『無事だったのか。周りにいるのは、同級生か?』
「はい。そうです」
『そうか。暫く会えなかったが、無事ならば何よりだ』
本当は無事とは程遠い状況にいるのだが、石丸は弱音を見せなかった。父に心配を掛けまいと考えていた故だった。
「父さんは今どこに?」
『俺にも分からない。何処かのマンションの一室にはいるようだが、それ以上はな。外にも出られない、時間の流れも分からない。……皆さん、清多夏のことをよろしくお願いします』
どうやら監禁状態にあるらしい。石丸だけではなく、他の生徒達もソワソワしていた。自分の大切な存在はどうなっているのだろうかと?
すると、モニターの映像が切り替わった。学ランを着た端正な顔立ちをした少年だった。彼もまた画面にカメラもまたモニターに近付いて、驚いた様子を見せていた。
『紋土総長!? 俺です! 雪丸です! 今、何処にいるんですか!?』
全員の視線が大和田へと向けられるが、彼は慌てる様子も無さそうだった。
ただ、一旦スケボーを椅子に立てかけた後、モニターまで近付いて拳を突き出すだけだった。まるで意味が分からなかった。ただ、雪丸と呼ばれた少年は大いに感動したのか、打ち震えていた。
『スゲェ! まるで、大亜さんが乗り移ったみたいだ! 総長! ついに、風の向こうまで行ったんですね!』
どちらかと言うスケボーに乗り移られているのだが、相手が嬉しそうにしているので同級生達は微笑むだけにしておいた。面倒臭い話にはしたくなかったからだ。
『周りにいるのはご学友の方達ですね! 自分、雪丸と申します。暮威慈畏大亜紋土で親衛隊長をしています!』
「はい。よろしくお願いしますね」
普段ならば石丸が挨拶を返している所だが、先の通信で動揺していた為、代わりに舞園が受け答えしていた。小動物系イケメンとアイドルの並びは、取れ高が凄そうだった。
また、別の場所へと切り替わる。ただ、部屋の様子は異常だった。壁一面に特定の男性が描かれた紙が張り巡らされていた。ベッドの上で呆けていた少女はモニターに気付くと目の色を変えて近付いて来た。
『レオンお兄ちゃん!?』
彼女は食い入るように画面を見ていた。名前を呼ばれた当の本人はと言うと、言葉こそ無かったが驚愕はしていた。彼の反応を見て、葉隠が先日のことを思い出していた。
「お! 桑田の彼女だべ!!」
『はい! レオンお兄ちゃんの彼女、仲島花音です! 失敗したぁ。メイクしておくべきだったぁ!』
桑田は激しく首を横に振っていたが、誰も気にしていなかった。
これは彼を弄る為でもあったが、こんな不穏な状況故に少しでも安心できる要素が欲しかったのだろう。
「メイクをしていない。と言う事は、する余裕や見せる相手も居なかったというかしら?」
『うん。なんか、急に連れて来られて閉じ込められたかと思ったら、ずっと監禁されて。いや、ご飯とかは出て来るんですけれど。ここは何処なのか、昼か夜かも分からなくて。……って! 舞園ちゃんや江ノピーもいるし!! レオンお兄ちゃん!? まさか、私を飽きたから捨てるの!?』
「そんなことは無いべ。桑田は胸を張って、花音っちが彼女であることを公表していたべ! それも全世界に!!」
『ドェユフフ』
ついぞ我慢できなくなったのか、桑田はスケボーで葉隠の頭を殴っていた。
動機を公開した際、桑田は周囲の視線なども気にしていなかったし、葉隠の言う事は100%間違っている訳ではないが、場を盛り上げるために脚色された感は否めなかった。
『もう、お兄ちゃん。恥ずかしがらなくてもいいんだよ。なんだか、色々と不安だったけれど元気出て来た! 早く、お兄ちゃんに会いたいな』
部屋の状況を鑑みれば、彼女の精神が均衡を崩していることは分かっていた。
それでも、こんなに穏やかに微笑んで見せるのだ。花音にとって、桑田がどれだけ大事な人物であるかがよく分かる。普段の軽薄さからは想像も出来ない位に桑田も穏やかに微笑んで見せた。
