「呼び出したのは外でもない。お前には未遂とは言え、前科があるからな」
校舎の外れ。星は最原と共に春川を連れ出していた。彼女もそれは分かっていたらしく、大人しく連行されていた。
「こんな短期間でアクションは起こさないって」
「念の為だ。それに、今朝も話していたがモノクマの言い方も気になる。奴が提示した動機に乗っても碌なことにはならないだろうさ」
星だけではなく、他の者達もモノクマには不信感を抱いている。
やはり、デスロードが外の出口へと繋がっていなかったことが早々に証明されたことが大きかった。公平ではあるが、不誠実だと。
「コレを見て、全員がちゃんと割り切れたら良いんだけれどね」
春川は手にしていたタブレットの動画を再生した。すると、彼女が働いていた保育園や孤児院の映像が映し出されていた。
『春おねーちゃん。学校でも頑張ってね!』
園児達は心から笑っている。が、直ぐに映像が切り替わった。
場所は先程と同じ保育園や孤児院なのだが、いずれも荒れ果て、壁や天井には血がこびり付いていた。
『さてさて。春川さんが大事にしていた園児達はどうなってしまったのでしょうか! うぷぷぷぷぷ!!』
モノクマの耳障りな声と共に映像は終了した。見え透いた挑発だとしても、やはりこんな物を見せられたら、平静ではいられない。
「胸糞悪くなる動画だな」
「でも、逆に出る気は無くなったかな。行っても間に合わない」
あまりにあっさりとした諦観だった。思わず最原が歩み寄って、彼女を見据えた。『本当にそれでいいのか?』と、言っている様な気がした。
「逆に聞くけれど。今更、私が出て行って何が出来るの?」
超高校級の保育士。ともなれば、慈愛に満ちた人物像を想像していたが、彼女はどうにも冷淡だった。このギャップの正体が分からず、最原は困惑していたが、星は妙に納得していた。
「なるほど。やっぱり、お前はこっち側か」
「知らないし。で、事件を起こす気も無い私を見張って無駄に時間を過ごす?」
彼女の言葉を全面的に信じる訳ではないにしても、諦めている様子は伝わって来た。他にも事件を起こしそうな人間がいるとすれば、やることは1つ。
最原は星と春川を指差して、後者の方を指差した。今から、全員で向かうぞと。そして、頭の上で手をグルグルさせていた。
「まさか、俺達で見回りをするって話じゃないだろうな?」
星の予想に、最原は拍手で返していた。こんな緊張した状況にも関わらず、あまりにポジティブだ。件の映像に写っていた両親の気質が受け継がれているのが、よく分かる。
「なんで、私まで?」
「監視がてらだよ。じゃあ、スケーター同好会の勧誘会で始めるか」
星の提案に最原が指パッチンをした。見回りをすると言えば、全員が緊張してしまうが、スケートボードの勧誘ならば皆も気を許してしまうに違いない。なんて、冷静かつ的確な判断力だと。
「いや、そうはならないでしょう」
春川の指摘は全て無視され、星と最原はスケートボードに乗って校舎に向かっていた。結構な速度で進むので、春川も仕方なく彼らに倣うことにした。
~~
「スケートボード~。スケートボードはいらないか~」
声を出せない最原に変わって星がスケートボードの宣伝をしながら、校舎を回っていた。声は渋いし、気質はハードボイルドだが、見た目がマスコット的なのでスケートボードが滅茶苦茶似合っていた。
意気揚々とスケートボードを掲げる最原の姿には、探偵らしさやIQと言うのが皆目見当たらなかった。無理矢理付き合わされている春川は恥ずかしがるかと思いきや、威風堂々と付いて来ていた。
「こういうのは園児の相手で慣れているのか?」
「そんな所。流石にスケボーは危なくて教えられないけれど」
子供とのコミュニケーションにおいて恥じらいは邪魔になる。彼らの視線に合わす為に、一旦常識を置いて。されど、大切なことは忘れずに接するのは至難の業であるが、春川は問題無さそうだった。
さて、こんな珍妙な団体が闊歩していれば注目されない訳が無い。当然、面白がって近寄って来る奴がいる訳で。
「お。最原君達、何か面白いことやっているっすね!」
「お前もどうだ?」
「いや、すんません。最原君は悪くないんですけど、外国を旅している影響で、あんまりスケボーにいい印象が無くて」
