気分が乗ったらから書いた。
「ありがとう、助かった、何時か恩は返すよ」
「良いって良いって、それじゃあ達者でな!」
なんてことない、何処にでもあるようなそんな会話、短いそれを交わしてミソラは車へと乗り込み、そのまま何処かへと走り去っていった。
場所は連邦生徒会近くの市街地、犬やら鳥やら猫やらが二足歩行且つ服を着て歩くその場所で、鏡は走り去っていく車体を見送り、何気無く足を動かした。
コツリコツリと靴音が響く、周りをすれ違う犬猫と言った住民達を横目に見ながら目的の物を探し…なんとなくで、それを見つけた。
聳えるビルに備えられた超大型のテレビ、ニュースキャスターの声と共に聞こえてくるその内容と共に視界に入り込んでくる特定の単語が、鏡に事態の正体を教えてくる。
即ち───
「───巻き戻されたのか、俺」
何処か漠然としたように、呆然としたように呟かれた言葉、薄々何処かで分かっていた部分こそあれど、それでもそんなことはないだろうと期待していた鏡の思惑は、今ここに完全に潰えた…それと同時に、鏡の思考が高速で回る。
ニュースの状況と内容からして恐らく時期は鏡がキヴォトスに呼び出された直後、またはその直前のものであると仮定。
更にそこから周囲の状況を観察し、その結果として未だに暴走デストロイヤーフォックス…もとい狐坂ワカモが矯正局から脱獄してからここには来ていないだろうと予測、その上で今の状況を一言で言葉にするのであれば───
「───土俵の瀬戸際」
小さく小さく呟かれたその言葉、誰に言うでもなくなんとなくで呟かれたその言葉…それと同時に、鏡の耳へと銃声が届く。
喚き散らす誰かの声と共に鳴り響く銃声、怒声と共に鳴り響く爆音に加えて何かを轢き潰したかのような甲高い鉄の音…それらが、然程遠くない近場から聞こえてきた。
逃げた惑う住民達、命の危機ではなく当たり前の日常に厄介事が舞い込んできたと言うような様子で早足に逃げ去っていく住民達を尻目に、鏡は深い深いため息を吐き出した。
「…来ちゃったよ」
心底面倒臭そうに言葉を吐き出す、視線の先では飛び交う銃弾と爆発によって舞い上がる土煙が見えていた。
言葉にしたのがいけなかったのか、それともそんなことを考えてしまったのがいけなかったのか、所謂ところのフラグを立てたのがいけなかったのか…何方にせよ関係無い。
争いがそこにある、一歩でも踏み込めば死ぬかもしれない戦場がそこにある、その事実の前では何が原因かなんてことは至極真っ当にどうでもいいことでしかない。
逃げるか、
鳴り響く爆音に響き渡る無数の銃声、己が欲望と衝動のままに暴れ散らす彼女達は、何もかもを手当たり次第に壊してやりたいと言わんばかりに何これ構わず銃を撃ちまくる。
ギャハハギャハハと下品に笑いながら、近くで同じように銃を乱射している友人に昼飯どうしようかと、そんな普通の女子高生のようなことを話しかけながら、辺りに破壊をばら撒き続ける。
それに何の意味があるのか…きっと意味なんて無い、だって
当たり前に銃を持ち歩かれ、当たり前に放たれる、当たったところで誰も死ぬことがないから余計にそれが繰り返される。
迷惑行為もやってはいけないことの区切りもある、でもその限りの中に銃を撃ってはいけないなんて区切りは無い、だから当たり前に撃つし当たり前に壊す。
その中でもこれはやってはいけないことに妥当する…建物の破壊に物資の強奪、一部の倫理観が吹き飛んでいるこの世界に於いては数少ない程にマトモな倫理的なソレ…それを彼女達は容易く破った、何故なら楽しいから。
一時の悪事、何時だって悪い事と言うのは言い知れぬ高揚感を人へと与える、まるで酒に飲まれた飲んだくれのようなイケナイ興奮を与えてしまう。
