ワクワクウキウキしながら事件現場へと足を向けたモノクマは絶句していた。
朝食の時、嫌がらせでモノクマーズにも生徒手帳を渡して、出し辛い状況を作り上げたと思ったらコレである。
モノタロウがモノキッドの亡骸を抱えて慟哭し、モノファニーが泡を吹いて気絶し、モノダムがキャパを超えて不思議な踊りをしている中、唯一正気を保っていたモノスケが問うた。
「お父ちゃん。マジで裁判やるん!? あ、アレか! コイツを処刑する為にやるんやろ!!」
ビシッと最原を指差した。経緯を考えれば、彼のせいでモノキッドが死亡することになった。とは言えなくもないが。
「なんで、ここで事件を起こすんだよ!」
食堂や図書室で起こすならまだいい。寄りによって、このコロシアイ学園生活における心臓部みたいな所で事件を起こされたのが問題だった。
デスゲームと言うのは単に理不尽であればいいという訳ではない。ある程度の公平性が無ければ、ゲームとして成り立たないのだ。
主催側が一方的に手を出すのはあり得ないし、コロシアイが発生した時も公平でなくてはならない。現場を封鎖して参加者達が十分な調査が出来ないまま、裁判に挑む。というのもあってはならないのだ。
「お父ちゃん! ワシらが悪い訳やないで! コイツが悪いんや!」
「ソウダヨ グリッチ ナンテ 物ヲ シナケレバ コウナラナカッタ」
やはり、モノスケは最原に責任を押し付けていた。混乱していたモノダムも殴れる相手を見つけたので、同じ様に殴っていた。モノクマもここで何が起きたかは分かっている。
グリッチなんて常識を超えた手段で無理矢理押し入って来た彼を迎撃しようとゴミ箱によるバリケードを築いたが、突破された衝撃でモノキッドが吹っ飛ばされた、ヒトコロスイッチが発動した。
「オマエラ、本当。オマエラ……」
もしも、彼らがバカなことをしていたらブチギレることも出来た。
だが、本当に珍しいことだが。このモノクマーズ、今回に限っては割と真面目に侵入を防ごうとしていた。言ってみれば、本当に事故だった。
いや、それでも途中まで禍を転じて福と為すというルートもあった。だけど、それも絶たれた。
「どうしたの。お父ちゃん? 元気出して!」
慟哭するのに飽きたのか。モノタロウはモノキッドの亡骸を捨てて、トテトテとモノクマに歩み寄って来た。口の端から涎を垂らしながら応援する姿に殺意が湧いた。と、同時にプッツンと来たのだろう。
「よし。今回の裁判はチュートリアルと言うことにしよう!」
「ワーイ! 今の時代、説明書は古いよね!」
モノタロウだけは無邪気に喜んでいたが、最原を含めた他4人は戦慄していた。モノファニーは最原に接触しない距離を保ちつつ、耳打ちをしていた。
「お父ちゃん。アレ、マジギレしているわ……」
自分達を罠にハメた黒幕で、被害者遺族救済委員会なんて大層な物に所属しているのに、こんなマヌケを晒す羽目になったことを、最原はコッソリと申し訳なく思っていた。
~~
図書室は緊迫に包まれていた。最原が消えて、間もなくして『死体発見のアナウンス』が流れたのだから。
「モノクマ! 事情を説明なさい!」
東条が鬼気迫る様子で声を張り上げていた。集められた他のメンバー達も困惑しながら、辛うじて冷静さを保っている星から事情を聴いていた。
「じゃあ、まさか。最原君が!?」
「そんなわけねぇだろ! アイツが簡単に死ぬタマかよ!」
「だよ。ね。ゴン太は最原君が無事だって信じるよ!」
戸惑いを隠せないキーボの予想を、百田がバッサリと切り捨てていた。ゴン太も健気に信じようとしていた。他の男子メンバーは比較的冷静な者達ばかりだったので混乱は少なかったが、問題は女子グループの方だ。
彼女らの混乱が少なかったのは冷静に事態に対処できていたから。という訳ではない。赤松がそっと声をかけた。
「入間さん?」
先程から表情が凍り付いており、身体が小刻みに震えている。少しでも突けば砕け散りそうな、ヒビの入ったグラスの様な状態だった。こんな状況でヒステリーを起こせる人間はいなかった。
永遠に続くのではないかと思われたが、直ぐに終わりを迎えた。皆の前にモノクマが現れたからだ。