伝えたいことはまだまだあっただろうが、更に映像が切り替わる。次に映し出された部屋では、前腕を床に着けて態勢を維持するプランクのトレーニングを行っている少年がいた。
「悠太?」
朝日奈が声を上げた。彼女に反応して、画面内の少年もまたモニターに近付いて来た。褐色肌と風貌も相まって、動機の時に話していたであろう彼女の弟かと皆は予想していた。
『姉ちゃん!? 良かった。生きていたんだ! なぁ、何が起きているんだ? 急にこんな所に連れて来られるし……』
通信相手の少年も現状についてはよく分かっていないらしい。朝日奈も困惑するばかりだった。
「私も分かんない。お父さんやお母さんは?」
『俺も分からない。ただ、いきなり拉致されてこんな所に連れて来られたから。でも、姉ちゃんが無事ってわかったのは少しだけ安心した』
両親の安否は未だに分からないらしい。互いの無事だけでも分かったことを良しとして、何を話そうかと考えていると再び画面が切り替わった。ジャージを着た妙齢の女性がベッドに腰掛けて、煙草を吸っている。
「母ちゃん!?」
『お。康弘』
今まで、映像に映し出されて来た関係者の中では一番落ちついている様だった。彼女はモニターを通して葉隠の周りを窺っている様だった。
『この子、周りに迷惑を掛けたりしていないか?』
「はい。それはもう大変迷惑をかけられております」
つい先ほど、名前被りと言うどうしようもないネタで憤慨するハメになったセレスが真っ先に訴えていた。
『こんなに迷惑かけられても、付き合ってくれるなんて。良い学友を持ったべ!』
「あの訴えから、そんな良い話っぽい持って行き方ってあります?」
流石、葉隠の母親と言わんばかりのメンタルの持ち主であった。セレスとしては叱責の一つでも期待していたが、親がこれなら子はこうなるという必然を見た気がした。そして、その安定性に期待をしたのか霧切が尋ねた。
「葉隠……さん」
『浩子でいいよ。なんだい?』
「息子さんが希望ヶ峰学園に入学してからどれだけ経っているか、覚えています?」
『ちょっと、待ってな』
彼女は机の上にある日記を捲っていた。チラリと見える範囲では彼女自身のコンディションや健康状態が記されており、几帳面な性質が見えた。
「葉隠君。お母さんは看護師か何か?」
「おぅ! その通りだべ! 母ちゃんは美人看護師として、患者にも大人気だったべ!」
残念ながら親の几帳面さは息子に遺伝しなかったらしい。日記をパラパラとめくった後、浩子は告げた。
『ほぼ2年だべ』
全員が沈黙した。十神と霧切は苗木から伝えられていたにせよ、確証は持てずにいたが、これでほぼ確信した。
「そう。2年は経っているのね」
「霧切殿? 2年とは?」
関係者が次々と映し出されて行く中、自分の関係者が出て来るのを待ち侘びていた山田は気が急いていたこともあり、霧切に尋ねていた。
自分達に消えた空白期間があるのは分かっていたが、ここまで具体的な数字が出て来るとは思っていなかった。
「言葉通りの意味よ。私達は2年分の記憶を奪われている」
2年。思春期の2年がどれほど重要な物か。自分達の記憶を奪ったであろうモノクマに対する憤慨を抱く中、再び映像が切り替わる。
部屋の一室では、体型がとてもふくよかな女性がPCに向ってひたすら何かを書いていた。もう、誰の縁者かは考えるまでも無かった。
「ママ!」
『……あら? 一二三?』
反応が少し遅れたのは、耳にイヤホンを付けていた為だろう。モニターに小さく映るPCの画面を見て、不二咲が声を上げた。
「たら☆すぱ! だ! もしかして、一二三君のお母さんって」
『まぁ! こんな所で読者に会えるとは思っていなかった! 皆の話は聞いています。一二三の母、富士子です』
