「はーい! じゃあ、第2の島に向かう前に点呼取るよー! ヌケーターを除いた10人はちゃんと返事してね!」
ここに来て、モノウサが急に引率者めいた振る舞いをし出した。
態々、こんな真似をするからには理由がある訳で、この場に集った者達はとっくに理由を把握しているのだが、とりあえずは応じた。
「九頭龍 冬彦君」
「おぅ」
「九頭龍 菜摘さん」
「はぁい」
始めて学生らしい真似をした気はする。本来、こう言うことをやるのはウサミの役割のハズなのだが、未だ忙しいのだろう。
「小泉 真昼さん」
「はい!」
「狛枝 凪斗くん」
「はいっ」
順調に点呼は進んで行くが、全員がとある人物に視線を向けていた。これは出欠確認と言う名の前振りでしかないのだ。
「西園寺日寄子さん」
「はーい」
「佐藤……下の名前は潰れて読めないや」
「佐藤で良いわ。はい」
返事の仕方一つで個性が出ている。彼らの背後ではヌケーター達が朝食で使ったチェーフィングや食器を提げつつ、厨房で食事を取っている。アレだけがっついていた終里が食事を後回しにしている光景はやはり奇妙だった。
「罪木 蜜柑さん」
「は、ひゃい!」
「七海 千秋さん」
「ふぁ~い」
今日、重大な決断をする日だと言うのに彼女は夜遅くまでゲームでもしていたのか、眠そうだった。あくびがてらの返事は気が抜けた物だった。
「弐大 猫丸くん」
超高校級のマネージャーとして、普段から声量のデカイ彼の返事が響き渡るかと思いきや、返って来たのは無音だった。何故なら、彼の脇にはスケートボードが抱えられていたからだ。
「や、やっぱり気のせいじゃなかったんっすね。猫丸ちゃん。一体何処で!?」
最後に呼ばれる予定だった澪田を始め、やはり皆も現実を見る必要があった。
昨晩、別れた後。弐大に何があったのか。……終里があんなことになったので、予想は出来たが。
「それではVTRどうぞ」
ご丁寧にモノウサが録画してくれていた、昨晩の『その後』が再生された。
さて、ホテルを出た後のことである。あろうことか、彼は踵を返していた。入り口には後片付けを終えた一同がゾロゾロと。
『おぉ、お前さんら。いつも、後片付けや料理。助かっとるぞ。いよいよ、明日。ワシらは決断するわけじゃが。ここまで一方的に面倒を見て貰ってばかりじゃ、ワシの才能が廃るってモンよ』
映像を見ていた者達は目を逸らしていた。極当たり前の様にやってくれているが、食事の手配から後片付けまでやってくれている彼らに感謝を述べたことはあっただろうか? と思い返したからだ。
その点、弐大は非常に義理堅い男だった。こういった人情があるからこそ、彼は超高校級のマネージャーと呼ばれる程に信頼を集められるのだろう。
『日々の業務、そしてスケーターとしての疲労。一度、様子を見ておかんとな。奇怪な動きをしているからと言って、体が耐えられておるかどうかは見た目では分からん。しっかりと、見んとな!!』
果たして、弐大の厚意はしっかりと伝わった。ホテル内にはマッサージ用のベッドも備え付けられており、彼は全員分のケアをしていた。
『おぉ。やはり、体は疲労しとるな! 明日は万全の状態で挑まんとな!』
一人一人、丁寧に施術をしていく弐大の顔には玉の様な汗が噴き出していた。マッサージなどは施術者にも多大な負担が行く。
それでも彼は全員分を成し遂げていた。矜持もあるだろうが、自分達をここまで連れて来てくれた感謝もあったのだろう。
『よぅし。後は、キチンと湯船に浸かるようにな』
言葉こそなかったが、ヌケーター達は一様に拍手をしていた。感謝を表しているのだろうが、真顔でやられるのでやや不気味だった。そして、一同を代表する様に日向がスケートボードを差し出していた。
普通ならば受け取らないが、自分がした施術で感謝された証だとしたら、受け取らない訳にはいかない。
『お前さんらとはもっとコミュニケーションを取るべきじゃったな』
最終日にようやく、彼らと心が通じ合ったと思ったのだろう。弐大は嬉々としてスケートボードを受け取った。相手との信頼関係は、超高校級のマネージャーとして何よりも重んじる物だ。受け取ったら使わない訳にはいかない。
『そんなに見つめるな。分かった、ちょっとだけだぞ―――』
~~
「おバカ!!」
