「最原君。何があったか、質問形式で尋ねるから。肯定、否定、どちらでもない、分からない。で、答えて」
最原が頷く。コミュニケーションを取る能力に関しては、このコロシアイ学園生活において東条の右に出る者はいない。彼の特性は織り込み済みな物として、事情聴取は速やかに行われた。
「この扉の向こうにあったのはコロシアイ学園生活の根幹に関わる物だった?」
最原は両方の手を上に向けて、肩を竦める仕草を見せた。ふざけている様に見えるが、これは立派なボディランゲージで『分からない』という意味だ。
「部屋の向こうには黒幕と思しき人物がいた?」
今度は首を傾げる素振りを見せた。肯定でも否定でもなく、分からないという訳でもない。何とも言い難いラインだったとすれば。
「いたのは、モノクマだった?」
ハッキリと頷いた。予想はしていたが、簡単にアクセスできる場所に黒幕はいない。
「無事に戻って来ているってことは、何かをされた訳じゃないんっすよね。でも、何か特別なことを話されたりとかはしたんっすか?」
今度は、東条からではなく天海から質問されていた。最原も頷いていた。
東条と天海の2人が質問内容を吟味する中、本棚から引っ張り出して来たマンガを読んでいた入間がズカズカと尋ねた。
「もっと重要なこと聞かされてねーのかよ。なんで、私達が選ばれたとか!」
彼女の無遠慮な質問は正にクリティカルだったらしく、最原は少し考え込むような仕草を見せて、静かに頷いた。
「無作為に選ばれた。って訳じゃないんっすよね? 俺達に共通することなんて、超高校級ってこと位じゃないっすか?」
天海を始め、ここにいる者達の殆どは初対面のハズだ。中には一方的に知っている者もいるかもしれないが、これと言った共通点は思い浮かばない。
すると、最原は入間が持っていた本を取り上げた。国内で最も売れたカードゲームの原作となった漫画であり、主人公の少年がパートナーの魔術師を召喚しているシーンだった。彼はページを捲って、特定の文字を指差していた。
「黒? デュエル? もしかして、オレ様達はデュエリストとして呼ばれたのか?」
「ごめん。最原君、ゴン太達には分からないや」
入間もゴン太も最原の言わんとしていることは分からないと言った具合だった。だが、本当に伝わって欲しい相手。東条と天海には伝わっていた。
「……最原君。貴方の探偵ナンバーは?」
9,1,9。と指で示され、東条が頷き、天海が少し残念そうにしていた。
「最原君は『9』っすか。『88』だったら、追加で依頼を頼もうと思っていたんっすけど」
「オメーら、オレ様にも分かるように話せ!!」
「ゴン太にも分かるように説明してくれると嬉しいかなって」
話に置いて行かれるのが我慢ならず、入間が吠え立てていた。ついでに、ゴン太も控えめに説明を求めていた。
「簡単に言うと。最原君は『殺人犯』の、それも『不可能犯』と言われる事件を調査するのが得意な探偵と言うことよ。そして、『黒』と『デュエル』というのは、探偵達にとっては切り離せない事件のことを指しているの」
「犯罪被害者遺族による報復殺人事件。通称『黒の挑戦(デュエル・ノワール)』。俺も何回か巻き込まれたことがあるんっすけど、今回もそう言うことっすか」
次から次へと情報を詰め込まれて、入間とゴン太の脳みそはパンクしそうになっていた。ただ『報復殺人』という物騒な字面だけは理解出来たらしい。
「え? オレ様達の中で悪いことした奴がいるのか? オレ様じゃねぇぞ!?」
「大丈夫よ。貴女がそう言う人じゃないことは分かっている。でも、そうだとすれば今回の舞台も納得できることが多い」
「そうっすね。連中が起こした事件の中ではホテル1つを丸々使った物や船を使った物もあったらしいっすね」
最原も言葉こそ発していないが、思考のレベルは東条と天海と同様だったらしく、思い当る可能性を模索している様子が伝わって来た。ふと、ゴン太が声を上げた。
「報復殺人って。悪いことされたから、殺してやろう。ってことだよね? でも、そんなことしたら、殺された人にとっても大事な人がいるんだから、ずっと終わらないんじゃ……。それは、とても悲しいことだよ」
正に『殺し合い』と呼ぶにふさわしいウロボロスが如き様相となるだろう。最原はゴン太の肩を叩いて、頷いた。逆に入間は安心していた。
「なんだよ。要するに、悪いことした奴が殺されるって話だろ? なら、オレ様は関係ねえな!」
「うぉ。すっげ、自分がやっていることを何一つ悪いと思ってなさそうっす」
言動は汚いが、経歴は案外清廉なのかもしれない。だが、どんな理由で恨まれるか分からない以上、安全な状況は無いと思うが、指摘しなかったのは天海の優しさだろう。面倒臭いだけかもしれないが。
「ここら辺はセンシティブな問題ね。……でも、とても有力な情報だったわ」
脱出の手立ては見つからなかったとしても、相手の思惑が知れたというのは大きい。モノクマが話したことがブラフと言う可能性も捨てきれないが、内容は後程吟味すればいい。
「東条さん。その事は、皆に話すの?」
「まだ、確定した訳じゃないから公表するのは控えておくわ。それに、話したら特定の人間を追い詰めかねないから」
ターゲットにされていると聞いた人間が何を起こすか分からない。自分達だけの中で秘密にしておこうと思ったが……一同の視線が入間に注がれた。