「はい、皆さん。お待たせしました。それでは、捜査を開始するに当たって事件件場をオープンさせて貰います」
ゴゴゴと大きな音を立てて、分厚い扉が開いた。東条が皆を手で制し、比較的冷静で居られそうな数人を手招きして、中に入った。
困惑している最原、鼻を穿っているモノタロウ、モノキッドの遺影にバカと書き込んでいるモノダム、散らばるモノキッドの残骸。これらを真面目に調査しているモノスケとモノファニー。一同は直ぐに状況を理解して、図書室へと踵を返した。
「皆。安心して。死んだのはモノキッドよ」
「ひ、酷過ぎるのじゃ……」
ワァっと歓声が上がっていた。同時にモノキッドの死があまりに軽んじられていたので、夢野が嘆いていた。
「そうだよ。モノキッド君がどんな子かは分からなかったけれど、もしかしたら仲良くなれたかもしれないし」
「え? オレはデスゲームに加担させるような奴らと仲良くなりたくないけれど」
皆が言いにくいことを、王馬が代弁してくれた。報告を聞くや入間が駆けだしていた。そして、事件件場にいた最原に抱き着いていた。
「最原ぁ! 生きていたんならさっさと言えよ!! 死んだかと思っていたんだからなぁ!!」
貞淑さを代償にしたグラマラスボディで抱き着かれたら、ドギマギする位には最原も男子だった。そんな光景を見てモノファニーがヨヨヨと泣いていた。
「素敵な光景だわァ。生きているって素晴らしい」
「アレ? おかしいね。なんでこの部屋に皆が来ているの? モノキッドは何処に行ったの?」
モノタロウがキョロキョロとモノキッドを探していた。ボケだとしたら趣味が悪すぎるし、素でやっているなら声を掛けるのが躊躇われた。だが、このままでは話が進まないと判断してか、モノスケが声を上げた。
「よぅ来たな。これから、モノキッドを殺した奴を見つける裁判が始まんねん。で、オマエらは調査せなアカンねんやけど」
「コレ 死体ニ 関スル 情報ヲ マトメタ ファイル ダヨ」
スッと。モノダムが全員にタブレットを配っていた。電源を入れるモノクロのモノキッドのアイコンが映し出され、横には『DEAD』と書かれていた。
状況と書かれたタブを確認すると、死体は損傷が激しく、腹部付近が圧迫され、動力源ユニットが破損したのが死因と書かれていた。
「この状況の情報と部屋の状況と併せて犯人を推測する。という訳だネ?」
「そうだね。モノクマーズには捜査に協力すること。妨害などはしてはならない。って縛りもあるから、分からないことがあったらそいつらに聞いてよ」
モノクマが真宮寺の質問に答え、必要なことだけを言うと姿を消した。
正直、生徒になったばっかりで死ぬとは思っていなかったが、特に愛着も親しみもない所か、何ならウザいと思っていた位なので悲壮感は無かった。が。
「モノスケ。もしも、これが事故や故意じゃなかったとしても、犯人には制裁がある。と思って良いんっすよね?」
「せやで。大体、殺された側に故意もクソもあるかいな」
天海の質問に、モノスケが苛立ちを隠しもせずに答えた。どうやら、今回の事件は彼らにとっても予想外の物であるらしい。
故に、再び全員に緊張が走った。もしも、最原がモノキッドを殺していた場合。彼に何かしらの制裁が下されるかもしれないからだ。
「最原なら無事でいられる。……ってことは無さそうだな」
百田は最原の左腕を見ていた。非常識で滅茶苦茶な存在だと思っていたが、無敵と言う訳ではない。怪我もすれば、戸惑いもする。
「でも、最原ちゃんが犯人だった場合。指名できなかったら、オレ達も終わりだよ」
王馬が戒める様に言った。自分達の誰かが犠牲になった訳ではないが、正しく犯人を指名できなかった場合、自分達も終わってしまう。
全員が気を引き締めて部屋を調査していた。本来なら来れる筈のない場所で起きた事件であり、部屋の広さも大したこと無いということで、事件の調査をしている者もいる傍ら、王馬や天海は部屋中を調べていた。
「2人共! ちゃんと、事件の調査をしてよ!」
白銀が苛立っていた。先程、ことの重要性を説いたのは自分では無かったのかと言うことも含めてだが。
「白銀ちゃん。俺は真面目にやっているよ。だって、こんな怪しい部屋。もしかしたら、何処かに繋がる経路があるかもしれないし」
