適当に書いた、反省はしている…一回書いたのがブルア廻戦に為りかけたから全部纏めて書き直した話。
運が良かった…としか言いようがないだろう。
照りつける日差しの中、心地の良い風が頬を撫でる中で男は…元は先生と呼ばれた存在は何気無しにそう思った。
座席から微かに感じる静かな振動、アクセルを踏み込む中で生じたエンジンの音が耳元へと入り込み、それが今の状況を遺憾無く教えてくる。
「悪いな、わざわざ乗せてもらっちゃって」
「いいよいいよ、砂漠で迷子になったら助け合うのが人の常ってやつだから」
自身が座る後部座席の前、運転席に座る赤色のヘルメットが特長的な少女へとそう声を掛ける、そこに籠もっているのは嘘偽りの無い感謝の感情であり、それに少女は手をひらひらとさせながら呆気からんと返事を返した。
喉乾いてない? と肩越しに差し出される水に大丈夫と言葉を返す、実際空調が聞いている車内に於いては特段、彼は水を必要とはしなかった。
何気無しに景色へと視線を移す…流れてゆくのはまるで変わることのない砂漠の光景、何時か実際に見て行ってみた場所とは違う、正真正銘の砂漠。
住宅街なんて無い、店も無ければ目印も無い、アビドスで見た光景を更に深刻化させたような光景が眼前にある事実に、彼は薄く目を細めた。
そんな彼の耳に、それしたって非道いよなぁと何処か非難するような声色で少女が語り始めた。
「何があったのかは知らないけど、よりにもよってあんな場所に人を置いていくなんて、下手をしなくても死ぬっていうのに…人の心とか持ってないのかっての」
怒りの感情、その声に確かに乗った静かでこそあるが激烈なまでの怒りに彼は苦笑いを浮かべる、適当に吐いた嘘を少女が完全に信じ切ってしまっているからだ。
あの後、砂漠で目を覚ましたこの男が取った行動は、一言で言えば日陰の確保だった。
照りつける日差しの恐ろしさはアビドスでキッチリと学んでいた───というよりそこの生徒に死んだ瞳で教え込まれたのだが───この男は兎にも角にもと日陰を探し求めた。
水も無い、武器も無い、なんならこの砂漠を踏破する為の知識も無いという三段無いのこの現状、日差しの照りつける中での思考は無茶を通り越して自殺行為であることを男は知っていた…それ故の行動。
そうして男は歩き始めた訳だったのだが…その日陰がそもそもからして全く見つからないという状況に陥っていた。
日陰を見つける…そういう目的を持ったまでは良かったのだがそもそもの前提条件からして無理があることに男は気づいていなかったのだ。
そう、簡単な話をするのであれば…日陰を作ってくれであろう遮蔽物がまるで無い。
砂漠に呑まれて廃墟と化したアビドスでは建物の残骸が残っていた、そこに生まれた日陰を利用して当時のこの男は休息を取っていたのだが…そもそもここにはその廃墟と呼べるような建物の残骸すら残っていなかったのである。
見渡す限りの砂漠に砂漠、いっそ水源を見つける等と言ったことの方がまだ確率が高いのではないかと思わせられる程に真っ更な砂漠を前に、真面目に絶望したのは記憶に新しい。
ただでさえここに来る前までに起きたことによる精神的な疲労に加えて照りつける日差しと砂漠による肉体の酷使…男の体力は割りかし限界に近かった。
本当に死ぬかもしれない…そんなことを思っていた折にやってきたのが、このヘルメットの少女である。
何を目的としていたか車を走らせ、砂漠を駆けている所で偶然なりとも見かけたまるで武装しておらず、なんだったらヘイローすら存在しない人間の姿に焦りに焦り、フルアクセスで男へ向けて突撃、何やってんだと説教紛いの怒号を上げて車の中へと詰め込まれた。
そうして事情を聞かれた男が応えた一声が、以下の通り。
───色々合って、放り投げられた。
理由は特に説明しなかった、複雑というか言っても信じてもらえないという確信があったのもあって、男は適当に嘘をついた。
その結果として…少女はキレた。
それはもう凄まじいキレようだったと言える、身体の内側から湧き上がる怒気を隠しもせず、そしてそれを発散させる行き場を見つけられなかったのか、地団駄を踏んで照りつける青空へと咆哮していたのは記憶に新しかった。
やれ砂漠に人を置いていくとか何考えてんだやら、人の心とか無いんかやら、教えはどうしたよ教えはと、何やら色々と突っ込みたくなるような単語を怒りと共に吐き出していた。
そうして怒りを吐き出してスッキリとしたのだろう、徐ろに男へと振り返った少女はビシィッと男を指差し───
───乗ってけ! 送ってってやんよ!!
