クソボケな元先生は今日も行く   作:富竹14号

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 呪術を書くのが苦しくなってきたから帰ってきた、だか私は謝らない。


再会?

 

 

 

───おはよう、鏡

 

 

 なんてことない朝の挨拶、穏やかな笑みと共に向けられたその言葉に鏡は───

 

 

「…あぁ、おはよう、()()()()()

 

 同じように、なんてことないように、半ば脊髄反射でそう応えていた。

 

 視界に映る紫色の髪から花のような匂いがする、密着させた身体から感じる柔らかで温かな体温が秤アツコという人間の存在を立哨しているような気がした。

 

 欠伸を噛み殺しながら口に出した言葉、本当に何の意味も持たずに告げたその言葉に、アツコは何処か驚いたように目をまん丸と見開き…次いで、その瞳からポロポロと涙を溢し始めた。

 

 唐突に涙を流し始めたアツコ、声を押し殺し何かに耐えるようにただ涙を流すその突然の事態に、鏡はギョッと思考を混乱の淵へと叩き込まれ、あせあせとどうしたどうしたとアツコへと語りかけようとする…そんな鏡の事情なぞ知らぬと言わんばかりにアツコは半ば無理矢理作り出したような笑みを浮かべ…口を開いた。

 

 

「───会いたかった…ずっと」

 

 開かれた口から吐き出されたその言葉、喜びを精一杯に押し出したかのようなその声色に鏡は思わずと言ったようにその動きを止める。

 

 ぐすぐすっと言う小さな嗚咽の音、ポロポロとした涙から大粒の涙へと変化したソレを頬へと伝わせながら、アツコは絞り出すように言葉を放つ。

 

「ずっと…ずっと、会いたかった…ただ、こうして貴方の居る証を、ただ傍で感じていたかった」

 

 抱きしめられる、もう二度と離すまいと言わんばかりに強く強く抱きしめられる。

 

 押し付けられた顔からは表情を伺えない、ぷるぷると小刻みに揺れる身体からは、もう一度掛け替えの無いモノに巡り会えたとでも言いたげな、そんな感覚がした。

 

 何をするべきだろうか、何をしてあげるべきだろうか…そんなことを思考しながらも、鏡は無意識的にその行動を取っていた。

 

 抱きしめる、両手で包むようにアツコの身体へと手を回して壊れ物を扱うかのような繊細な手付きで、鏡はアツコを抱きしめた。

 

 ピクリとアツコの身体が跳ねる、思いがけないソレに出くわしたかのようなそんな態度も気にもせず、鏡はそのままアツコの頭へと手を伸ばし、ポンポンッと優しくその後頭部を叩く。

 

 落ち着かせるように、友達の親が子供にそうしていたように、鏡は自分でも分からぬその感情のままにアツコの身体を抱きしめ、宥めるように頭を撫でる。

 

 ギュッっと力が強まる、指が身体へと食い込みそのまま抓られるのではないかと言わんばかりの力で抱きしめられる、本気の抱きしめに若干の痛みを感じるが…そんなこと気にもせず、鏡は同じようにアツコへの力を強めた。

 

 より強く感じるように、その存在を実感させるように、強く。

 

 

 …それを受けたからなのだろうか、ずっと抱き着いて離れなかったアツコはふとしたように鏡の胸から顔を外し、顔を上げて鏡を見上げた。

 

 涙目だ、グシャグシャになった顔を見て後で拭いてやらなきゃなぁっと何処か気の抜けた事を考える鏡、そんな鏡の顔元へとアツコは急速に接近し、その首元へと抱き着いた。

 

 唐突な行動、抱きつかれた鏡はほんの少しの驚愕を面に出し、そんな鏡の姿にアツコは溢れんばかりの、それこそ花の咲いたような笑みを浮かべて…囁いた。

 

 

───今度は、ずっっと一緒だよ…?

