舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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112時間目:議題は踊る

「え~。折角、音頭を取らせて頂きますので。まず、オマエラがこの修学旅行で分かったことを整理していきましょうか」

 

 賑やかしではなく、ちゃんと司会進行を務める気もあるのか。モノウサはちゃんと議題を用意していた。

 

「まず、僕達の状態を把握しておかないとね。最初は訳も分からない内に連れて来られたと思っていたけれど、実は引率のウサミ先生には目的があった。それは何だろうね?」

 

 モノウサの司会に則り、狛枝が皆で答えを出していく為の発問をしていた。

 分かっている者が延々と話をしていても当事者意識は得にくいと判断してだろう。ヌケーター達が答えてくれることは無いだろうが、スケートボード弄りを止めて聞く姿勢は取ってくれている。

 

「はいはーい! ウサミちゃんは唯吹達を治療することが目的だったんっすよ! 何故かと言うと……」

「特定の人間を除いて、ここに居る奴らは全員『超高校級の絶望』だったから。でも、この修学旅行でどうやって貴方達を治療するつもりだったのかしら?」

 

 澪田が答え、生田が補足を入れつつ次の疑問に繋げた。次に発言をしたのは、小泉だった。

 

「この修学旅行で過ごした記憶で上書きするんだよね。えっと、まず連れて来られた時点で入学した時の記憶しかなかったから、つまり」

「わたし達の高校生活での記憶全部を上書きするつもりだったんだよね。絶望していたから」

 

 西園寺が不服そうに言った。世間や彼ら自身にとって有害な記憶と人格を塗り潰すというのは、都合がいい方法かもしれないが。

 

「でも、それってアンタらがやられたことを『なかったこと』にするって話よね? それで良いの? 治療って名目で、アンタらは自身が受けた被害も、覚えた感情もリセットされるのよ?」

 

 生田の軽薄な口調に感情が籠る。そんな物は無かった方が良い。というのは、事態の解決を念頭に置いている第三者の都合でしかない。

 一方的に記憶を取り上げて、治療と称するのは誠実さに欠ける。と言えば、それまでだが。発言許可を求める様に、菜摘が挙手した。

 

「お兄ちゃん達の人格を認めない措置だとは、思う。でも、現在の世界情勢と未来機関が取れる人道的措置の限界点がここなの」

「それだけ。世界に残した爪痕が大きかったってコトだからね……」

 

 現・未来機関メンバーである佐藤も同意した。歯切れが悪いのは、彼女が事の発端となった『予備学科』の生徒であることを自覚しているからだろう。

 

「なんだか、それって。先に手を出して来た人に対して、反撃したのを『喧嘩両成敗』って納めているみたいですよね」

 

 そんな彼女達を罪木が卑屈に咎めていた。真相を知れば、彼女の様な意見が出るのは必然だった。九頭龍が続く。

 

「罪木の言う様に腹は立つけれどよ。それを判断するのは『当時の出来事』を体験していない状態の俺らだから、やっぱりイラッとする程度の話でしかねぇんだ。テメーみたいにちゃんと実感を伴った記憶が無いんだからな」

 

 生田を指差しながら言った。やはり、当時の記憶が無い物に映像を見せた所で、感情や人格まで想起するには至らない。

 

「少なくとも、身の振り方を考えられる位には冷静で居られるからね」

 

 七海が淡々と告げた。もしも、当時の憎悪や人格そのままなら、合理性を超えて報復に向かっていただろう。

 

「七海さんの言う通り。『絶望』と言うのはですね、合理性やロジックを超えるんですよね。つまり、現在のオマエラがどういう状態であるか。誰か、答えが分かった人?」

「つまり、今の僕達はほぼ治療を終えている。ってことだよね?」

 

 モノウサの問に狛枝が間髪入れずに答えた。すると、木槌が激しく打ち鳴らされた。

 

「大正解! コロシアイも無ければ、報復も無かったんですからね。そりゃ、順調に治療されるに決まっているじゃありませんか。トホホ」

 

 もしも、この修学旅行中に互いに疑心暗鬼に陥る様なコロシアイでもあれば、あるいは予備学科の生徒や彼らの生存を望まない者達による報復があれば、自分達は再び絶望と言う刃を持たなければならなかったかもしれない。

 

「でも、そうはならなかったんっすよ! なーぜーなーら!」

 

