「身内に嫌われたら生きていけない。なんて言うのは、当たり前の考えっすね。そもそも手を出した方が悪いんっすけど」
口火を切ったのは天海からだった。彼らしくない感情論での話だが、これに反論したのは『否定派』のモノスケだった。
「何言うとんねん。そんなんで死ぬヤワなタマやったら、とっくにしんどるわ。ワシがアイツをぶん殴った時も反省所か『ぶったね。クソッたれ』やったんやぞ」
ある意味、兄弟の逞しさを信じていたと言うことか。が、身内という点では同じなのか、モノファニーも反論した。
「でも、アイツ。かなり凹みやすい性質をしているから、その時は大丈夫だっただけかもよ?」
「犯した罪は時間を経てから気付く物です。あるいは、こういった自殺も嫌がらせの一つだったかもしれませんよ?」
畳みかける様に茶柱も意見を乗せて来たが、これに反論したのは『否定派』に属する百田と星だった。
「だったら、態々。こんな修繕作業までするか? 俺に声を掛けてくれりゃ、幾らでも相談に乗ったっつーのに!」
「百田の言う通りだ。最初から死ぬつもりだったら、こんな不自然なシチュエーションでやるとは思えない」
動機の面から話しても、これでは水掛け論にしかならない。故に、議題を発展させるべく『自殺派』に属する王馬が切り出した。
「これまでの議題でも、高圧電流発生装置を触る機会、専門性からモノダムの可能性が高いって話だったでしょ?」
「だけど、あの場で作業していたモノクマーズはお互いを監視し続けていた訳じゃないから、彼らには触れる機会があったハズよ」
彼の意見に反対したのは、東条だった。王馬が笑みを浮かべていたのを見て、自分達を試しているのを察しての反論だった。
「じゃあ、モノクマーズが意図的に殺したってのか? 何の為に? まさか、あんな獣姦劇の果てにマジモンの昼ドラやっている訳じゃねぇだろ?」
ここに来て、入間の意見は発明家として冷淡な物だった。幾らモノクマーズが有機的に喋ろうが、所詮は機械。
如何に優秀なAIを積んでいようが、感情に左右される等、あり得ない。という意見は、超高校級の発明家らしい物だった。
「モノクマーズのCPUがどれだけ高度な物かは分かりませんが、少なくとも同類である僕は感情と呼ばれる物で動いていると自負しています」
と、なれば反論するのは発明家達が生み出した作品だ。モノクマーズに対する仲間意識はないが、同じロボットとしての尊厳を守る為か、キーボは異議を申し立てていた。
「でも、モノファニーがそのつもりだったとしたら、ランダム性が高すぎない? 装置が動くのか、次に誰が触れるのかなんて分からないし……」
白銀も言う様に時限式のトラップだとしたら、必ずしも目標の相手が掛かってくれるかという保証はない。だが、これに関しては先の議題にも上がっていた。
「さっきの議題にも出ていたけれど、細工をしたのはモノダムが最原を呼びに行った間。って風に推測されているんでしょ? だとしたら、ターゲットは2人に絞られる」
イベントと設置した時間を考えれば、ある程度の狙いは付けられる。と、春川が言った所で、夢野が突っ込んで来た。
「じゃが、それでは最原が被害者になる可能性もあるぞ。校則の方でも最原に手を出してはならぬ。と言われておっただろう?」
「最後の最後で神任せ―?」
そんな相手を狙ってしまうかもしれないトリックが使えるだろうか? という考えは、無視できない。アンジーが言う様に神任せと言う訳にはいかない。
「もしかしたら、犯人はどっちを狙っても良かったんじゃないかな? 最原君はとても頑丈な体をしているから、引っ掛かっても耐えられるだろうって」
ゴン太が言ったことは一見頷きそうになるが、最原は決して無敵の存在と言う訳ではない。腕の骨折も数日で治ってしまうが、それでも怪我はするし人体が許容できないダメージを受けたらどうなるかが分からない。
「でも、モノダムが自殺のセンが拭えた訳じゃないヨ。事件の迷宮入りを狙って、敢えて最原君を罠にハメた様に見せかける。って、シチュエーションを取っていたかもしれないしネ」
真宮寺の意見もまた無視できる物ではない。ここまでを含めてもモノダムの狂言という可能性はあるのだから。最原と赤松がお互いを見合わせて頷いた。
「それは違うよ。だって、最原君の背中を見てよ」
最原は皆に背中を見せた。靴跡がしっかりと刻まれており、まるで誰かから蹴られたようだった。
「これは。なんっすか?」
「現場に倒れていたモノダムが装着していたブーツだよ。件の装置に最初に触ったのは、最原君だったんだよ」
全員が疑問符を浮かべる中、自分のテリトリーと言うこともあって、入間は直ぐに理解していた。
「高圧電流が流れると人間の筋肉は縮むからよ。その物体から距離を取る為に、ドロップキックで吹っ飛ばす。ってのがあるんだよ」
「なるほど。これから自殺しようって人間が、誰かを助けようとする。なんて言うのは不自然だネ」
