舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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ダンガンロンパ2編。ラスト。


119時間目:これからの前の日

 未来機関の一室。不二咲が管理する『希望更生プログラム』が完了し、超高校級の絶望と言われていた77期生達が治療できたか、潜り込んだエージェントも無事であるかを確認する為に、戦刃むくろを始めとする戦闘員を含めたメンバーが集まっていた。

 

「更生した様子が見られない場合、あるいは攻撃の意思を見せた場合は始末しろ」

 

 彼らを率いている老齢の男性は抑揚のない声で言った。体をゆったりと覆っているコートの袖に仕込んでいる暗器『袖箭(ちゅうせん)』をいつでも発射できる状態にしていた。

 

「天願殿。不二咲達は奴らが更生した様子を見届けたと言った。少しは信用しても良いのではないか?」

「その油断で被害を食らうのは、誰か分かってんのか?」

 

 大神の意見を遮ったのは、彼女と同程度の恵体をした男性だった。

 両の手にテーピングを施しており、鋭い眼光を携えた彼は『元・超高校級のボクサー』であり、未来機関きっての急進派『逆蔵 十三』は忌々し気に装置を見ていた。まず、最初に解放されたのは潜り込んだエージェントだ。七海と菜摘が入っていた装置が開いた。少し遅れて、佐藤が入っていた装置も開いた。

 

「九頭龍菜摘。帰投しました」

「同じく、七海千秋。帰投しました」

「あいたた……。途中参加するモンじゃないわ……」

「うむ。ご苦労だった」

 

 天願は3人に労いの言葉を掛けた後、下がる様に指示した。そして、ヌケーター化していない女子から先に解放されて行く。

 

「ここは……」

 

 真っ先に目を覚ました小泉が周囲を見回した。剣呑な雰囲気の中で、心配そうにこちらを見つめる菜摘や佐藤の姿があった。どうやら、自分達は現実に帰って来たらしい。

 

「うわぁ。警戒されている感がヒシヒシ伝わって来るっすね……」

 

 少し遅れて、澪田も状況を把握したのか両手を上げていた。その中で西園寺が特に驚いていた。

 

「わたしの体がおっきくなっている!? って、そうか。実際は入学した時から何年も経って……」

「喋んな。黙って、両手を上げろ」

 

 逆蔵からの命令を受けて、西園寺は渋々両手を上げていた。最後にヨロヨロと出て来た罪木も空気を察してか、自主的に手を上げていた。特に何かを言うことも無かったが、彼女の視線は未開放の装置に向けられていた。続いて、男子2名の装置が解放された。

 

「ッチ」

 

 超高校級の極道であるがゆえに、向けられる殺気や殺意が脅しでないことが分かったのか、九頭龍もまた両手を上げていた。狛枝も同じ様に両手を上げていた。彼らが命令に従うのを見て、天願が問うた。

 

「単刀直入に言おう。君達に拒否権は無い。未来機関のエージェントとなって世界の復興に協力して貰うつもりだ」

 

 予想はしていたが、やはり自由は無いらしい。意見を発するのも憚られる状況の中、口を開いたのは狛枝だった。

 

「それは懲罰部隊的な所ですか?」

「とんでもない。超高校級の才能は尊ばれるべきだ。我々が勧誘するのは、何も贖罪の為だけではない。君達を保護する為でもあるのだ」

 

 先程までの抑揚のない平坦な様子から、柔和な表情へと切り替わり、声色も優しい物になっていた。だが、ここに居る者達は知っている。

 

「(この人が日向さんを陥れた……)」

 

 罪木がジトっとした視線を天願に向けた。日向をカムクラへと変貌させ、予備学科生を軽蔑していた希望ヶ峰学園の象徴とも言える男。彼は背後にいる女子に声を掛けた。

 

「音無くん。月光ヶ原君。彼らは嘘を吐いている様に見えるか?」

「えっと、嘘を吐いている仕草とかは。無いと思うよ!」

「……この状況に相応しい反応をしている。嘘を吐いている余裕もない」

 

 音無と呼ばれた赤髪の少女はノートを見ながら反応して、車イスに乗っている月光ヶ原と呼ばれた少女もまた頷いていた。

 

「暫くは風当たりもきつかろう。その時は、私に遠慮なく相談して欲しい。君達はもう『超高校級の絶望』ではないのだから」

 

 彼の物言いに、傍に控えていた逆蔵は眉間に皺をよせ、大神も表情にこそ出していないが何かを考えていた様で、戦刃は関心も無さそうだった。

 犯して来た罪に対して、随分と寛容な措置だ。天願が本心を語っているとは思わなかったが、少なくとも危害を加えてくるつもりは無さそうだった。

 

「分かりました。快く受け入れて下さったことを感謝します。天願さん。……所で、僕達以外の人は?」

 

 未だに開放されていない77期生達は全員ヌケーターだ。現実に戻ったら、どんな風になっているかは気になってはいたが。

 

「モニタリングしていた結果、彼らの開放は慎重にせざるを得ないと判断した。そうだったな、不二咲くん?」

「あ、はい」

 

 小動物の様な存在が小さく頷いていた。恐らく、このプログラムの責任者でもあるのだろう。同時に全員が思った。

 

