舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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 ちょっと別作品の方が詰まっていたので息抜きに……。


舞園「超高校級のヌケーター?」
1時間目:滑ッテイル


「(ここは一体……)」

 

 とある教室にて、舞園さやかは目を覚ました。

 窓と言う窓は分厚い鉄板で覆われており、アイドルとしての音感を頼りに耳を澄ませてみれば、ダダダダ。と、何かが爆発している様な音が聞こえた。

 どうして、自分はこんな所にいるのだろう? 制服のポケットを探っても携帯は見つからないし、ここが何処か、今が何時なのかも分からない。

 恐る恐る教室の扉に手を掛けると抵抗なく開いた。すると、ガラガラと音が聞こえて来た。何事かと、音のした方を見れば。スケートボードに乗った男子が廊下を爆走していた。

 

「(アレ? 今のは……)」

 

 校則違反どころか常識すら見当たらないバカとしか形容するしかない人間だったが、彼女には一瞬だけ見えた男子の顔に心当たりがあった。

 

「ちょっと。待って下さい!」

 

 彼女の問いかけに応えるようにして、男子は踵を床に擦り付けて減速した後、停止した。パーカーのフードを脱いで、ゆっくりと振り向いた。

 

「あ。やっぱり! 苗木君ですよね! ほら、根黒六中で同級生だった舞園さやかです!」

 

 こんな訳の分からない状況で知り合いに出会えることがどれだけ安心できることか。彼女の言葉を肯定するように、苗木はゆっくりと頷いた。

 

「ここは一体何処なんですか? 苗木君は、何か知っていますか?」

 

 彼は首を横に振った。何も知らないらしい。その割には元気に爆走していたなと言う、無法ぶりが印象に残っていたが。

 

「私達以外に誰か見掛けませんでしたか? 事情を知ってそうな人とか」

 

 すると、今回は心当たりがあったのか、手招きのジェスチャーをしてみせた。

 これには彼女もパァっと明るくなった。直接、事態の解決に結びつく訳でないにしても、同じ様な境遇の相手が他にもいるというなら心強い。すると、心にも幾分か余裕が出来た気がした。

 

「正直、苗木君がスケートボードを始めたって意外でした。結構、大人しそうな印象があったので」

 

 記憶の中にある彼は、心優しい普通の少年でしかなかった。そんな彼がスタイリッシュな印象のあるスケートボードを嗜んでいることには驚いた。先の所作を見るに、覚えたてと言う訳ではなく、ある程度の技能は習得している様に見えた。

 彼女に対する返答として、苗木は脇に抱えていたスケートボードを差し出していた。

 

「え? いや、私はちょっと。怪我とかしたら番組出演とかステージにも支障が生じますし……」

 

 スッと無言でスケートボードを下ろして、再び脇に構えた。特に惜しそうにもしていないのがやや不気味でもあった。……と言うか。

 

「あの。ひょっとして、怒っています? さっきから全然喋っていませんし……」

 

 先程から、苗木は一言も発していなかった。表情やジェスチャーだけでコミュニケーションを取ってはいる物の言葉らしい言葉を発していない。

 かと言って、彼が怒っている訳ではないということは舞園にも伝っていた。ある程度の知見がある彼女は様々な可能性を思い巡らせていた。

 

「(もしかして、言葉が喋れなくなった?)」

 

 自分が知らない間に脳機能に障害を負ってしまったのかもしれないし、あるいは過度なストレスなどで言葉を失ってしまったのかもしれない。

 ただでさえ、こんな訳の分からない状況に置かれているのだ。少々、浮かれてしまったと思い、彼女は自省していた。

 

「すいません。知り合いに会えたのが嬉しくて、少し浮かれちゃったみたいで」

 

 彼女の言うことを肯定するように、苗木は首を縦に振っていた。

 やがて、彼の案内に従い玄関ホールへと辿り着くと、そこには十数人程の男女が居た。出入口と思しき扉はシェルターの様になっており、天井からは物々しい銃火器の様な物がぶら下がっている。

 真っ先に前へと歩み寄って来たのは、軍服を彷彿とさせる白亜の学生服を纏った少年だった。

 

「苗木君! 彼女で最後か!?」

 