星が代わりに聞いてくれたが、目に見えて最原はションボリしていた。
日本でもマナーの悪いスケーターは多いし、海外ではもっと混沌としていると言うことは、彼も知っていのだろうが、やはり直接聞くのはショックだったらしい。
「そう言えば、星君達は動画。見ました?」
「いや。見てねーが、内容は想像できる。何なら、この場で見るか?」
星が持っていたタブレットの電源を付けると風景などではなく、工事現場で建っている看板の様な画像が表示されるだけだった。
『大変申し訳ありませんが、どれだけ探しても星くんの大事な人は見つかりませんでした』
「ってことだ。分かっちゃいたがよ」
だからと言って、突き付けられたらショックに決まっている。多少気落ちをした所で、最原が彼の肩を叩いた。自分にとっては大事なスケートボード仲間だから。と言ってそうな気がした。
「最原君、星君が変な気を起こさない様にちゃんと面倒見て上げて下さいっすよ。ほら、向こうからもスケボーに興味がある奴が来ているっす」
誰だろうと面を上げると。白とピンクのツートンカラーモノクマことモノファニーだった。天海以外の3人は顔をしかめていた。
「皆~! 私もスケートボードを遣りたいの! やらせて!」
一瞬で最原の表情が花咲いた。あまりにちょろい男だった。モノファニー向けに花柄デッキの可愛らしいスケートボードを速攻で用意していた。何処から取り出したんだとツッコミを入れるよりも先に、モノファニーが大声で言っていた。
「んまぁ! 最原君ってステキ! アタイのやりたいことを直ぐに察してくれるだなんて! とんだ王子様よ!」
そこまで言われたらと。最原の頭頂部のアンテナの様な毛がピコピコ揺れていた。一方、彼以外の3人は察していたので小声で話していた。
「明らかに当てつけっすよね。コレ」
「多分アレか。朝、王馬達が話していた件だろうな」
「気持ち悪っ」
3人がすーっと視線を送った先、壁から半身だけ出してジィっと陰湿な視線を送って来るモノダムがいた。
最原とモノファニーがキャッキャウフフスケスケしている光景をジィイイイっと眺めている。正直、不気味と言う外ない。嫌な予感がした。
「おい、最原。早く行くぞ」
「アタイも付いて行くわっ!」
「おー。上手いこと、勧誘行くといいっすねー」
痴情の縺れは大抵ロクでもない結末へと向かうのが定番なだけに、星はさっさとこの場から脱したかった。急にベッタリして来たモノファニーには不気味さに加えて、軽薄さすら感じていたが最原は暢気にスケートボードを教えていた。
~~
彼らが去った後、モノダムはブルブルと震えていた。全身のパーツが擦り合わさって、ガチャガチャと音を立てているのは、彼の怒りを表していた。
「モノファニー アンナ チビ ノ 何ガ」
「気の毒っすねー」
いつの間にか、モノダムの背後に回っていた天海がしゃがみこんで彼の肩に手を回していた。払いのけられた。
「何ノ 用?」
「腹立たないっすか? 見せつけて来たモノファニーに、事情を知っていても察する気もない最原君に」
モノダムは頷いた。今朝から、モノスケに殴り飛ばされ、ボコられ、モノファニーから汚物を見られるような視線を向けられ、フラストレーション続きの中でえられた同意と言うのは、脳まで染みわたった。
「全ク ダヨ。アイツラ ニハ 気遣イ ガ 足リナイ ネ」
「一発、痛い目を見せてやりたいとは思わないっすか? このままだと、ヒエラルキー最下層突っ走って終わりっすよ」
生き残ったモノクマーズおよび才囚学園の生徒達からも唾棄される様な存在になるのは本人的にも避けたかった。いや、自業自得だが。
「何カ 考エ ガ アルンダネ?」
「ちょっとね。お互いにとって悪い取引にはならないっす」
そして、天海は取引を持ち掛けた。コレには甚く満足したらしく、モノダムは準備を始めると言って、姿を消した。彼がいなくなったのを確認してから、懐からタブレットを取り出していた。
「最原君。申し訳ないっす。俺はまだやるべきことがあるんっす」
タブレットには彼より年下の少女達が幾つも映し出されていた。場所も、場合も、シチュエーションも様々な場所で、彼女達は危機に陥っていた。