「例えばの話っすけど、別の入り口から入ってモノキッドを殺して逃走した挙句、最原君に罪を被せようとしている。なんてこともあり得ると思うんっす」
モノファニー、モノスケ、モノダムがぶるぶると震えていた。一部始終を見ていた彼らとはして言いたいことがあるのだろうが、直接犯人に繋がる情報は開示できない為だ。モノタロウはせっせと調査に協力していた。
「てか。なんで、この部屋はこんなにゴミ箱が転がっているんだろう?」
「中のごみは、紙ごみとかだね。生活用品的に溜まったゴミとかじゃなくて、ゴミ箱を設置する為のゴミって感じ。なんで、こんな物が設置されているんだろう?」
赤松もゴミ箱の中身を確認して、疑問符を浮かべていた。これに関して、アンジーが何かを閃いていた様だった。
「ねぇ、皆。このゴミ箱だけ遠くに転がっているよー?」
他のゴミ箱は扉付近に転がっているというのに、1つだけ奥まった所まで吹っ飛んでいる者があった。まるで、途中で何かに衝突したかの様だ。
「壁際に取り付けられているモニタが落ちているのも気になるの」
モノキッドの周辺にはモニタの残骸が散らばっていた。夢野の言葉に釣られて、最原と一緒にやって来た入間がマジマジと眺めていた。
「モニタの残骸とモノキッドの残骸が混ざってんな」
「と言うことは、モノキッドはモニタに圧し潰されて死んだってことか?」
星がモニタを掛けられていた壁を見た。よく見れば、固い物が当たったかのように凹んであり、それは設置されていたゴミ箱よりは小さい。丁度、モノクマーズ位のサイズだった。
「最原。このゴミ箱だけ、がっつり凹んだ跡があるんだけれどよ。コレ、もしかしてお前が吹っ飛ばした奴か?」
百田の問いかけに最原は頷いた。雲行きがかなり怪しくなって来た。
最初に天海も尋ねた様に。もしかして、故意ではないが彼がモノキッドを殺した可能性がある。
「モノスケ。もしも、最原君がモノキッドを事故的な物で殺していた場合。それは、命じた私の責任にならないかしら?」
「アカンアカン。大切なんは、誰が直接やったか。言うことや。トリックを考えた奴や、瀕死に追い込んだ奴とかやなくて。直接、トドメを指した奴が犯人やねん。これは守ってや」
モノスケがニタニタと意地の悪い笑みを浮かべていた。表面上に動揺は無かったが、東条の動きが一段と早くなった。のは、緊張の表れだろう。
「あの、入間さん? 死体を漁って何を?」
「ついでにこいつらの中を見ておこうと思ってな。モノファニー! 死体損壊にならなければ大丈夫だよな!」
「そうね。今の入間さん位なら、問題ないわ」
幾らモノファニーから許可が出たとはいえ、キーボ的には気分は良くない。
モノキッドに同情している訳ではなく、ロボと言う括りで尊厳を凌辱されている様を目の当たりにしている様で、胸騒ぎを覚える。
「何か、分かりましたか?」
「コイツの動力源ユニットなんだけれどよ。見ろよ」
人間で言う所の心臓に当たる部分だが、どういう訳か真ん中が円状に凹んでいた。この不自然さはキーボも首を傾げる所だった。
「妙ですね。どう言うことでしょうか」
「なんかの証拠になるだろ。他はと……」
「おーい! 見て! 皆! この部屋、別の入り口に繋がっていたよ!」
王馬がブンブンと手を振っていた。瞬間、死体発見アナウンスが流れた時と同じようにチャイムが鳴った。
『さーて! お待ちかねの裁判の時間だよ! 寄り道せずに、直ぐに中庭にある裁きの祠へと来て下さい! 良いですか! 寄り道は一切許しませんよ!!』
「実はね。この部屋は……」
「早く行かないと。何されるか分からへんでー!!」
モノスケが王馬が言おうとしたことに被せる様にして叫んだので、皆は仕方なくこの部屋を後にした。瞬間、分厚い扉は締まった。
そして、言われた通り。彼らは中庭にある裁きの祠へと向かうことにした。緊張する最原の肩を入間が叩いた。
「大丈夫だって。犯人はオメーじゃねぇ! オレ様を信じろ!」
何かクリティカルな証拠を掴んだのか。普段は尊大だが打たれ弱い彼女にしては、妙に自信のある鼓舞だった。そんな彼女に勇気を貰ったのか、最原はフッと微笑んでいた。