「出来たべ!」
最終的に出来たメッセージ付きの鉄板はスケボーに張られ、外に出るスケーター達の衣服にも縫われていた。
いずれも希望ヶ峰学園内の現状が記された物であり、外からの情報を得る際にも似た手法を使って欲しいという旨も書かれている。
「実働部隊は苗木、桑田、大和田、江ノ島の4人だ。全員が帰還できる保証はない。かと言って、周囲に散開させるにしても情報が少なすぎる。以前、苗木が遭遇したという勢力と今回も会えるかは分からないだろう」
敵対勢力の戦力がどれほどの物かは分からないが、苗木が外部勢力と会合したことは痛手だったはずだ。以前よりも周辺の攻撃は強化されているかもしれないと、十神は睨んでいた。
「現場での捜索と指揮は苗木に託す。1人でも接触できれば、俺達の作戦は成功したことになる」
十神と言えど、これより先は接触することのできない領域だ。皆、この4人に託すしかない。彼らは玄関ホールに集まっていた。ピョコンとモノクマが現れた。
「まさかねぇ。デスゲーム物で外との交流を作戦に組み込むなんて、テーマ崩壊物だよ」
「モノクマ。これは器物を破損する訳でもないし、校則にも引っ掛からんだろう。それとも『外に脱出するのは許可しない』と追加するか?」
「まっさか。学園長として生徒の自主性を尊重するだけだよ。だから、僕がここに現れた理由は一つだけ。―――イッテらっしゃい」
不吉に笑っていた。苗木達は各々に特殊な挙動を取ると、壁を抜けて外へと出て行った。残されたメンバーに出来ることがあるとすれば待つだけだ。クルリとモノクマが皆に振り返った。
「どうせ、皆。後は彼ら任せでしょ? 暇でしょ? だったらさ。僕と一緒にゲームの様子を見てみない?」
「ゲーム。まさか」
石丸の臓腑に酸っぱい物がこみ上げる。学園内のモニタに件の映像が流れた。しかも、それぞれの人物にフォーカスを当てた物だ。
「お前達の個室に映るモニターには、キチンと該当人物の映像が映し出されるからね~! それとも、食堂の方では全員の分が分割して映せるように巨大なモニターを展開しておいたからね! ワイワイ楽しんでよ! それかまぁ、コロシアイをしてくれてもいいんだよ?」
ひたすらに人の神経を逆撫でにする不快な煽りを残して、モノクマは姿を消した。先程までは苗木達の様な規格外の存在が居たので麻痺していたが、こうして居なくなるとジワジワと現実が蝕んで来るようだった。
個室に戻るべきか。それとも、モノクマが言っていた様に食堂で皆が揃ってみるか。判断が委ねられる中、一番最初に声を上げたのは葉隠だった。
「頼みがある! 俺っちは食堂で見るべ! だから、十神っち、舞園っち。それと、オーガに付いて来て欲しいんだべ!」
「理由を聞いてやろう」
尊大な物言いだった。だが、周囲の人間も気にすることではあった。何故、そのメンバーなのかと。
「3人の関係者は特に強そうだべ。なんていうか、理不尽な事態とかにも対抗してくれそうで。そういう痛快な展開が無いと、息が詰まっちまう!」
「痛快な展開って。娯楽じゃないんですぞ。……気持ちは分かりますが」
葉隠の気持ちは山田にも理解できた。もしも、自分の関係者が苦境に立たされている映像を見続けていれば、きっと心が壊れてしまう。だから、頼れる存在を見て信じたいのだ。こんな状況でもどうにかなるのではないかと。
十神の執事はこんな状況でも悠然と立ち回っていた。大神の想い人であるケンイチロウは素手でモノクマを撃退していた。そして、舞園のグループメンバーである羽山あやかはヌケーターだった。
「良いだろう。愚民共に格の違いを見せるのも当然のことだ。貴様の同席を許可してやる」
「有難き幸せー! だべ!」
十神に対する三下ムーブがあまりに形になっていた。舞園とオーガも拒否するような真似はしなかった。
「それで、葉隠さんが安心するなら」
「どういう形であれ、我々が同席することで気休めになるならお安い御用だ」
「さくらちゃんが行くなら、私も!」
3人に加えて朝日奈が食堂に向おうとした所でセレスと腐川も挙手していた。猫と虫がパートナーの人間達である。
「それを言ったら。私のグランボアは今、苗木君の妹さんと一緒にいるんですよ? これ以上ない程の安全パイで無くて?」
「わ、私のカメコもよ。でも、なんか不思議ね。本来なら私があそこにいた気がする」
皆、1人で見ることに気が引けていたのだろう。見ている際の不安や心配を共有できる誰かが欲しかった。霧切は石丸の方を見た。
「大丈夫だ。僕も同席する」
「分かった。不二咲さんと山田君は?」
「うん。僕も皆と一緒に見るよ」
