かくして、女性陣によってトイレから引きずり出された入間は現場検証に協力させられていた。真っ先に解説を求められたのは、モノダムの死体の前にある巨大な機器だった。
「コイツは高圧電流を掛けるときに使う奴だな。ザックリ言うと、発明品を作る時には結構な頻度で使うんだよ。今は稼働していないみたいだけれどよ」
まだ、修繕中なので稼働はしていないが、やはり近づき難い物ではある。全員が躊躇う中、入間は直ぐに異常に気付いていた。
「つか、なんでコレ。破損してんだ? こんな状態で使えるワケねぇだろうが! 責任者は何処だよ!!」
機器の外壁の一部が破損しているのは、幾ら機械に疎い者達でも分かる。
入間がこれだけキレ散らかしているのだから、かなり重大な破損状態にあるのだろう。モノスケとモノファニーが互いの顔を見比べていた。
「研究教室内の修繕を担当しとったんはモノダムよな?」
「そうよ。だから、最原クンに検証をお願いしていたんじゃない」
2人共自分に責任はないと言いたいらしい。だが、彼が修繕を担当していたとしたら、増々不自然だった。
「じゃあ、モノダムは自分が修繕をミスっていることにも気づかずに事故って死んだってのか?」
星が訝しんだ。作業内容を共有出来ずに、危険性を知らないまま現場検証に立ちあって事故で死んだなら納得も出来るが。
だが、世に完璧なことはない。本人が出来たと思っても見落としがあって、それで悲劇に繋がる。なんて話は幾らでもある。
「なんで、このモノダムはブーツを履いてんの?」
王馬を始めとした数人はモノダムの死体を調べていた。どの回路がショートしたか、なんてことは入間でも無ければ分からないが、ブーツを履いている。なんて違いは、門外漢である彼らでも分かる。
彼の言ったことを補足する様にして、最原が背中を見せた。クッキリとブーツ跡が付いていた。
「なんで、こんな跡が付いておるんじゃ? ドロップキックでも食らったのか?」
夢野から素っ頓狂な質問が飛んで来たが、最原は真顔で頷いた。本当にドロップキックされたらしい。回答を聞いていた全員が疑問符を浮かべていた。
「なんで? という所は、学級裁判の時に議題に上げましょう。他にも証言を取りたいのだけれど、この建物の修繕状況についても聞いておきたいわ」
今はあくまで調査。ここから結論を導き出すのは、学級裁判の時にやるべきだと判断して、東条は一旦教室から出た。
研究教室の内装部分は殆ど完成していたが、外装部分ではエグイサルが待機している。現場の証拠に干渉することを防ぐ為だ。
「この研究教室の修繕は何時頃から始めたんですか?」
「昨日からやな。交代したり、休憩したり、オマエラの案内もしながらやったから、誰も見ていない時間とかもあったと思うで」
茶柱の質問にモノスケが答えていた。昨日、モノクマーズは色々な所に出没していたし、誰も見ていない時間もあったのだろう。
「アリバイも取っておいた方が良いかもしれないけれど。入間さん、その高電圧機器の破壊方法は人為的な物? それとも、自然な物?」
「多分、人為的だよ。だって、こんな壊れ方している状態で稼働させたら、次に起動させた奴が死ぬだろうからな」
「『破損は人為的』と言うことね」
東条が記録した証拠は重要な物な気がした。つまり、今回の事件は1件目の事故のような物ではなく、仕組まれた犯罪である可能性が高い。改めて、アリバイの聴取が行われた。
モノクマファイルによれば、モノダムの死亡時刻は昨晩の『23:00~23:30』頃であるらしい。アナウンスも直ぐに鳴った為、時刻的に間違いは無さそうだ。
「まず、確認しておきたいのだけれど。モノダムが最原君を呼びに来たのは、22:30位。かしら?」
最原が頷く。寮から入間の研究教室への移動時間と彼の検証を手伝っていた時間を鑑みたら、それ位になるだろう。アリバイを尋ねるとしたら、その前後だ。
