舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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15時間目:コクハク

「はぁ……」

 

 不二咲はモノクマから渡された封筒の中身を見ていた。ラミネートされた紙にはデカデカと『不二咲千尋は男』と言う事実だけが記されていた。

 身長も低く、可愛らしい容姿をしていた上に声の高さも相まって、女子と勘違いされることも多々あった。生来の気の弱さもあって、男らしくないと揶揄されて行く内に何時しか女装することで身を守る様になっていた。

 

『千尋。いつしか、お前にも本当の友人が出来て強くなれる日が来る。それまで、少しの間、殻に籠るだけさ。きっと、破って行けるよ。お母さんと僕の子なんだから。だから、父さんと一緒に服を選びに行こう。な?』

 

 やたらと父が甲斐甲斐しかったことばかりが思い出されていた。家の中でも女装している様にと指示される位の徹底ぶりだった。

 おかげで千尋の所作は少女然としたものとなっていた。守られるべき立場に入り込むことが出来たが、これではいつまで経っても殻を脱ぐことが出来ない。

 このコロシアイ学園生活と言う極限状況の中、自分が得手としている分野で役立とうと思い、更には状況を打破する一手さえ思いついたが、そんな企みはあっさりと砕かれた。

 

「う~~」

 

 色々と試しているがクラッシュしたPCが蘇ることは無かった。彼が修理できないというなら、他のメンバーにも不可能だろう。

 今まで組み上げて来たプログラムもまとめて吹っ飛び、何も出来ることが無い。羞恥心で消え去りそうになっている彼の部屋にノックが響いた。誰にも会いたくないが、出ない訳には行かない。

 

「誰?」

 

 ガチャリと開けた。もしも、ノックして来た相手が殺意の持ち主であれば、刺されている位の無警戒ぶりだった。それだけ、本人も憔悴していた。

 扉を開けた先に居たのは、ショルダーバッグを提げた舞園と苗木達だった。この光景には、不二咲も引け腰になっていた。

 

「も、もしや。お礼参りに……」

「違いますよ。苗木君、不二咲さんのパソコンを破壊したことを気に病んでいて、それで色々と学園内を駆け回って材料を集めていたんです」

「え? 何の?」

「パソコンの」

 

 先の一件から分かる様に、苗木達がPCに触れるのはよろしくない。

 彼らを代表して、舞園がショルダーバッグからノートPCを取り出していた。デザインがモノクマを彷彿とさせるツートンカラーだったことは気になったが、千尋は困惑しながら受け取っていた。

 

「つ、作ったの?!」

「はい。モノクマとしても生徒が才能を伸ばせない状態にしておくのは望ましくないと言う事で」

 

 実際にはもっと辛辣なことを言われていたが、超高校級のアイドル特有の気遣いによって問題の無い文言に置き換えられていた。

 早速、電源を立ち上げる。問題なく起動した。むしろ、今まで使っていた型落ちのノートPCよりも圧倒的に高性能であることは直ぐに分かった。

 

「すごい! ヌルヌル動く!」

 

 流石にネットワークには繋がらなかった物の、プリインストールされたソフトも豊富であり、不二咲の視界が一気に広がった様な気がした。

 PCに明るいメンバーは誰もいないが、不二咲が喜んでいることだけはハッキリしていたので、ヌケーター達はお互いに手を叩き合っていた。言葉なき彼らの気持ちを代弁……する必要もない位に明瞭だったが、舞園は敢えて口にした。

 

「不二咲さんが喜んでくれてよかったです」

「うん、凄く嬉しい。舞園さん、苗木君、江ノ島さん、桑田君、大和田君。本当にありがとう!」

 

 トラブルはあった物の雨降って地固まる。と言わんばかりの結末だった。

 不二咲は思った。もしも、自分が誰かの大事な物を壊してしまったら、卑屈になって謝ることしか出来ないだろう。

 だが、彼らは見事に過失を補填させてみせた。きっと、モノクマとの交渉も簡単な物ではなかったハズだ。彼らの勇気と強さの証が目の前にある。

 ……自分はこのままで良いのだろうか? 何もしなくても、明後日には分かってしまうなら。と、不二咲は決意した。

 

「あのね。ちょっと、聞いて欲しいことがあるんだ。明日の朝には皆にも言うけれど、ここにいる人達には最初に聞いて欲しいんだ」

 

 不二咲は封筒の中身を取り出して、皆に見せた。……舞園ですら驚いた様子は見せていなかった。ニッコリと微笑んでいた。

 

「あ、やっぱり」

「え!? なんでわかったの!?」

「私、エスパーですから」

 

 苗木達はお互いに顔を見合わせた首を傾げていた。彼らにとって性別は大した問題ではないのかもしれない。

 ただ、不二咲としては抱えていた大きな秘密が大した扱いを受けていないことに驚いていた。

 

「アレ? 実は結構バレバレだった?」

「そんなことは無いと思いますよ。所作は、ほぼ完全に女子でしたしね。でも、私。芸能業界に長いこと身を置いていますから、そう言うのも結構分かるんですよ」

 

 不二咲の脳裏に浮かんだのは美少年達をプロデュースしている全国的に有名なプロダクションだった。あそこに所属しているアイドル達は中性的な少年達が多い。そういった縁で分かったとしたら、卓越した観察力だと思った。

 

「皆、本当に凄いなぁ。僕なんか……」

「不二咲……君。そう言うのは駄目です。もっと、胸を張って行きましょう」

 

 自身から男として打ち明けたのなら。と言わんばかりに、舞園は少しばかり強めに不二咲に当たっていた。

 だが、威圧感は感じられず。むしろ、男性として接してくれているという心地良さすら感じていた。

 いきなり全てが変わるということは無いだろう。だが、この出来事は彼が変わっていく切っ掛けとなるはずだ。門出として、PCに加えてスケートボードも渡そうとした所で不二咲は首を横に振った。