まんまる顔の彼女が微笑むと非常に可愛らしく映った。一旦、画面を閉じて会話に集中しようとした矢先のことである。
作業中のお絵かきソフトを閉じた所で、先程まで鑑賞していたと思しきイケメンが絡み合う画像が表示された。何事も無かったかのように閉じた。
『息子は皆に迷惑を掛けたりは……』
「ママ! 今の流れで、何事も無かった様に振舞うのは無理があるよ!!」
『やかましい! アンタだってぶー子のR-18書いているでしょ! 作家に清廉潔癖ばかり求めるんじゃないよ!』
「親子の血が濃いべ!」
葉隠の言う通り、血筋を感じずにはいられない会話だった。山田はコテコテのリアクションを返していたが、その中には楽しさが滲み出ていた。だが、堪え切れなかったのか涙が出ていた。
「うぅ。ママとこうして話が出来るとは思っていなかったですぞ……」
『私もよ。アンタに友達がこんなに沢山出来ているとは思わなかったわ。しんどいことばかりだけれど、お互いに生き延びて。このスペクタクルを見せつけてやりましょう!』
「はい! 次のコミケは壁に決定ですな!」
自身も不安だろうに、富士子は息子と自分の才能を信じていた。こんな出来事もトラウマとなって終えるのではなく、皆を楽しませるエンターテインメントに昇華出来るとエールを送っていた。生粋の芸術家肌だった。
「……良かったじゃない。良い親御さんで」
「でしょう? 何と言ったって、僕の絵柄はママのをベースにしていますからな!」
喜ぶ山田とは裏腹に、腐川は暗く沈んだ顔をしていた。
きっと、彼女の親子関係は山田とは対照的な物なのだろう。次に映し出された映像は奇妙な物だった。
今までは個室ばかりが映し出されていたが、今回は薄暗い場所が表示されていた。ガタガタと音も鳴っている。周囲には大量の機器が並び、奥には巨大なカプセルが二つ。そして、それらを管理している男性が2人。
「父さん!?」
「爺やか」
不二咲と十神が声を上げた。2人共呼びかけに気付いたのか、モニターの方を一瞥した。
『千尋!? 十神君や皆がいると言う事は……』
『太一さま。お坊ちゃま達は希望ヶ峰学園におります。皆もご無事の様で』
太一と呼ばれていた男性は憔悴していたが、隣になっていた老紳士は落ち着きを払っていた。あまりにエレガントな佇まいに皆も口を噤んでいる中、十神だけは小さく笑っていた。
「アロシャイス・ペニーワースは俺が認める数少ない人間だ。この程度の状況でうろたえて貰っては困る」
『お坊ちゃまのおっしゃる通りです。態々、回線を開かれたということは首謀者の企みが進んでいるのですね』
まるで、説明を必要としない阿吽の呼吸ぶりを発していた。これだけの傑物を従えている十神白夜と言う男の凄まじさを改めて理解した。
「爺や。そのカプセルには誰が?」
『ご学友の関係者です。私達をここに連れて来た連中から奪い取って来ました』
恐らく大抵の人間は訳も分からないまま拉致されたというのに、ペニーと言う男は拉致されたと思いきや、内部から喉笛を食い千切らんばかりに働いていたのだろう。
この会話を聞いて反応したのか、片方のカプセルが開いた。中には痩せ衰えていたものの、射殺さんばかりに鋭い眼光を携えた男がいた。
「ケンイチロウ!」
『さくらか』
やはり、大神の関係者だったか。ケンイチロウと言う名前にも聞き覚えがあった。彼女の想い人として。
「お主は病院で治療を受けていたハズでは?」
『病院ごと襲撃されたけれど、ペニー殿が取り戻してくれた。完治はしていないけれど、かなりマシになっている』
「ふっ。さっさと、預かっている地上最強の称号を取り戻しに来い」
『言われなくとも。まず、ここから脱出したいが』
3人はもう一つのカプセルを見た。こちらは何も反応が無い所を見るに、相当に重症な患者が入っているのだろう。一体誰の関係者か?
