クソボケな元先生は今日も行く   作:富竹14号

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 久しぶりに書いた気がする。


狐はハイエナよりも凶暴らしい

 

 

 炎に塗れた視界、黒煙が所々に立ち昇り、破壊の跡が要所要所で見られるその場所で、二人は向き合い自身の獲物を向けていた。

 

 向けられた銃口から視線を剃らず、今か今かと互いに視線をギラつかせ、獣のように今にも襲いかかりそうな気配を発する二つの影が、互いに互いを睨みつけている。

 

 男と女…背丈も違えば年の頃も違うであろう両者は互いを標的と定め、その指を引き金へと押し当てて…引いた。

 

 鳴り響く銃声、ほぼ同時に鳴ったであろうその轟音と共に両者は共に駆け出して…自身の獲物を敵手へと振るう。

 

 

 ………そんな光景を彼女は幻視していた。

 

 

 

 

 

 

 パチリと瞬きを一つを済ませ、眼前の存在へと改めて視線を向ける。

 

 周囲を何気無く見渡してみればそこには炎なんて何処にも無い、あるのはただただ黒く彩られただけの地面や壁、砕けたアスファルトと地面に転がる雑魚のみ。

 

 ……否、それだけではないだろうと彼女は…ワカモは凶悪に自身の頰を釣り上げた。

 

 

 ヨレヨレになったYシャツ、砂埃や先程の銃声によって付いたのであろう黒炭のような箇所が所々に見受けられた。

 

 短く切りそろえられた黒髪に青空を想起させるような蒼色の瞳、手に持った銃のマガジンを抜き取り残弾を確認するその姿には一種の手慣れを感じさせた。

 

 なんてことない、このキヴォトスに於いては至極普通の動作、あちらこちらで銃撃が巻き起こるのが一般的なキヴォトスからしてみればその行動は至極まともであると言える。

 

 しかし、そこから感じ取れる気配の濃さは───

 

 

「…フフッ…!!」

 

 

 一目見て、面白そうだと感じた…否、求めていた物を見つけたような心境であったと、ワカモは自覚していた。

 

 何故そう感じたのかをワカモは知らない、何がワカモにそう思わせたかをワカモは知らない…ただ、求めて求めて求めて、狂いそうになる程に追い求めたソレがそこにあると、ワカモは直感した。

 

 

「フフフフフフフッ…!!」

 

 男の視界は此方へと向いている、何処か面倒くさそうにワカモを見据えるその姿に、()()()()()()()()()()()を想起したワカモは、ほぼほぼ本能的に銃を敵手へと向け、その引き金を引く。

 

 突発的に放たれた一撃、火薬の弾ける音と共に放たれたその弾丸の行先は脳天…ヘイローが無い眼の前の男に当たれば即死は免れないその位置に、ワカモはなんの躊躇いもなく自身の殺意を解き放った。

 

 弾丸は突き進む、主の望むがままに真っ直ぐに前へと前へと、眼前の男の眉間目掛けて突き進むその弾丸を鏡は何処か呆然としたように眺め───

 

 

「───っぶなぁ!?」

 

 

 端と気づいたように、反射的にそれを躱した。

 

 仰け反らせる…上体を大きく仰け反らせた上での弾丸回避、さながらブリッジのような姿勢となった鏡は、吹き出すように驚愕の感情を顕にした。

 

 眼の前を過ぎ去っていく弾丸、真っ直ぐと弾道を描く銃弾がゆっくりと回転しながら目の前を通過していく様なその感覚、思わずと言ったように弾丸をついつい視線で追ってしまう…瞬間、背筋を駆け巡る悪寒。

 

 咄嗟、仰け反らせた身体を無理矢理筋肉で支え、そこからまるで頭突きでもするんじゃないかと言わんばかりの勢いで体勢を戻す…そこへとやってくる、銃剣による突き。

 

 舌打ちを一つ打ちながら顔を傾けて銃剣を躱す、紙一重の領域にて躱された銃剣の切っ先が僅かに鏡の頬を僅かに斬り裂いた。

 

 チリっと熱を発する傷口、刃物で皮膚を斬る時に感じる特有の感覚、ジンジンと響いてくる煩わしい痛みと共に流れ出る血液にワカモの顔は狂気に染まった。

 

 流れ出た赤を銃剣で掬い上げるように、血を刃に這わせるように、縦から横へと寝かせられた刃が獲物の首を刈り取らんと薙ぐように振るわれる。

 

