舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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108時間目:ボンノー

 かくして、不安や正論で人を揺らそうとする連中の要求は跳ね除けられ、間隙を突くようにして滑り込んで来たスケートボードの魅力に取り付かれし者が数人。やはり、彼女達もスケートボードを脇に抱えて無口になっていた。

 

「こうやって、喋る奴が少なくなって来るのを見ていると。なんか、ホラーとかミステリーの世界に放り込まれた気分になるよな」

 

 九頭龍も言っているが、特に誰が死んだわけでもないのにホラーやミステリーに類することが起きていることは確かだ。

 

「終里の奴も変わり果ててしもうて……」

 

 弐大も悲嘆に暮れていた。普段なら、ディナーのバイキングともなればハムスターもかくたるやと言わんばかりに食事を詰め込んでいた彼女が、行儀よく準備を手伝っている。若干残された意思っぽいのがつまみ食い位はさせていたが。

 

「ガンダムちゃんのリリックが聞けなくなるだなんて。唯吹は悲しいっす!」

 

 配膳をしている田中のストールから出て来た、破壊神暗黒四天王も互いに顔を見合わせていたが、元より言葉を用いずとも通じ合っていた仲である。大した問題は無かった。

 

「こうやってみると。ヌケーター化したのは殆ど男子だよね。なんで、女子はなり難いんだろう?」

 

 改めて、小泉はヌケーター化したメンバーを確認していたが、男子5人に対し女子は3人。しかも、女子2人も、つい先ほど変化したばかりだ。

 

「う、運動神経の問題とかもあるんじゃないんでしょうか? ほら、私も結構滑っているけれど、未だになっていませんし……」

「もしくは。本当にスケートボードを楽しんでいる訳じゃない。みたいな人はならないのかもね?」

 

 罪木がそれっぽい意見を言うが、隣の席に座っていた菜摘が別の意見を提案していた。西園寺が何となく理解していた風だった。

 

「あ~。要するに、スケートボードを参加権みたいに思っている。とか?」

「この空気でスケートボードなんてやってられるか! なんて、言えるわけないもんね」

 

 この中で集団に混じって生きることが多い佐藤には、なおのこと理解しやすいことだった。だが、ここで一つ疑問が生じる。

 

「でも。澪田さんは楽しそうだったよ?」

「それは間違いないっす。菜摘ちゃんも似たような感じっすよね?」

「個人差があるんじゃない?」

 

 七海も言う通り、澪田は全力でスケボーを楽しんでいる様には見えた。菜摘も同様である。

 もしかしたら、まだ自分達が推し量れない領域では彼女にも抱えている物はあるかもしれないが、そう言う腹芸をするタイプには思えなかった。

 

「アイツらに理屈を求めるのはナンセンスだと思うんですがね。にしても、コレ。ほぼ半分がヌケ落ちしていますけれど、大丈夫なんスか?」

 

 極当たり前の様にモノウサがピザとコーラを楽しんでいた。今日は上機嫌なのか、いつもより口数が多かった。

 

「このままでいたら、全員がヌケーターになって終わる。ってこともありそうだな」

 

 九頭龍が懸念を述べた。下手をしたら、明日には残った10人中5人位が一気に変わり果てた姿で見つかるかもしれない。

 

「別に死んでいる訳じゃないんだけれどね。だよね?」

 

 心配になって小泉が聞いてみたが、配膳している連中は首を縦に振るばかりだった。ここで七海がピンと来た。

 

「私達だけで話を進めがちだったけれどさ。ヌケーターの皆はどうしたい? ここに残りたい? 卒業したい?」

 

 彼らは喋らないだけでしっかりと意思はある。故に昼間に交わされた会話に参加する権利もあれば、生き方を選ぶ自由もあるのだが、予想通りというか。彼らはスケートボードを掲げるだけだった。

 

「何処に居ても希望は胸の中に在るってことだね!」

 

 狛枝は興奮するばかりだった。スケートさえ出来れば場所も状況も問わないというのは、模範的とも言える超高校級なのかもしれない。

 

「でも、放置していると取り込まれるかもしれねぇから。もう、結論出しちまわねーか? 卒業するか。残るか。それとも」

「強制終了だけは無しでね」

 

 菜摘に咎められ、九頭龍は言葉を呑み込んだ。二択を迫られたが、全員の答えは概ね決まっていた。その上で、彼は聞いた。

 

「卒業する奴。手ェ挙げろ」

 

 ヌケーターを含めて全員が手を挙げた。やはり、ここに残る気はないらしい。モノウサは特に感銘する様子も無さそうだった。

 

「そりゃそうだよね。どうする? もう、このまま第2の島にある施設に行っちゃう? 寝たら、気が変わるかもしれないし」

「流石に一旦寝かせてくれ。少しは考えを反芻する時間があってもいいじゃろ」

 

