僕が見たダンロンSSで好きなのは皆がキーボを破壊してしまい、何とかして隠蔽しようとするも白銀さんがキチゲって全てが台無しになるSSが好きでした。
死んだと思っていた苗木が生存していたことで多少の落ち着きは取り戻していたが、この状況が異常ということには変わりなかった。
誰かを殺した者だけが外に出られる。外に未練の無い者なんていない。家に帰りたいだろうし、家族にも会いたいだろうし、遊びにも行きたいだろうし、世間に向けて十全に才能を発揮して、認められたい。
誰もが理解できる思惑故に、全員に一つの疑念が過った。即ち、自分達の中に誰かを殺そうとしている人間がいるのではないかと。耐え難い程の沈黙が場を支配する中、この状況を破ったのは霧切だった。
「それで、これからどうするの?」
ここで棒立ちしていても事態は何も進まない。動くにせよ、止まるにせよ一つの決断は必要だった。その中で、遠慮がちに不二咲が手を上げていた。
「ねぇ、皆。電子生徒手帳の方は見た? 校則が増えている」
何時の間に持っていたかも分からない代物であるが、多分モノクマが予め自分達に仕込んでおいたのだろう。
表示された画面の校則のタブをタップすると、先程モノクマが説明したことに付け加えて幾つかのルールが記載されていた。
「夜10時から朝7時までは夜時間。就寝は個室のみ。探索は自由。モノクマおよび監視カメラの破壊はNG。ここら辺は最初から記載されていたわ。問題は次からよ」
不二咲以外にも予め確認していたのか、霧切もまた追加された分を知っていたようだった。
「『仲間の誰かを殺したクロは卒業となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません』。バレないように殺せということだな」
タキシードの様な制服と怜悧な雰囲気を纏った少年、超高校級の御曹司。十神白夜は、皆が言葉にするのを躊躇っていた部分を平然と口にした。
「最後に『校則は順次増えて行く場合があります』。つまり、今が一番自由に動けるということね」
最後の項目まで読み上げて、霧切は電子生徒手帳を閉じた。今後追加される校則次第では動きが制限される可能性もあると見越してのことだろう。
「何が校則だ。ふざけやがって!!」
大和田が吠えた。先程から理不尽ばかりを強いられていることに対する憤りは相当な物なのだろう。怒号を飛ばしただけでは怒りが収まらないのか、さっきから体育館をスケートボードで走り回っている苗木に近付いた。
「テメェもさっきからうっせぇんだよ!! 静かにしろ!!」
つい、先程。命の危機に晒されたこともあって相当に気が立っていたのだろう。
苗木の顔面に拳が突き刺さった。瞬間、彼の体は体育館の天井まで吹っ飛び、引っ掛かってガクガクと痙攣した後、地面に落ちた。
再び周囲が呆然とする中、一番困惑していたのは加害者であるはずの大和田だった。
「いや、おかしいだろ! 普通はこんなことにならねぇだろ!?」
「それよりも。これ、もしや死んだのでは……?」
山田がポツリと呟いた。アレだけの高さから落ちて来たのだから、無事でいられるはずがない。早速、モノクマが言っていたことが実現してしまったのか。ということは無く、ムクリと起き上がった。
「うぉ!?」
大和田が全身を硬直させるほど驚愕していると、苗木は彼の頭にスケートボードを叩き付けていた。が、非力な彼の一撃が巨漢にダメージを与えるには至らず、相手を刺激するだけでしかなかった。
「テメェ、上等だ! ゴラァ!!」
何を考えているか分からない少年であるが、危機感は一応あるらしい。
スケートボードに乗って体育館から急いで脱出する彼を、大和田は全速力で追跡していた。
「追うか? 殺人を犯した場合、何が起きるか見れるかもな?」
「ならば、我が行こう」
十神が本気か冗談か分からないセリフを吐き捨てた。アレだけの巨漢を抑え込める人間がいるとすれば、この中では大神さくらしかありえない。同じ様に全速力で去っていく彼女の後姿を見ながら、石丸が言った。
「とりあえず。皆で、探索に行こう。食料はあるか、外に出られる手掛かりはあるか。何もしないでいるよりかはずっと良い!」
残されたメンバーが概ね賛同する中、1人。十神だけは先に体育館から出ようとしていた。
「俺は1人で探索に行く。先程、提示されたルールを遂行しようとする奴もいるかもしれんからな」
決められたルールに従うしかない能無し達。と嘲るように吐き捨て、体育館を出ようとした彼の目の前にスケートボードに乗った苗木と背後から鬼の様な形相で追いかけて来る大和田と大神の姿があった。
「あ」
皆を見下していた男とは思えない位に間の抜けた声を上げて、スケートボードに乗った苗木に吹っ飛ばされていた。多分、死ぬほどの怪我はしていないが伸びてはいた。
そして、追いかけっこにも終焉が見えていた。スケートボードに乗って逃げる苗木と全力疾走の彼では使用する体力に大きな差があった為、先に大和田の方が音を上げた。
「クソッたれ。やるじゃねぇか……」
「まるで、スケートボードも己の一部の様に操っていた。流石、超高校級のスケーターだな」