 声量の調節が下手なのか、クソデカボイスを撒き散らす少年の問いかけに苗木は頷くばかりだった。舞園も口を開いた。

 

「あの、ここにいる皆さんは? あ、申し遅れました。私、舞園さやかと申します」

 

 数人の男子が感嘆の声を上げた。真っ先に彼女に声を掛けたのは、オレンジ色に染めた髪をワックスで固めて仕上げた、軽薄そうな男子だった。

 

「マジで? アイドルと知り合いになれるとか、マジで運も向いて来たかも! オレ、桑田怜恩! よろしくな!」

 

 その名前には彼女も聞き覚えがあった。超高校級の野球選手として、高校野球の話題に出ない日が無いとまで言われるほどの選手だ。

 他の男女達も、特定の分野においては有名人ばかりであり、いずれも『超高校級』と言う称号を持っている者達ばかりだった。

 

「そして、この無口な彼は苗木誠君だ! 恐らく、超高校級のスケーターだと思われる!」

 

 口を開かない彼の代理として、超高校級の風紀員である石丸清多夏が代弁した。彼の手には苗木から預かったと思しき電子手帳が握られていた。

 名前や身長など簡易的なプロフィールはさておき、注目するべきは『特記』と書かれた項目である。

 

「『超高校級の???』 …故障でしょうか?」

「隠す必要はないってのにね。もしも、ソイツが超高校級の剣道家とかだったら、詐欺よ。詐欺」

 

 シニカルな言動を吐いたのは、みつあみお下げに丸眼鏡と言うクラシックな文学少女を体現しながらも、纏った陰気さが全てを台無しにしている、超高校級の文学少女。腐川冬子だった。

 未だにミステリアスな雰囲気を漂わせている苗木であったが、彼と並んで同じ様な雰囲気を纏った少女がもう1人。

 

「……」

 

 コートの様な学生服と厚手の手袋。色素の薄い毛髪と肌も相まって神秘さすら感じられる彼女は自身の名前を『霧切響子』と言っていた。それ以上の情報は何もなかった。

 各々の自己紹介を済ませた所で分かったことがある。ここは、全国の才気あふれる少年少女を集め養成する為の機関『希望ヶ峰学園』だということ。全員が、今に至るまでの経緯を覚えていないということ。

 

「え? もしかして、あたし達。誘拐されたってこと?」

 

 ここに居る者達の大半が思い当った懸念を口にしたのは、ティーンエイジャーのカリスマ的存在とも言える、超高校級のギャル。江ノ島盾子だった。

 だが、腑に落ちる要素は多かった。まるで外に出ることを許さないかのような閉鎖ぶり。外への連絡手段がないことが、皆の不安を加速させた。

 

「確かに。あり得るかもしれませんわ。超高校級の……等と持てはやされる程の者達は誘拐する対象としては十分に価値がありますからね。だとすれば、相手は相当に巨大な組織になりますね。どうなることでしょうか?」

 

 黒髪ツインロールにゴシックロリータのファッションに身を包んだ少女、超高校級のギャンブラーであるセレスが、皆の不安を煽る様に口にした。

 空気が緊張していく中、キーンコーンカーンコーン。とチャイムが鳴った。すると、壁面に埋め込まれていたモニタに映像が映った。

 

『あー、マイクテストテスト。校内放送です。皆さん、聞こえていますか? 聞こえていたら、体育館に集合してください!』

 

 こんな状況にそぐわない程に明るく能天気な声。ともすれば、ここに居る者達の神経を逆撫でしかねない物でもあったが、真っ先に動き出した者がいた。

 

「「苗木君!?」」

 

 舞園と石丸が同時に叫んだ。苗木は走り出すと同時に前面に置いて滑り出したスケートボードに足を乗せて、床を蹴って加速し始めた。

 

「ランプッシュですな。某少年探偵もやるアレですぞ」

 

 一連の所作について解説し始めたのは意外な人物だった。

 肥満体の見た目通り、サブカルチャーの造詣に深い―――早い話がオタクな少年。超高校級の同人作家。山田一二三が自身の眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら言った。

 

「ここに居ても何も始まらん。我らも向かうとしよう」

 