「安心しろよ! オレ様の口は上も下もびっちり締まっているぜ!!」
「滅茶苦茶不安っす。最原君、入間さんの面倒見て貰って良いっすか?」
のらりくらりとしている天海が角を立ててでも言うレベルだった。最原は静かに頷いていた。かくして、コロシアイ学園生活の初日は問題なく過ぎようとしていた。
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「どうせ、オマエラのことだから。誰か殺しても外に出られないと分かった時点で、平和路線に行くのは睨んでいましたとも」
翌朝のことである。食堂で皆が朝食を取っていると、モノクマが子供達を引き連れて、愚痴をこぼしていた。
「地上に戻されたとしても、碌でもない所に降ろされる可能性も十分にある訳でしょ。そんな状況で、コロシアイなんてする訳ないじゃん!」
王馬が皆を代表して言った。誰かを殺すというリスクを冒しても、得られるメリットがあまりに不安定なのだ。
「はいはい、ロジカルロジカル。なので、ボクはオマエラのケツを叩きに来ました。そう、動機の時間です!」
「ヘルイェー! 待っていましたァー!」
モノキッドが煽り立てる様に下手糞なギターを鳴らした。モノスケもニタニタと笑みを浮かべている。
「なんや? お父ちゃん。やっぱりアレか? 秘密バラしたるとかそう言う奴!」
「それはやんないよ~。皆で公表し合って、絆の踏み台とかにされちゃ堪らないからね!」
「じゃあ、一体。どんな動機を発表しちゃうの?」
モノファニーが心配そうにしていたが、あくまで演出上の体裁でしかないことは分かっていたので、一同を苛立たせるだけだった。
モノクマがリモコンを弄った。すると、モニタの画面が16分割された。一軒家から、お屋敷、探偵事務所や保育園や道場などが映し出されていた。
「オマエラが大事にしている場所は既にこちらで特定済みです。このまま、コロシアイが起きなければ、どうなってしまうことでしょう!」
反応は様々だった。真っ青になる者もいれば、無味乾燥に眺めている者もいる。堪らず、赤松が叫んでいた。
「なんで、こんなことするの!? 私達が何をしたっていうの!?」
コロシアイ学園生活なんて物に巻き込まれた挙句、自分の大切な物にまで手を伸ばされようとしているなら、憤るのは当然だった。彼女の怒りにモノクマは嘲笑で返す。かと思いきや
「しているんだよ。全員、こんなコロシアイ学園生活に放り込まれる様なことを」
「……え?」
「なるほどな」
赤松を始め、大半の人間は困惑していたが、星だけは皆の前で堂々と納得していた。モノクマもそれだけは好意的に受け止めていた。
「星君は肝が据わっていて、先生としても嬉しくなりますね」
「俺は別に仕方がないとしても、他の奴らがそんなことをするタマには見えねぇんだがな?」
「おい、星。テメー、何したんだよ?」
百田が尋ねた。昨日の今日で、お互いに簡単な自己紹介は済ませているが、深い部分や経歴まで情報交換しているのは一部の者だけだろう。
特に、星は自由時間中も1人で行動することが多かった為、彼の素性を知っている者はいない。故に、彼は自己紹介ついでに言った。
「俺はな、人殺しなんだ。比喩じゃない。とあるマフィアの連中を皆殺しにした。この超高校級のテニス選手の才能を使ってな」
イキっている。という訳ではなく、淡々と告げていた。食堂内の温度が一気に下がった。
「え? 私、ただのコスプレイヤーだよ? そんな、殺人犯と同列視される位に悪いことした記憶ないんだけど!?」
白銀がパニックに陥り、彼女の困惑ぶりが全員に伝染しようかという中、天海が溜息を吐いていた。
「星君はそうかもしれないっすけど、俺達は悪いことした覚えはないっすよね? 勝手に恨まれているかもしれないけれど、そもそも。犯罪者だったら『超高校級』なんて、名乗れる訳無いじゃないっすか」
「そうですよ! 存在が罪な男死は兎も角! こんな小動物の様に可愛い夢野さんが、殺される謂れなんてある訳無いじゃないですか!」
当たり前の様に性差別を撒き散らしながら、茶柱も持論を展開していた。勝手に引き合いに出された夢野は呆けていた。入間が最原に耳打ちをした。
「こういう奴って、割と色々な所で恨み買いまくっているよな」
彼女にしてはあまりに普遍的な意見が出て来たので、最原も苦笑いするしかなかった。なるほど、確かに放り込まれる素養はあったかもしれない。
「まっ。お前らがどれだけ潔白を叫ぼうが、ここに放り込まれたことには変わりないけれどね。今更、1件位増やしても問題ないっしょ。先生は星君に期待していますよ。エエ”-イ!」
何処かで聞いたことがある様な奇声を上げながら、モノクマは子供達と一緒に姿を消した。後には嫌になる程の静謐が残されていた。
「という訳だ。俺は暫く、この場に顔を出すのを遠慮するぜ。お前らだって、殺人犯と一緒に飯を食うのは嫌だろ?」
「貴方の分の食事もキチンと用意しておくから。皆が居なくなったタイミングでも取りに来て」
東条の気遣いに『助かる』とだけ呟いて、星は去って行った。
暫く、皆は黙っていたが、やがて天海の言葉を思い出したのだろうか。自分には関係ないと言わんばかりに、普通に食事を再開していた。