「今回の事件は本当に突発的に起こった物だったの」
学級裁判のクライマックスを飾る推理が、赤松の口から説明されようとしていた。
「事件が起きたのは図書室の奥。本来なら、このコロシアイ学園生活の終盤で入れる場所だったんだろうね」
序盤で『何か重要なものがある!』という場所を臭わせておくことで、後半の展開に期待を持たせる。というのは、実にゲーム的な演出だ。
逆を言えば、そんな場所には黒幕や真実に近付く為の情報が詰め込まれていると考えて良いだろう。
「でも、私達の中では常識を超える人がいた。物理突破型の超高校級の探偵。最原君だよ!」
「俺が知っている物理型となんか違うな」
百田的にはフィジカル面で筋骨隆々としたゴン太の様なタイプを想像していたが、最原はそう言う分類ではないタイプの物理(演算干渉)突破型だった。
「けれど、黒幕側も対策をしていた。どういう原理か分からないけれど、最原君達みたいなタイプの人はゴミ箱が苦手だから、モノクマーズに命令してバリケードの様にして並べていたんだよ!!」
「むしろ、ゴミ箱が得意なタイプって何じゃ?」
説明的には正しいのかもしれないが、文面的には疑問を抱くしかない。夢野が抱いた感想は、この場にいる大抵の人間が思ったことだろう。
「でも、最原君はゴミ箱を物ともせずに吹っ飛ばして侵入できたんだよ!」
「あの。確認するんですけれど。これ白昼夢の話じゃないですよね?」
「残念だが、現実だ」
話を聞いている内に自身の正気が疑わしくなったのか、茶柱が問うていた。星が無慈悲に切り捨てていた。
「だから、事件は起きた。モノクマーズは最原君が侵入に失敗した瞬間を見届けようとしていた。故に、彼が吹っ飛ばしたゴミ箱が命中してしまったの!」
「凄いよ、赤松ちゃん。本当に、オモシレー女だよ……」
既にインテリ組は事件の全容を理解したので、付き合うのもバカらしくなっていたが、赤松があまりに一生懸命に話してくれるので、王馬もこうして応援する外無かった。真面目とは程遠い態度であるが。
「吹っ飛ばされたゴミ箱はモノキッドに命中して吹っ飛ばしただけに留まらず、バウンドして壁に取り付けられていたモニタにも命中して、ちょうど真下にいたモノキッドに向かって落下したの」
「凄いよネ。何かのトリックで使われそうなギミックなのに、全部事故だけなんだよネ」
あまりに殺意の高い偶然に真宮寺も驚いていた。事件自体にはあまり興味も無さそうだったが。
「その一撃でモノキッドは瀕死の重傷を負った。このまま死んだら、きっとクロは最原君になっていた。でも、実際は違った。トドメを刺した人がいたの」
「モノキッド ハ カス ダカラ ネ」
死人になお唾を吐くモノダムの恨み節はとっても有機的だった。
だが、今回の事件の犯人は彼ではない。むしろ、善意から出た行動が最悪の結末を招いた。
「犯人に善意はあったんだと思う。でも、悲しい位に知識が足りなかった。モノクマーズの中で唯一、被害者に応急処置を施そうとした生徒。モノタロウ。キミが犯人なの!」
赤松がモノタロウを指名していた。犯行現場を目の当たりにしていたモノクマーズはひたすら気まずそうな顔をしていて、赤松以外のメンバーも比較的常識がある人間は驚きもしていなかったが。
「え!? なんで!?」
果たして、空気を読んだのか、あるいは信じられなかったのか。ゴン太が驚いていた。彼を孤立させまいという気遣いか、あるいはあんまり発言できなかったことを顧みてか、キーボも控えめに意見を出していた。
「もしかして、モノタロウはモノキッドのことが嫌いだったとか?」
「そんなワケ無いだろー! オイラとモノキッドは親友だったんだぞ! ギターで殴られたり、下手糞なライブ聞かされたりしたけれど!」
一気に怨恨の線が強くなった。いや、動機は兎も角として犯人はほぼ決まった様な物なのだが。
「それにオイラが犯人なワケ無いだろ! だって、オイラはモノキッドを助ける為に『心臓マッサージ』をしたんだから!!」
改めて、本人からも言質が取れた。モノクマがクソデカ溜息を吐いていた。
「えー。もう、投票に行くんすけど。良いですか? 画面に表示されたクロと思しき人に投票してね」
全員が迷うことも無く逡巡することも無く、モノタロウのアイコンを押していた。
演出なのか。スロットの様な画面へと切り替わり、リールが回転し始めた。そして、要素に違わずモノタロウの柄が揃った。
「はい。大正解です。親友のモノキッドを殺したのは、モノタロウです!!」
「えー!!!?」
モノタロウだけが悲鳴を上げていた。場を引っ搔き回しそうな王馬もあまりに下らない茶番だった為か、早く終われよ。みたいな顔をしていた。
「やったね! 最原君、無罪だよ!」
「オレ様のお陰だな!」
赤松と入間も喜んでいるが、東条や天海のような一部のクレバーな者達は緊張した表情を崩さなかった。そこだけは、モノクマも嬉しそうにしていた。