 急速に迫ってくる死の形、太陽に反射して輝く波紋に冷や汗を流しながら鏡は無理矢理身体を地面へと倒れ込むように屈ませ、同時にワカモの足を払わんと蹴りを繰り出した。

 

 薙ぐように振るわれた蹴り、さながら鞭か何かのような鋭さと速さを持ったその一撃を、しかしワカモはまるで分かっていたとでも言うように片足を上げるだけで躱し、その体勢から勢い良く銃剣を鏡へと突き立てんと大上段から振り下ろす。

 

 狙いは恐らく心臓、端から命以外に興味が無いとでも言うように殺意の籠もったその一撃に、鏡は手元の銃を盾代わりに突き立てられた銃剣を防ぐ。

 

 バキリッと言う何かが砕けて壊れたような音、盾にした銃をいとも容易く貫通したワカモの銃剣は鏡の心の臓寸前の場所でその動きを止めていた。

 

 グググっとやってくる上からの圧力に対抗するように鏡は万力の力を込めて刃を押し止める、銃剣の切っ先が込められた力の程を現すかのようにブルブルカタカタと音を鳴らしながら震える。

 

 力と力、ヘイロー有りとヘイロー無し、本来であれば勝敗など目に見えているその勝負はしかし、意外にも拮抗し合っていた。

 

 押しきれない、ヘイローを持たない人間とは思えぬ程の力、拮抗する力と力の押し合いにワカモは銃剣へと込める力を更に増やしながら、無意識的に口を開いていた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 凶悪に頬を釣り上げながら放たれたその言葉、見知った人間の行動を相変わらずと呆れるように放たれたその言葉に、鏡は目を見開き…反射的に口を開いていた。

 

 

「───お前、ワカモか…?」

 

 何処か呆然としたように開かれ、吐き出されたその言葉にワカモは何処かキョトンとした様子でその疑問を吐き出す。

 

 

「あら? 私、()()()()()()()()()()()

 

 先程の言葉なんて知らぬと言わんばかりに、お前のことなんて知らぬと言わんばかりに、その愉悦に歪んだ笑みを崩さぬがままにワカモは問われた疑問に問いで以って返した。

 

 今度こそ目を見開く、キョトンとこの場に似つかわしくないその言葉に鏡は一瞬だけ思考を停止させ、直ぐに歯をギリッと噛みしめると同時にワカモの腹を蹴飛ばした。

 

 離れる身体、強く強く蹴飛ばされたワカモの身体が後方へと下がる、狐面の奥で眠るその瞳を愉悦から喜悦のソレへと切り替え、真っ直ぐとワカモは敵手を見据えた…その瞬間、ワカモの視界に黒色が映り込む。

 

「───アハッ…!!」

 

 吹き出すように吐き出したのは喜色の声、さっきのお返しと言わんばかりに繰り出された飛び膝蹴りをワカモはモロに喰らう。

 

 頭を捕まれ何の躊躇も無く女の顔に飛び膝蹴りを叩き込んだ鏡は、しかしそんなことに構ってられるかと言うように追撃を叩き込もうと拳を握り込み、そこへと割り込むように振るわれた刃に行動を阻害される。

 

 銃から取り外され、銃剣から短刀へとなったその刀をワカモは鏡の直線状へと振るって牽制し、砕けた狐面から覗く狂気的な笑顔のままに踊るように鏡へと短刀を振るう。

 

 超近接戦(インファイト)…振るわれた短刀を冷や汗を撒き散らしながら躱し、隙を見て鏡はワカモの横腹から顔面へと流れるように拳を叩き込んでいく。

 

 一発二発、立て続けにやってきた拳による打撃にワカモの身体が揺れる…が、まるで効いていないと言わんばかりにワカモは短刀を持っていない方の腕で鏡へと掌底を叩き込んだ。

 

 鳩尾へと放たれ、直撃した掌底…咳き込む、急所へと的確に突き刺さったその一撃にゴバッと無理矢理吐き出さされたかのように息を吐き出す鏡、そこへと抉るような蹴りが鏡へと突き刺さる。

 

 弾かれるように蹴り飛ばされる、意趣返しと言わんばかりにワカモに放ったものと同じ箇所へと叩き込まれた鋭い蹴り、地面を転がり痛みにうめき声を上げる鏡は、何気無く上げた視線の先でソレを目にする。

 

 銃口が、向けられていた。

 

 

「───ッッ!!!」

 

 

 軋むような声、血反吐ごと息を吐き出してやると言わんばかりの声と共に鏡は咄嗟に四つん這いになり、獣のようにそこから跳ね跳んだ。

 