 

 

 囁かれた言葉、隠しようもない歓喜とほんの僅かに滲んだ執着心、それらを一処にごちゃ混ぜにしたかのような、そんな感情の籠もった囁きを言うが否や、アツコはパタリと電源が落ちるかのように気を失った。

 

 掴んで手はそのままに、幸せそうな表情を浮かべたまますーすーっと寝息を立て始めたその姿に鏡は仕方がないなぁと言うような笑みを浮かべ……はたと気付いた。

 

 

「…あっちゃんって…なんだ?」

 

 自分は何時からそんな風にアツコの名前を呼ぶようになったのか…自分は何故、そんな違う呼び方をすることに対して何の違和感も抱かなかったのか。

 

 そう考えてしまえば潜り込んでしまうのが人間の性、そうして考えたソレは次から次へと疑問を生み出し、そうして思考は派生していく。

 

 そもそもどうしてこうもアツコは泣き出したのだろう…自分に出会えたから、ということは鏡にも分かっている…分かっているが、それでもこんな反応される程に仲を深めた記憶が無かったような気がするのだ。

 

 何の希望も見せなかった…そんな自分に対して、果たしてアツコは…アリウススクワッドと呼ばれた彼女達は、こんな風に喜びの感情を浮かべるのだろうか?

 

 噛み合わない、何かが擦れ違っているような…そんな感覚を鏡は覚えた。

 

 視線を動かす…己の傍ですやすやと寝息を立てているアツコの姿、安心しきった猫のように身体を丸めて寝入るその姿に不思議と笑みが浮かび上がってくる。

 

 

「…まぁ……良いか」

 

 

 どうでも良くなった、あれこれ考えたところできっとこの答えは出ないのだろうと思考を切り捨てた。

 

 とうでもいい、自分がどうであれ何であれ、結局のところは彼女達が笑顔であれば鏡としてそれで良いのだ、だったらもう小難しいことを考える必要は無い。

 

 何も変わらないし今まで通りで良い、来栖鏡という人間は、ただそれだけで良いのだ。

 

 身体を寝かせる、寝息を立てたアツコへと寝転がり瞳を閉じる。

 

 未だにアツコの手はガッシリと鏡の身体を掴んでいる、無理矢理離させようにも先程までのアツコの様子がそれを邪魔する…ならばもう、一緒に寝るくらいしかすることは無い。

 

 半ば思考放棄、面倒なことは彼方へとぽいっと投げ捨てるのが一番良い…そんなことを考えながら、鏡は意識を深く落としていき───

 

 

 

「……ズルいよ、姫」

 

 

 

 意識が落ちる直前、そんな声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───だぁぁぁッッ!! つっっかれたぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 寝転がる、大の字に腕を広げて男は寝転がった。

 

 プスプスと黒煙を上げるロボット…巷ではアバンギャルド君と呼ばれる存在の残骸を背後に転がせながら、男は疲労した身体をほぐすように大きく身体を伸ばした。

 

 頭頂部に突き刺さった刀と心臓部に突き刺さったもう一振りの刀、線を外れたキャタピラにバラバラに斬り刻むまれた四本の腕の残骸達がボロボロの状態で周囲に転がったその状態でのこの行動、肝が据わっているどころの話では無い。

 

 

「あぁ〜強かったぁぁ〜〜、前の十倍くらい強いとか何を考えてんだよあの人はさぁ…!!」

 

 疲れたーと虚しく辺りに響く疲労を訴えかける声、何処となく不満そうに言葉を吐き出す男の身体は傷こそ少ないが、それでも何処か黒ずんでいるようにも感じられた。

 

 パチパチと弾ける火花の音、光を失ったアバンギャルド君の瞳と力無く項垂れるその胴体、そうして辺りに広がる災害でも起きたのかと言わんばかりの破壊跡からは、それがどれだけの激闘であったのかをこれでもかと示していた。

 

 ぐ〜っという音が鳴る、男の腹から響いてきたその音に男は腹を抑えてため息をつき、万感の思いを込めたが如き言葉を口から吐き出した。

 

 

「腹減ったぁぁ……」

 

 

 空腹を告げる声が夜闇に虚しく溶ける、何処かふやけたような声色で吐き出したその言葉に呼応するようにより再びぐーっと腹から音が鳴る。

 

 より一層の空腹、激しい運動を行った後であるが故にその度合いは非常に激しく、今すぐにでも何かしらを食べたいという欲求が男の中から湧き上がってくる。

 

