校内放送に促され、裁きの祠へと集合していた。初日に探索をしていたメンバーは、前衛的なモノクマ像があるだけだと思っていた。
「こういう筋肉ムキムキ系マスコットって言うのも最近は見ねぇよなぁ」
「は? キャラの造詣を崩せば面白いとか、キャラ崩壊をさせておけばいいって楽しみ方は不誠実すぎるよ。原作ちゃんと見た? 設定資料集は? まとめサイトとかもちゃんと目を通している?」
何気なく昔を懐かしんだ百田に、白銀が怒涛の勢いで殴り掛かっていた。見事な位に面倒臭いオタク仕草であった。
そんな話題の渦中にある8頭身のムキムキモノクマ像は手にしていた盃を握り潰して破壊して、サイドチェストのポーズを決めて地下へと収納されて行った。代りに周囲の構造物が変形して、エレベーターが出現していた。
「この機構いる?」
「何言うてんねん。かっこええやろ!」
春川が抱いた疑問をモノスケが蹴り飛ばしていた。ただ、同意する奴は誰もいないままエレベーターに乗り込んでいた。皆、無言だった。
死んだのはモノキッド故に、思い入れも悲壮感も無いが、犯人の指名に失敗した場合は、自分達も処罰されてしまう。となれば、緊張をするのは当然だった。
「お待ちしておりました!」
長い時間をかけて下った先でモノクマに迎えられた。
サークル状に配置された、自分の名前が書かれた証言台に皆が向かった。16人の生徒に加えて4体のモノクマーズ。そして、モノキッドの遺影が立てかけられた席が一つ。
そんな彼らを見下ろす様な場所に座っているモノクマはさながら裁判長と言った所だろうか。
「学級裁判では誰が犯人か? を議論し、その結果はオマエラの投票によって決定されます。正しいクロを指摘出来れば、クロだけがおしおきですが、間違った人物をクロと指摘した場合、クロ以外の全員がオシオキされます!」
改めて強調することで、この場に集まった者達に緊張感を持たせていた。
そう。この裁判は決して軽い気持ちで挑んでいい物ではない。不正解ならば、自分達も殺されてしまいかねないのだから。
「じゃあ、まず。俺から議題の提案をいいっすか?」
真っ先に手を挙げたのは天海だった。何もかもが手探りな状況で口火を切ってくれるのは有難くもあった。
「ズバリ。犯行現場がどういう状況だったかについてを話したいっす。何が起きたか、俺らは何も知らないんで」
「いい提案だと思うよ。いきなり犯人を特定できるとは思えないしね。最原ちゃんが話せたら、もっと話も早かったんだけれど」
王馬がチラリと見た先、最原は俯いていた。日常でコミュニケーションを取る分では言葉が無くともなりたちはするが、こういった場においては自分の考えは言葉にしないと伝わらない。
「最原君。私達も意見を出すから、同意できる物に反応してくれたら嬉しいな」
赤松がそっと助け舟を出した所で、最原は会釈する様に頭を下げた。と、その前に百田が挙手していた。
「そもそも、事件現場のことを考えればよ。モノクマーズに聞いたら分かるんじゃねぇのか?」
「それをしたら学級裁判にならないので、サポート位しか言えない様に制限しています。なんで、楽をしようとは思わないで下さい!」
そこら辺はちゃんとゲーム性を持たせているらしい。改めて、全員での議論が始まった。最初に口火を切ったのは、春川だった。
「事件現場は図書室の向こうで起きたんだよね」
「本来なら、俺達は立ち入れない部屋だ。つまり、この時点で犯人は最原かモノクマーズってことになるな」
星が大胆にクロを絞りに来た。加えて、彼らと同行していた東条からも補足が入った。
「私達が最原君を見送って、ほんの数分後に起きたのだからトリックを仕掛けたりする時間も無かったハズよ」
「せやったら話は簡単や。最原が部屋に押し入ってモノキッドを殺した。そういうこっちゃろ!」
モノスケの発言は乱暴な様に見えて筋が通っていないこともない。
最原が部屋に突入して、数分後に死体発見アナウンスが流れたのだから、むしろ自然な考えだろう。
「そもそも、あの部屋はどういう場所だったの? なんか、ゴミ箱がいっぱい転がっていたけれど」
赤松も調査に参加していたが、ゴミ箱が沢山あるだけでよく分からない部屋という印象しかなかった。その認識は概ね共通していたようだが。
「でも、ゴミ箱がそこら中にぶちまけられていたりしたのは何でだろうネ?」
「きっと、アレですよ! ゴミ箱でバリケードを作っていたんです! じゃないと、好き勝手に侵入されますからね!」
真宮寺の疑問に茶柱が答えていた。だったら、もっと他に適した素材や道具があるだろうという当然の考えが過ったが、一同がモノクマーズを見た。