『霧切様。こちらのカプセルに入っている方は貴方の関係者でございます』
「私の? 祖父かしら? それとも……」
一瞬、言い淀んだ。彼女は謎も多い人物なだけに交流関係も相当に複雑なのだろう。本人も予想が付かない……と言う訳では無かった。
『決心が鈍る。と言う事なら、このままで』
「いえ、見せて」
カプセルの表面の一部が透け、中に入っている人間の姿が見えた。
全身に残る傷と火傷跡が生々しい。胸の膨らみから女性であることは分かった。下半身が映し出されなかったのはプライバシーもあるだろうが、ほんのりと見えた腰から部分の損傷の酷さから、損傷が大きいことが伺えた。
「霧切さん。彼女は……」
とまで言い掛けて、舞園は口を噤んだ。このコロシアイ学園生活と言う極限状況においても冷静さを保ち続けていた彼女の顔が、歪まざるを得ない程困惑していたからだ。
「生きて、いたの?」
『肉体的にはと言った状態ですが。ケンイチロウ様よりも更に、本来は病院から動かしてはならないお方です』
「爺や。その女は誰だ?」
『探偵図書館に登録されているお方です。詳しくは霧切様からお聞きください。おっと、ここも嗅ぎつけられたようです。移動させて貰います』
振動が一層強くなり、アロシャイスが奥へと移動すると振動が強くなった。ケンイチロウ達が収められているカプセルを操作している太一が言った。
『千尋。僕はお前が強くなれたことを信じている。だから、友達と僕達を信じて欲しい』
「分かったよ。お父さん!」
キュッと服の裾を掴みながら言った。彼らは関係者の中でも何かを為す為にも動き回っている様だった。映像が切り替わるまでに時間が掛かっている中、舞園は霧切に声を掛けた。
「大切な人。なんですよね?」
「そうね。本当に大事な人。私を助けてくれた、姉さま……」
「絶対に会いに行きましょう」
霧切を励ます意味も多分にあったが、自身を勇気づけるという意味もあった。
自分の大事な人はどうなっているんだろう。父さんかな、あるいはメンバーの皆かな。それともプロダクションのマネージャーかな? 舞園の不安も他所に映し出された映像はと言えば。……彼女が2階に上がる際に見せられた動機ビデオにも映し出されていた羽山あやかが室内でスケボーを乗り回し、部屋の壁をぶち抜いて行くという物だった。
「………………はぁ?!」
誰もが呆然とする中、舞園だけがやっと声を出した。いやいや、ちょっと待って。あの映像から地続きな物を渡されても困るんだけれど。さっきまでのシリアスな雰囲気がぶち壊しになったんですけれど、どないしてくれるんですか? そんな訴えが籠っていた。
しかし、ヌケーターズは後方スケボー面をして頷いていた。やはり、苦境な時こそスケボーが心の支えになるのだと信じ切っている顔だった。
「何、後方彼氏面みたいなことしているんですか!? 苗木君、あやかに何したんですか!?」
「お、落ち着き給え!」
これでもない位に舞園が狼狽え、苗木を揺さぶっていたので慌てて石丸が止めに来た。流石に映像的に、これ以上映すことも無かったのか。マジで直ぐに切り替わった。
窓の無い個室。太った猫と虫かごの中でブンブン動くカナブンとこれらの面倒を見ている少女と言う何とも奇妙な取り合わせであったが、ここにいる生徒達は少女の姿に見覚えがあった。
「もしや、この少女は苗木の妹では?」
大神が指摘すると、少女がモニターに近付いて来た。久々に誰かに会えたのが嬉しいのか、頭頂部に生えているアンテナの様な毛がピョコピョコ揺れていた。
『あー! 舞園ちゃんだ! お兄ちゃん、本当に舞園ちゃんと知り合いになっていたんだ!! 始めまして! 苗木こまるです!』
こんな状況にも関わらず底抜けに明るかった。彼女の腕に抱かれている猫がブニャアと鳴いていてた。猫の方についてはセレスが驚いていた。
「あら。グランボアも一緒だったんですの?」
『あ、そういう名前だったんですか。私はネコネコマルって呼んでいました』
飼い猫の中でもかなり不健康そうな位にでっぷりと太っていた。抱えている、こまるも少し辛そうにしていた。この猫も関係者であるらしい。ここで疑問が生じた。だとしたら、奥の虫かごにいるカメムシは何なんだろうと。
「カメコよ……! 私にとって大事な子なんだから!」
「そ、そうですか。ウム」
きっと、何処かには超高校級の昆虫博士みたいな人がいて、その人も同じことを言ってくれるだろうと思いながら山田は頷いた。頷くしかなかった。
折角、縁者に会えたというのに苗木は口を開かない。彼を見た、こまるは頭頂部のアンテナをピュンピュン揺らしていた。
