舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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105時間目:漁夫の利

 第4ノ島から第5ノ島へと駆け抜けた、彼らは心身ともに疲弊しきっていた。コテージに戻るやシャワーも浴びずにベッドに身を投げ出した。

 ただ、人間と言うのは疲れすぎたら眠れないと言うことも往々にある。故に、深夜に目を覚ます者が出るのは当然だった。

 

「(ね、眠れません……)」

 

 元より、気が弱く、メンタルに影響を及ぼしやすい罪木が目を覚ますのは必然だっただろう。加えて、何も食べていないことに気付いて腹も鳴った。

 

「(なんで、VR空間なのに態々お腹が減る設定にしたんでしょうか?)」

 

 と、思いつつも。彼女もバカではない。超高校級の保健委員として、直ぐに理由に気付いた。空腹感を覚えないという状況に慣れてしまうと、現実で及ぼす影響が計り知れないからだ。

 

「(と言うことは、不便も含めた上での更生プログラムなんでしょうけれど)」

 

 だとしても、自分を待つ人間なんて何処に居るのかという疑問は付いて回る。他の者達はいざ知らず、彼女の周りには大事に思ってくれる人間なんて1人もいなかったからだ。

 

「(ずっと、この世界に居たいとは思うけれど)」

 

 フラフラとした足取りで向かうのは、いつも朝食や夕食を取っているホテルだ。もしかしたら、夜食を用意してくれているんじゃないかという淡い期待が彼女を向かわせたのかもしれない。

 いつもはガーガーと煩いスケボーの音が鳴っているが、今日に限っては静かだ。逆に落ち着かない。

 

「(でも、生田さんの話を聞いて思ったのは。この世界に居続けると言うことは、いつでも命を奪われる状態にある。ってことなんですよね……)」

 

 彼女がどの様な目に遭ったかは見せつけられた。生殺与奪が握られている現状では、同じ様な目に遭わせられるかもしれない。

 

「(死ぬのは嫌ですけれど。生きていたとしても、何があるんでしょうか?)」

 

 死にたくもない。生きたくもない。かと言って、永遠の停滞が許されるとも思えない。自分が何をしたいのかすら分からないまま、ホテルに到着すると嗅覚が反応した。胃がジンワリと熱くなった。

 何があるのかを理解した時から、足が動いていた。徒歩から小走りに、やがて大股に。辿り着いた場所は賑わっていた。

 

「あ。蜜柑ちゃんもお腹減ったんすか?」

 

 澪田が粥を片手に手を振っていた。いつもの様に豪勢にビュッフェ。という訳にはいかず、粥やスープなど軽食が並んでいた。いずれも好評な様で、日向や左右田が厨房に入っては新しい物を持って来ている。

 

「なぁ、もっとボリュームのあるモンを」

「ダメじゃあ。夜食を食うなら、ここが妥協点じゃああ!!」

 

 終里がおかゆを描き込んでいるが、腹に溜まらないのかひもじそうにしていた。隣にいる弐大も似たような感じなのだが、超高校級のマネージャーとしての自覚が、これ以上の摂取を許さなかった。

 

「これぞ正に禁忌の夜会……!」

「ラーメンとか塩分&カロリー爆弾じゃないから、罪悪感は少なくて済むよね」

 

 夜食の背徳感を知りながらも、手を伸ばすことを止められない田中は正に禁忌に魅入られし者だった。逆に夜更かしマスターである七海は、まるで躊躇いが無かった。

 

「私。実は、こうして皆さんと一緒に夜食を食べるというシチュエーションに憧れていたのです!」

「ノヴォセリック王国ではどうかは分からないけれど、日本では夜食と言うと好ましくは受け取られていないからね。でも、なんだか皆で一緒にやると楽しいよね」

 

 背徳感を振り切る程の興奮を持ってミール粥を持っているソニアを狛枝が微笑ましく見守っていた。

 

「なぁ。なんで、オメェらはケーキ食ってんだ?」

「弔いかな……」

「アイツは口煩いし、キモかったけれど、私達を守ってくれたから。美味しいケーキをよろしくされたんだよ」

 

 皆が控え目な夜食を取っている中、小泉と西園寺がショートケーキを貪る無法を犯していたので、九頭龍がドン引きしていた。

 言い訳もまるで意味が分からなかったが、傍から見ていた十神が豊満なボディを揺らしながら頷いていた。

 

「やっぱり、ボソボソ糧食よりもジューシーな食事のありがたみが身に染みる…」

「例え、VRだとしても。ここら辺は監視員の役得よね」

 

 佐藤が食事に舌つづみを打ち、菜摘もハムスターみたいな真ん丸ほっぺに粥やら何やらを詰め込んでいる。

 

「(全員いますね……)」

 

 確認できていない数人はヌケーターである為、奥の方で料理を運んだりしてくれているのだろうと推測した。やはり、腹が減ると寝られないのは全員同じだったらしい。

 

「お前ら―! 何、楽しそうなことしてんだー! 僕も混ぜろー!!」

 

 そして。最後に仲間面をしているモノウサも何処からともなく加わった。最初は煙たがられていたが、今は特に気にされることも無かった。

 他愛のない談笑をしつつ、満腹……とまではいかずとも、心地よい睡眠が出来る位には飢えを満たし、疲れを癒した所で、狛枝が口を開いた。

 

