何にも考えないで書いた、批判は受け付ける。
活動報告にも書いてあるけど、ちょっと本気で苦しくなって来たので呪術は少しばかりお休み、暫くは別のモノを書いていくかもしれない。
モクモクとパンを食べる、チュンチュンと鳴くスズメの鳴き声を聞きながらただただ穏やかにパンを口へと運んで咀嚼する。
美味しいパンだと思う、カリッと焼けてて中身はふわふわ、市販のパンでとっくに冷めているはずなのに何故か出来立てのような感触がしてくる。
小麦の甘さと噛み応えのある食感、それでいて柔らかくてどんどん食べていけそうな不思議な感覚と共に腹へと収める、美食研究会が食べたら絶賛しそうだなぁ…なんてことを考えながら、俺はモクモクと手を進める。
「あぁっ!? 駄目ですミサキさん! それは私のなんです返してください!!?」
「…嫌だ、お腹空いた、あげない」
モクモクと食べる。
「食べないでください返してくださいぃ! それ手に入れるのに苦労したんです!! ちゃんと並んで手に入れた戦利品なんです!! だから───」
「近くに置いてたヒヨリが悪い…あむっ」
モクモクと───。
「うわぁぁぁん!! こんなの…こんなのあんまりです!! 世の中間違ってますぅぅ!!!」
「…もう、駄目だよミサキ、ヒヨリをいじめちゃ」
「…虐めてないし」
食べる……───。
「グスッ、グスッ…私の…私の苦労がぁ、三時間がぁぁ…」
…………………。
「…
グスッグスッと鼻を啜るヒヨリへとパンを差し出してみる、三時間並んだとか苦労したとか言っているその姿に同情心が湧き上がってくる、何がお前にそこまでさせたんだ…とか思いもするが、まぁそこら辺は後回しで良いだろう。
差し出されたパン、グズグズと蹲って拗ねるように下を向いていたヒヨリは差し出された物が視界に入ったその瞬間、先程までの意気消沈具合が嘘のようにシュバッと動き出し、俺の手元にあったパンを奪い取っていた。
もぐもぐとリスのようにパンを咀嚼するヒヨリ、その姿を何処か微笑ましそうに見つめるアツコとそれを隣で見据えながら何故か俺の肩に身を預けながらパンを食べるミサキ…そして、現在の状況をまるで把握出来ていない俺によって、この空間は生成されていた。
…いや、どういうことだってばよ?
話が飛んだようで混乱するかもしれないから、一応は説明しておくと…話はほんの三十分前まで遡る。
俺はアツコと寝ていた、意味も分からず自分でも知らないはずのアツコの渾名を口にしながら、ほんの少しの会話の後に俺はアツコと昼寝と洒落込んでいた。
そして次に俺が目を覚ました時…身体に重みを感じた。
ずっしりとした重さだった、まるで人一人がそのまま乗っけられているかのような感覚、心臓部分に添えられた柔らかい感触と耳元に届いてくるすぅすぅっとした規則正しい寝息…その時点で大概のことを察している俺が居た。
瞳を開いた俺の視界に映ったのは…涎を垂らしながら俺をベッドにして寝ているヒヨリの姿だった…叩き起こした。
そしてそこからなんやかんやあって、今に至る。
……いや、どういうことだってばよ?