 自分達も付いて行くべきかと迷っている中、真っ先に声を上げた人物にはすさまじい程の威圧感があった。

 筋骨隆々と言う言葉を体現し、身体には幾つもの傷痕が見える。積んで来た修行の激しさから泰然とした雰囲気を纏った女子高生であり超高校級の格闘家。大神さくらも頷いていた。

 

「そうだね。もしも、誘拐されたとかでいうことに従わなかったら……とかだったら、怖いし。あたしも行くよ」

 

 江ノ島も同意したことにより皆で体育館に向かうことになった。

 着いた先の体育館はよく手入れのされた物だった。そんな状態の床を遠慮なくスケートボードで滑り、傷めつけるアホの姿も確認して舞園達は安堵していた。

 

「コラー!! 折角手入れしたのになんてことしてくれるんだ!!」

 

 スピーカーから、お叱りの声が飛んで来た。恐らく、先程召集を掛けた者と同一人物だろう。演台から小柄な物が飛び出して来た。

 白と黒のツートンカラー。園児ほどの身長しかなく、クマをディフォルメした可愛らしいマスコットめいた存在が居た。

 

「ぬいぐるみ?」

 

 もしも、何の予兆も無く現れたら不気味な存在だったかもしれないが、先んじて非常識な行動をしていた不可思議な存在が居たおかげか、一同に走った動揺は少なく、皆の中で一際小柄な生徒。超高校級のプログラマーの不二咲千尋は、技術的アプローチに思考を走らせていた。

 

「入学早々、札付きの悪がいるとなると。君達の学園生活も気の毒に思えるよ。折角、これだけの希望を集めたのにさ! 僕は学園長のモノクマです。よろしくね!!」

「入学早々って。ひょっとして、これって入学式なんですか?」

「そうだよ。この希望ヶ峰学園に入学して来た皆は、人類にとっての希望なんだよ!」

 

 表情豊かに喋る様子に、えも言えぬ不快感が募って行く。自分達が希望だというのなら、どうして監禁するような真似をするのか?

 

「だとしたら、問いたい! どうして、この学園は他に人がいない? おおよそ、学園らしい様子だとは思えないが!」

「それはね。お前らが外のメタクソ汚い世界に染まってしまわない為です。アイドルやっている、舞園ちゃんとかなら分かるんじゃない?」

 

 皆を代表して石丸が投げた質問を、モノクマが舞園目掛けて打って来た。彼女としても分からない話ではない。

 アイドル関係の汚い話はゴシップを始めとして、誹謗中傷など多岐にわたる。それで心を病んだりして来た者は幾らでも見て来た。

 

「分からなくはないですけれど。だからって、こんな真似をしなくとも……。それに、この中にはお仕事を持っている人だっている筈です。閉じ込めた方が、逆にその人の才能を潰すことになりませんか?」

 

 毅然として言い返した。そして、筋も通っていた。才能は発揮されてこそ磨かれる物であり、仕事などで使われる機会が無ければ錆びて行くばかりだ。外に出さない。ということは、即ち才能を枯らしてしまうことに他ならない。

 

「良い返しだね。役者も行けるんじゃないかな! でも、ダメ―! 皆を出す訳にはいかないんだ。この学園内だけで共同生活をして貰うんだからね!」

「ということは、あたし達が卒業するまでずっと共同生活しろってこと?」

 

 江ノ島が眉間に皺を寄せながら言った。そうなると、少なく見積もっても3年。多感な時期の少年少女にはあまりに長い拘束だ。

 あまりに傍若無人だ。抱いていた不安が怒りに変わっていく者もいる中で、モノクマは言った。

 

「期限なんてないよ? 一生だよ。一生!!」

「ふざけんな!!」

 

 真っ先に声を上げたのは桑田だった。それに続いて、男子、女子問わずにシュプレヒコールが飛び交う。気の弱い者や一部は黙ったままであり、未だにスケートボードで体育館の外周を滑り倒している苗木のことを意識に留めている人間は誰もいなかった。

 

「全く。文句の多い現代っ子ですね。分かりましたよ。外に出る方法を教えて上げます。それはね―――誰かを殺すことだよ」

 

 瞬間、ピタリと罵声が止んだ。スケートボードのローラー音だけが妙に大きく聞こえる中、学ランに身を包んだ長身の男子が壇上へと上がった。

 