その結果がこれだ、悪事の高揚に飲まれたが故に止まるという言葉を投げ捨てた彼女達は、何食わぬ顔で当たり前に日常を壊していく、だって楽しいから。
響き渡る銃声に壊されていく日常の象徴達、ガラスが飛び散り瓦礫が砕け、コンクリートが割れて周囲へと飛び散る…それを楽しい楽しいと大笑いしながら彼女達は被害を拡大させていった。
…だからこそ、彼女達は気付かない。
コツリコツリと響く足音、銃声が飛び交う中でさも当然のように出現したその音に彼女達は気付かない。
音は彼女達の背後から、抜き足で動いてるわけでもなければ気配を消している訳でもない、ただただ普通に歩いているだけ。
コツリコツリと靴音を鳴らす、彼女達の背後から迫るようにゆったりとした様子で近づいてくるその足音に彼女達はまるで気が付かない、眼の前のことが楽し過ぎて背後の気配にまで気が回っていない。
コツリコツリと靴音を鳴らす、最早少し大きく踏み込めば手が届く位置にまで近づいた足音、しかしやはりと言うべきか彼女達はそれに気が付かず、容易く接近を許した。
弾丸を狂気にも近い笑みを浮かべて吐き出し続け、ただただ己の愉悦のままに破壊を振り撒く、タタタっと連続して吐き出される乾いた音に何処かうっとりとした様子さえ浮かべてみせた。
コツリコツリと靴音を鳴らす……銃声が止んだ、弾切れだ。
マガジンを外し、新しいものを装填する…その一連の動作を行うその直前、背後から響く足音に集団の一人がようやくと言ったようにそれに気がついた。
あまりに近場から発せられた足音、ほぼ真後ろに存在するソレへと半ば反射的に銃床を振り抜く、背後の存在へと本能的に殴り掛かる…その瞬間、カコンッという音が響く。
耳元へと届いたその音、何処から鳴ったのかも分からないその音に彼女は困惑し…その次の瞬間、彼女の身体は崩れ落ちた。
何故…そう思考する彼女の下へと遅れたようにやってくる痛み、顎下から響いてくるその痛みに彼女は気づく、脳を揺らされたのだと。
崩れ落ちる身体、消えていく意識、その中で見えたのは黒いスーツを身に纏った男の姿…それを目の端で捉えながら彼女はその意識を暗闇の中に落とした。
背後から聞こえてきたドチャリという音、リロードに入っていたこともあって容易く耳へと届いたその大きな音に彼女達は反射的に振り向き…その意識の隙間に入り込むように男は…鏡は一気に踏み込んだ。
最も手近にいた少女───何処かスケバンのような姿をした少女───へと接近、銃口を向けて今にも引き金を引こうとしているソレへと何の躊躇も無く近づき、その銃口を蹴りつける。
響く銃声、狙いが逸れた先で吐き出される銃弾がガードレールへと被弾する、それを気にも止めずに鏡は一気に懐へと侵入し、スケバンの持つ銃へと手を伸ばす。
奪われると思ったのだろう、銃を固く握り締めて絶対に渡さんと言わんばかりに鏡を睨みつけるスケバンの姿に鏡は何処か冷めたような視線を投げかけ…唐突に銃に装填されていたマガジンを抜き取った。
早業…銃へと手を伸ばしそこからマガジンを抜き取るまでの動作をスケバンは認識することが出来ず、更にそこから流れるような動作で銃をコッキングする。
排莢される薬莢、視界に映り込む金色のソレをスケバンは何処か呆然としたように見つめ…そこから彼女の視界がぐるりと回転する。
足を払い、そのまま大きく勢い良く腕を振りかぶって鏡はスケバンを別の少女…黒いヘルメットを被った少女へと投げつけた。
唐突に飛んできた仲間の一人、リロードが終わり今正に銃を撃ってやろうと意気込んでいた彼女の視界に飛び込んできたのは仲間の背中が迫って来る光景…あまりに唐突なソレに回避も出来ずにも揉みくちゃになる。
それを見ていた少女───工事現場にいそうな服装───はクソっと悪態を付きながらも鏡へと銃口を向ける。
