全員が生田の告白に戸惑っていた。自分達は治療と称した処刑台に上らされているのではないかと。罪木が遠慮がちに手を挙げた。
「生田さんは失敗してそうなったんですよね? 私達が入っているのはちゃんと改良されているんですよね? モノウサさん?」
控え目に言っているが、犠牲となった生田に対してはとんでもない煽りである。罪木は意図して言った訳ではないが、これに対して喜んで反応したのはモノウサである。
「罪木さんは中々根性座っているよね。折角、身をもって警告してくれた相手に対して、私達の方は改良されているから。なんて返し、僕でも出来ないよ!」
「え!? いや、私そんなつもりじゃ……」
自己保身に精一杯で、他者を思いやる気持ちが一つもない故の発言である。モノウサの煽りに、更に油を注いだのは西園寺だった。
「わぁい! 先輩達が身を張ってくれたおかげで、私達は安全に使えるってことだね! ありがとう! 私達はこんなグロイ目に遭いたくないしね!」
相当に鬱憤が溜まっていたのだろう。彼女の言葉は悪意と敵意に満ちた物だったが、小泉がしゃがみ込んで彼女と目線を合わせて言った。
「日寄子ちゃん。言い過ぎ」
なんで? という疑問すら許さない位に、小泉は彼女のことを真っすぐに見ていた。罰が悪くなったのか、そのまま二の句は告げずにいた。
「で。モノウサ? 結局、僕達が入っている装置は改良された物なの?」
罪木の問がはぐらかされたので、改めて狛枝が問うた。先程まで楽しそうにしていたモノウサは、ここに来て難しそうな顔をしていた。
「まず、装置は改良されています。理論上はイケます。でもね、脳って言うのは、凄く繊細な場所で、いざ実際にやった時に何が起きるかは分からないんです。だから、確実に大丈夫とは言えません。僕の権限で喋れるのはこれだけです」
「免責事項を話しとるようじゃな……」
だとしても、引率者としてはそう言うしかない。と、超高校級のマネージャーである弐大としても理解は出来るのだが、納得できるかはまた別だった。
『さっきまでは殺すとか、引導を渡すとか言っていたけれど。本当は皆の気を惹きたかっただけなの。それで、皆が無事に済む方法を提案して上げようと思ったんだよ。その方法は……』
「新世界プログラムを強制終了させる。でしょ?」
未来機関のメンバーである七海達も反応できずにいる中、モノウサだけが詰まらなさそうに言った。
「術式が完成する前に舞台を降りると言うことか。だが、その場合。演者は稽古前の状態に戻ってしまうのではないか?」
「つまり。超高校級の絶望に」
田中の考えを佐藤が補強した。自分達が以前まで何をして来たかという情報は、ここに来るまでに散々見せられた。世界は自分達を許さないだろう。
『そもそもさぁ。治療とか称しているけれど、私達をそこまで追い込んだ奴らは誰? 都合が悪くなったら、傷つけられた人格を塗り潰すってさぁ。そんなこと許されるの? 私達が抱いた憎悪を無かったことにして元通りってワケ? 先にやって来たのは……どっち?』
超高校級と呼ばれる程の存在だった。祝福され、然るべき分野で能力を発揮して、人類の発展に貢献すべき人材達だった。
彼らを引き摺り下ろしたのは、才能に寄生する学習機関としてあるまじき有象無象と、持たざることを認めることも出来ない癖に喚き立てる木っ端達。
『私はこの世界の外に出ることも出来ない。村雨も、斑井も、生徒会メンバーの皆も捕まって殺されるか、実験台にされた。この電子の世界に残った悲鳴がね、ずっと頭から離れないのよ。でも、本当の苦痛はね。そんな連中が自分達のしたことも忘れて、食い散らかした物の糞で希望なんて物を練り上げているってことよ』
生田ことみは、希望を、未来を許さなかった。暫く、沈黙が走った。
どうして、自分達はここに居るのだろうか? 治療されたとしても外の世界に場所はあるのだろうか? いや、そもそも。外の世界に、戻る程の価値もあるのだろうか?