意味が分からん、意味が分からん、意味が分からん。
何をどうしてそうなったとかそんなんじゃない、さも当然のように俺は受け入れられていた。
ヒヨリを叩き起こした、頭を叩いて起こされたヒヨリは悲鳴を上げながら俺の身体からずり落ちて地面に激突し、何処か寝ぼけた様子で再び俺の身体の上へと戻ろうとした所をミサキに頭を引っ叩かれていた。
そこからあれよあれよという間に飯の空間が生成されていった…本当にそれだけだったのだ、何かしら重要な会話があったとかじゃなくて本当にそれだけだったのだ。
だからなんでミサキがこんなスリスリと俺に寄っかかってきているのかなんて知らないし、なんでヒヨリが執拗に俺の膝に乗っかってこようとしているのかも分からない、そしてそんなヒヨリをミサキが猫みたいに追い払っている理由も当然知らない。
何が何だか分からないままに時間が過ぎていく、穏やかに幸せそうな笑みを浮かべたアツコの隣でただただゆったりとした時間が流れていくのを感じながら、ただ穏やかに。
別にいけないことではないのだ、俺の知ってるアリスク達よりかは遥かに幸せそうで、遥かに人生に希望を持っていそうなその姿に別に否定的な感情を持っている訳ではないのだ、ただ何でそうなっているのかが無性に気になるだけで。
外を見つめる、瓦礫の向こう側に映る景色が透き通るような青空で、まるで今の彼女達を目一杯祝福してくれているかのように感じられた。
そういえば俺がキヴォトスに初めて来た時もこんな青空だったよな…なんてことを考えながら、寄り掛かって来ているミサキの身体をそっと押して立ち上がろうとする。
なんてことはない、ただ外を見ようと思っただけだった、ただ一番最初に見た青空と良く似ていたからなんとなく空を見上げてみようと、そう思っただけだった。
「───何処行くの?」
瞬間、ガシリッと腕を掴まれた。
万力の力、決して逃さないという絶対の意思すら感じさせる程の握力、ただ一言の言葉と共にやってきたソレに俺は思わず息を飲んだ。
視線を投げればそこにいるのはミサキだった、俺のことを見上げながら俺の腕を掴んでいる、心底不思議そうな顔で何処に行くのかと率直に聞いてきたその瞳はただひたすらに俺を見つめていた。
「いや、外に───」
「行く必要無いよね、居てよ此処に」
腕の力が強まるのを感じた、何処か断定的な口調で俺の行動の意味を必要が無いときっぱりと切って捨てたミサキはそのままグイッと俺の身体を引っ張った。
引き寄せられる身体、あのミサキからは想像も出来ない程に強い力で引き寄せられた俺の身体はそのまますっぽりとミサキの懐に収まってしまっていた。
体温を直に感じる、柔らかい女性特有の匂いと感触、ミサキの懐へと収まった俺の身体をミサキはぬいぐるみでも抱きしめるかのようにぎゅっと両手を回す。
「ねぇ…何処にも行かないでよ、ずっと私達と居てよ」
耳元から直接伝わってくるミサキの声、まるでドロドロに溶かしたチョコレートのような甘い甘い声が俺の身体を突き抜ける。
これはマズイ…そう思って咄嗟に離れようとしてみても、ミサキに力強く抱きしめられた今の状態では到底逃げられそうになかった。
「今度はちゃんと私達との約束を守って、ちゃんと…責任を取って」
耳元で囁かれたのは何もかもを投げ出したくなるような甘さ…ではない。
囁かれるのはじっとりした重さ、降り注ぐ雨の中で生まれる湿度をそのまま具現化したのではないかと思ってしまう程のソレが耳元から直に伝わってくる。
先程の甘さとは違う、本来の精神性を純然に表に出してきたかのような感覚…ミサキがそこにいる。
そこからは無言が続いた、まるでお気に入りのぬいぐるみに抱きつくようにただただずっと俺に抱き着いたままの時間が続いて…ふとしたように、俺は視界を動かした。
暇だったのかもしれない、ずっと抱きしめられたままの現状に耐えきれなかったのかもしれない…何方にしろ、俺は目線を動かした、そしてそうして動かした先に居たのは───
「───」
光の無い瞳でジッと俺を見つめる、ヒヨリの姿だった。
赤が、バラ撒かれている。
チロチロと流れる赤い液体、ステンドグラスによって照らされた何処か薄く暗いその空間の下で倒れ伏した女の身体から、赤は流れ出していた。
倒れ伏した赤い女、目玉の付いた翼で埋め尽くされた目玉のような頭に赤い肌、長く黒い髪を赤に浸しながらぜぇぜぇっと荒く息を吐き出すその女は…ベアトリーチェと呼ばれたその存在は、その瞳を怨嗟に染めながらその瞳を見開いた。
「何の…つもりですか…!?」
それは問いかけだった、目の前に立つ存在に対する。
それは疑問だった、自身の手駒であったはずの存在に対する。
徹底的に反骨心を折ったはずだった、徹底的に反乱の芽を潰していたはずだった、徹底的に逃げる為の道すら封じていたはずだった、反乱なぞ起きても問題ない状況に落とし込んだはずだった…なのに、なのに───
───何故、自分はこんな目に遭っているのだろう?
