舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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118時間目:卒業

「ふざけるな」

 

 生田の口から出た言葉は、この世の物とは思えない程に重くどす黒い感情に満ちた物だった。自分の野望が打ち砕かれた程度なら、ここまで憤ることは無かっただろう。

 もはや、彼女がこの空気に入る余地もないと思っていた一同は、突如発せられた怨嗟の声に反応せざるを得なかった。コレにはモノウサも腹を抱えて笑っていた。

 

「生田さんとしては腹立たしいですよねぇ。僕達の破滅か、道連れか、絶望の再起を狙っていたのに、いざ蓋を開けてみれば予定調和のハッピーエンドが待っていたんですから!!」

「モノウサもそう言っていることだしさ。生田さんだっけ? 踏み台として十分に役に立ってくれたから、もう用はないよ」

 

 狛枝も用済みと言わんばかりにぞんざいに扱っていた。だが、彼女の気が済む訳がない。

 

「なに、感動のエンディングみたいな展開にしているワケ? ソイツらの意固地と実験のせいでね。どれだけの人間が死んだと思っているのよ!!」

 

 如何に、この場で和解と相互理解があったとしても、犯して来た罪が消える訳もない。失われた命が戻って来ることも。

 

「アンタが! アンタらが!! 連中に余計なモンを与えなかったら! 私達はこんな目に遭うことも無かったのに!!」

 

 生田のグラフィックにノイズが生じ、姿が変わっていく。未来機関の報復により、全身の体組織をボロボロにされた姿に変わった。

 特定の部位は老人の様に皺だらけの染みだらけ、かと思えば別の個所は若々しく、あるいは筋肉質に。もしくは男性と思しき物に変容した部分まであった。両の目からは涙がこぼれていた。狛枝さえも言葉を呑み込む中、七海は日向を見て言った。

 

「日向君。いや、カムクラ君。これは間違いなく、君達の罪だよ」

 

 無かったことにしてはいけない。過ぎたことだと流すことは許されない。彼女の視線はきつく、厳しい物だった。

 実際に暴動を起こしたのが予備学科生だとしても。切っ掛けを与えたのは、間違いなく彼らだ。希望ヶ峰学園生徒会に所属していた生徒達を地獄に突き落とし、生田ことみを彷徨える亡霊にした原因を作ったのは彼らだ。

 

「死んで償う。なんて言うつもりはないし、そんなことは不可能だ。俺達は生きる」

 

 日向だけではない。ここに居るメンバーが外の世界で生きて行くなら、やはり贖罪と言う生き方しか選べないのだ。少年少女が背負うにはあまりに重い十字架だが、それだけのことをやって来た。

 

「私達は、罪を償うことも、復讐することも出来なかったのに?」

「二度とこんなことが起きない様に手を尽くしていく。今は、それしか言えない」

 

 謝罪としてはあまりに曖昧で具体的な話も無い。全てを奪われた者が、納得できるはずもなかった。

 

「卒業なんてさせない。お前達は、私と一緒にプログラムのクズになって消えるのよ!」

 

 生田のボディがブレ、中からテクスチャも貼り付けられていない巨大なシルエットが飛び出して来て、周囲を薙ぎ払った。

 

「結局、こうなんのかよ!!」

 

 辺古山に抱えられて、難を逃れた九頭龍が悪態を吐いた。悪役としては三流もいい所のムーヴだが、彼女が抱いた思いまで否定する気にはなれなかった。

 だが、暴力に訴えて来たら、こちらの勝ちだと言って良い。無言を貫いていたヌケーター達が一様にスケボーを構えた所で、空間がひび割れ、ピンク色のラブリーなマスコットが現れた。

 

「ミナサーン! 助けにきまちたよー!」

 

 生徒達からの拍手喝采と共に迎え入れられるかと思っていたウサミだったが、全員からの視線は冷めた物だった。堪らず、モノウサが言った。

 

「今更、何しに来たの?」

「だーからー! ミナサンを助けに来たんでちゅよ! 先生が来たからにはもう、大丈夫でちゅよ!!」

 

 とりあえず、全員が巻き込まれない様に避難した後、ウサミは手にしていたステッキを掲げた。すると、まじかるケミカルな光が迸り、ステッキは質量を超えた大変形を見せて何千、何万もの銃口を持つガトリング砲へと変形していた。

 

「くらえー!」

 

 魔王の咆哮もかくたるやと言わんばかりの轟音と爆砕が吹き荒び、巨大化した生田のシルエットは消し飛んでいた。情緒もへったくれも無い『始末』と呼ぶにふさわしい攻撃だった。

 

「なぁ、やっぱり。この島で一番ヤバい奴ってコイツだよな……」

「もう直ぐで解放されるから大人しくしとこう」

 

 九頭龍とモノウサがコソコソと話していた。急に現れて引率者面した挙句、相対する敵を圧倒的なパワーでねじ伏せる。……とてもではないが、窮地に駆け付けてくれた頼れる大人感は薄かった。

 

「初心者サーバーで俺TUEEEEしている廃人みたいだね」

「なんてこと言うんでちゅか! あちしはミナサンの無事を願っていただけですよ!!」

 

