「オマエラ。もしや、ボク達が外の世界に干渉できないと思っている?」
翌朝のことである。皆が朝食と言う、1日の数少ない憩いの時間を過ごしている時に限って、モノクマは喧しい子機を連れて出て来るのだ。
「で。態々、俺も食堂に呼んで何のつもりだ?」
昨日、この場に顔を出さないと言った星も呼んでのことだった。当の本人は予想が付いている様で、あまり怯えた様子もない。
モノクマがリモコンを操作した。モニタの画面は16分割され、それぞれに住居や住まいなどが映し出されていた。
「ヘルイェエエエエエエエエ!!!」
モノキッドが叫びながら、ボタンらしき物を押した。16分割された画面の内の一つが暗転し、轟音が響く。再び映し出された時には瓦礫の山となっていた。全員が言葉を詰まらせている中、王馬が笑っていた。
「派手にやるじゃん! でも、映像演出としてはまだまだだね。昨日見たイルブリード8の方が、よっぽど臨場感あったよ!」
「イルブリードがどうとかは知らないっすけれど。こんなの幾らでもフェイクも加工も利く奴じゃないっすか。本気にすると思っているんっすか?」
天海の言う通り。態々、画面を暗転させたり、リアル感に乏しいという面は確かにあった。
「とほほ。信じる心を忘れた人が多くて、ボクは悲しいよ。そう思わない。星君?」
「その為に俺を呼んだってワケか」
吹っ飛ばされたのは、星の家だったらしい。嫌らしいことに、態々ズームアウトして周辺の状況も確認させて、セットや加工された物ではない。ということも見せつけていた。
「期限は明日! 明日までに、事件が発生しなければ皆さんの場所は……うぷぷぷぷ!!」
「いやー!! お父ちゃん酷いっ。酷過ぎるわ!!」
モノファニーが耳障りな声で避難していた。本音としては何も思っていないだろうだけに、皆の神経を逆撫でにした。
「前から思っていたんだけれど。モノクマが司会・進行するなら。このモノクマーズとかって言うのはいるの?」
普段は余裕綽々な王馬もイラっと来てはいたのだろう。すると、モノクマがヨヨヨと泣き出す素振りを見せた。
「このデスゲームはボクが進行させていますけれど。コイツらにも覚えて欲しいんですよ。言ってみれば、こいつらも生徒みたいな物です!」
「いわゆるアレや。教育実習生的なモンやと思ってや! だから、これからもバンバン交流取って行くで!」
モノスケがこれまた人を苛立たせることを言っていた。この煩い連中をオフにしてくれる気はないらしい。
「でも、最原君がいたら破壊される可能性もありますんでねェ。あ、そうだ。じゃあ、可愛い我が子にもコレを配っておくよ」
バーンとモノクマが見せつけたのは、モノクマーズのデータが乗せられた電子生徒手帳だった。モノタロウが手を叩いて喜んでいた。
「ワーイ! ワーイ! これで、オイラも才囚学園の生徒だい!!」
「ヤダ! じゃあ、アタイも食パンを咥えて誰かと衝突するスチムが挿入されるの!?」
「何処に需要あるの!?」
白銀のツッコミは兎も角、これは良くなかった。
生徒達への処刑や処罰。行動を制限するモノクマーズの存在は、最原が何とかしてくれる。と考えていたが、同じ生徒として扱うなら、万が一最原が彼らを停止させたりぶっ壊したりした時は彼が処刑されると言うことだ。……果たして彼を殺せるかどうかは兎も角として。
「生徒達も増えたし。増々、事件が起きる可能性が高まったね! うぷぷぷ! じゃあ、オマエラもよく殺し合うんだぞ!」
悪趣味な笑いを浮かべてモノクマ達は姿を消した。明日までと、告げられたタイムリミットに焦りを見せる者は少なくはない。一方、考え込むような者もいた。
「最原君。なんで、モノクマは『爆破する』って明確に言わなかったんすかね?」
映像の中には『最原探偵事務所』と書かれた建物も映し出されていたが、関係者である彼の動揺は薄かった。故に、天海はこうして尋ねていたのだろう。
「やっぱり、あれじゃない? こういうのって、反社とかは直接的な表現を避けて、言質を取られるのを避ける為とか?」
「ここまでやって、そんな細かいこと気にするんでしょうか?」
白銀の予想は常識の範疇で収まる物であったが、キーボの言う通り。自分達は逸脱した状況に置かれているため、そんなことを気にしている段階にない気もした。
「発破する瞬間を見せなかったのも気になるんだよな。天海や王馬の言う通り、何かしらの編集が入っている様な気はするんだけどよ」
映像技術関係に詳しい人間はいなかったので、百田が出した様な疑惑の段階から先に進むことは出来なかった。
男性陣が活発に意見を交わす中、押し黙っていた女性陣の中で茶柱が声を荒げた。