大神が感心している中、舞園は訂正しようかと考えたが、自らの正気を疑われるだけなのでやめた。気絶した十神の看病は腐川が行っていた。
「アレだけ皆を蔑んでいた彼が、目を回して、私に膝枕されて……フヒヒ」
「大神さん。彼女達に付いていて貰える? 彼が起きた瞬間に殺人を犯さない為にも」
「心得た」
霧切の頼みに大神は承諾していた。改めて、反対意見や輪を乱す者がいなくなった為、一部を除いて学園の探索が始まった。
~~
ジャー、ジャー。舞園さやかは苗木誠と言う珍妙な生命体と組まされていた。速度を制限した上で滑っているが、普通に歩く気はないのだろうか。
この学園の謎も気になるが、目の前の少年が抱えている謎も気になっていた。何故、爆風に巻き込まれて平気だったのか。ぶん殴られた時にド派手に飛んで行ったのは何故なのか。常識所か物理法則すら無視している、彼は本当に人間なのだろうかと。
実は今、自分達は夢を見ていて、現実ではない場所にいるのではないかと言う気さえして来た。
「少しは事情を話してくれると嬉しいんですけれど……」
言葉に反応して振り向いた。舞園も目を覚ましてから色々とコミュニケーションをとって来て、幾つか分かったことがある。
まず、この苗木と言う少年は言葉を話さないが会話自体は理解している。なので、話しかけることにも意味はある。どういった反応を返されるかと期待していると、スケートボードを差し出されるだけだった。
「いや、滑る気はありませんから」
何度言われても滑る気は無い。怪我をするかもしれないし、スカートを履いていることもあったし、第一廊下で乗るのは行儀が悪い。
今の時代、どういったことが原因で炎上するかも分からない故、バカなことをするな。というプロダクションのリテラシー教育の賜物だった。
苗木はションボリとしていたが校舎の探索は続けられていた。玄関ホールなどは大和田達が向かっていたので、自分達は校舎や寄宿舎を調べていたが、目を引いた物があった。
「これは……」
シャッターが降りてはいたが、2階へと続く階段があった。
ひょっとしたら、自分達の知らないエリアがあるのかもしれない。何処かにシャッターを開く為のスイッチなどが無いかを探そうとした所で、苗木がシャッターの方に向って歩き始めた。
「苗木君? もしかして、シャッターを破壊するつもりですか? 駄目ですよ。校則に引っ掛かるかもしれません」
モノクマや監視カメラと書かれていたが、校舎の施設も含まれるかもしれない。
校則に書かれている罰則がどれ程の物かは想像できないが、ロクでもないことだけは予想できた。故に引き留めたのだが……。
「……うん?」
舞園は己の目を疑った。苗木がシャッターへとめり込んでいたのだ。
破壊しながら。とかではなく、まるで障害物等存在し無いかのようにシャッターをヌルヌルと通り抜けていく。階段を上がろうとした所でモノクマが現れた。
「お前、そう言うのやめろよ!! 存在がバグっているじゃねーか!!」
だが、校則違反を犯している訳ではないので罰することも出来ない。
モノクマが通せんぼしているが、これまたヌルリと擦り抜けて2階へと上がって行った。当然、舞園は追いかけることも出来ずに呆然とする外なかった。
~~
「どうすっかなー!!? どうすっかなー!?!」
学園のかなり最深部。モノクマの操縦者こと黒幕は、この現実離れした事態に憤慨するのではなく、むしろ喜んでいた。
苗木と言う存在があまりに無茶苦茶だったからだ。殺し合い学園生活と言う、自分が用意した非日常とは比べ物にならない程の混沌を体現していたからだ。
「アイツ。こんなこと出来たはずがないのに、何がバグったんだろ?」
現実はプログラムの様にコードを走らせたりすることは出来ない。起きる事しか起きない退屈な世界だ。
このイベントを進める為には障害物にもなり得るが、彼を拘束するのはあまりに不平等だ。とてもツマラナイ。
ならば、この状況も含めて加工するべきだとイベントを練り直している時のことである。背後がガタガタと鳴った。
嫌な予感が過ったが、それを上回る程の快楽物質が脳内で分泌されていた。どうか、この不安が的中していますように! バッと振り返った。
「やっぱり!」
これは殺し合い学園生活なんて物を企画するイカれた黒幕だからこそ、正視することに耐えられた。
アンテナの様な髪がピョコンと生えて来たかと思えば、まるで落下を逆再生したかの様に。あるいは植物の成長を早送りしたかのように、苗木が苗木(植物)の様に生えて来た。
しかも、勢いが余ったのか黒幕ルームで飛び跳ねていた。計器などに衝突したが、彼の様に体重が軽い人間の体当たりを受けた所でイカれる代物ではない。特にケガもしておらず、普通に立ち上がった。
「おっす、苗木。元気だったー?」
理外の最速突破。あらゆる過程をスルーして、苗木は今回の騒動の黒幕である――江ノ島盾子との遭遇を果たしていた。
表に同じ様な顔をして同姓同名の女子生徒がいたとか。何故、こんなことをやっているのか。常人ならば幾らでも疑問が浮かぶ所であったが、苗木がすることはただ一つ。スケートボードを差し出していた。
「やらねーよ! 飽きたんだよ!!」
舞園とは違い、中指を立てながらの歯に衣を着せない物言いを前に。苗木は部屋の隅で体育座りをしていた。