「ふざけんのもいい加減にしやがれよ……!」

 

 リーゼントヘアーにドスの利いた声。若くして、周囲を震え上がらせる威圧感を纏った彼は超高校級の不良。大和田紋土だ。

 彼はモノクマを掴み上げると指に力を込めた。バキリと言う音が鳴り、ボディにヒビが入る、等間隔で機械音が鳴り始めた。全員が困惑する中、2人が動いた。

 

「間に合わな……」

 

 霧切は数瞬後、何が起きるのかを理解して顔を歪めていた。

 そんな彼女達の脇を擦り抜けて、スケートボードの後ろ端(テール)部分を叩き、先端(ノーズ)と共に跳ね上がる、オーリーと呼ばれる技術と共に突っ込んできた苗木は大和田を突き飛ばした。瞬間、モノクマは大爆発を引き起こした。

 鼓膜を劈くほどの痛み。周囲に撒かれた火薬の匂い。耳に走る痛み以外、何が起きたのか分からなかったが、暫くして。遅行性の毒の様に、ゆっくりと何が起きたか理解した。せざるを得なかった。

 

「いやぁああああああ!!」

 

 舞園が言葉にならない叫びをあげた。あんな爆発に巻き込まれた人間が生きている訳がない。突き飛ばされた大和田も、びっしりと冷や汗をかいていた。

 

「マジかよ……」

 

 死んだ。目の前で人が死んだ。どうしてこんなことが起きてしまったのかと言うことを考える間もなく、演台には新しいモノクマが出現していた。

 

「あーあ、学園長の僕に手を上げるから。可哀想な苗木君。いつだって、不良の狼藉の犠牲になるのは彼みたいな善良な小市民なんだ」

 

 大和田の短慮だけではなく、未だに夢物語や番組の企画の様に思っている生徒達に思い知らせるように言った。

 全員の思考が凍り付く中、ジャージャー煩い音が聞こえて来た。体育館の入り口を見れば、先程吹っ飛んだはずの苗木がスケートボードと共に再入場して来ていた。

 

「は?」

 

 モノクマが素っ頓狂な声を上げた。今まで、この混沌とした事態を掌の上で転がして楽しんでいた彼としても、予想できなかったかの様な呆けぶりだった。

 特に何事も無かった様に、再び体育館を滑り回っていた。誰もが困惑している中、苗木はモノクマへと近寄って来た。

 

「な、なんだ!? 仇討ちRTAか!?」

 

 シュッシュとマスコットっぽい見た目でやったら可愛らしさしかないファイティングポーズを取る中、苗木はポケットから電子生徒手帳を取り出して渡していた。コレを受け取ったモノクマは画面に目を走らせて、納得していた。

 

「あ、故障しているのね。ごめんごめん、直しておくよ。パパっとホイ」

 

 修理するにしてもテキトー過ぎるだろ。と、周りの者達も思っていたが、苗木は再度受け取って壇上から降りて行った。

 モノクマに劣らず不気味な存在であったが、舞園が慌てて駆け寄って来た。そして、彼の体に怪我がないことを確認すると崩れ落ちた。

 

「一体、何が起きたんですか?」

 

 やはり、苗木は答えてくれない。代わりに手を差し出していた。

 彼の手を取り立ち上がろうとした拍子に、彼のポケットから修復された電子手帳が落ちた。本来、人の個人情報を盗み見るのはよくないことだろう。だが、何が修復されたのかと思って、舞園は覗き込んでしまった。

 

「『特記』」

 

 先程までは『???』と表示されるばかりだったが、今はしっかりと日本語が表記されていた。超高校級の……。

 

「ヌケーター?」

 

 一瞬、誤字かと思った。だが、苗木が納得していた様子を見るにこれで正しいのだろう。スケーターなら十分に理解できた。だが、ヌケーターなんて聞いたことが無い。

 まるで意味が分からなかったが、とりあえず舞園は差し出された腕を取って立ち上った。自分が知らない中学時代に何があったというのか?

 誰が自分達を閉じ込め、この様な凶行に走らせようとしているのか。自分達は日常に戻れるのか。そういった巨大な不安を伴う疑問の前には、あまりに細やかな物だったが、逆に救われたような気分になっていた。

 

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