「(コイツが俺達をイルブリードに突っ込んだ張本人か……)」

「違うよ。希望更生プログラムだよ」

 

全員の表情を見て、何かを察した七海が訂正した。

もしも、この厳戒態勢が敷かれていなければ、この小動物はひどい目に遭わされていたかもしれない。

 

「あの。日向さんだけでも、駄目ですか?」

「日向? ……あぁ。カムクラ君のことか! 勿論だ。彼の才能程、世界の復興に貢献してくれる物は無いからな」

 

 天願は嬉々として、不二咲に日向の装置の開放を命じた。間もなく、装置から現れた少年は奇妙なメカニカルスーツを着込んでいた。九頭龍はこれに見覚えがあった。

 

「コイツは、ペコが着せられていた……」

「彼の能力があれば、包囲から簡単に脱せられてしまうのでな。装置との兼ね合いもあって着せていた。仕方のない措置だ」

『道理で普通に喋れる訳か』

 

 スーツを着込んでいる為か、彼の声には反響音が混じっていた。直前まで喋っていたとはいえ、やはり慣れない光景ではあった。

 

「日向君。君達は不幸だった。大きな過ちを犯してしまった。だが、超高校級の才能を持つ君達ならやり直せる。私達と一緒にやり直して行こう」

 

 日向を知っている者達は皆、言葉を呑み込んでいた。どういう神経をしていれば、こんなことが言えるのだろうか? だが、当の本人は静かに頷いた。

 

「分かりました。手を貸しましょう」

「戻って来てくれて嬉しいよ。色々と積もる話もあるだろう。菜摘君、七海君。彼らを部屋に案内して上げなさい」

「あの。佐藤は?」

 

 堪り兼ねた菜摘が口を挟んだ所、天願は佐藤の方を一瞥した後、小泉の表情を見て、口を開いた。

 

「佐藤君。どうする? 調子が良くない様に思えたから、休憩に入って貰おうと思っていたのだが」

「あ、あの。私は……」

「私は佐藤ちゃんにも案内して欲しいです」

 

 いい淀んだ佐藤を遮って、小泉が言い放った。天願は柔和な表情を崩さないまま頷いていた。

 

「なら、一緒に行きなさい。少し落ち着いたら、今後の展望も話そう」

 

 未だにヌケーター達が入った装置は開放されないまま、日向達だけが自由の身となった。七海と菜摘に宛がわれた部屋に案内されたが、一切の手入れがされていない物置のような場所だった。

 

「うわ~。汚いっすね……」

「私達の立場を考えれば、まぁ。そうなるよね」

 

 澪田の率直な感想は、この場にいる誰もが抱いた物であったが、同時に小泉の様に納得するしかなかった。

 

「大丈夫です。僕には清掃の才能も有ります。これ位、直ぐに綺麗になりますよ」

「流石、日向クン。頼もしいね!」

「掃除道具は持って来たよ!」

 

 菜摘の手には雑巾や水の入ったバケツが握られていた。贖罪の第一歩として与えられた責務は、実に学生らしい物だった。

 各分野での超高校級の才能を持つ日向が指導すれば、掃除も実にスムーズに進行する中でのことである。

 

「ひゃい!?」

 

 罪木がバケツに足を引っかけて転倒した。折角、綺麗にした床に汚水がぶちまけられ、本人もずぶ濡れになっていた。

 

「何してんだよ!」

「ひゃあああ、すいません、すいません……」

 

 西園寺に責められ、申し訳なさと自己嫌悪で気分が沈んで行く。

 希望更生プログラムで元に戻ったとしても、ドジで陰気な自分がいるだけ。咄嗟に頭を腕で覆った所で、スッと手を伸ばされた。

 

『大丈夫か?』

「日向さん……?」

『汚れたならもう一度拭けば良い。怪我はないか?』

 

 優しい声だった。今の自分は、希望ヶ峰学園に入って来る前のドジで陰気な人間だが、あの頃には居なかった友人達がいる。

 言い過ぎた西園寺を叱る小泉、日向と同じ様に駆け寄って来る澪田。ぶちまけられた汚水を率先して拭きに行く狛枝……。

 

「(良いんでしょうか?)」

 

 きっと、記録でしか知らない自分は多くの人間を踏み躙って来た。それでも、友人達と一緒にいる時間を噛み締めたい。と思ってしまった。

 罪悪感が積木のように重なって行く。今までなら、抱えきれずに自己否定などに走っていた所だが、今は違った。ゆっくりと顔を上げた。

 

「は、はい。大丈夫です」

 

 日向の手を掴んで立ち上がろうとして、床に広がっていた水溜りに滑って盛大に転んだ。……受け止めようとした日向をも巻き込んで。

 超高校級の才能を持つ彼を持ってしても受け身を取れなかったのだから、彼女は超高校級のドジなのかもしれない。そしたら、当然。彼女の豊満な胸部が押し付けられる形になる訳で。

 

「早く!! 離れる!!」

「ひゃあああ……」

 

 菜摘が2人を無理矢理引き剥がしていた。彼女達の贖罪の道のりは果てしなく長い。けれど、その一歩目は艱難辛苦とは程遠い朗らかな時間が流れていた。

 

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