「なんで、男死はそんなに冷静なんですか!! 自分達の大事な場所が無くなろうとしているというのに!!」
「茶柱さん。落ち着いて……」
赤松が彼女を宥めようとしていたが、天海が冷静に返していた。
「俺達を追い込むのが目的だからっすよ。こうやって、険悪になっている所を見て、連中。今頃、笑っていると思うっす」
この不和は正に想定されたシチュエーションの一つだろう。茶柱としても納得できる所はあるが、ロジックでどうにもならないのが感情と言う物である。
「夢野さん、赤松さん、白銀さん! 私達で何とか出来る方法が無いか。一緒に探しましょう!」
「え? ……あ、うん」
きっと、これは茶柱なりの制動の掛け方だったのだろう。自分一人でいたら何をしでかすか分からない故、同じ女性陣で固まることで暴走を防ぐ。
他者に依存したブレーキではあるが、置かれた状況で取る選択肢としては最善に近い物があった。故に、赤松も他生の思考は入ったが頷いた。
「私も大丈夫だけれど、夢野さんは」
「勿論、良いぞ。窮地を切り開いてこその魔法じゃ」
「さす夢!!」
見た目は小さいだけれど、大人な対応をしてくれた彼女に感謝した。トラブルに塗れた朝食会を終えて、全員が思い思いの行動を始めたのだが。
~~
「最原ァ。なんで、私は女子会捜索メンバーの中にいないの?」
「普段の行いっすかね」
女子会メンバーの中からはじき出された入間が最原に愚痴を吐いていたが、天海から正論をぶつけられていた。
「なんで、私までこの中に入れられているの?」
「そりゃ、お前。一緒にスケボーをした仲だろ?」
星が親指を立てながら、春川に言った。彼とは思えない茶目っ気を見せてくれたが、実際は昨日の未遂事件を鑑みてのことだろう。
彼らが向かっていたのは図書室だった。かび臭く、事態の打開に使えそうなものは何も無いが。天海と最原は互いに顔を見合わせて頷いた。
「何をするつもり?」
「へへ。オレ様の最原を見とけよ、見とけよ」
天海が奥の本棚を弄ると、仕掛けが動いて巨大な鉄製の扉が現れた。初見の春川と星が驚いている中、スケボーにライドした最原が鉄製の扉に向かって突っ込んで行った。
――
「モノスケ。本当にコレで良いの?」
例の隠し部屋。扉の前には堆く積まれたゴミ箱があった。モノファニーの心配を一緒に付す様な形でモノスケは頷いていた。
「扉前でぶっ飛べば、そのままそこら辺で一体化してそのまま出られへんようになる。連中の虎の子もコレで終わりや!! ギャハハハ!!」
「ヌケーター ハ ゴミ箱 ニ 弱イ カラネ。オイラ ノ データ ハ 完璧 ダヨ」
「失敗フラグがビンビンだぜぇええええ!!!」
モノスケが唾を撒き散らして喜び、モノダムが自らの頭をトントンと叩き、モノキッドがロクでもないことを言っていた。
彼らの対策は決して見当違いではない。むしろ、ヌケーターなんて常識外の存在に対して、しっかりとデータを集めて対策しているので褒められた物ではあるだろう。だが、やはり彼らの対策は何処までも常識的でしかなかった。
「あ。来た!」
モノタロウが指差した先。スケートボードの先端がニョキっと生えて来た。
奴はこのままゴミ箱に阻まれ、打ち返され、バグり散らかし、やがて壁と一体化するか。そこまで上手くいかなかったにしても、この部屋に入られることを防げれば御の字だった。……さて、現実ではどうなったかと言うと。
「ぶべら!!」
突っ込んで来た最原によって弾き飛ばされたゴミ箱が、モノキッドに直撃して壁までぶっ飛んだ挙句、その衝撃で壁に取り付けられていたモニタが落下して、彼は下敷きになった。
「イヤァアアアアアア!!」
「馬鹿ナ オイラ ノ データ ニ 無イゾ!」
モノファニーが悲鳴を上げていた。モノダムは自らのデータが通用しなかった事態に戸惑い、モノスケも愕然としていた。
「ヘル。ヘルが近くに見えるぜ、今のミーなら最も地獄に近いロックを……」
「死ぬなー! モノキッド! 死ぬなー!!」
虫の息になっていたモノキッドが最期の力を振り絞ってギターを弾こうとした所で、モノタロウが心臓マッサージを施した。
先の一撃でボロボロになっていたモノキッドのボディにモノタロウの蘇生行為は見事に効いて、バキバキと言う破壊音が響き、床にはパーツが散らばった。
余りの惨劇に誰もが閉口していると、ピンポンパンポーンと言う聞き馴染みのあるチャイムが響いた。後、モノクマの声で放送が響いた。
『死体が発見されました! 一定の捜査時間の後、『学級裁判』を開きます!』
かくして。才囚学園にて、初めての殺人事件が発生した。今、正にコロシアイは始まったのだ。