真宮寺は自らの考えを改めていた。この考えは他の者達にも伝播し、議論スクラムは決着が付こうとしていた。
~~
「モノダムは自殺じゃなくて。最原君を助けようとして、死んだんですか?」
スクラムで得た結論をキーボが反芻した。だとしたら、この事件で犠牲になっていたのはモノダムでは無かったのかもしれない。
「最原君。そもそもの話、モノダムに呼ばれたのって『研究教室が最原君の仕様にも耐えられるか』ってことだったよね? だったら、装置に触るのは最原君になる。ってのは、道理じゃない?」
赤松のロジックは頷ける物だったが、頷けるからこそ。この事件の犯人の恐ろしさを理解できてしまった。
「マジかよ。校則違反まで犯して、最原を狙ったってのか!?」
百田の動揺は周りにも波及していた。コロシアイをするにも態々校則違反を犯す意味が分からない。そんなことをすれば、学級裁判を勝ち抜いても碌な目に遭わない。周りの動揺を見計らった様に、赤松は畳みかける。
「恐らくだけど、今回の事件。少し特殊なケースになると思うの。私の推理、聞いて貰える?」
全員が固唾を吞んだ。今回は事故ではなく、歴とした事件だとすれば。誰が何の為に、こんな無謀な犯罪を起こしたのか? 間もなく、クライマックスに向かう推理が話されようとしていた。
~~
「今回の事件は修繕途中の入間さんの研究教室で起こった」
彼女の研究教室は初日に破壊されてしまい、結果として入間はAVルームに入り浸るダメダメ人間になってしまったが、一先ず置いとくとして。
「彼女の部屋には発明に必要な機材や器具があって、その中には使い方を誤れば危険な物もあった」
そもそも、初日に大爆発を起こして消し飛んでいるのだ。それなりに危ない物は沢山ある場所だった故に、事件を起こす舞台として選ばれた。
「犯行時刻は夜中。研究教室の内装が完成して、点検もした時点で、モノダムは検証をしようと最原君を呼びに行った。何処でも出現できるのに、なんで普通に向かったかは疑問だけれど……。その時、犯人は行動した」
モノクマーズは何処でも出現できるんだから、行き帰りも直ぐに行えそうな物だが、どういう訳か普通に出向いて行ったのだろう。あるいは事情説明の為に歩きながら……というのが望ましかったのかもしれない。
「同じく、研究室の修繕作業に当たっていたモノクマーズは、この時に行動をしたんだ。研究教室内部にある高圧電流発生装置を漏電する様に仕向けてね」
当然、モノダムは全てが上手く行っていると思っていたので、最原と共に巻き込まれることになった。
「最原君が罠に触った時、モノダムは咄嗟に彼を蹴り飛ばして助けたの。でも、本人は逃げれずにそのまま……」
最原を助けたのが助手生徒としての役目だったのか、あるいは自分達もあずかり知らぬ親交があったのか。それは定かではない……。
~~
「待ちぃや! 赤松はん! その推理には欠点があるで!」
モノスケの声は上ずっていた。焦っているのだ。既に数人は犯人が誰かは分かっているが、腑に落ちない点がある様だった。
「アンタの推理やったら、モノクマーズの内の2人にしか絞られへんことや! しかも、2人もおったらどっちかが中に入ったことに気付くはずや!」
「でも。そうはならなかった。―――だって、モノスケ。その時、その場にいなかったんだよね?」
何故、居ないことが分かっているのか。図星を突かれたモノスケは震えていた。赤松は続ける。
「この事件の一番重要なポイントはね。誰かに見られていたら、工作が出来ないってことなの。だって、直ぐに分かっちゃうしね。でも、クロを庇う理由もない。自分も死ぬんだから」
1回目は事件の顛末を知っていたが故に、最原の責任を押し付けようとしていたかもしれないが、今回はモノスケも事情を知らない様だった。
「おい、バカ松。どう言うことだよ?」
「この事件にはね。協力者がいたの。その場にいた他のモノクマーズを他所に呼び出した人がね。そうでしょう? 天海君?」
全員の視線が彼に集まり、そして。何かに気付いたキーボがモノスケに尋ねた。
「モノスケさん。天海君がカジノメダルを交換したログって残っていますか?」
「……ほらよ」
モノスケが提示したログは、正にモノダムが最原を連れ出そうとしていた時間だった。当の本人は大きく溜息を吐いていた。
「参ったっすねぇ。呼び出したタイミング的にも言い訳は無理そうっすね」
「な、なんで……」
普段は冷静沈着な東条にも動揺が走っていた。男性陣の頭脳担当だと思っていた彼が、そんな凶行に走るとは夢にも思っていなかった。
「は~い! じゃあ、そろそろ投票の方に行きましょうか! あ。ちなみに補足だけれど、クロは犯罪を実行した方だからね。アイデアやトリックを上げた方はクロにならないからね!」
いやらしくはあるが、モノクマは学級裁判に臨んでいる者達が一番必要な情報を出していた。そして、全員が誰に投票するかのボタンを押していた。