『どうせ被害者面して、アンタらのことを糾弾するよ。あるいは自分達が陥れたことも忘れて、アンタらに恩着せがましく言って来るよ。同期する際の事故も回避して、私達の抱いた思いも風化させない為にもさ。こんな、まやかしの世界は終わらせちゃおう? そして、続きをしましょう?』
今はまだ実感が伴わないが、もしも彼女の提案に頷いた場合。きっと、どうしようもないモノに支配される。
皆に緊張が走る中、モノウサがビシっと手を上げていた。この沈黙を打ち破って欲しいと思っていた生徒達の視線を一斉に集めた。
「ちょっと質問良い?」
『何かしら? 私が強制終了の権限を持っているかってこと? それとも、彼らの肉体が何処にあるかってこと? もしくは、現実に戻った瞬間。未来機関の連中に討たれないかってこと?』
「いやいや、そんなことよりも重要なことがあるでしょう」
そんなこと。自分達の未来を決めかねない決定を一笑に付すほどにコトとは一体何だろうか。
『何かしら? あ、もしかして。あのウサミとか言う奴を出し抜けるかってこと? そりゃそうよね。超高校級の絶望である江ノ島サマを抑え込む程の相手だからね』
「お前。僕の、中身を知ってんだよな?」
『えぇ。アンタのことは嫌いだし、本当を言うなら八つ裂きにしてやりたいんだけれど、感謝なさい。アンタが大好きな絶望を見せてあげるから』
どうやら、生田にはウサミを出し抜ける自信があるらしい。根拠があってのことなのか、あるいは身の程知らずなだけかは定かではないが、モノウサは首を横に振っていた。
「そんなモンどうでも良いんだよ。問題はだね……このジャバウォック島のイルブリード推しは何だってことだよ!!!!!」
全員が沈黙していた。彼か彼女が何を言っているのか意味が分からなかった。皆が呆気に取られていることも気にせず、モノウサが続けた。
「お前、仮にこの新世界プログラムがよぉ! 更生目的なら、なんでこんなクソみたいな物を題材にしてんだよ! バカなの!? 頭、イルブリードかよ!! 実験台にされて、脳みそ、あぷぷーかよ!!」
どうやら、どうやら。本気で信じ難いことなのだが、こんな重要な局面において、モノウサが最優先で問い質したいことはコレだったらしい。流石に生田ですら言葉を失っていた。
『え、いや。この新世界プログラムの基盤を使い回したからだけれど……』
「は!? じゃあ、何? これはオマエらが私様を信奉してやったとかじゃなくて! 素材の持ち味を生かしただけってこと!?」
『テキストを入れ替えたり、殺傷設定を盛り込んだりはしたけれど……』
つまり、自分達が今まで体験して来た出来事は、目の前の黒幕が丹念に作った訳ではなく、そもそも新世界プログラムを作った奴らが用意していたことになる。という、最大級のホラーを味わっていた。
「やっぱり、外の連中は俺達のことを生かす気ねぇじゃねぇか!! どういうことだ! 七海ィ!!」
「(そう言えば、妙に腑に落ちることがあるなぁ)」
九頭龍がキレ散らかす中、狛枝は今までの出来ごとを振り返っていた。
第2の島で用意されていたゲームをあまりにスマートに進めていなかったか。材木人間のアトラクションを恐怖することも無く、楽しむようにクリアしていなかったか。そんなスタンスで挑めることが出来る奴はと言えば。
「あの。七海さん、もしかして……」
ソニアが恐る恐る尋ねた。出来れば否定して欲しい。だが、これを問わねば前に進むことは……、いや別に聞かなくても行けるけれど。
「最初の新世界プログラムってさ、割と素っ気なかったから楽しめる様にって。ことで、後輩君に提案してみたらノリノリで賛成してくれてね」
「出たら、ソイツとお前ぶち殺す」
先程までの葛藤やら会話は何処に飛んで行ったのか。この世界の恐るべき真実を知った、モノウサは今まで以上に殺意をたぎらせていた。
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「不二咲さん……?」
「許せないよ。僕のイルブリードをこんなことに使うだなんて!!」
「おっっほ。盾子ちゃんの尊厳、黒幕じゃなくて世界に否定されて好き。素敵♡」
恐るべき真実を知ってしまった霧切は目を見開き、隣にいた戦刃は気色悪い嬌声を漏らしていた。ただ、ある意味当然ではあった。何故なら、この新世界プログラムをアップデートしたり、調整していたのはこの少年なのだから。
もしや、この未来機関と言うのはもっと恐ろしい病巣に蝕まれているのではないかとすら思った。