リロードは済んでいる、獲物はライフル、自身を狙うその構えから感じられる確かな練度に鏡は静かにその瞳を細め…唐突に、手に持っていたマガジンを少女へと放り投げた。
銃弾を撃たれるよりも速くに投げつけられた鉄製のソレ、当たればまず痛打は間違いないだろう速度で投げつけられたソレを少女は身を屈めることで躱し…そこを狙ったかのように、鋭い蹴りが少女の顔面を蹴り飛ばした。
迸る痛み、揺れる意識に横合いへとズレていく身体…しかしそれが何するものぞと少女は歯を食いしばってそれに耐え、雄叫びを上げながら鏡へと銃口を向けようとした。
そこへと振りかぶられる何か、一体あの一瞬の間に何処から調達してきたのか、いやそもそもどうやってその手に持っているのかと甚だ疑問に思えるような代物が少女の視界へと映り込む。
白く硬そうな鉄の塊、ついさっきまで視界の端へと映り込んでいたその白に思わずと言ったように、少女は叫んだ。
「ガードレール───」
言い切る前に叩きつけられる、ガゴンッとあまりに重々しいその重厚な音に、そのあまりにも重々しいその一撃にその光景を見ていたスケバンとヘルメットは思わずと言ったように目を瞑った。
顔面へと下から振り抜かれるように叩きつけられた少女はそのやってきた衝撃のままに後方へと大きく倒れ込み、そのまま───
「───きゅ〜」
何処かギャグ調のようなうめき声を上げ、目をぐるぐるとさせながら気絶した。
リーダーと叫ぶ声、その名の通りこの集団のリーダーなのだろう少女は心配してか、それともその敵を取ろうと思ったのか、揉みくちゃとなっていたスケバンとヘルメットが起き上がり、少女の下へと駆け出そうとする。
その直後、ガードレールが投げつけられる。
起き上がり駆け出そうとしたその時を狙ったのか、それとも単なる偶然なのか…何方にせよ、半ば不意打ち紛いに投げつけられたソレを二人が躱せるはずもなく───
「───うぎゃっ…!?」
「───ぐべっ…!?」
そんなうめき声と共に甲高くも重々しい鉄の音が鳴り渡る、投げつけられたガードレールに巻き込まれる形で壁へと叩きつけられた二人は、そのまま助けようとしていたリーダー同様、ぐるぐると目を回して気絶した。
倒れた少女達と一人の男…字面にすれば犯罪臭が漂う単語の連続とも言えるその状況に鏡はため息を深く吐き出し…怠そうな態度をまるで隠さず、その視線を前方へと向けた。
───あらあら、何やら面白そうな方がいらっしゃいますね?
カツリカツリと靴音が響く。
向けられた視線の向こう側、特段何も無いその場所から少女が一人、悠然と此方へ向けて歩いてくる。
長くのび太靱やかで艶の入った美しい黒髪にそこから生えた特長的な狐耳、頭上に浮かぶ赤い花柄のヘイロー。
手に持った長銃を肩に担ぎ、和服風に改造されているのであろうセーラー服のような服装、尾尻から映えたゆらりゆらりと揺れる太い狐の尻尾。
悠然に、悠々と此方へと歩いてくるその姿から感じられるのは自身の力に対しての自負と抑えきれぬ衝動への渇望、狐面の下から除く眼光がゆったり獲物を見据えて舌舐めずりをする。
その声を、その姿を、鏡は良く知っている…否、知らないわけがない。
何故なら眼前の存在は、鏡にとっては宿敵と呼んでも差し支えのない存在なのだから。
趣味は破壊に略奪、ただ望むがままに壊して奪う、気儘に我儘に襲ってきてはアハハアハハと高笑いを上げながら破壊をばら撒く厄災の権現。
「この際です、私も楽しませてもらいましょう」
『災厄の狐』狐坂ワカモ…キヴォトスという割と論理感が終わっている世界の中でも特大の爆弾が、鏡の前へとその姿を現した。
その事実に鏡は…何処か辟易としたような顔で、落ちていた銃を拾い上げるのだった。
主人公
何度かワカモと本気でやり合ったことのある人、戦った半数は負けて後半のニ〜三割は勝っている男…以前にキヴォトスでは割と執着されていた。