舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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120時間目:そして、次の話に。

 荒廃した世界を再興するべく作られた『未来機関』は、世界各国に幾つも支部や施設を作っている。

 これらの総意を決定、統率しているのが『天願和夫』であり、施設の運営・管理という実務的な部分を担っているのが『宗方京助』という男だった。彼は剣呑な雰囲気を纏わせながら言った。

 

「天願。何故、77期生達の未来機関加入を許可した? エージェントの中には、奴らに友人、恋人、家族を殺された者達もいるというのに」

「では、死ねとでも? 元・超高校級の生徒会長とあろうものがそんな短絡的なことを言うつもではないだろうな?」

「協議をしろと言っている。連中が、エージェントとして施設内を闊歩していることを快く思っていない人間も多い」

 

 希望更生プログラムにより、彼らの人格は矯正されたが犯した罪が消える訳ではない。故に、彼らは率先的に危険な任務に就かされることが多い。

 

「だが、彼らに命を助けられている人間も多い」

 

 天願がリモコンを操作すると、壁面に埋め込まれたモニタの電源が入った。

 モノクマフェイスを被った無法者達がゲバ棒や金属バットなどを手にして襲い掛かって来る。対する77期生達が取り出したのは……こんな場には似つかわしくないスケートボードだった。

 

『こっちっすよー!』

 

 どういうバランス感覚をしているのか、澪田はスケートボードに乗りながら一曲演じていた。必死に彼女を追い回すがまるで追い付けない。壁を、手すりを、時には何もない所で回転を始めてはぶっ飛ぶ。

 たかが、足が速い程度で追いつける訳が無い。そんな彼らの傍にヌルリと現れた日向は言うのだ。

 

『お前も滑ったら追い付くぞ』

 

 スッと。極当たり前の様に敵にスケボーを送っていた。極当たり前の様に受け取り、追いかけようとすればドツボ。既に彼らは絶望なんてしている場合じゃなくなり、スケボーとバグ挙動に呑まれてしまうのだ。

 

『なぁ、菜摘。俺、ここに来る必要あるか?』

『一応、監視される身分だから』

 

 スケボーから転げ落ちたかと思えばリスポンしたり、ランプッシュしようとしたらスケボーを追い越してそのまま壁を駆け上がったりと、当たり前の様に常識と日常を侵略していた。

 応援兼監視に来ていた未来機関員達はあまり驚いた様子は無かった。というか、いつの間にか彼らの脇にもスケートボードが抱えられていた。

 

「買収されているじゃないか!」

「買収? そんな言い方はよしてくれ。絶望を超えて、歩み寄ったのだよ」

 

 宗方の抗議は聞き流されていた。希望ヶ峰学園で長いことやっていただけにあって、体裁を取り繕う欺瞞を吐くのは、天願のお得意でもあった。

 買収云々はさておき、危険な絶望勢力との戦いにおいて77期生達は確実に結果を残していた。彼らが任務に当たり始めてから、エージェントの負傷・殉職率は明らかに下がっている。

 

「だが、俺は認めない。元・超高校級の絶望共が所属しているとなれば、未来機関の風評に関わって来るからな」

「何が風評だ。こんな利権まみれの組織に、そんな物は無いぞ」

 

 傍から見れば、才能搾取学園コントでしかないが、割と重大な問題ではあった。

 未来機関は世界の再興を理念としている組織であるが、スポンサーや協力者達には当然思惑があった。即ち、再興後の利権関係だ。

 

「それは貴様も再興後の世界を見据えて、布石を撒いているから。か?」

 

 宗方は天願の目の前に報告書を置いた。表題には『超高校級の模倣犯』について。と、書かれていた。天願は軽く内容に目を通した。

 

「超高校級の絶望『江ノ島盾子』が開催した『コロシアイ学園生活』を模倣している連中か。下らんことをする奴らだよ」

 

 吐き捨てる様に言った。彼女が開催した『コロシアイ学園生活』は全世界に放映されたが、誰一人死ぬことも無く、黒幕がステーキに突進されたスケートボードで埋葬されるという〆を迎えた。

 あまりにシュールに終わったことに納得いかない、絶望集団が今度こそは『コロシアイ学園生活』を成功させてやると、各地で無駄にやる気を発揮していた。努力の方向音痴集団である。

 

「普段は逆蔵や十六夜が任務に当たっているが、先日。会長はとある会場に大神を遣ったな。今まで、俺達に任せていたのに」

 

 天願が捲った書類には、模倣犯が会場に使った学園は『才囚学園』と言うらしく、世界の荒廃に伴って廃棄された校舎を改造して使っていたようだ。

 

「それがどうかしたのか?」

「幸いにして、犠牲者は0人だった。普通はあり得ない。年端も行かない人間達が、そんな極限状況に追い込まれれば間違いを起こさない訳が無い。救出した生徒の証言を聞く限り、この中にいたらしいな」

 

 天願が目を通しているのは救出した生徒リストのページだった。屈強な体格をした生徒やロボなんて物も並ぶ中、何の特徴もない少年に赤丸が付けられていた。強いて言うなら、ピョンと跳ねたアンテナのような毛が特徴的か。

 

「『最原終一』君か。彼は救出された時も非常に落ち着いていたと聞いているが」

「惚けるな。調べたら、コイツは77期生の『日向 創』と78期生の『苗木 誠』と幼馴染じゃないか」

 

 すると、必然的に彼がとある属性を所有していると言うことになる。そもそも、犠牲者無しで切り抜けられる存在なんてアレしかない。

 