「まず、ウチからじゃな。茶柱と一緒におったぞ。今日の朝食について相談しておった。モノファニーは誘えんかったが」
「だから、転子達は朝の内に作業がスムーズに進める様に段取りを組んでいました。東条さんにも相談してのことです」
「えぇ。私達はその時間帯、私の研究教室に集まって話をしていたの。夜時間で、食堂も開いていなかったから」
あんまり重要視していなかったが、夜の10時から翌朝8時までは食堂と体育館は閉鎖している。今回の事件はあまり関係なさそうだが。
「俺は獄原の研究教室に行っていた。夜中に活発になる虫もいるだろうし、昼間の話をもっと聞きたかったからな」
「星君には沢山話したよ! とっても楽しかったな!」
最低身長と最高身長の組み合わせだが、意外とウマは合うのかもしれない。星の達観した態度はゴン太の温厚ながらも子供っぽい性格を受け止める寛容さがあった故かもしれない。
「アンジーは美兎とつむぎと一緒にAVルームでアニメ見ていたよー」
「オレ様が選ぶ名作ってことでトム&ジェリーみていたらよぉ。イルブリード禁止つった瞬間、変なアニメ引っ張り出して来やがって……」
「このアニメ超面白いの! とある学園に集められた15人の高校生が100日間、学園を守り切るって内容なんだけれど、選択肢が滅茶苦茶あるゲームが元になっていて、それを見事に落とし込んでいて」
聞き手のことを一切考えない、情熱マシンガンを吐き出す白銀の話は皆にスルーされていた。ただ、3人がAVルームにいたことだけは理解した。
「俺はキーボ君と一緒にカジノエリアで遊んでいたっす。話を聞いていたら、俺も行ってみたくなっちゃって」
「僕はその、やっぱり景品にあったヒゲが諦めきれなくて」
「それは本当や。ワシが保証したるわ。解説の為に、一旦。そっちのエリアに行ったしな」
天海とキーボのアリバイについては、モノスケも保証してくれるらしい。
ただ、モノクマーズは何処にでも出現できるため、天海達は彼のアリバイを証明することは出来なかったが。
「その線で言えば、アタイ達はお互いのアリバイに関しては微妙ね。モノダムは最原君を呼びに行ったし、モノスケはカジノエリアに行ったから」
作業に当たっていたモノファニーとしても互いのアリバイは証明できないらしい。ここら辺は何処にでも出現できるという特性もあってのことだろう。他にもアリバイを証明できない者達はいた。
「オレは昼間の戦利品確認で忙しくてさー。ずっと部屋にいたよ」
「私も。ハイエンドヘッドホンの使用心地を確かめたくて、ずっと研究教室にいたかな」
王馬と赤松は景品に夢中だったらしい。そうで無いメンバーも1人で過ごしていたらしい。
「別に1人でいることってそんなに珍しい?」
「僕も、することが無かったしネ」
春川、真宮寺も1人でいた様だ。他の証言を聞いている限り、この場にいない百田も同様だろう。こうしてみれば、アリバイの無い人間はかなり多い。
「現状、研究教室までの距離を考えたら、寮にいた4人とモノクマーズが容疑者になるのかしら?」
距離的に、モノダムが点検を終えて最原を呼びに行く準備をしている間に工作が出来る人間となれば限られる。
「オレ達にも出来ないことはないね。出来ないことは」
王馬が悪戯っぽい笑みを浮かべている。と言うことは、彼には事件の概ねが予想出来ているのだろう。
調査の終わりを告げる予鈴が鳴った。かなり短く感じたが、クロを割り出す証拠はコレで十分と言うことだろうか。調査に当たっていた者達が裁きの祠へと集まり、遅れて百田もやって来ていた。
「も、もう調査を終えたのか!?」
「そうっすね。やっぱり、殺人現場を直接見られていると証拠を隠したりする時間が無いんっすかね?」
天海が百田の不安を和らげるべく、調査して手に入れた証拠を解説しつつ、全員がエレベーターに乗った。目指すは2日前に訪れた裁判所だ。2度目の学級裁判は間もなく行われようとしていた。