「皆さん。転子達は東条さんに頼りすぎだと思うのですよ」
食堂に皆が集まるや、エプロンを付けた茶柱が言った。彼女も言う様に、東条は皆の牽引から掃除、料理など幅広く活躍をしている。
当の本人は『自身が超高校級のメイドであるが故』と言うことで、皆に気負わせないように配慮までしてくれている。
「で、茶柱さんは朝食を代りに用意してくれたってことだろうけれど……」
白銀がシワシワ顔になっていた。テーブルの中央にドカンとおかれたのは、グツグツと音を立て、味噌とにんにくが入り混じった香ばしい香りを放つ料理。
大量のキャベツとニラの下には、チラリとホルモン類が顔を覗かせていた。横にはドンと白飯の入ったおひつまで用意されている。
「茶柱よ。やっぱり、朝からもつ鍋は重すぎやせんか?」
「大丈夫ですよ。何も朝に平らげる必要はありません。朝、昼、晩の3食分作っていますから。時間が経つごとに味が沁みて、野菜もクタクタになって美味しいんですよね」
朝食だけではなく、その日のメニューを固定するという越権行為だった。
起床したばかりの内臓で受け止めるにはどぎつすぎる臭いだったが、男性陣はそうでもなかった。
「そうだぞ! 一発気合入れて行かねーとな!」
「うん。今日はゴン太も頑張るからね!」
どんぶりに白飯を装い、もつ鍋の出汁と具材をぶっかけるストロングスタイルを披露する百田に、ゴン太も少し大きめのお椀に並々と盛っていた。そんな彼らに触発されたのか、他の男子達も盛って行くのだが。
「最原ちゃん。コレ、死んだのがモノダムだから良いけれど。もしもさ、昨日の深夜に誰かが死んでいたら、最悪の朝食になっていたよね」
モノダムでも良くはないが。と、最原は首を振っていた。
朝からハチャメチャな光景を繰り広げているが、これが終わったらモノダムが殺害された事件の調査が待っている。前回の事故みたいな学級裁判と違い、今回は本当に何が起きたか分からない。
「うぉおおおお!! 美味ぇ!! コレ、朝から二人で作ったのか!?」
超高校級の宇宙飛行士ともなれば、身体も頑強なのか。百田は凄い勢いで飯を食っていた。茶柱のチョイスは兎も角として、味は悪くないらしい。
「いえ、モノファニーさんにも手伝って貰いました!」
「そうよ。アタイも助生徒として皆の活動に参加してみたかったの」
何処からともなくびょびょーんとモノファニーが飛び出して来た。いつものセクシーな下着姿ではなく、エプロンと三角巾を付けていた。
「昨日の件と言い、お前は俺達の活動に積極的に参加して来るんだな」
星が言ったのは、スケーター勧誘活動の時に付いて来たことを指しているのだろう。愚痴を吐きまくっていたので体よく追い払われていたが。
「そう言えば、あの後。何処に行っていたの?」
一緒に外に出た春川もモノファニーが何処に行ったかは分からなかったらしい。すると、代りに茶柱が答えた。
「天海さんと一緒に食堂へと来たんですよ。彼からの紹介で、私達の作業を手伝いたいと言う話を聞きまして」
「天海クンってばとても聞き上手でねぇ。彼と話している内に、アタイ。自分がやりたいことが分かったの!」
スケボー云々はどうしたんだと最原が若干むくれたが、移ろいやすいのが女心と言うことで呑み込んだ。モノファニーが楽しそうに話している中、入間はコソコソと東条に近付いていた。
「あ、アタシのごはん……」
「そう思って、軽い朝食も作ってあるから」
茶柱達の厚意を無駄にする訳にもいかないが、情熱だけで腹を埋めることも出来ないと判断して、しっかりとフォローをする辺りが東条らしかった。
「最原ちゃん。オレ達もあっち側にしようよ」
頷いた。既に男性陣はもつ鍋を空にしようとしているが、あそこまでパワフルには出来ないと。最原は溶けたバターが乗ったトーストを齧っていた。
~~
「あ、朝から食い過ぎて腹が痛ェ……」
「自分、アホなん?」
約束通り、モノスケは現場を保全していた。早速、調査を始めようという段階で百田は腹痛を起こしていた。
「百田君。大丈夫?」
「なんで、お前は校舎にいる間にトイレに行かなかったんだ」