 

「あ、それは要らない。昨日、大和田君が滑った後にどうなったかを目の当たりにしているし」

「あ。やっぱり、滑ったらそうなるんですね」

 

 儀式的な物があるかと思ったが、特段そう言ったことも無く。受け取って、滑った瞬間からヌケーターになるという、トラップレベルの仕様だった。

 苗木は残念そうにしていたが、ひと先ずはコレでヨシとして。いつも通り、体育館へと向かうことにした。

 

~~

 

 体育館。今はスケーター達の溜まり場となっており、同時に隔離場所ともなっている場所だが、珍しいことに苗木達を待っていた者達がいた。

 

「皆さま、お帰りになられましたか」

 

 体育館の床に座っていたのは、山田一二三だった。隣には、恨めし気な表情を提げた腐川も居た。

 ここに来た用件なんて分かっているさ。大丈夫、君みたいな巨体の持ち主でも滑れるように特別なボードを用意している。と、言わんばかりに苗木は懐から巨大なスケボーを取り出していた。

 

「あ、ワガハイ。スケ落ちはまだしたくないので。いや、実は先程。食堂で朝日奈殿から話を聞きまして。……PC作って下さるんですよね?」

 

 苗木達は顔を見合わせた。あくまで、収集作業は不二咲に対する詫びと言う形であり、クラフトとはまた違うのだが。彼らの疑問を他所に山田は続ける。

 

「いや、この学園。紙とペンが無いじゃないですか。我々、創作畑の人間の才能はやはり表現しないと枯れて行くばかりでして。現代におけるPCはもはや、クリエイターの必須ツールじゃないですか! だから、我々にもお恵みを!」

「モノクマ的には苗木に証言して欲しくないんでしょうけれど。話を聞く限り、アンタPCと相性が悪いのよね。……悪いけれど、私達にとっては好都合なのよ」

 

 苗木がPCを使えない。とすれば、理論上はPCを作っても問題は無いと言うことではある。判断を委ねる様に、苗木が両手を叩くと演台からモノクマが飛び出して来た。

 

「はい、話はしっかり聞いていました。まず、一言言わせて貰います。苗木君を便利に使うんじゃないよ!!」

「ひぇえええー!」

 

 快諾されると思いきや、思いっきり拒否された。出鼻を挫かれて怯む山田とは対照的に腐川が噛み付いた。

 

「な、なんで私らは駄目なのよ! 陰キャ共には渡さないって訳!?」

「あのね。不二咲さんに関しては、苗木君に弁償する機会を与えただけなの。彼が君らに対してそこまでやる義理ないでしょ!!」

 

 現状、山田と腐川の陰キャ達はヌケーターズとは距離が遠い。おまけに特段、何かをして貰った訳でもないので、モノクマが言う様に義理が無いのだ。

 とは言え、苗木は基本的にお人よしではある。モノクマに対して『まぁまぁ』と宥めようとして、ぐるりと振り向かれた。

 

「君も嫌なら嫌って言うの!! 社会に出たらねぇ! 自分の意見は自分で言わないと駄目になるの!!」

 

 何故か、苗木達は正座してモノクマの説教を受けていた。別に嫌ではないが、どうにもただで引き受けて欲しくないらしい。

 

「な、なるほど。対価が必要な訳ですな。分かりました! この山田、超高校級の同人作家のブランドを用いて、次のコミケではスケート本を出します!」

「じゃあ、私も。次はスケート関連の恋愛小説になるのかしら。題材的には普通だけれど……」

「そうそう。基本的にはギブ&テイクだよ。でも、次の組み立ては自分でやってね。何回もやるのは面倒臭いから」

 

 モノクマはさっさと演台下に帰って行った。一応、説明書は渡されていた。

 腐川にとっては全く縁の無い物であり、山田も立体物を幾つか手掛けているにせよ工業製品を組み立てるのは未体験だった。

 

「あの~。苗木殿? PCの素材は余っていたりとかは?」

 

 山田が一縷の望みをかけて聞いたが、苗木達は首を横に振るばかりだった。

 素材を取って来て貰う側として、あまり無茶な要求をする訳にもいかない。既に、不二咲の仕事をして来た彼らに頼むのは忍びないことだった。山田が諦めようとした刹那、腐川が声を上げた。

 

「だ、駄目! 今直ぐ、必要なの! この焦燥感と不安が無いと書けないのよ!」

 

 言われてハタと気付いた。動機発表が目の前に迫っていることに。

 普通ならば不安から判断力が狂う所だが、腐川は文学少女だった。内側に渦巻く負の感情を創作に昇華させようとしていた。

 この荒れようは苗木達にも分かった。しょうがないなと言わんばかりに、彼らは体育館の隅に置いていたバッグを手に取って、中身をぶちまけた。

 

「うぉ!? 何ですかコレは?!」

 

 木の枝やおはじきなどのゴミが大量にぶちまけられた。中には彫刻刀の様な、少し危険な物も混じっていた。バッグを空にした彼らは直ぐに上階へと向かった。

 残された二人はぶちまけられたゴミを見ていた。どうやって片付けようかと、山田が考えていると。腐川が目をギラギラとさせて……彫刻刀を取った。

 

「そうよ。これだ。コレがあったわ!」

「え!?」

 

 刃先を食い入るように見つめている腐川を見て、山田は少しゾッとしていた。

 未だに動機が打ち明けられていない彼女はまさか。彼の不安が的中する様にして、腐川は彫刻刀をきつく握りしめた。

 

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