舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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110時間目:あの日の光景

 かくして、ナンバー式のロックを内側から解錠するという身も蓋も無い方法を取った一同が入った遺跡の内部には見覚えのある物が壁に掛けられていた。

 

「アレは希望ヶ峰学園の校章だよ。ここはかつての学園を再現した物だね」

 

 モノウサが淡々と答えた。ここが自分達の通っていた学校。そして、滅ぼした場所。彼ら自身に罪を自覚させるように、壁や床には血の跡がこびり付いていたし、倒れている生徒達の姿もある。

 

「変な話するけれどよ。ちょっと、俺達が潰した場所。ってのも見ておかねぇか?」

 

 ふと、九頭龍が提案した。自分達の過去を見せられ、動揺するかと思っていたが、不思議と落ち着いていた。単に現実感が湧かないだけかもしれないが。

 

「私もちょっと気になるかな。日寄子ちゃんも良い?」

「本当は嫌だけれど、小泉おねぇが見たいなら……」

 

 この中で難色を示しそうな西園寺が首を縦に振ったので、全員で見て回ることにした。進んでも、進んでも気が滅入る光景ばかりだった。

 

「理解に苦しむよ。どうして、自分達の価値を知ろうともしなかったのか」

 

 狛枝がタップリと溜息を吐きながら言った。彼の言葉に、佐藤が一瞬眉間に皺を寄せたが、直ぐに視線を逸らしていた。

 

「アイツらはバカですからね」

 

 嗜虐や悪意も無い。ただ、何回も同じ結論に辿り着いたのか、彼の声色は飽き飽きした物だった。時折、演出なのか平和だった頃の光景も映し出された。

 本科の生徒達は希望に溢れていた。能力を持つ者同士にしか分からない悩みを分かち合いつつ、時には喧嘩したりもしたが、自らを高め合う中で互いを理解し合う光景は美しい物であり、希望と言うにふさわしい物だった。

 

「そうよね。きっと、真昼達なら、そう過ごしていたのよね」

 

 佐藤が自らの腕を強く掴んでいた。すると、日向が彼女の肩を叩き、首を横に振った。自分を責めるな。と言っている様だった。

 輝かしかった時間はやがて絶望に塗り潰されて行く。超高校級の極道は才能に相応しい暴力に身を染め、アーティスト達は練り上げられた地獄を自らの才能で彩っていた。

 

「何回も見せられて来たけれど、慣れる物じゃないね」

 

 改めて小泉も映像を見ていたが、流石に初回時程の衝撃は無いにしても気分がよくなるものではない。

 一通り、本科を練り歩いた後。長い渡り廊下に差し当たった。ふと、モノウサが足を止めた。

 

「ここから先はオマエラ本科の生徒に関係ない『予備学科』の校舎となっています。日向君や佐藤さん達には関係がありますが、見て行きますか?」

 

 日向の顔色に変わった様子はない。対照的に佐藤の顔は真っ青に染まっていた。直ぐに小泉が返事をした。

 

「いや、大丈夫。このまま進んで……」

「大丈夫、真昼。むしろ、知って欲しい」

 

 途切れ途切れであったが、佐藤は霞むような声で紡いでいた。

 自分達が墜ちた原因の大半は『予備学科』の生徒達にあるのだから、彼らのことも知る必要はあると判断したのだろう。反対意見は出なかった。

 

「では、どうぞどうぞ」

 

 嫌味も何も無く淡々と案内された。本科に比べて生徒が大量にいる。一般の学校と変わらないからだ。

 彼らの話す内容はいずれも陰気であったり、他者を妬んだり、万が一の可能性で本科に召し上げられるかもしれないと。ありもしない空想ばかりだった。

 

「そんなんだから、ここにいるんだろうが」

 

 西園寺が嫌悪感も隠さずに呟いた。超高校級の日本舞踏家として、才無き者の妬みなどを大量に受けて来た身としては、一番嫌う人種がすぐ傍に、大量に居たのだから嫌悪感も強かった。

 モノウサが教室に入った。交わされている会話は相変わらず陰気でくすんだ物ばかりだったが、とある一角だけは色付いていた。

 

「創ちゃん。と、菜摘ちゃん?」

 

 澪田が驚いていた。日向は変わらず真顔だったが、菜摘と2人でスケートボードを色々と弄っていた。九頭龍が菜摘の方を見た。

 

「おい、お前ら。どういう関係だった?」

「友達だけど?」

 

 超高校級の極道の妹。と言うこともあって、彼女の肝は据わっていた。日向の方は特に表情を変える様子すらなかった。対して、佐藤は硬直していた。場面が変わり、2人はとある物腰穏やかな老齢の男性と相対していた。

 