「ならば、彼らと同じ様に『スケートボード』を好んでいるのだろう。いや、才能は人々に勇気と希望を与えてくれる。彼を救出出来てよかったよ」

「会長。一体、連中を集めて何をするつもりだ? 私兵団でも作るつもりか?」

 

 人知を超えた挙動と能力を持っており、なおかつ他者へと能力と思考を感染させる能力も持っている。未来機関としてもありがたい存在ではあるが、天願は溜息を吐いた。

 

「そんな下らんことに使わんよ。仮に私兵団を作りたいなら、未来機関の連中で十分だ」

「では、何が目的だ」

「その内、分かる。もういいか?」

 

 シッシと手で追い払う動作をしてみせた。出て行けと言うことらしい。

 これ以上、粘って余計な悪感情を持たれては今後に関わると判断したのだろうか。宗方が退室すると、外では逆蔵が待機していた。

 

「どうだった?」

「ダメだ。既にイカれている。ヌケーター共の虜になっている」

 

 この絶望が支配する世界。戦おうと、立ち直ろうとする人間も少なからず存在しているが、多くの人間は肩を震わせているばかりだ。その中で、全てを忘れさせてくれるヌケーターの存在は尊く見えるのだろう。

 

「あの老害が。さっさとくたばりゃいいのによ」

「逆蔵。アレでも一応は未来機関のトップだ。口を慎め」

 

 ッチと舌打ちをしていた。自分達が所属する組織のトップが、今まで尽力して来たメンバーよりも、奇跡やバグめいた物を信奉するなら悪態も吐きたくはなる。宗方も理解はしていたのか、それ以上咎める真似もしなかった。

 天願との対談を後にした彼らは、とある場所へと向かっていた。その途中のことである。スーツの上に白衣を纏った女性が手を振りながら近付いて来た。

 

「2人共。こんな所に足を運ぶなんて珍しいね。どうしたの?」

 

 宗方達の幼馴染である『雪染 ちさ』だった。腕には事情聴取に必要な道具一式と、円滑に進める為に用意した菓子類が抱えられていた。

 

「俺達も事情聴取の場に立ち会わせて貰いたい」

「え……」

 

 宗方の提案を聞いた雪染は一瞬停止して、ソロ~っと視線を逆蔵に向けた。本人も察した。

 

「安心しろよ。お前の教え子が、性的マイノリティを玩具の様に扱い、愚弄して、大衆の笑い者にする様な倫理観と品性を疑う様な野郎でも本人には悪態を吐かねぇって約束してやる」

 

 空気が悪くなるのは確定していた。ただ、逆蔵は変なことも言っていないし、事情聴取は立派な業務なので断る訳にもいかなかった。

 

「殴ったり、暴言吐いたりしちゃ駄目だからね? 絶対だよ? 後、正論パンチも禁止ね!!」

「分かったよ」

 

 不承不承と言った具合で、3人が向かった先。それは、元・超高校級の絶望である77期生が押し込められた一室だった。

 

「あ。先生」

 

 中では七海が携帯ゲーム機で遊んでおり、部屋の隅ではスーツを着た苗木ともう1人。正に、先程まで天願と話で話題に上げていた最原がいた。

 2人は向かい合って、お絵かきボードを用いてコミュニケーションを取っていた。

 

「七海さん。彼とは話は出来る?」

「ログは取ってあるよ」

 

 七海は雪染に2人が交わした会話を記したノートを渡していた。

 2人して、何に巻き込まれたかを語った後、今まで何があったかというのが綴られていた。

 

「ありがとう。助かるよ」

「後ろの2人は?」

「苗木や日向達の事情聴取に立ち会わせて貰うと思ってな。お前達の今後のスタンスを聞いておけば、未だに反目を抱く者達への説得材料にもなる。悪い話ではないハズだ」

 

 元・超高校級の生徒会長と言うだけに話しの持って行き方は無理のない物だった。七海も頷いていたが、彼女はチラリと逆蔵の方へと視線を向けていた。

 

「逆蔵さんも同席させないと駄目ですか? 日向君、彼に追い払われた経験があるから、あまり心象良くないと思うよ?」

「あ?」

 

 どうやら、2人はしっかり通じ合っているらしい。お互いへの嫌悪感とか。当然、間に挟まるハメになった雪染はシワシワ顔になっていた。

 

「七海さん。ほら、宗方君と逆蔵君ってセットな所があるじゃない?」

「さながら、野獣先輩と遠野って所?」

 

 宗方は『?』という顔をしていたが、雪染はゆっくりと後ろを見た。逆蔵の顔面がトマトもかくたるやと言わんばかりに真っ赤になっていた。

 

「逆蔵君……?」

「お、大丈夫か。大丈夫か」

「七海さんは年上に対する口の利き方を覚えようね」

 

 このままでは逆蔵が憤死しかねないので雪染が半ギレになりながら彼女を抑えていた。  

 一部始終を見ていた苗木と最原は、お互いに抱き合って震えていた。丁度、いいタイミングで帰って来た日向達も困惑していた。

 

「あ、日向君。お帰り」

『……何が起きているんだ?』

「丁度、良かった。今から、最原君に事情聴取を行おうと思っていたの。彼が巻き込まれた『才囚学園』での事件について。話せるかな?」

 

 雪染からの問いかけに、最原はゆっくりと頷いた。苗木から渡されたお絵描きボードにスラスラと書き込んでいた。『まずは何を聞きたいですか?』と。

 雪染は七海が書きとっていたログと睨めっこしながら、質問すべき内容を考えていた。

 

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