舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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113時間目:とある少年の軌跡 1

「まず、日向君について分かっていることを話し合って行こう!」

 

 モノウサが議題の入り口を切り開いた。彼自身は殆ど口を開かないが、今まで見て来た範疇で分かることはあるはずだ。

 

「ボク達は日向クンのことを『超高校級のスケーター』だと思っていた。だって、四六時中滑っているだもん。好きこそ物の上手なれ。ともいうしね」

 

 狛枝の言う通り、超高校級の生徒達にとって才能とは趣味や好きな物であることが多い。その点、日向はあまりに分かり易かった。

 

「モノウサ、俺達はスケートボードってあんまり詳しくないけれどよ、コイツの能力? って言うのは、超高校級って呼ばれるレベルなのか?」

 

 門外漢である九頭龍には、日向が織りなしていたスケートボードで見せるテクニックがどれだけのレベルがどれほどの物かを把握できていない。

 自分達にとっては凄い物の様に見えても、専門的な視点で見れば大した物ではないと言うこともあり得るだろうが。

 

「はい。日向君のテクニックは十分プロでも通じるレベルですね。これは彼が起こす怪奇現象を除いての話です」

 

 モノウサが頷いていた。こういう時の彼は、基本的に虚偽は申告しない。故に、やはり日向は超高校級と呼ばれるだけの才能は持っているのだろう。

 

「でも、実際の日向おにぃは『予備学科』の生徒だったんだよね?」

 

 予備学科。本科と言うきらめく世界に憧れる者達から搾取する目的で作られた学科であり、全ての絶望の始まりとも言える場所だ。

 

「菜摘ちゃん。なんで、日向は予備学科に居たの?」

 

 小泉が手っ取り早く回答を求める為に、彼女に質問した。彼女もまた予備学科生であり、あの日向と懇意でもあったからだ。

 

「予想は出来るんだけれど、あくまで私の想像でしかないから。皆の意見も聞いてみたいんだけれど。お兄ちゃんはどう思う?」

「本人が才能って程の物でも思ってなかったんじゃねぇか?」

 

 本人としては自慢する程でもないが、他者から見れば驚嘆に値すると言うことは決してあり得なくはない。可能性としては十分に考えられる物だ。

 

「もしかしたら、在学中に開花させたのかもよ? 何気なく試してみたことに天稟があった。なんてことは往々にあり得るものだしね」

 

 茶々を入れるように生田も意見を述べた。あり得なくはないが、日向が持つスケートボードへの執着を考えれば、その線は薄いと思った。

 

「だったら、こういうのはどうかな? 実は予備学科からの編入実績を作る為に、本当は超高校級のスケーターとしての才能はあったけれど、一度予備学科に身を置いていたとか」

 

 狛枝が希望ヶ峰学園の持つ組織的な側面も含めた上での推測を述べた。散々、碌でもない物を見せられた彼らとしても信じそうになる意見だった。3人が意見を述べた所で、罪木が手を挙げた。

 

「わ、私は九頭龍さんの意見に賛成です。第3の島に居た時、私。日向さんから色々と話を聞きました」

 

 あの時の彼は非常に珍しく饒舌だったことを思い出していた。彼が本当にスケボーが好きなこと。他者にあまり興味が無かったこと。そして。

 

「イルブリードは自分達に寄り添う映画だって……」

「凄いよ。あの映画でそんなセンチメンタルな感想を聞けると思わなかったよ。お前の本性、クレイジーゲームズかよ」

 

 モノウサには怒りよりも困惑の方が先に来ていた。クソ映画とか罵られるならまだしも、あの映画が誰かに寄りそうなんて微塵も思わなかったからだ。

 

「イルブリードは寄り添うって言うか、憑りつくって感じだもんね。私も憑かれているんだ。ぬわぁああああん」

「凄いよ。七海さん。陰キャがやる、さっむいノリをこんな時に持ち出すなんて尊敬しちゃう!」

 

 手ごろな所に殴れる対象があったのでモノウサが間髪入れずに殴っていた。どうやら、彼女は相当なヘイトを溜め込んでいるらしい。

 

「そう。創は、あんまり才能とかそう言うのに興味がなかったから、多分。親とかに勧められて入ったんじゃないか。って思う」

 

 コントを繰り広げている2人を無視して、菜摘が自身の考えを述べた。

 何も子ども自身が願っていなくても、親が箔を付けさせる為に入学させる。なんてことも十分に考えられる。

 

「日向。そうなの?」

 

 佐藤が本人に尋ねた。漠然と聞いても反応はしてくれないだろうが、ある程度の推論を固めた上ならアクションは起こせるだろう。日向は小さく頷いていた。

 

「贅沢な話よねぇ。他の奴らは才能の無さに『絶望』したってのに。さぞ、アンタのことが恨めしかったでしょうね」

 

 生田が嘲笑していた。彼女の言葉に佐藤は身を強張らせていた。

 何者にもなれない予備学科の生徒達からすれば、身近で才能を発揮して鼻に掛けることもない彼がどう見えていただろうか?

