挑戦者をクリアさせる気のない死にゲーめいたクソゲーこと『デスロード』の先陣を切った最原はスケートボードを走らせ、立ち塞がる障害やトラップを吹っ飛ばしていた。
「ギャー!!」
「おー。つむぎが落ちたよ」
アンジーが落ちて行く白銀を一瞥しながら言った。ギミックやトラップを破壊したとしても、ステージの作りは結構シビアな物になっており、飛び越えるタイミングをミスると容赦なく穴に落ちて、ドローンに入り口まで連れ戻された。
「これはアレですよ。無駄に難易度を高くして、それをクリアすることでやたらと自慢し腐る男死共の為にある様な作りですよ! 夢野さん付いて来ていますか?」
「んあぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「夢野さーん!!」
比較的運動神経の良い茶柱にとっては大したことのない段差でも、小動物の夢野には超えることは適わなかった。彼女の悲鳴が木霊しては消えて行った。追いかける様に彼女も穴に落ちていた。
「茶柱さーん!?」
「美しい友情だヨ。きっと、あの二人は何時でも一緒にいられるネ」
目の前の投身に赤松が驚愕している傍ら、真宮寺がうっとりとした様子で眺めていた。いじわるなギミックが飛んでこないのは幸いにしても、身体能力が足らない者が次々と脱落していく。
「これ。最原君がギミック止めてくれているから、俺達も付いて来れているけれど、実際はマジでクリアさせる気ないっすよね」
天海がふと見た先、近くには壁にめり込んだ爆弾やら空中で回転して制止している奴もあれば、頭上では挑戦者を捕らえるつもりで設置されていた檻が天井にめり込んでいたり。
製作者の無茶振りに対する、挑戦者の滅茶苦茶がよく表れていた。そして、背後ではまた新しい悲鳴。
「この足場濡れて……ネッチョネッチョで。あ、イク!!」
「え!? ちょっと!?」
本当に見た目とガワだけは煽情的な入間が要らんサービスボイスを披露して、空中足場から落下していた。巻き込まれて、キーボも一緒に落ちていた。
「いやぁ。うるさいのが消えてスッキリしたね!」
王馬がニッコニッコしていた。とてもではないが仲間に贈る言葉とは思えなかったが、残ったメンバーは心の中で静かに頷いていた。
「最原君。もう、ゴールに辿り着いたかな?」
考えを切り替える様にして、ゴン太が先行した最原を心配していた。
最初の内は彼もギミックを破壊しながら、皆が付いて来るのを待っていたが、百田から『先に行け!』と言われたので、1人先行していた。
「どういうタイプのゴールか次第にもよるっすね。全員が集合していないと開かないタイプとかだったら、どうしようもないっすけど」
天海の頭上から、数少ない生き残りの爆弾が降って来たが、彼は何なく避けていた。が、問題は落ちたからと言って消失する訳ではなく。
「へ?」
ゴロゴロと転がった先、百田の足元で爆弾がさく裂した。彼は吹っ飛ばされ、ドローンに連れられて入り口まで運ばれていた。確実に攻略は進んでいるが、脱落者も着実に増えつつあった。
~~
「ゴールおめでとうございます!」
そして、先行した最原と言えばモノクマに祝福されていた。彼の周りには頭にタンコブを作ったモノクマーズ達が居た。
「お父ちゃん!! 初日から攻略されているけれど! TASはレギュレーション違反じゃね!?」
「TAS ジャナイヨ チート ダヨ」
「んな細いこと。どうでもええわ! お父ちゃん、どうする!? もう、アレか。コロシアイは諦めて学生同士の恋愛バラエティに切り替えるか? 『紅鮭団』とかって感じで!」
言動の隅をつつかれたモノキッドがモノダムと取っ組み合いになっているのを他所に、モノスケが分かり易く困惑していたが、モノクマはニッコリと笑顔を浮かべていた。
「オマエラはまだまだですね。ピンチはチャンスですよ! とりあえず、もう少し待ってみましょうか。最原君もここで皆の様子を見ようよ」