「彼らの背丈で設置できるバリケード。と言ったら、ゴミ箱位になるんでしょうか? 中身を入れておけば、それなりに障害物としては機能しますし。何より」
「汚い物には触りたくないよね」
キーボの意見に白銀が同意していた。だが、実際にゴミ箱はバリケードとして機能していなかったから吹っ飛ばされていたのだろう。
「オイラ カラ 言エル 範囲デ 言ウト バリケード ハ 役ニ 立タナカッタヨ」
「ふむ。最原の魔法はゴミ箱程度では止められんということじゃな」
モノダムの報告に夢野が頷いていた。そもそも、デスロードなんて物を突破できる奴をゴミ箱でどうにか出来るなんて誰も思っていなかった。だからこそ、悪い予想も湧いて来た。
「つまり、最原ちゃんはゴミ箱バリケードを突破したけれど、勢い余ってモノキッドをひき殺した。って考えることも出来るよね?」
「せやから、そう言うとるやろ!」
王馬が打ち出した推測にモノスケがヒステリックに同意していた。だが、これに声を上げる物がいた。百田だ。
「そいつは違うぜ! コイツを見てくれ」
百田は先程の調査で得た情報が載せられたタブレットを見せた。部屋の中にはゴミ箱が散乱していたが、1つだけ特に遠くに吹っ飛ばされた物があった。
「そうか! 部屋の前にはバリケードがあったんだから、本当にモノキッド君を轢いているなら、壊れたゴミ箱が無いとおかしいよ。1つだけ大きく吹っ飛んでいるってことは、最原君はこのゴミ箱に当たって止まったんだよね?」
ゴン太の質問に最原は頷いていた。デスロードにあった機材を破壊する程の勢いがあるのだ。ゴミ箱位は壊せていないとおかしい。
「他のは余波で散らかったとしても。じゃあ、なんでモニタは落ちていたのかしら?」
今度はモノファニーから疑問が出た。最原がゴミ箱を吹っ飛ばして止まったというなら、どうして壁に立てかけられていたモニタが落ちたか。というのは、難しく考える必要はない。
「吹っ飛んだゴミ箱がモニタに命中して、更に吹っ飛んだ。ってだけだろ」
入間がサクッと述べていた。さながら、部屋内はピンボールの様な状態になっていたのだろう。故に、王馬が彼女の意見に待ったをかけていた。
「本当に直接モニタに跳んだのかな? だとしたら、なんでモノキッドはモニタの下で死んでいたの? モノタロウ。事件が起きた時、モノクマーズはどういう状態だった?」
「オイラ達は頑張って並べたゴミ箱の前に立っていたよ。それで、最原クンがぶっ飛ぶ様子を見たかったんだ!」
「ぶっ飛ぶ?」
言葉の意味が分からず赤松が聞き返していた。これは彼らにとっては失言だったらしく、モノクマが眉間に皺を寄せ、モノスケとモノダムが苛立ちを見せ、モノファニーが困惑していた。すかさず東条が聞いた。
「モノクマ。この情報の詳細を求めていいかしら?」
「仕方ありませんね。息子の失敗をフォローするのも親の役目ですから。実は最原君のような体質の人はですね。ゴミ箱と衝突しようとするとぶっとんじゃうんですよ!」
実に端的に述べていた。モノクマのことだから裁判に関する情報でウソをつく真似はしないが、それにしたって聞き逃せない。百田が聞いていた。
「ちょっと待てよ。最原みたいな奴って他にもいるのか?」
「います。具体的な数は分かりませんが」
「おぉー。最原以外に神っている人間がどんな風なのか気になるねー!」
アンジーが目をキラキラさせながら最原のことを見ていたが、本人は苦笑いするばかりだった。だが、ここで新たな疑問が生じた。
「待って下さい。衝突しようとしてぶっ飛ぶなら、なんで最原君はちゃんとゴミ箱を吹っ飛ばせているんっすか?」
言葉にするとトンチキなのだが、こういうのも真面目に考えられるのが天海だった。確かに、最原はゴミ箱を吹っ飛ばしていた。
「それがワシらにとっても予想外やったんや。どういう訳か、コイツ。ゴミ箱も普通に吹っ飛ばせるみたいやねん」
モノスケが忌々しそうに言っていた。ただ、彼の証言から全員が当時の状況をある程度、推測できるに至っていた。代表して、赤松が状況を整理していた。
「事件が起きた、例の部屋。そこではモノクマーズが最原君の侵入を止めようとゴミ箱バリケードを設置して待機していた。けれど、最原君は普通に突破して来てゴミ箱を吹っ飛ばした。ってことだよね?」
東条達が目を離した数分間に起きていたのはそう言うことだろう。だが、ここで先程の王馬の言葉が思い出されたのか。白銀が口を開いた。
「もしかして、モノクマーズも予想できなかったから、吹っ飛んで来たゴミ箱を回避できなかったんじゃない?」
