「だからね。ホラーには誠実さが求められるんだよ迫り来る未知や恐怖に対して、いかに登場人物達が無力であるか。と言うことを示した上で展開されるから、視聴者も臨場感を持って鑑賞することが出来るんだよ」
「分かる気がする。絶望も似たようなモンだからね」
なんで、コイツらまだイルブリードの話を続けているんだ。と霧切は思わざるを得なかった。
どうやら不二咲が持っていた隠れイルブリード熱は相当な物であり、語っても語り尽くせぬ様子は、同級生の超高校級の同人作家を彷彿とさせた。
「最初から安全がパイされた状態のホラーとか、視聴している時点で『どうせ大丈夫なんだろうな』って、考えが一番のノイズになるんだ。この点から言って、やっぱりさっきの先輩達のイルブリ巡りは『殺人デパート』は非常に評価が高いと言わざるを得ないよね」
「そうそう。他のアトラクションは皆が冷静過ぎるんだよね。あのそばかす先輩やヒヨコちゃんみたいにビビりまくってくれないと」
「(治療対象の患者が無事でいるのが気に食わないのかしら……)」
ひょっとして、この2人が黒幕なんじゃないだろうか。というあり得ない予想が霧切の中に過った。
最初は水を差すのも悪いと思っていたが、あまりに未来機関の一員である自覚の欠けた発言に注意を促そうと思っていた矢先のことである。
『3人とも。モニタリングお疲れ様。食事を持って来たよ』
胸(?)に掛かっている電光ボードに意思を表示させつつビタンビタンと赤身を躍らせながら現れたのは、一枚肉と化した学園長こと霧切仁だった。
押して来たカートには未来機関で採用されている固形状の糧食と、現在では希少な食料となってしまった香ばしい焼肉が添えられていた。
「あ。仁さん」
「不二咲さん。これは自分を霧切仁だと思いこんでいる肉よ」
『人間なんて意思を持った肉みたいな物だしね』
この奇妙奇怪な生物を父だと思いたくない霧切から辛辣な言葉が浴びせられたが、一枚肉が装着している電光ボードにはシニカルな返事が表示されるだけだった。
「これが本当の肉親だね」
「妹さんの苦労が偲ばれるわ」
人の堪忍袋を刺激することに関しては超高校級の煽リストの才を見せていた。
霧切の皮肉にも反応せず、戦刃は装着している翻訳アーマーの呼吸口を開けて、運ばれて来た肉を口に運んでいた。不二咲が躊躇いつつも、霧切に耳打ちをした。
「ねぇ。霧切さん、あの肉の原材料って」
「目の前の化け物を見なさい」
探偵特有の観察力が無くても注意深く見れば、気付くことが出来るだろう。
仁(肉)の端っこが少し欠損していることに。文字通り、目の前に並ぶ肉は身を削った結果なのだと。
「うん。美味しい!」
人肉ならぬ仁肉の食味に対し、弾んだ声を出す彼女は正に超高校級の絶望。そんな彼女のコメントに喜ぶようにして、身をくねらせている一枚肉を見た霧切も絶望しそうになったが、コイツらに構うよりも77期生の治療光景を見た方が有意義だと感じたのか、彼女は糧食だけを手に取り口に運ぼうとして異常に気付いた。不二咲も同様だった。
「ねぇ、霧切さん。この糧食、なんか脂臭くない?」
「多分、あの一枚肉の油が飛び散っているのね。いらないから上げる」
「僕もいらないよ……」
「じゃあ、貰うね」
2人が遠慮がちにカートの上に戻すと、戦刃が喜んで手に取っていた。
皿の上に残っていた仁肉の油を回収する様に塗り付けながら口に運んでいる様子はこの世の終わりを連想させるほどにファナティックだった。
『教師と言う聖職者として、生徒の血肉になる様な事が出来ているのは喜ばしいよ』
「ねぇ、不二咲さん。ホラー定番のネタだけれど、やっぱり現実が一番怖くない?」
「本当はそう言うオチって好きじゃないんだけれど、目の前で見せつけられたら頷くしかないよね。仮想世界の方でも大分おかしい光景が繰り広げられているのに」
仁の寝言を全て無視して、2人が視線をやった先。第5の島と呼ばれるサイバーパンク島に林立していたハズのビル群はことごとくが消滅して、焼け野原となっていた。
~~
周囲のビルや建物は概ねが倒壊し、瓦礫の山となっている中。皆の目の前にある建物だけは無事だった。