モノクマの誘いに乗り、最原はモニタ越しに皆の様子を見ていた。
ギミックやトラップを破壊しながら進んで来たが、全てを潰せた訳では無かったので、まだ生きているギミックを食らって次々と脱落していった。後半になればなる程、ギミックの量も多く、時間差で出て来る物も増えるのか、想像以上に残っていた。
『王馬君! 危ない!』
ゴン太が叫んだ。大量に降り注いだ爆弾から王馬を庇って、彼も吹っ飛んでいた。無事に済んだ者も進んだ先、飛び移る足場の動きは更に不規則な物になり、着地しきれずに落ちる者が続出した。
『これは無理だネ』
『にゃはー!』
それでも、難易度に比べてはかなり生き残っていた。モノクマはモノクマーズに命じた。
「オマエラもゴール阻止に行ってこい。エグイサルの修理は終えているから」
「分かったよ。お父ちゃん!」
「最原クン。ごめんね? でも、君も散々やったからね」
モノタロウが意気揚々と頷き、モノファニーは多少申し訳なさそうにしていたが、結局5匹がこの場から消えたと思えば、直ぐにモニタ内に5機のエグイサルが現れていた。
皆のゴールを補助するべく踵を返そうとした最原だったが、モノクマに肩を掴まれていた。
「先にゴールした特典でさ。ボクと少し話をしない? ちなみに、全員が脱落した時点で、このゴールに誰もいなかったらクリア扱いにならないから」
つまり、助けに行って全員が脱落する様なことがあれば、折角のゴールも無効になると言うことだ。加えて、話と言うのも気になったのか。最原はモノクマと向き合う様にして座った。
「まず、先に言うとね。ここにいる奴らは外に出さない方がいいよ。君以外の全員は死んじゃってもいいの!」
モニタ内では、先程までの鬱憤を晴らすようにエグイサルが大暴れして、ここまでやって来た生徒達を全員脱落させんとしていた。だが、最原の表情は動かない。モノクマに続きを促している様だった。
「なんで? って顔しているね。あ、君以外全員脱落したね。じゃあ、答えを見せて上げるよ」
モノクマが向かった先には巨大な扉があった。隣にあった操作盤を動かすと、ロックが次々と外れて行く。外へと続く景色が開かれた。
空は紅く染まっており、淀んだ空気が肺へと入り込む。同時に潮の臭いが鼻孔に入り込んで来た。周囲はゆっくりと動いていた。遥か前方には水平線が広がっていた。自分達は海上にいる。
「ようこそ『V3』の旅路へ! まずは一つ目のV! Voyage(航海)の景色をじ~っくりと堪能してよ!!」
自分達は最初から切り離されていた訳か。それに、自分への妨害があまり積極的でないことも引っ掛かっていたが、答えも出た。
「本当はね。君を妨害する為に、ステージにゴミ箱設置しまくっても良かったんだけれどね。それは大人げないかなって」
どうやら、相手は自分達のことをよく知っているらしい。
しかし、最原は敵意を持って睨み返す。という真似はしなかった。少し、考え込むような仕草を見せていた。
「だから、全員でヌケーターになって脱出とかも無理だからね。君らが泳げないこともちゃ~んと知っているからさ。精々、コロシアイにでも精を出してよ。うぷぷぷ!」
悪意を隠そうともしなかった。やりたいことをやって満足したのか、2人して中に戻った後、モノクマは分厚い扉を閉めていた。その上で、放送するのだ。
『オマエラ! おめでとうございます! なんと! 最原君が見事、ゴールに辿り着きました! 彼が何を見たのかは……彼の口から聞いて下さい!』
どちらにせよ黙るなんて選択は取れなさそうだった。しかも、こんな放送をすれば皆の期待を無責任に煽るだけだ。
最原は予感していた。彼らの中で上がった期待が、そのまま自分を攻撃しかねないと言うことを。だが、逃げるような真似もせず。彼はデスロードの入口へと踵を返していた。