 朝から色々なことを一斉に聞かされて、未だに呑み込めていないまま手を挙げた者もいただろう。どう受け止めるかという、心構えを作りたいというのは弐大だけでは無かったハズだ。……ただ。

 

「これで、翌朝集合してみたらメンバー全員ヌケーターになっていた。とか言う、オチは無いよね?」

 

 誰もが抱く最たる懸念を小泉が口にしていた。ヌケーター達はお互いに顔を合わせ、肩を叩き合い、笑い合うだけだったが、かなり不気味だった。

 

「これ、ミステリーの流れじゃん! 明日になったら、誰かがホテルに来ていないってパターンの!」

 

 西園寺がヒステリーに喚き立てていたが、そんなことを言われても疲れているモンは疲れているんだから仕方ない。

 

「日寄子ちゃん。心配し過ぎだって。そんなに気になるなら、今日は私と一緒に寝る?」

「待ちなさい。真昼。こういうのは2人まとめて葬られるというのがオチよ。だから、エージェントである私が同行しましょう」

「いらない」

 

 百合の間に挟まろうとした女を排除しようとする茶番を見て、皆も気が抜けたのか、片づけをヌケーター達に任せてホテルを後にした。

 

~~

 

「(でも。どうして、私や澪田さん、菜摘さんは大丈夫なんだろう?)」

 

 帰り道、罪木は考えていた。どうして、自分達は無事なのだろうかと。

 自分でも運動神経云々とは言ったが、可能性は低いと思っていた。何故なら、澪田は悪くないし菜摘に至っては良い方に分類されるからだ。

 共通点を探ってみたが全く思い当たらない。才能に至っては掠る所が無いし、才能に対するスタンスも微妙に噛み合っていない。性格なんてバラバラと言うしかない。そんなことを考えながら歩いていると、ポンと肩を叩かれた。

 

「蜜柑ちゃん。今、大丈夫っすか?」

「あ、澪田さん。どうしたんですか?」

 

 てっきり、いつもみたいに大声を掛けられるかと思ったが声量も控えめだったし、叩く力も加減されており、彼女の気遣いが見て取れた。見れば、隣には菜摘もいる。

 

「唯吹は考えていたんっすよ。どうして、自分や蜜柑ちゃん。菜摘ちゃんが無事だったかって」

「何かわかったんですか?」

 

 普段はノリだけで生きている様に見える彼女だが、その実。思慮深いし、他者への思いやりや労わりに満ちている。自分では考え付かないことでも分かるんじゃないかと期待していた。

 

「なんも! 分からんっす!!」

「まぁ、そうなりますよね」

 

 至極当然の結論に落ち着いた。多分、菜摘も似たような物だろう。ただ、3人寄らば……という慣用句もあるが、女子3人が集まれば姦しくもなった。

 

「きっと、こうして喋れると言うことに意味があると思うんっすよ! 本当に一緒に居たいだけなら、ヌケーターになればいいだけなんっすから!」

「澪田は何か伝えたいことがあるの?」

「そうっすね……」

 

 いわゆる、言い出しっぺの法則。と言うことで、菜摘が問うた。こういった時に他所に回さないで正直に答えようとする辺りが、実に澪田らしかった。

 

「そのっすね。やっぱり、唯吹は人の考えていることが分からないから。本当に一緒に遊んでいて楽しいと思うなら、ちゃんと言葉にして欲しいなって……思うんっすよ!」

「急に女子力上げないで欲しいんだけれど」

 

 菜摘が戦慄する中、罪木は腑に落ちたような感じがあった。

 

「(そうか。私、日向さんに……)」

「罪木?」

「あ。いえ、その。菜摘さんも何かあるのかなーって?」

「それはほら、その。卒業した後で言うよ」

「アレ? この中で言ったの唯吹だけ? 2人共ズルいっすよ!」

 

 と、彼女がぷりぷり怒って来たので、話題を変えつつ、暫し歓談に興じた所で3人は別れた。コテージに戻った後、罪木は暫く考えをまとめていた。

 

「(もっと。ちゃんと話したいんだ)」

 

 言い方はアレだが、自分達がヌケーターに落ちないのは……。このスケートボードを駆る少年に対して、個人的な感情。いや、下心の様な物があるからではないか?

 自分一人ならそっと押し隠していたが、あの人が良い澪田も持っているなら、自分が持っていても問題はないと。思いながら、彼女はベッドに入った。

 

「(これ邪魔ですね)」

 

 そろそろ枕元に置いていたスケートボードが邪魔になって来たので、ベッドに立てかけておくことにした。今日ばかりは、彼女のコテージで怪奇現象が起きることは無かった。

 

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