『いや、まさか。私にこんな隠された才能があるなんてね』

『人との出会いの中で見つかって行く才能もある。今の君達なら、本科に編入されても問題なくやっていけるとお偉いさん達からの判断が出た』

『嘘!? ねぇ、創! 聞いた!?』

 

 菜摘がはしゃぐ手前、何故か日向はゴミ塗れだったので消臭スプレーをぶっかけられていた。汚れを払った後、彼女は抱き着いていた。

 

『……ここまで連れて来てくれて。ありがと』

 

 先程まで不敵にしていた菜摘が懐かしむように笑みを浮かべ、日向も少しだけ笑ったような気がした。佐藤は……呼吸すら忘れた様に停止していた。手を伸ばそうとしていた。言葉は出て来なかった。

 場面が切り変わる。夕焼けの教室だ。日向と佐藤がいる。何かを言い争っている様だった。

 

『菜摘が鈍臭いのは知っているのよ。そんな奴がスケボーで遊んだ所で無駄だと思っていたのに、ねぇ、なんで? なんでアイツが真昼と一緒の所に行こうとしているのよ!?』

 

 極ありふれた、才能を持たない人間の妬みと嫉みが入り混じった叫びがあった。菜摘は佐藤の方を見なかった。表情も変えなかった。ただ、握り拳に力を入れていた。 小泉も何と声を掛けて良いのか分からず、言葉が紡げずにいた。

 日向を知っている者達なら、ここでスケートボードを渡して解決するという展開を予想していたのだろう。だが、彼は佐藤を諫める様に彼女の両手に肩を置いて、首を横に振っていた。

 

『まさか、アイツに何かして貰ったの? だったら――』

 

 と、彼女が制服を開けさせようとした所で、日向が何かを察して動いた。と、同時に校内放送が鳴った。

 

『日向創君。予備学科の職員室まで来なさい』

 

 再び、場面が切り変わった。職員室には先程も見た柔らかな物腰の老人が居た。彼は真剣な面持ちで述べていた。

 

『十中八九。君達の活躍を妬む他の予備学科生の仕業だろう。勿論、流出は我々が全力で止める。……君自身も大した事とは考えていないだろう。だが、これが問題になればもう1人の編入予定の生徒にあらぬ疑いが掛かる』

 

 が、直ぐに彼は表情を崩した。

 

『---と言うことは無い。今回、問題になった生徒を退学させれば事件は無かったことに出来るからな。この情報収集の速さを見ても、学生如きの企みを止める手段には事欠かない。これから、超高校級の高校生として呼ばれて行く上で、こう言ったスキャンダルを作らないようにしろと言う私からの注意喚起だ。よく、噛み締めるようにな』

 

 ニッコリと笑顔のまま。希望ヶ峰学園の体制を表すかのようなことをサラリと述べた。彼らにとって最も尊重するべきは才能で、その他はゴミと一緒だ。

 日向にすれば渡りに船と言った具合だろう。バカなことをした人間が鉄槌を下され、葬られる。輝かしい未来は直ぐ目の前にあったと言うのに。彼は踵を返さず、目の前の老人を睨んでいた。

 

『例の女子生徒を助けたいか?』

 

 彼は静かに頷いていた。

 

『ただという訳にはいかないな。我々からの提案を飲んで欲しい。君の寡黙な所。カムクラプロジェクトにはずっと相応しいと考えていた。君は才能が人間の形をしているという面が強かったからな』

 

 彼はまるで躊躇うこと無く、差し出された書類にサインをしていた。この場にいる全員が疑問に抱いたことを、老人が言った。

 

『正直に言うと理解に苦しむ。あの女子生徒は才能を妬む、唾棄すべき人種だ。君が救いに行く必要はないと思うがね?』

 

 再現される光景の中にいる日向は喋らない。だからというべきか、ここに居る日向が口を開いた。

 

「下らない」

 

 無機質で冷たい声だった。菜摘だけが本科へと進み、日向は消え、予備学科の生徒は暴走を始めて行く。何度も見た光景が再生されていた。

 

「だってさ。佐藤さん」

 

 モノウサの言葉に彼女がビクッと反応した。分かっていたことだが。数人からは冷たい視線を向けられていた。

 

「まぁ、賢いんじゃない? 今、告白しちゃえば自分は胸のつっかえを取ることが出来て、お別れも出来るからね。僕も君とはさっさと別れたいよ」

「私も狛枝おにぃの意見に賛成かな。近付くんじゃねーぞ、ゲロブタ」

 

 自分から望んだとは言え、至極当然の様に罵倒された。保身に走ることも出来ないので、佐藤は俯くことしか出来なかった。

 

「(なんで、この人の為に日向さんが?)」

 

 言葉にはしていなかったが、罪木も自らの中にどす黒い感情が湧き上がるのを自覚せずにはいられなかった。

 

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