ゴン太が心配そうにする傍ら、星は呆れていた。自分達が死ぬかもしれない、事件の調査を前にして気が抜け過ぎてはいないかと。
「おい、ウンコするなら校舎の方に行けよ! なんで、修繕されたばかりの私の研究教室で殺人が起きて、初ウンコされないといけないんだよ!!」
入間がキレ散らかしていた。殺人と同列に語られるウンコに何の罪があるのか。コレを阻止するべく、入間は先にトイレに入った。
「そんなこと言っている場合か……」
反論する百田も普段の快活さは鳴りを潜め、消え入りそうな声で抗議していたが、聞き届けられることは無かった。
「うぉおおおお! すげぇ!! トイレ広っ!! モニタも追加されているじゃねぇか! 映画見ながら用を足せんのか!! こっちには冷蔵庫も!」
「折角、修繕するんやから機能も充実させようと思ってな」
モノスケが胸を張る中、百田は入間がトイレから出て来ることはないと悟ったのか、よちよち歩きで校舎の方へと向かって行った。一同は何も見なかったことにして、調査へと戻る前に、キーボが質問していた。
「さっき、修繕した。って言っていましたが、この研究教室は以前通りではないと言うことですね?」
「せやな。トイレの改造もせやけど、ここにある機器は最原が触っても大丈夫なように特殊な処置を施したんや。昨日は、そのテストの為に協力して貰ったんやけど、まさかあないなことになるなんてな」
珍しく、いつも人を小馬鹿にしている様なモノスケが困惑していた。どうやら本当にアレは予想もしていない事故だったらしい。
「最原君。触って貰ってもいい?」
赤松に促され、最原は周辺の発明品やら機器を触っていた。特に何も起こらないと言うことは、モノスケの言うことは本当なのだろう。
「でも、こんなことが出来るならさ。最初から学園の設備とかデスロードとかにも同じような処置を施しておけば良かったんじゃ?」
ここで王馬が当然の質問をした。デスゲームを行う上で、最原の能力は障害になるのだから、対策をしなかったのは疑問に思う所だ。
「ワシらかて、コイツらのことはよーわかっとらんねん。こういうコーティングをすれば行けるんちゃうんか? って言う、目途が立ったから研究教室の修繕に着手したって言うのもあるんやけど」
「じゃあ、最原君の対策が出来たのは本当に最近。って感じなんですね。良かったら、僕も貰い事故を防ぎたいので処置を施して欲しいんですが」
「すまん。流石にあんさんは複雑すぎて処置を施すんが怖いねん」
キーボがションボリしていた。最原と接触しただけで死亡するかもしれない可能性は放置されるのかと。
何気ない世間話の様に思えるが、この研究教室がどういう状態であったかを知れたのは大きかった。
「モノクマファイルによると死因は感電死と言うことだけど、君達モノクマーズはどれ位の負荷に耐えられるのかナ?」
真宮寺が配布されたタブレットに乗っていたモノクマファイルを見ながら述べた。あまり馴染みが無い故、こればかりは解説を求める所だろう。
「性能実験とか性能とかはワシらも知らんねん。ただ、相当な負荷が無いとワシらも死んだりはせぇへんよ」
「つまり、多少じゃない電流を食らったってことか。だけど、その電流は何処から来たんだ?」
星が研究教室を見回していたが、どの機器が何の役目を持っているかさっぱりだったし、他のメンバーも迂闊に触ろうとはしなかった。なので、白銀がトイレをガンガン叩いていた。
「入間さーん! ベルフェゴーるってないで、調査に協力してよー! 私達じゃ分からないんだからさ!」
「ベルフェゴーるって何ですか?」
「怠惰の悪魔だねー。いつもトイレに座っているよ」
聞き覚えのない動詞に茶柱が困惑していると、アンジーが答えてくれた。なるほど、一般生活を送る上では間違いなく馴染みが無い。
「怠惰。って所も、入間さんに似ているかも」
赤松が付け加えた。超高校級の発明家である入間の根幹は『怠惰』である。
必要は発明の母と言うが、それが社会貢献しているんだから世の中は分からない物である。だが、今は彼女の力が必要と言うことで女子陣による引きずり出されようとしていた。