 瞬間、耳へとやってくる銃声と地面の砕ける音、つい先程まで居た場所へと撃ち放たれた銃弾にも目をやらず、鏡は四つん這いの体勢のままに着地する。

 

 それと同時にコマのようにくるりと一周回りながら二足歩行へと移転、更に道中に偶然落ちていた銃を拾い上げながら片膝立ちの体勢へと移行する。

 

 ガチャリと銃口を向ける、両手で構えられたアサルトライフルの照準がワカモを捉える…そして、それはワカモもまた同じこと。

 

 構えられたライフル、確りと此方へと照準が合わせられた銃口が鏡を捉えている、割れた狐面の奥には今尚も笑みの途絶えない少女の顔がそこにある。

 

 硬直する、銃口を向けられたまま互いに静止し、今か今かと獲物を前に涎を垂らす獣のように殺意を撒き散らす。

 

 引き金へと手が掛かる、ほんの僅かにでも動けば即座に撃つと確信させられるようなその状況を前に鏡もワカモも身動ぎすらせず…徐ろに、耐えきれぬと言わんばかりに、その引き金は引かれた。

 

 発射される弾丸、引き金を引いたのは両者共に同時、まるで示し合わせたかのように阿吽の呼吸にて放たれたその弾丸は、真っ直ぐと主の意向のままに突き進む。

 

 弾丸と弾丸、直線上に進むことしか出来ないそれら同時に放たれた二つは、まるで擦り合わせるように互いの隣を通過する、火花を散らして種別の違う弾丸が擦り合わせるように擦れ違う……そんな時だった、ソレがやってきたのは。

 

 

 ズガンッという爆音、擦り合わせた弾丸が擦れ違い、眼前の敵手へと向かおうとしたその刹那…上空から、何かが降ってきた。

 

 青色の何か、青空のような色をした球体…もしかしたら弾丸だったのかもしれないソレが鏡とワカモの放った弾丸を飲み込み、そのまま地面へと叩きつけた。

 

 丁度中間の辺り、互いの距離が一定に取られたその場所へと着弾したその青色は地面を砕き陥没させ、辺り一帯に土煙をばら撒いた。

 

 突如としてやってきた大規模な一撃、混乱するでも狼狽えるでもなく、何処から撃たれたと弾の飛んできた方向へと咄嗟に顔を向けた鏡の耳へと、それは届いた。

 

 

 

「───チッ…()()、邪魔が入りましたね」

 

 

 舌打ち、仮面の奥にある顔を忌々し気に歪め、弾の飛んできた方向を親の仇でも見るかのような瞳で睨みつけたワカモは、何処か白けたような様子で銃のボルトを引っ張る。

 

 

今日(こんにち)はここまで…次は、()()()()決着をつけましょう───」

 

 

 

───()()()()

 

 

 

 何処か別れを惜しむような声、情欲と殺意と本能が混ざりあったような棘々しさと甘えの入った声…そんな声と共に、ワカモは逃げ去るように走り去っていく。

 

 鏡へと背を向けて、全速力で駆け出していくワカモの姿…鏡はそれを、何処か呆然と見つめることしか出来ないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青空の下、何処かに存在する高層ビルの屋上…そこから見下ろすように、少女は居た。

 

 黒い髪を伸ばし、その手に持つ銃と呼ぶにはあまりに大きく重いソレを軽々と持ち上げながら、ふと息を吐いた。

 

 

「外しました…か……やはり()()のようにするには、まだ少し掛かりますね」

 

 ガシャコンっと稼働する銃、開かれた青色の輝きを封じ込めるように砲門が閉じ、眠りに落ちるようにプシューと煙を吐き出す…それに煩わし気に手を振った少女は、ただ一人呟き続ける。

 

「即興の目覚めに即興の狙い撃ち、データも集めきれていなければインストールもまだまだ不足…この状況で良くもまぁ彼処まで当てられたものです…やはり慣れと言うのは大事なのですね」

 

 閉じた砲門をさらりと撫でながら、少女はうんしょと言いながら銃を背負い込み、先程自身が弾丸を撃ち込んだ場所へと視線を向ける。

 

 

「…もう、逃がしませんよ───」

 

 

 

 

───私達の猟犬。

 

 

 

 そう言う紫に輝く少女の瞳は、何処か光を映していないように感じられた。

 

 

 





主人公について

 本人が気がついていないだけで、実際は三周目である。
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