「この建物に、あのイカれた女が居るってことだけれどよ」
九頭龍は巨大な工場の入り口を見た。扉にはロックが掛かっている訳でもないが、何が待ち受けているかは分からないので日向達を先に行かせた。
中ではベルトコンベアが稼働しており、何の部品か分からない物が流れている。自分達が今まで捜索して来た工場群と変わらない光景の様に思えた。
「モノウサ。ここで何を作っているかとか分かる?」
「うーん。なんだろう。普通はパーツだけじゃ分からないんだけれど、妙に胸騒ぎがするんだよね」
「え? も、もしかして。私達を吹っ飛ばす爆弾のパーツとか、ですかぁ?」
罪木の発言は不安を煽る物だったが、腑に落ちる点は多かった。
あんなデカイ物を態々外から運ぶより、内部で作り上げた方が用意するのも容易だろうし、何よりこの工場だけ無事だったことが拍車をかけていた。
「そりゃ、私達を吹っ飛ばすものが吹っ飛ばされたらどうしようもなくなるもんね」
小泉も頷いていた。極端な話、生田ことみを見つけられなくても爆弾さえどうにかしてしまえば、当面の危機は乗り越えられるからだ。
「もしも、そうだとすれば。ここにある物を破壊すれば、それは同時に我々の崩壊にも繋がりかねんか」
田中の言葉に反応したのか、ヌケーター達はそっとベルトコンベアや機材から距離を取った。
「でも、逆にここにあるパーツを破壊すりゃよ。爆弾が完成しないってこともあり得るんじゃねーか?」
「いや、映像を見ていた限りは完成しているみたいだし、僕達が居ない間も稼働していたなら、既に相当数が作られているハズだよ。今更、止めた所で意味は薄いと思う」
終里の提案に狛枝が待ったをかけた。やはり脅威を目の前にすると排除したくなる心理に駆られるのも無理はなく、むしろ理性で制動できる狛枝の方が珍しいとも言えた。
ベルトコンベアの流れに沿って進んで行く。流れていたパーツは、また別のレーンから流れて来たパーツと組み合わさって行く。
「千秋ちゃん、凪斗ちゃん、モノウサちゃん。コレって、材木人間のアトラクションの流れと似ている様な気がするっす」
ベルトコンベアを追いかけて行くと、地下へと降りて行く階段が見つかった。
確かに、この造りは材木人間の作りと酷似している。この事から、七海が何かしらの推測を働かせていた。
「第2の島ではイルブリ、第3の島ではイルブリ劇場、第4の島ではイルブリード。そう考えたら、〆となるこの島がイルブリードの根幹になっているパターンは自然な流れだよね」
「よし。降りた先にいる奴を殺そう!」
モノウサは殺意をみなぎらせ、佐藤もまた怒りに震えていた。
「ゆるせない。私達をイルブリードなんて物に巻き込んで殺そうとしたなんて! どんな思いで日向や私達が、あの恐怖のアトラクションを駆け抜けたと思っているの!?」
「いや、佐藤さんノリノリでしたよね?」
敢えて、自分の名前を出さない所にこっすい物を感じずにはいられなかった。
罪木の脳裏には卵を射殺したり、刑務所から嬉々として脱出しようとしたり、子供が死なねーかなーとか言っていたサイコパスめいたムーヴをしていた光景が過っていた。
「でも、ここまでイルブリード尽くしだと。あの生田って奴はひょっとして、イルブリードのスタッフなんじゃないの? あんなストーリーを考えられる位にイカれている奴なら、私達をこんな目に遭わせる位するでしょ?」
西園寺の言葉に全員が頷いていた。むしろ、これでファンでも関係者でもないなら、あまりに恐ろしい話だった。
地下へと降りて行くと、七海の予想が肉付けされて行くように。コンベアから流れて組み立てられた物が、見覚えのある形を取っていた。
『木こりだよー。木こりだよー』
それは、材木人間の工場で見た件の殺人きこりロボットだった。プログラミングされた鳴き声を上げながら、何処かへと消えていく……。
考えてみれば、隣にイルブリード園が存在する島があるのだから、ここで製造されているのは極自然なことだったと言えるかもしれないが。
「日向君。ヌケーターの皆。遠慮なくぶっ壊そう?」
モノウサがベルトコンベアから流れて来る不快な物を指して、生徒達に指示していたので、七海達が慌てて止めていた。