 腹が減った、腹が減った、腹が減った…思考の中にまで侵食してくる本能の呼び声に男は尚の事口に出す…腹が減ったと。

 

 

「…行こうかなぁ、柴関ラーメン」

 

 口から漏れ出たのは行きつけのラーメン店の名前、最初期の頃から割とちょくちょくとお世話になっていたその店へと足を運ぼうかと身体を起こし、空腹にはやる身体を宥めながらアバンギャルドへと突き刺さったままの刀を引き抜き、そのまま目的の飯屋へと足を運ぼうとする。

 

 ジャリジャリと破片を潰す音が辺りに響く、砕けて割れて小さくなった鉄の破片を踏み潰すような音を鳴らして、何処かダルそうな様子を隠しもせずに歩く男…その歩みが、唐突に止まる。

 

 ジャリッと破片を踏み締める音、男の物とは違う軽く軽やかな足音…それが響くその先で、男の視界に映るその先で、ソレはさも当然のように男を待ち構えていた。

 

 

 橙色の髪色に短いスカートのメイド服、その上からスカジャンを羽織るという奇抜な格好をした背丈の低い少女の姿。

 

 鋭い眼光にその下に見える黒い泣き袋、メイド服にスカジャンという奇抜な格好も、こと少女が袖を通せばそれこそが彼女の正装であると言わんばかりの凄味を醸し出していた。

 

 両手には二丁のサブマシンガン、その両方を結びつけるように繋がれた長い鎖が地面へと垂れ流しにされていた。

 

 その特徴的な姿、特徴的な武器を目にして、それが一体誰であるのかを理解出来ない人間は、きっと今この場に於いては存在しないのだろう。

 

 

 美甘(みかも)ネル…C&C所属、コールサイン『OO(ダブルオー)』…ミレニアムサイエンススクールに於ける、勝利の象徴。

 

 それが今、男の目の前に立ちはだかっていた。

 

 ポリポリと頭を掻く、何か悪いことしたかなぁっと脳内で今までの行いを振り返り…ふとしたように後方へと視線が行った。

 

 プスプスと煙を上げるアバンギャルド君、襲いかかって来たから撃退した挙げ句に破壊したその残骸…それを作成したのが何処の学園の所属であったのかを考えれば、自ずと答えは見えてくる訳で───

 

 

「…はぁ……不可抗力ですやん」

 

 

 自然と、刀を構えた。

 

 逃げられない、少なくとも腹の虫が収まっていたのならともかくとして、今尚もぐーぐーと鳴り響いている腹の虫をどうにかしながら逃げ切れる程、目の前の存在は…美甘ネルは甘くないことを、男は知っていた。

 

 ならばどうするか…一か八か、武器を破壊して撤退させる、或いは自身が逃げても直ぐに追跡が出来ない状態に追い込むしかない。

 

 予想通りの理由であれ、それとは別件の理由であれ、こうして美甘ネルが出てきた時点でミレニアムに於いての自身の立場は有罪判決を受けた囚人と何ら変わりない…だったらもう、弁明も何も意味を成さない。

 

 捕まったら面倒事盛り沢山だからなぁ…そんなことを考えながら、男は何処か自嘲気味な笑みを浮かべながら刀を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…逃さねぇ」

 

 

 男は…気付いていなかった。

 

 

「…もう、何処にも行かせねぇ」

 

 

 自身の考えが、思考が、何処までも的外れなものであることを…何処までも、ズレてしまっていることを。

 

「もう…誰も、何も、アンタには傷つけさせねぇ」

 

「…待ってろ、()()…今───」

 

 

 

───眠らせてやる。

 

 

  

 

 自身の知らぬ間に何が起こっていたのか、自身を巡る環境がどうなっていたのか…それら全て尽くを男は……()()()()()()は、何処までも知らぬままでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





来栖鏡

 一周目では親しい相手のことは基本的にあだ名で呼んでいた人、名前が被りそうだったら普通に片方を名前で呼んでいた(例:アツコとアズサ)

 一周目二週目問わずに近接戦が大の得意であり、その関係もあって一周目に於いてはある人物に師事を仰いだこともある。


 因みに、一周目でベアトリーチェを殺害している。


 
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