「確かにな。人間、予想できないことが起きると反応は遅れる」
元・テニス選手である星も頷く所だった。吹っ飛んだゴミ箱はモニタに当たる前にモノクマーズの誰かに当たった。例えば、今回の被害者とか。
「星ちゃんが集めた証拠の中にさ。モニタが掛けられていた壁に、凹みが出来ているって言うのもあったしね。それで、壁まで吹っ飛ばされたんじゃない?」
星が小さく舌打ちをした。王馬も言う通り、
「つまり、最原君が吹き飛ばしたゴミ箱は一度モノキッドに当たって、彼を壁際まで吹き飛ばした。そして、バウンドしたゴミ箱はモニタに直撃し、ちょうど下にいた彼に降り注いだ。ギロチンの様にネ」
「じゃあ、まさか。最原君がクロだってことですか!?」
キーボが動揺していた。これまでの議論を踏まえた上で導き出された、真宮寺の推理はあまりに納得行くものであったからだ。
捜査の段階でモノスケが言っていたように。例え、故意で無かったとしても被害者を殺害した物がクロになる。というのであれば、最原が犯人となってしまう。赤松が待ったをかけた。
「待って! まだ、最原君がクロだって決まった訳じゃないよ。もう一度、ファイルを確認しようよ!」
全員がファイルを開いた。死体の損傷が激しく、死因は腹部を圧迫されたことによる動力源ユニットが破損したこと。と書かれている。
「これで決まりかな?」
王馬の言う通り、先程、真宮寺が述べた推理を確固たる物にする証拠にしか過ぎなかった。
全員の視線が最原に集まる。彼は首を横に振っているが、あまりに材料が揃い過ぎていた。が。
「テメーの妄想はここらで中止だッ!」
正に、議題が解決しようといる土壇場(ショーダウン)の中で、入間が反論をしていた。
「入間ちゃん。これはオレの妄想じゃない。認めたくはないけれど、状況と証拠を積み重ねて来た結論なんだ。赤松ちゃんが確認したファイルにも書かれていたでしょ?」
「そこだよ。胸部付近を圧迫されたことによる、動力源ユニットの損傷が死因とは書かれているけれどよ。落下して来たモニタで潰された訳じゃねぇんだ」
入間が、先程キーボと一緒に見た動力源ユニットの損傷写真を提示した。天海を始めとした、インテリグループは直ぐに気付いた。
「『動力源ユニットは円形に凹んでいた』。妙っすね。落下して来たモニタに潰されたら、円形になんて潰れないハズっす」
ここに来て、未知の損傷が出て来た。円形の凶器、なんて物は何処にも出て来ていない。ふと、赤松が何かを閃いた。
「もしかしたら、途中までは真宮寺君が言った通りだったとして。モニタに潰された時点では、モノキッドの動力源ユニットは無事だったとしたら?」
「トドメを刺した奴が別にいるってことだネ。最原君がトドメを刺す理由があるとは思えない」
少なくとも、生徒になったモノクマーズの目の前で事件を起こす意味が無い。一瞬でクロだとバレる。
「だとしたら、これは事故。ということ?」
モノファニーの視線がモノタロウに向けられていた。恐らくだが、彼女には思い当る所があったのだろう。モノダムも何かに気付いたように『アッ』と呟いていたし、モノスケも表情を歪ませていた。
「なんかあったの?」
唯一、当事者と思われるモノタロウ両手を挙げて疑問符を浮かべていた。丸っこい手だった。
最原もピンと来たらしく、皆の前で重ねた両手を突き出したり、引っ込めたりするジェスチャーを繰り出していた。
「心臓マッサージか?」
百田が思い当った行為を口に出した。最原が頷いた。今まで出て来た状況と証拠がカチリとハマりこんだ気がした。そして、極めつけの一言が放たれた。
「そうだ! それだ! オイラ、モノキッドを助けようとして心臓マッサージをしたんだ! えらいでしょ!」
胸を張っていた。本人的には仲間を助けるために最善を尽くしたつもりだろう。だが、推測が正しいなら彼は救助したというよりも……。
「モノクマ。モノキッドの損傷した動力源ユニットのレプリカとかある?」
「はいはい。ありますよ」
王馬の要請に、モノクマは快く答えていた。用意されたユニットは円形にべコリと凹んでいる。
シンデレラがガラスの靴を履くように、モノファニー、モノスケ、モノダムの順番に試していく。全員違っていた。最後にモノタロウが押し込んだ。ピッタリだった。事件の全容は見えた。
「バカ松! お前が説明してやるんだよ! これがクライマックスだ!」
「分かったよ!」
入間に指名された赤松はこれまで得た情報を整理して順序立てていた。かくして、モノキッド殺害事件の議題はクライマックスに差し掛かっていた。