「うぷぷぷ。オマエラ、おしおきが見たいって顔していますね。それじゃあ、早速始めましょう!! 我が子の旅立ちの時間だー!」
~~
天井からクレーンが降りて来て、モノタロウを捕まえて何処かへと運んでいく。
連れて来られたのは、採石場の様な荒涼とした場所だった。周囲には白と黒のツートンカラーの全身タイツを装着した戦闘員らしき者達が『クマー』と声を上げていた、
「このー! オイラは負けないぞ!」
カラーリングやファッション的にリーダーポジションを意識していたのか、小さい体で次々と戦闘員達を倒していた。彼らを全滅させると、待機していた怪人が姿を現わした。
蝶ネクタイに青いスーツをキッチリ着こなし、手にはサッカーボール。は不味かったのだろう。ラグビーボールになっていた。怪人がシューズを弄ると、光り輝きすさまじい勢いでラグビーボールが蹴り出された。あまりの威力とスピードにモノタロウが吹き飛ばされるが、リーダーは負けない。
「オマエなんかに負けるかー!」
モノタロウは巻いているスカーフから取り出した手裏剣を投擲した。複雑な軌跡を描き、怪人の頭に命中した。
ただし、相手が放ったラグビーボールも同じ様にこちらに向かって来る。だが、モノタロウの前に巨体が舞い降りた。青ペインティングが施されたエグイサルだ。
「モノキッド!?」
直撃を受けたエグイサルはサムズアップを繰り出した後、爆散した。
死してなお友を想う心意気、そして。掛け替えのない友人を失ったモノタロウが嗚咽を漏らしていると、頭上から爆散したエグイサルの腕パーツが飛んで来て、彼を貫いた。
ちょうど、サムズアップをしていた指が下を向く形になっていたので、モノキッドが抱いていた友人への思いが如実に表れた光景になっていた。
~~
「はぁ~。ハイハイ、露悪特撮パロ露悪特撮パロ」
白銀がクソデカ溜息を吐いていた。どうやら演出的に甚く気に入らなかったらしい。他のメンバーに漂っていたのは恐怖より、困惑だった。あまりに前衛的な処刑を見せられたからだ。
「まぁ、今回はチュートリアルみたいなモンだからね。学級裁判の雰囲気は分かって貰えた? 次の犯人はキミだ!」
多少の鬱憤は晴らせたのか、多少満足したモノクマと戸惑うばかりのモノクマーズは姿を消した。残された面々も何とも言えなかったが。
「とりあえず、帰りましょうか」
東条に促され、全員が来た時と同じようにエレベーターに乗って校舎の方へと戻って行った。
~~
「で。あんな茶番はどうでもいいんだけれど。あの黒幕部屋に繋がる通路、封鎖する前に皆で行っておかない?」
先程の学級裁判のことは本当にどうでも良かったのか、王馬は黒幕攻略RTAを敢行しようとしていた。これに抗議をしたのは白銀である。
「王馬君。さっきの変な催しのせいで疲れたから、明日で良いかな?」
「駄目。時間を与えたら、アイツら絶対に封鎖とかしてくるでしょ。赤松ちゃん、入間ちゃん。最原ちゃんをクロにしようとしたアイツらを一発ぶん殴ってやらない?」
彼女の意見に興味が無いのか、最も焚き付け易い2人を煽った。物の見事に彼女達はノってくれた。
「うん! 折角、最原君が開いてくれたんだもん!」
「さっきの茶番より、よっぽどやる気でるぜ!」
「そうだな。こんなふざけたゲームはさっさと終わらせるに限る」
「早く行こう」
星と春川も賛同したので、なし崩し的に全員で件のルートへと向かうことにした。辿り着いたのは、女子トイレ前だった。
「ねぇ。王馬君?」
「調査と称して合法的に女子トイレに入るつもりだな!? いざとなったら、もつあきのガキみてーになるタイプだったか!!」
意気揚々と付いて来たのは良いが、女子トイレの前で止まった。となれば、女子陣から非難を食らうのは当然の流れである。
「ハーッ! 本性表しましたね!! 黒幕よりもなおどす黒い男死が!!」
「お主は黒幕の何を知っておるんじゃ?」
当然の様に茶柱が先頭に立って非難していた。だが、ここで意外な人物が助け舟を出した。
「小吉はそんなことしないよー。中にあるんだよね?」
「え? アンジーさん。信じるの?」
白銀が信じられない様な物を見る目をしていた。アンジーに賛同する様にして東条や春川も声を上げていた。
「でも、隠し通路の場所的には合理的よ。女子は男子トイレに入れるけれど、男子は女子トイレには入れないしね」
「特に閉鎖空間での共同生活中にそんな所に男子が入れば、今後の生活に影響するだろうしね」
バカげた様に見えて、合理性を突き止めた隠し場所であるかもしれない。こういった時に話し合いの場に付かせる。という能力に関しては、やはり王馬は秀でていた。
「よぅし! じゃあ、皆でもっと詳しく調べに行こう! 黒幕の部屋!!」
かくして。王馬先導による、初回の学級裁判を勝ち抜いた報酬貪りハックが開始されようとしていた。