 

「……ちょっとだけ日向おにぃのこと分かるかも。そう言う奴らってね、本当に陰湿な奴らばっかりだからね」

 

 自身も同じ様な経験をして来たからこそ、西園寺には日向の境遇が理解できた。才無き者ほど、人の足を引っ張るのだと。

 

「あのまま何もなければ、きっと。創もお兄ちゃん達と同じクラスにいたんだよね」

 

 菜摘が懐かしむように、されど口惜しそうにしていた。現実はそうで無かったからだ。この場において、問わねばならない人間がいる。皆の思惑を代表する様に、七海が彼女を指名した。

 

「佐藤さん。どうして、日向君にあんなことをしたの?」

 

 狛枝と西園寺からは依然として冷たい視線を向けられ、小泉と菜摘は不安と心配が入り混じった視線を向けられ、九頭龍と罪木からは言い訳を許さない厳しい視線が向けられ、生田とモノウサからは冷めた視線を向けられていた。

 指名された本人は幾度か深呼吸をして、無理矢理にでも自分を落ち着かせた後、静かに喋り出した。

 

「最初は応援さえ出来れば良いと思っていた。だって、私達が頑張った所でどうにもならないんだしさ」

「そんな。佐藤ちゃ……」

「言わないで!!」

 

 慰めようとした小泉を佐藤が大声で遮った。友人として彼女を慰めたい気持ちはあったのだろう、ただ2人を隔てる『才能』という壁はあまりに高かった。

 

「他の予備学科生みたいにさ。諦められたら良かったし、菜摘がね。転校して来た時は正直傑作だったのよ。あんだけイキリ散らした挙句、私と同じだって」

 

 敵意を隠そうともしていなかったが、菜摘に驚いた様子はなかった。奇妙な話だが、お互いに見下しているという思考は伝わるらしい。

 

「写真家の才能もない。アンタの兄貴のような組織力を扱える身でもない。デカい所に生まれただけのボンボン。なのに、真昼と同じ所に行こうとしていた。そこにいるソイツのお陰で」

 

 ここに来るまでに見せた、学園の日々を再現した光景では日向と菜摘が認められていた。その時の2人が見せた表情は、何事にも代えがたい程に眩しい物だった。

 

「なんで、何の才能も無くて、性格も悪いアンタがそっちに行けて! 私おいて行かれんのよ!?」

 

 極ありふれた物だった。正に、予備学科生を代表する様な思考が彼女を凶行に走らせたのだろう。

 あまりに自分勝手な主張だった。狛枝と西園寺はもはや暴言を飛ばす気すらなくなる程に呆れ、小泉と菜摘は目を伏せる中。罪木が低い声で彼女に尋ねた。

 

「それで、日向さんを誘惑したんですか?」

 

 普段、気弱な彼女が見せる物とは思えない程に敵意に満ちた物だった。九頭龍ですら気圧される中、七海が彼女を抑える様にして付け加えた。

 

「あの光景は予備学科の生徒で結託して起こした物なの?」

 

 あの後、日向は天願に呼び出されてとあるプロジェクトへと参加させられることになるのだが、それまでの流れがあまりに計画的だった。

 

「知らない…。あの場で本当は何が起きていたのか。……日向が私のことを庇っていたことも」

「利用されたんだろうな。希望ヶ峰学園の連中は予備学科生には興味はねぇんだろうが、行動パターン位は把握していたってことだ」

 

 九頭龍が忌々し気に呟いた。そう考えると、最初から佐藤は利用されていた可能性が高いと言うことだろう。

 

「だとしたら、あの老人が言っていた『カムクラプロジェクト』というのが気になるね。モノウサ、これも議題の対象になる?」

「はい! 勿論です! これは、日向君を知る上で非常に重要なことですから!」

 

 モノウサがニヤニヤしながら両手を叩いた。ジワジワと真相に近付いて来ていることは本人的にも嬉しいのだろう。同時に生田も薄笑いを浮かべていたが、ただ一人。佐藤だけは証言台の上に肘をついて、頭を抱えていた。

 

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