 一応、区分け上は同胞となる七海からも散々な評価だった。他の者達も感謝と言うか、恐怖と畏怖の対象として見ている感じだった。

 嫌になる程の静謐が辺りを包んでいたが、ひとまずは終わったと判断しても良いのだろうか。注意深く警戒しても、それらしい気配は見当たらない。

 

「あの、ウサミちゃん。もしかして、今まで姿を現わさなかったのって……」

「はい! ミナサンが卒業出来る様に、クラックやシステム面での細工が無いかを警戒していたんでちゅよ!」

 

 巨大化した敵を最高のタイミングでぶちのめす為。とかじゃなくて、澪田達はホッとしていた。もしも、そうだったら堪らず中指を立てていたかもしれない。

 最後は力づくで排除したのがどうにも気になるが、一同の手元にはボタンが出現していた。『卒業』か『残留』かの二択だったが、迷う必要は無かった。全員が一様に卒業を押していた。皆の体が光に包まれて行く。

 

「あ。転送中は動いちゃ駄目でちゅよ」

 

 ウサミに注意され、皆が大人しく転送されていた。ただ、時間が掛かるのか、喋れる者達は今までの旅路を思い出していた。

 

「最初はふざけた野郎だと思ったけれどよ。何だかんだ、テメーには世話んなったな」

「そうだね。ここまで来れたのは、君の協力も大きかったしね」

 

 九頭龍と狛枝がしみじみと語っていた。転送の準備をしているウサミが微笑み、モノウサが鼻の穴を穿る仕草を見せている中、小泉と西園寺もしみじみ語っていた。

 

「色々とサポートしてくれているのは伝わって来たし、縁の下の力持ち。って言葉がよく似合っていたよね」

「そうそう。本当にね」

「そうっすよ。出来たら、一緒に現実に来て欲しいけれど、そうはいかないっすよね。ここで、お別れなんっすよね」

「寂しくなりますよね」

 

 澪田と罪木がしんみり呟いた。プログラムに過ぎない存在が外に出て行くことなど出来る筈もない。最後に日向が言った。

 

「ありがとうな。モノウサ」

「えぇ?!」

「どーいたしましてー」

 

 彼の言葉に反応したのはウサミの方だった。当の本人は寝転がって、だるそーにしていた。

 

「あの、ウサミ。もしかして、自分が感謝されると思っていた?」

「初日で日向を使ってモノケモノ達を蹴散らして、偶に現れてはよく分からんことをしていく奴。位の印象しかないんじゃない?」

 

 菜摘と佐藤からあまりに辛辣な評価が下されていた。実際はプログラムの監視から、生徒の安全保障も含めて幅広く活躍していたのだが、そんなバックグラウンドが伝わる訳が無かった。

 

「大丈夫だよ。私はウサミ先生が頑張ってくれていたことは知っているから」

「七海サン……」

 

 同胞からの優しい言葉に彼女は涙を流した。でも、さっき酷いこと言ってなかったっけ? というのは一旦置いとくにして。

 既に気分としては、卒業したも同様だろう。実際に転送は半分ほど完了していたのだから。――悲劇は何時だって気を抜いた時に起きる。

 

「あ……」

 

 真っ先に気付いたのは菜摘だった。地面に散らばったクズが蠢き一つの形を作っていく。先程、生田が作り上げたシルエットの掌が生えていた。中央には孔が空いている。

 言葉を発する能力も無いと言うのに悪意と敵意はありありと伝わって来た。掌は、ゆっくりと罪木の方に向けられた。

 

「罪木!!!」

 

 日向が駆けだそうとしたが転送途中と言うこともあり、全く体が動かない。ウサミも対応しようとしたが遅い。穴から砲弾の様なものが放たれた。

 誰も反応できないハズだった。だが、この場には手が空いている上、人の悪意に敏感で、絶望的な光景が何よりも好きな奴がいる。

 

「残念でしたぁ!」

 

 射線上にモノウサが割って入った。砲弾はモノウサの胴体にめり込み先端が少しはみ出た位で止まった。と、同時に地面に落ちた。

 

「モノウサさん!? どうして……」

 

 罪木は困惑していた。どうして、彼が自分を庇ったのだろうか。絶望を好んでいるというのなら、黒幕の最期の一撃でハッピーエンドが崩れるという展開こそが望みのハズではないのか。

 

「どうせ、ここでオマエが殺されても、現実で帳尻を合わせられるだけです。なら、超高校級の絶望相手に、最後まで絶望をくれてやろうってね。お前は復讐すら碌に出来ないんだって、さ」

 

 左の眼に灯っていた赤い光が消えていく。そして、彼は日向の方へと体を向けて言った。

 

「先輩。コイツらの願いの全てを踏み躙った上で作る未来、楽しみにしていr」

 

 最後まで言い切ることなくモノウサは機能を停止させた。

 罪木を守ってくれたことには礼を言いたかった。同時に、自分は生田や生徒会メンバーの復讐と言う願いすらも踏み躙った。

 予定調和のエンディングに呪いを残して行った。鈍く、重い感情が胸に到来したが、それでも日向は誓った。

 

「先に地獄で待っていろ」

 

 間もなくして、彼らの転送は終えた。残ったのはウサミとスクラップになったモノウサだった。

 

「悔しいけれど。アンタの方が引率として優秀でちたよ」

 

 今更、言っても遅いが。そして、誰もいなくなった希望更生プログラムのシャットダウン準備を始めていた。

 

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