自分達の命運を左右しかねない話をされた傍ら、凄まじくどうでもいい真相が明らかになった。堪らず、小泉が口を出していた。
「その情報、今いる?」
「大ありだよ!! 考えてもみなよ! 皆を治療するって言っている奴が、裏では僕が材木人間になった様を喜んでいたんだよ!! そんな奴らがいる組織なんか信用できるか!!」
ここに来て、モノウサのヒートアップは止まらなかった。あまりの剣幕に、生田が問いかけた選択が陳腐化しかねない程だった。
「も、モノウサさんはどうしてそこまで? 映画ではあんなに格好良く! 煽情的に! クールにエリコを演じていたじゃないですか!」
「なんで、憶えてんだよおめぇええええ!!」
第3の島で映画を見た時の記憶は失われているハズなのだが、いつの間にか再視聴でもしていたのか。ソニアは全くの皮肉抜きで、主演女優を褒め称えていたが、モノウサの神経を逆撫でするだけだった。
「そうよ! モノウサ! 私も未来機関の訓練で何度も視聴を強制させられたけれど、あの時の貴方には真摯な才能を感じたわ! 特に、最終ステージで父親を説得する為に糞便塗れになりながらも挑んでいる姿は、とてもじゃないけれど演技と思えなかったほどに!」
「〇すぞ!!」
佐藤が追い打ちをかける様にして名シーンについて熱く語っていた。キレ過ぎてモノウサのスピーカーがおかしくなって来ているのか、ノイズ交じりになっているのが、この空間に漂う緊張感を解いたのか。思わず笑いが生まれていた。
『ふざけてんの!? アンタらはねぇ、今。自分達の命運を決める選択を迫られてんのよ!? なんで、そんなヘラヘラしてんのよ!!』
あまりの空気の変わりように、生田が声を荒げた。
自分達の絶望さえなかったことにしようとする、有象無象の浅ましさに憤るか、あるいはそんな世界で生きざるを得ない絶望に沈むかという選択を迫ったハズだと言うのに、茶化されている。我慢ならないことだった。
「だって、オマエの絶望は幼稚で、二番煎じで、手垢の付いたしょ~もない物だからです。ハッキリ言って、イルブリードが使われている是非の方がよっぽど問題だからです!」
一瞬、言われたことが理解できなかった。自分の才能も、肉体も、理念も冒し尽くした絶望が下らない、と。このファンキーなマスコットは言っていた。
「オマエのは『可哀想な私に同情して! 一緒に地獄に来て! 来ない奴ブス!』ってレベルじゃん? たーだーの八つ当たりー! そもそも、悪役に悲しき過去アリ……なんてね。もう、皆飽き飽きしているんだよ。動機も手段も平凡過ぎて、本当に詰まらない。イルブリードの方が何百倍も絶望的です……」
「なんで、お前にとってそこまで絶望的なんだよ」
九頭龍も徐々に空気を理解し始めたのか、モノウサの方へと関心を向けていた。彼はヨヨヨと泣き崩れるふりをしながら、語り始めた。
「だってさ。絶望も希望も全部クソギャグになるんだよ? 笑いは無法なんだ。そんな物に全力を賭していたから、何をやっても『でも、コイツ。イルブリードに出ていたしな……』って言う、凄いデバフが入るんだ」
「やーい。オマエの本体イルブリードの立役者―!!」
西園寺の心無い罵倒に、モノウサが手を上げようとしたがプログラムの関係上、暴力は奮えないので彼女の前でクネクネと奇妙なダンスをするだけだった。
『そうやって、精々現実逃避でもしてなさいよ。アンタらが選ばなきゃいけない時は来るんだから』
これ以上バカにされるのを避ける為か、生田は一方的に会話を切った。
壁面のモニタに第2の島の遺跡が映し出された。以前、ウサミがゴミ箱で防衛ラインを作っていたが、綺麗サッパリ無くなっていた。
「来い。ってことなんっすかね?」
敢えて、ヌケーター達が入れない様なバリケードを築いていた。と言うことは、あの遺跡には余程重要な機能が存在しているのだろう。