 澪田がピノキオの如く鼻を伸ばしながら両手の人差し指を、日向に向けていた。当の本人は相変わらずムッツリ顔だったが。

 

「そう! 日向君達が居たからだね! 本当の希望は絶望程度なんかに埋もれないんだ!!」

 

 狛枝も力強く動揺していた。あまりに力強く同意していたので、若干目の焦点があっておらずグルグルしている様にも見えた。

 自分達を絶望へと揺り戻そうとする生田の野望は打ち砕かれ、後は現実に戻るだけ……という、早々のフィニッシュが見えかけた所で、彼女は不敵に笑ってみせた。

 

「その希望、絶たせて貰おうかしら」

 

 多勢に無勢。一方的な展開に持ち込まれて終わるかと思いきや、どうやら彼女には隠し玉があったらしい。コレにはモノウサも興味深そうにしていた。

 

「生田さん。状況は悪いよ? だって、ここに居る18人は誰も犠牲になっていませんから。一番危険だった第4の島とか言うクソの権化でも、なお潜り抜けて来たんです。もう、反論の余地も無いんじゃないんスか?」

「確かに。アンタらは誰も死んでないわ。でも、元通りだと思ってんの? 例えば、さっきから、何も喋ってない奴ら!!」

 

 ここに来て、彼女は今まで学級裁判に参加していない日向達を指差した。当の本人達は首をかしげるばかりだったが。

 

「日向おにぃ達がどうかしたの?」

「この裁判所に入るまでに、ソイツの過去を見せたでしょ?」

 

 ムッツリ顔でスケートボード以外に興味が無い男、ある時を境に人殺しすらも厭わなくなった。あの部屋で地下に消えた後、彼は何をしていたのか?

 

「アンタらはヌケーター様って奉っているけれどね。そもそも、ソイツがどんな奴かを考えたことは無いの? ひょっとしたら、アンタらは私よりもモノウサよりも悍ましい奴について行こうとしているのかもしれないのよ?」

 

 それは違う! というのは簡単だ。実際、日向は今まで自分達を助けてくれた。好意的に解釈されて然るべき行動だったが、本当の所。彼が何を考えていたのかを知っている者はいない。

 

「でも、第3の島で少しだけ話せた時は、変なことを考えている様には思えませんでしたけれど……」

 

 バグか何かで日向が一時的に喋れる状態になっていたことがあった。

 あの時の彼は、自分の世界以外に興味が無い……割と普通な性格をしていたと、罪木は記憶している。

 

「確かに。あの時の日向君は皆を助けるために色々と動いたりして協力的でしたね。そこのホモガキが汚声を垂れ流している間、とても良く頑張っていました」

「私はゲーム実況の関係上、流しているだけなのに。ほんとひで」

 

 イルブリードネタで弄ってもその場で文句を言うに留めるモノウサが、態々自分から殴りに掛かる位なのだから、裁判開始前の発言が本当に気に食わなかったのだろう。

 

「貴方達は考えるべきじゃないかしら? 本当に今、自分達が手にしている切符が『希望』へと続いているのか。そこにいる、日向創という男が何者なのかと」

 

 この修学旅行が始まって以来、行動でしか意思を示さなかった彼に、コミュニケーションの矛先を向けた。あまりに予想外の方向に戸惑う者達もいる中、真っ先に声を上げたのは意外な人物だった。

 

「で、でも。私。日向さんのことをちゃんと知りたいです。どうして私達を助けてくれたのか。何を目指しているのか。いや、そもそも。どうして『絶望』したのか」

 

 罪木だった。超高校級の才能を持つ者達は、予備学科を始めとした大衆の無知と嫉妬により引き摺り下ろされた。だが、日向は違う。何故なら、彼もまた予備学科の生徒だったからだ。

 本来なら自分達と敵対しているハズだと言うのに、どうして手を差し伸べているのか。どうして、この治療に参加しているのか。

 

「ムムム。何やら、卒業云々から面白い話に推移してしましたね。僕も気になりますよ。どんどん議論していこう!」

 

 自分達の議論は目的に向かって進んでいるのか、あるいは踊っているのか。

 この修学旅行という名の治療が始まって以来、誰も尋ねることも調べることもしなかった、日向創という少年への話題に移ろうとしていた。

 

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