そう言って、男は返事をする前に半ば無理矢理車の中へと男を詰め込み、今へと至る。
そういった経由を思い出していた男は、呆れたようにため息を吐いた、少女のあまりの人の良さにだ。
普通は疑うだろう、理由をぼかして殆ど説明しないという時点で後ろ暗いことがあると言ってるようなものだろう、よしんば乗せるにしても警戒くらいはするだろう。
それなのに何故───
「あぁ、そういや名前教えてなかったな、アタシはミソラ…奥原ミソラだ」
この少女は、こうも自身に対して無警戒なのだろうと、男はため息をついた。
よろしくなと明るい声で此方へと話しかけてくる少女の姿に思わず手で顔を覆いたくなる、何故にこうも初対面の素性不明の大人相手に無警戒を貫けるのか理解出来ない。
先も言った通り、この少女は男の素性も事情も何も知らない…というか素性はともかく事情に至っては本人すら理解出来ていないのたが…兎も角として男は非常に怪しい人物と言える立ち位置にあるのだ。
それがなんだ? 銃を向けるどころか砂漠に於いて生命線とも言える水をさも当然のように投げ渡し、どう考えても嘘だろうと思えるような言葉を本気で信じている…人が良い程があるだろうと男は頭を抱えそうになる。
だがしかし、それに助けられているのもまた事実、そしてその好意を無碍にすることを男は許さないし、したらしたらで死ぬという確信が男にはあった。
要するに、何方にせよ男は少女…ミソラの手を取らなければ詰むのである。
だったら、せめて信用されている通りに振る舞うくらいはしようと男が考える中で、ふとしたようにミソラは男へと声を掛ける。
「そういや、アンタの名前は?」
何気無い言葉、ただ一言名前を聞かれただけの言葉…しかし、それを聞かれるのと同時に男の背筋に悪寒が走った。
熱風の砂漠の中で、唐突に氷河期がやってきたかと錯覚する程の冷たい気配、蛇に睨まれた蛙のような心地になってしまいそうなその気配に自然と男は息を飲み…それら恐怖を無理矢理抑え込んだ。
「…鏡だ、
震えそうな声を無理矢理押整えて、言葉少なめにシンプルに名前だけの自己紹介をする。
背後から感じる恐ろしい気配、それによって凍えるように迸る背筋への悪寒、そしてそれに付随するかのように侵入してくる恐怖…それらを決して眼前のミソラへと気づかれぬように鏡は慎重に口を動かした。
幸いと言うべきだろう、運転席に居たミソラはそれに気づくことはなくそっかぁと何処か間延びしたような声を出して咀嚼するように二度三度と鏡の名を口に出していた。
後方へと視線を向ける、背後から感じた視線の方向へと振り向き何か居るのかと目を凝らし…何も居ないということに気がついた。
そこには何も居ない、そこにあるのは先程まで自分がそこに居たという事実だけ、広がるのは遮蔽物一つ無い真っ更な砂漠だけ。
気の所為かと、そう思うことは簡単だ…しかしそれが出来る程、鏡は楽観的になることは出来なかった。
熱風が吹き、砂埃が鏡の視界を覆ってゆく、何も無い砂漠の世界を砂埃が胡乱げにしていく。
ぐにゃりと視界が歪む感覚がする、まるで蜃気楼をその目で見たかのような感覚を前に鏡は頭を振り、再び後方へと視線を向ける…そこには、やはり何も無い、誰もいない。
視線を前へと戻してミソラへ一言、水をくれないかと打診する…それとほぼ同時に手渡される水をグビリと飲んで、鏡はため息を吐き出し───
「…疲れてんのかなぁ、俺って」
その身に溜まり込んだ疲労感を隠しもせず、独り言を吐き出した。
呪術廻戦は比較的に書きやすかったけどブルアカは書くのが難しいと思う今日この頃…おかしい、俺は主人公がキヴォトスで暴れまわる話を書きたかっただけなのになんでこうも頭をがががっ…!!!