いを無理矢理に止められたことでガンっと手すりに落下した。
「あいでっ…!」
頭がぶつけた衝撃が脳にやってくる、キーンっと響いてくる痛みに頭を押さえながら恨めしげに黒服へと視線を向ける鏡に黒服はしてやったりとした風な笑みを向ける…その直後、ズガァァァッンっ!!! と扉を粉砕しながら完全武装したミネが室内へと飛び込んできた。
「やはり逃げ出そうとしまたね!? 今度と言う今度は決して………あら?」
ジャコンッと散弾銃を構えたミネは次いで呆けたようにその動きを止める、発した言葉からして恐らく鏡が逃げ出そうとしていると勘違いしてここまで全速力で戻ってきたのだろうが…実際にあるのは痛そうに頭を押さえる鏡とその側に座る少女の姿をした黒服だけである。
「すみません団長…ちょっとびっくりして飛び上がっちゃっただけです」
思ってたのと違う…そう言いたげなミネに鏡は手をぷらぷらとさせながら謝罪の言葉を口にする。
その言葉に嘘が無いと悟ったのだろう、粉砕してしまった扉をいそいそと元の場所へと無理矢理貼り付け、ペコリっと一礼した後にミネは室内からその姿を消した…その一連の流れに鏡はため息を吐き出し、黒服へと視線を投げた。
「どっから湧き出してきたよ、伽◯子かお前は」
「ククッ、伽◯子とやらが何かは存じませんが、酷い言いようですね先生…折角、先程説明しそびれたことを改めて教えに来たというのに」
軽い口調で交わされる軽口、少女らしく表情豊かにコロコロとその形を変える黒服に違和感を覚えつつも、しかし鏡はそれを指摘することはなかった…それ以上に気になることがあったからだ。
「…それで? 説明出来るのか、今のこの状況を」
「えぇ…それも、存外簡単に」
鏡の言葉に黒服は自信満々にそう返す、腰に手をあてて若干むふ〜っと言った感じの表情を浮かべる黒服にこいつ身体の方に若干引っ張られてないか? と言う疑問が浮かび上がるが、今聞くことではないということで鏡は自重した。
改めて聞く姿勢を持った鏡に黒服は満足そうにしながら、コホンっと一息付いた後に改めて口を開く。
「ではまず…この世界は所謂並行世界というものに当たります…そのこと自体には先生、貴方も薄々気がついていたはずです」
その言葉に鏡はここに来るまでのことを思い出す…呼んだことの無い渾名が勝手に口から飛び出してきたこと、かつての生徒に呼ばれたことのない名称で呼ばれたこと…ほんの少ない要素ではあるが、それは来栖鏡という人間にここは元居た世界とは違うのではないかと言う疑問を抱かせるには十分過ぎた。
黒服の言葉に鏡は小さく頷く…言葉にされればここまで納得出来るものなんだなと…そんなことを思いながら。
そんな鏡の様子に問題無しと判断したのか、黒服は更に言葉を繋げる。
「そして…端的に言いましょう、この世界は言ってしまえば貴方が生徒として存在していた世界、貴方とは別で先生…貴方で言うところの本物が存在した世界になります」
淡々と綴られる黒服の言葉に鏡は特に動揺を見せない…これに関しては実際にその本物を目にしていたこと、そして何より周囲からの自身への反応の違いによって何となく分かっていた部分ではあった…いや、流石に自身が生徒であったことまでは鏡からして予想外のことではあったが…まぁ、許容範囲内であろう。
そんな鏡に黒服はやはり驚きませんね…と、分かっていたような言葉を口にしながら、ではこれならどうだろうと言わんばかりに言葉を続けた。
「因みに先生、貴方はこの世界ではアリウス分校の生徒会長だったんですよ?」
「───…はい?」
突如として放り込まれた爆弾に、鏡は素っ頓狂な声を上げた。
来栖鏡
元アリウス分校生徒会長、ベアトリーチェを補職(物理)した後に色々とやってたら何時の間にか生徒会長にされていた男…なお、そのせいで事務能力が飛躍的に上がってしまったらしい。
とりあえず金が無いからとバイトやら傭兵やらで金稼ぎをしているところにピンクゴリラが襲来、とりあえず割と余裕が無かったので申し出を許諾した…なお、その後に色々やっちゃったせいで紅茶ちゃんとせくし〜ふぉっくすに懐かれた。