『お兄ちゃん? まさか、ヌケーターに戻っている? いや、お父さんとお母さんもなっていたし……』
「待て。戻るとはどういうことだ?」
ヌケーターに興味津々な十神が尋ねた。先程、話に出ていた2年間はヌケーターではなかったのかと。
『その。お兄ちゃん、実は普通になりたくて一緒に訓練していて、希望ヶ峰学園に入学する頃には普通っぽくはなっていたんですけれど。そっか』
何を言っているんだ妹よ。スケートを捨てた普通になった所で、人生に楽しみなんかないぞ。と言わんばかりに、苗木はスケートを突き出していた。
『なんだか懐かしい気もするよ』
むしろ、記憶を失う前の苗木が普通だったことを知って、皆が多少驚いている中。突然、全員が映る様にモニター内で画面が分割表示された。モノクマが悪魔の様に笑う。
「うぷぷぷぷ。皆、大事な人とお話しできたかな? こんな時代だからこそ、大事な人を守りたいと思うのは当然だよね。そこで、僕はオマエらに必死になって貰うことにしました」
モノクマが合図すると同時に、映し出されていた部屋にモノクマの群れが突入して来た。大抵の者達は捕まり、何処かへと連行されていたが一部の者達はそうではなかった。
例えば、ペニーワイス達はカプセルから出て来たケンイチロウが突入して来たモノクマを全員叩き落していたし、羽山あやかに関しては突入して来た方が困惑していた。そして、こまるの部屋の扉も破られようとしていた。
『お、お兄ちゃん!? 何が……』
苗木は困惑した様子もなく、ただ一つ。スケボーを突き出していた。画面内のこまるは心底嫌そうな顔をしていたが、頷いた。
『うぅ! ヌケーターになんかなりたくないのに!』
彼女はベッドの下から何かを引っ張り出していた。苗木が持っている物とは違い、最新モデルのスケートボードだった。
虫かごを抱え、グランボアを頭に乗せた彼女はスケボーにライドした。すると、ほんわかしていた彼女の表情が一気に引き締まった。
ドアが破られ、モノクマが殺到して来た瞬間、彼女は部屋にあったゴミ箱をブルドーザーの様に用いて彼らを押しのけていた。そして、皆が予想していた通り。グランボアとカメコを連れた彼女は壁を擦り抜けて行った。
「まぁ、多少のトラブルはあったけれど。概ね予想通りかな。偶には君達だけじゃなくて、彼らにも頑張って貰おうかな! 3日間! 彼らには生き延びて貰います! この学園で誰かが殺人を起こせば止めます! これに関しては、クロがバレてもバレなくてもオッケーだよ!」
自分達だけではなく大事な人達をも取り引き材料に使うという、悪魔的発想だった。一部は大丈夫そうだが、大抵の者達は危険にさらされることになる。
多くの者に動揺が走る。今回ばかりはいつもみたいにヌケーター頼りと言う訳にはいかないのだ。自分が動かねば、大事な人が殺されてしまうかもしれない。
……その恐怖は冷静さを奪うには十分すぎた。
「オマエらは3階をジックリと探索しなよ。案外、皆。無事でいられるかもよ? それじゃあね!」
今までの動機に関しては何とかなる部分も大きかった。自分達にはヌケーターがいたからだ。だが、自分達の大事な関係者達が何処にいるかは分からない。殺到したモノクマ達からしても嫌な予感しかしなかった。
「いよいよ、連中も本腰を入れて来た訳か」
自分の執事が不覚を取るなどと微塵も思っていない十神の動揺は少ないが、多くの者達は憔悴していた。今回ばかりは一触即発の状況だった。
「と、とりあえず。今、出来ることをしよう」
辛うじて、石丸がするべきことを口にしてくれたので動き出すことは出来た。大半は重い足取りで3階へと向かうことになった。……その中で舞園はふと思った。
「(アレ? そう言えば、江ノ島さんだけ関係者の人が映されていなかった気が)」
とは言え、彼女の大事な人間と言えば苗木らしいので、敢えて映す必要も無かっただけかもしれない。もう一つ、彼女が懸念していることがあるとすれば。
「苗木君。ひょっとして、貴方。あやかと会ったことがあります?」
訝し気に尋ねると、苗木は頷いていた。どうやら、外の世界で既に感染させていたらしい。だが、逆に安心できた。ヌケーターになったなら大丈夫だろうと。
「(いや、何が?)」
身体的な恐怖からは逃れられるかもしれないが、普通の人間には戻れなくなるのではないか。だが、希望は失っていなかった。
「(でも、こまるちゃんも普通になったって言っていたし、きっと戻す方法があるに違いありません)」
果たして、彼女が無事に喋れる状態で再会できるかと言う事は疑問であった。舞園はかつてない程の危機的な状況に打ちひしがれない様に、強く一歩を踏みしめた。