思わず西園寺が叫んでいた。即墜ち2コマを体現せしめた男は、今や自分の行動を後悔することも無く仁王立ちしていた。
「皆が皆。お互いを思いやっての行動だったのに、どうしてこんなことになってしまったんでしょうねぇ……」
モノウサがしみじみと語っているが、別に誰かが死んだ訳でもない。
何なら、弐大はヌケーター達から快く受け入れられているので、悲劇が起きた訳でもないのだが、着実に人員が減っている感覚には襲われていた。
「もう、残った男子は僕と九頭龍クンだけだね!」
狛枝が朗らかに言い、日向が2人にスケートボードを差し出していた。
もう、男子全員スケーターになっちまおう。と言わんばかりの笑顔を浮かべていたが、九頭龍は払いのけていた。
「俺は絶対に屈したりなんかしねぇからな!」
「お兄ちゃんが、姫騎士みたいなこと言っている」
「僕はちょっと。なんて言うか、皆の輝きを少し引いた所で見ていたいからね。隣に立つなんて、とてもとても……」
相変わらずのねっとりボイスで拒否していた。とてもではないが一大事に当たる、当日の光景とは思えない物だった。
「それでは、18人全員揃いましたんで遺跡に向かいましょうか。ちゃんと、お世話になったコテージは綺麗にしましたか? ホテルは……まぁ、日向くん達が綺麗にしているか」
所詮、データでしかないかもしれないが、世話になったのは事実だし一つの心構えとしては大事なことだ。自分達以外の誰かが使うとは思えないが、綺麗になったホテルを後にして、第2の島へと向かった。
~~
「ねぇ。ウサミは?」
ふと、小泉が尋ねた。もはや当たり前の様にモノウサが引率役をしているが、本来。こういうのは彼女の役目だったはずだ。
「ちょっと色々と忙しいんだ。一応、言っておくと。こればっかりはサボっているんじゃなくて、本当にオマエラの為に動いているよ」
「で、でも。何をしているか、言ってくれないと分からないですよぉ……。せめて、説明とか励まし位は欲しいです……」
罪木が言うことは最もだった。本当に自分達を助けてくれているかもしれないが、やはり言葉にしないと伝わらないし、話してくれないと分からない。
「きっと、ウサミ先生には話せない理由があるんだよ。ってことにしておかない?」
「だから、コイツより胡散臭くなるんだよなぁ……」
七海のフォローも、モノウサをうりうりしている西園寺には通り過ぎていくばっかりだった。……そんなことしている間に到着した。
「私達、ここで佐藤ちゃんに会ったんだよね。あの時は何事かと思ったけれど」
「まさか、この装置に亡霊が憑りついているなんて。普通は予想できないでしょ」
振り返ってみれば、最初から最後まで生田ことみによって導かれていたのか。
この世界に残るゴーストになるか、それとも復讐と絶望を忘れずに表に引っ張り出すつもりだったのか。その気も無ければ、本当に殺す気だったのか。
「一番ホラーなのは、オメーでも生田でもなく。この島から散々に続いたイルブリード云々が仕様だったってコトだよ……」
改めて全員が青褪めていた。てっきり、あの理不尽でチープなホラーが黒幕の恐怖演出かと思っていたら、全て仕様だったのだから。
「あ、そうだった。ボク、ここから出たら製作者のことボコボコにするんだった」
モノウサが思い出した様に敵意を剥き出しにした。もはや、誰も彼の蛮行を止める気は無さそうだった。何なら、協力しても良さそうな雰囲気すら出していた。
そして、件の場所へと辿り着いた。最初はウサミが侵入させない為にヌケーター用にゴミ箱を大量に設置していたが、今では綺麗サッパリ片付いている。
進んだ先。遺跡の入り口は重厚なシェルターによって閉ざされていた。数字を入力するパネルが取り付けられてはいたが。
「皆ー!! のりこめー!!」
楔から解き放たれた獣の様に日向を始めとしたヌケーター達が突っ込んで行った。ある者は普通に貫通し、ある物は地面に沈んで行き何処かに跳び、ある者は扉に普通に弾かれて、背面で奇妙な軌道を描いてはぶっ飛び、ある者は普通に激突してグッタリしていた。
「唯吹。絶望ってのがなんなのか分からなくなってきたっす」
「大丈夫。私も何も分からない」
菜摘も目の前で起きている怪奇現象に思考を放り投げていた。彼らの無法によって、扉が開くのは間もなくのことである。