「皆はどうする? ここに残るか、強制終了するか、記憶を書き換えられて外に出るか……」

 

 単刀直入に今後の3択を述べた。少しは疲れも癒えて、改めて考える余裕も出て来たので、まずは九頭龍が手を挙げた。

 

「ここに残る。って、選択はあり得ねぇだろ。菜摘、この装置ってのは自動的に何十年も運営できるモンか?」

「分からない。ただ、ずっと居られるという風には思えない」

 

 装置である以上、動かす人間や電力も必要だろう。仮に自動で動く物だとしても、自分達が納められている装置がこの先も故障しない保証はないし、誤作動を起こしたり、機能を停止させる可能性もある。

 

「あくまで処置。だからね。私達が思う望ましい結末は、皆に順当に『卒業』して貰うこと。いわゆる、上書きだね」

 

 七海が付け加えた。ここはあくまで避難所ではなく、更生を促すプログラムなのだ。ただ、素直に頷けない所は幾つかあった。

 

「あの女が陥ったみたいに、俺達の本体に何か影響があるかもしれねぇってのが気になるンだよ」

 

 記憶を上書きする為に脳を弄る。というのが、どれだけ危険なのかというのが九頭龍を始めとして、皆が引っ掛かっている所だった。

 

「それにな。ワシらがやったこと、やられたことを忘れろ。というのもな……」

 

 恨み辛みを消してしまえば、それで良いのか? 弐大が持つ悩みは、この場にいる大半の人間に共通していることだ。

 

「もしも、私達が現実に戻れたとしてさ。身の振り方はどうなるの? 佐藤ちゃん。何か聞いている?」

「ごめん。人事とか運用については、私も聞いていない」

 

 ただ、現実に戻れたとしても自由の身。と言うことはあり得ない。きっと、過酷な未来が待ち受けているだろう。

 

「それこそ。私達の残りの人生が全て贖罪に費やされる様な……」

 

 ソニアの言葉が重く響いた。この世界に起きている異変全てを彼女らに押し付けるのは酷だが、彼女らが発端になったことはやはり事実だ。どちらが先にやって来たか。という是非を問う段階は通り過ぎている。

 

「それでも。出ないといけないんですよね……」

 

 諦めきった様に罪木が呟いた。先程までの歓談と食事で暖められた全身が冷えて行く様に思えた。

 

「強制終了。で、出たとしても。そもそもの話、僕らは確保されたんだよね? だとしたら、何かしらの対策はされてそうだし。実質、ここを『卒業』するしかなさそうだよね」

 

 狛枝が他人事のように述べた。強制終了した所で対策はされているだろうし、自分達が出来る抵抗があるとすれば先延ばしにする位だろうが、いつ猶予期間(モラトリアム)が取りあげられるかは分かった物じゃない。

 

「千秋ちゃん、佐藤ちゃん。せめて、折り合いが付くまで待ってくれる。ってことはありそうっすかね?」

 

 澪田が縋る様に言ったが、2人共難しそうにするだけだった。それだけで、期待は出来ないだろうと思った。場が沈黙した所で、モノウサが口を開いた。

 

「こうさ。オマエらをどうこうしようと思っていた、ボクがいうのもアレだけれどさ。酷い話だと思うよ。だって、改心も更生も向こうの押し付けでしょ? オマエらは元に戻りたいとか、無かったことにして欲しいって思っていた訳じゃないじゃん?」

 

 そうしなければ、世界的に都合が悪いからだ。本人達の意思は兎も角として、生存させる為には『更生』というのは絶対条件だった。

 

「既に我々の命運は、我々の手に無いと言うことか」

 

 田中が自嘲した。考えれば、考える程。自分達が取れる手が無いと言うことを自覚せざるを得なかった。

 諦観が場を支配する中、全員が食事を終えたのを見計らって、日向を始めとしたヌケーター達がゾロゾロと現れて残り物をモソモソ食っていた。

 普段は厨房内で済ませているのだが、せめて空気的にも一緒にいる感を出す為だろう。恐らくだが、先程までの会話も聞いていたに違いない。

 

「皆が真剣に考えている中、オマエらは気楽ですねぇ」

 

 一言も発さずに食事をしている日向の頭をモノウサがポコポコ叩いていた。彼らの顔には悲壮感も諦観も何も無かった。

 

「今ばっかりは、創ちゃんがちょ~っと羨ましいっす。きっと、外に出てもスケートボードに乗っている図が思い浮かぶっていうか」

 

 澪田が渇いた笑いを浮かべていたので、日向は何処からともなくスケートボードを取り出した。滑れ。とりあえず、救われるぞ、と。

 

「今日はもう眠いから良いっす……」

 

 ただ、数名は睡魔に揺られながらも日向が差し出すスケートボードを凝視していた。袋小路に追い詰められた自分達を何処かへと連れて行ってくれそうな。いや、異次元に飛ばしてくれそうな。

 

「悪ぃ。眠ぃから変な考えしちまった。今日はもう解散だ」

 

 九頭龍がフラリと立ち上がったのを皮切りに、ヌケーター達以外はコテージに戻って行った。残された彼らは後片付けをしつつ、互いを見遣って口角を釣り上げていた。

 

「碌でもないこと考えてそう」

 

 偶然残っていたモノウサはテキトーに呟きながら、コッソリ厨房から持ち出したバナナを齧りつつ、何処かに消えた。

 

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