腹に空いた穴、撃ち抜かれた肉体から流れ出る血が己から力を奪っていく…そんな自分の状況なぞどうでもいい物を見るかのような瞳で、
「何のつもり…? 何のつもりだと…? …分からないのか、マダム?」
コツリコツリと靴音を鳴らす、倒れ伏したベアトリーチェの元へと冷たい声を吐き出しながら女は近づいていく。
何故分からない? 何故理解出来ない? 何故こんなにも当たり前のことをさも異常であるかのように語る? …心底そう感じているのだろう、その瞳が放つ光は何処までも冷たかった。
「私は…私達は、お前がやったことを忘れていない」
「私達は、お前に受けた痛みを忘れていない、お前に与えられた虚しさを忘れていない、お前に刻み込まれた絶望を忘れていない」
「私達は…私は、お前に対する憎悪を忘れていない」
矢継ぎ早に言葉を吐き出す、その心中に存在するドス黒い感情を吐き出していく。
お前に対する恨みを忘れていないのだと、お前の所業を忘れていないのだと、お前の齎した苦しみと絶望を私達は忘れていないのだと…そんな言葉を、何処までも冷たく女は吐き出していく。
「…あぁ…
そして女は、それら全てをどうでもいいと切って捨てた。
その瞳を見開いたベアトリーチェの姿に女は薄く嗤う、冷たく弧を描きながら女は心底どうでも良さそうに言葉を続ける。
「お前への恨みなんてどうでもいい、お前に与えられた全てがどうでもいい…痛みも絶望も苦しみも、心底全てがどうでもいい」
ベアトリーチェが理解出来ない物体を見るかのような目を女へと向ける、心底から理解出来ない化物を見るかのような瞳で女を見る、理解の外側にあるナニカを見るような目でベアトリーチェは女の姿を捉えた。
「全て纏めてどうでもいい…あぁ、だが───」
───お前は私達からアイツを奪おうとした。
瞬間、女はベアトリーチェの足を撃ち抜いた。
激痛、唐突に鳴り響いた銃声とそれによって撃ち抜かれた自身の足、逃げる気も逃げるだけの力も待たなかったはずのベアトリーチェに更なる苦痛を押し付ける。
「お前は色彩を喚ぼうとした、お前は色彩を呼び寄せてアイツを殺す気で居た…それだけだよ、お前がそうしてのたうち回っている理由は」
銃声が響く、今度は逆の足だった。
銃声が響く、今度は左腕だった。
銃声が響く、今度は右腕、続けて銃声が響く、狙いは太腿、
銃声が響く、銃声が響く、銃声が響く、銃声が響く、銃声が響く、銃声が響く、銃声が響く、銃声が響く。
撃った、撃った、撃った…出来る限り、死なないように撃った。
ベアトリーチェはのたうち回った、床に倒れ伏していた…今度は腹を撃たれた痛みと脱力故ではない、物理的に立てなくなっていた。
視界が歪む、視界が暗くなる、死が近づいてきているのを直に感じながらベアトリーチェはその口の奥にある怨嗟を有らん限りの力で叫んだ。
「
───ダァァンッ!!
銃声が響いた…薬莢が転がる。
「───さようなら、マダム」
頭から弾け飛んだ、かつてベアトリーチェと呼ばれた支配者であったモノへと冷たく言葉を吐き捨てた女は…錠前サオリは、そんな一言と共にかつての支配者へと背を向け、暗闇の奥へと歩き去って行った。
その頭上に輝くヘイローは、ドス黒い青へと染まっていた。
アリスク
一周目のベアトリーチェ殺害直後に出会ったよ、色々と頑張って一緒に乗り越えてきた実績があるよ、実質的な家族だったよ。
一周目の最後で鏡が目の前で自殺する所を目撃しているよ、病んだよ。
ベアトリーチェ
一周目で鏡に物理的に頭からバクリッといかれた、本人曰く腐った魚みたいな味だったらしい。