「まさに伏魔殿。向かうにしても、今の消耗した体力と思考では呑まれるのが関の山。暫しの、休息を経てからでも遅くはあるまい」
そう言う田中も疲労の色は隠せなかった。先程は、モノウサが空気を引っ搔きき回してくれたので表に出ることは無かったが、やはり誰もが戸惑っていた。
部屋の奥を見れば、壁面がスライドしてエレベーターが出現していた。ご丁寧に、このクソ長い工場を登り直す必要はないらしい。一同は、地上へと引き返すことにした。
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「ちょっと待て。イルブリード云々が、この新世界プログラムとか言うのを作った奴らのイカれた趣味だとしたら。コイツらはなんだ?」
地上に戻った時、ふと九頭龍は気付いた。彼が指差した先には、日向を始めとしたヌケーター達が、先程のシリアスとギャグのお好み焼きのことなど気にもせずに、スケートボードの調子を確認している。
「あ! 私。分かっちゃったっすよ! 創ちゃん達はバグかなんかでこうなっているんっすよね? 唯吹はゲームの動画でそう言うのを見たことがあるんっす! なんかこう。凄い動きをする奴!」
それならば腑に落ちる。この世界が何かしらのプログラムなら、きっと彼には何かバグが起きてこんなことになっているのだと。
そして、バグだから接触したり感染した奴もおかしくなるのだと。理解はできないが、納得は出来そうだが。菜摘が気まずそうにしていた。
「日向は最初からこうだけれど」
「え?」
「だから、バグでも何でもなくて。デフォルト」
もしや、自分達はずっとホラー的な物と付き合いを続けていたのかもしれない。
このVR空間を作った奴は趣味も悪ければ、こんな得体のしれないのを平然と投入してくるのだ。これらに比べたら、世界に恨みを持つ少女の怨念なんてカスみたいな物かもしれない。念の為にモノウサにも確認を取ってみたが。
「はい。菜摘さんが言うことは全くの事実です。日向君は最初からこんなんです。感染した人達は知りません」
「コイツさんが世界に絶望している状況など全く想像も出来んのぉ」
マネージャーである弐大は、ありがちなシチュエーションとして怪我をしてスケートボードに乗れなくなった。みたいな物を考えたが、モノケモノを始めとした化け物達とやり合って無事でいられる奴が、多少の怪我でどうにかなるとは思えなかった。
「なんなら、銃で撃たれたり、ナイフで刺されても普通にスケボーしてそうだよな」
終里の中に在るワイルドな勘が言うのだ。多分、コイツらは怪我とかするタイプじゃないと。そんな彼女の疑問に『確認してみろ』と言わんばかりに、日向はスケートボードを差し出していたが、スルーされた。
「モノウサ。ちょっといい? 同期とか言っていたけれど、記憶が上書きされる。ってことは、現実に戻ったとしたら。花村君や左右田君達はコレになるの?」
狛枝が、真面目な話に飽きてスケートボードに乗って遊び始めた一同を指差して言った。
「ちょっと、それは僕も分からないですね……。というか、こんな予想不可能な物を一緒にぶち込む時点で、プログラマーとしての企画性に乏しいというか。いや、イルブリードなんて物を盛り込むんだから計画性以前に常識がないからしょうがないか」
狛枝にだけではなく、このプログラムを監視しているであろう画面前の誰かに向かって、モノウサは痛罵を飛ばしていた。誰も擁護する者はいなかった。
瓦礫の山と化した第5ノ島。工場から出て来た一同は、暢気にスケボーをしている連中を除いて、全員がへたり込んでいた。麻痺していた疲労がどっと噴き出していた。
そんな彼らのあずかり知らぬところでは、第1の島へと戻る為の大橋が急速に再生されつつあった。