「拙者もご一緒します」
誰も個室に帰ろうとはせず、食堂に向かうことになった。趣味の悪い鑑賞会になりそうだった。
~~
希望ヶ峰学園を抜け出した4人の先頭を務めたのは大和田だった。
かつて暮威慈畏大亜紋土で総長を務め、幾人もの団員達を率いて来た彼が頭に出るのは必然だった。
学園周辺に設置された兵器が大和田達に狙いを付けた。大量の銃弾が吐き出される。族の抗争とは比べ物にならない本当の暴力だ。
『紋土。ビビってんじゃねぇだろうな?』
不意に大和田の前方に誰かが現れた様な気がした。バイクに跨っており、後ろ姿しか見えない。だが、それだけでも十分だった。
今の自分にカワサキはねぇ。けれど、コイツがある。荒地と言う悪条件を無視して突き進んで行く心強さは、愛車にも比肩しうるものだった。
『よぅし。付いて来い!』
暴走族と呼ばれ、社会から蔑まれた。何の生産性も無いと思っていたが、今ばかりは仲間達を助けるために使うことが出来る。
跳ね回る銃弾の雨をクソ度胸で突き進んで行く。銃弾の雨を潜り抜けた先では、上空からモノクマをモチーフにしたであろう白と黒のツートンカラーで染められたドローンから爆弾が投下された。次に動いたのは桑田だった。
『桑田選手。またも完封試合となるのか! LL学園、いや。日本が誇る超高校級の野球選手を止められる者はいないのか!』
アナウンサーの実況が蘇って来る。離れた投球は打ち上がった。丁度、頭上から落ちて来る爆弾の様に、彼はしっかりとキャッチすると同時に投げ返した。
投げ返された爆弾は、投下された他の爆弾達を弾き飛ばしていた。周囲で爆発が起きた。恐るべきは、スケボーに乗ったままこれらを行ったことだ。
暫くすると、ドローンの爆撃も止んだ。と思ったが、遠方から大型のドローンが数基。何かを吊り下げながら、姿を現した。
『掘削ドローンMk.ガイバー。起動します』
まるで、アニメか何かに出て来るような人型ロボットだった。
ただし、両手は作業用のマニュピレーターではなく、ドリルが装着されているだけだった。巨体を揺らして、苗木達に向って来る。あんな物で貫かれては一溜りも無いだろう。
今度は江ノ島が前に出た。苗木に次いでスケ落ちした彼女の動きは別格だった。ガイバーと呼ばれる機体に飛び乗ると、躊躇うことなくメインカメラを破壊した後、スケボーのテール側に体重を乗せて回転を始めた。
すると、どうだろうか。まるでスケボーの後輪をドリルの様にしてガイバーの装甲を抉り始めた。さながら人力ドリルと言った具合だろうか。
露出した内部に触れると、ガイバーは遠方に打ち上げられるようにしてぶっ飛んでいった……そして、暫くした後。爆音が響いた。障害を排除した後、江ノ島は隣を走る苗木とハイタッチをした。
~~
「おいおい、マジかよ」
「しかも増えていますね……」
双眼鏡越しに、これらの映像を見ていた黄桜と彼の同僚女性はただ驚くしかなかった。お前ら、元の才能はどうしたんだ? という疑問はありながらも。
以前は拠点が爆撃された為、引かざるを得なかったが未来機関は諦めていなかった。また、別の場所に設営しては吹き飛ばされ……を繰り返し、彼らが脱出して来る機会を伺っていた。外では外の戦いが行われていた。
以前と同じ様に、彼が持っている電子手帳にメッセージを送ると。彼も気付いたようで、先頭を走っていた大和田と場所をスイッチして黄桜達の下へと訪れた。
「よっ、苗木。また、会ったな。……なんか、別の才能の持ち主もヌケーターになっていないか?」
「もう、黄桜さん。そんなゾンビ映画じゃあるまいし」
実際にその通りなのだが、ヌケーター達にとっては大したことでは無かった為、彼らは仲間達が託してくれた鉄板を差し出した。
破損して読めなくなった物もあったが、数の勝利だった。幾らかは伝わる物もあった為、ようやく希望ヶ峰学園の内部で起きていることが外部に伝わったのだ。
「今は関係者達が囚われているってか。安心してくれ。そっちには救助部隊が向かっている」
『救助部隊?』
黄桜から渡された紙とペンを使っての会話はスムーズに進んでいた。未だに頭上にはドローンなどによる襲撃もあるが、これらは桑田や大和田。未来機関のメンバー達が対応に当たっていた。
「そっちにいる霧切響子と縁がある奴らが、監禁場所である『塔和シティ』に潜入したんだ。ただでさえ、探偵として修羅場を潜って来た連中だ」
『なら、助かるんですね?』
「確実とは言えない。だが、お前達の尽力が世界に残った人達に勇気を与えているのは間違いない。黒幕のコロシアイを跳ね除けている、超高校級の希望達としてな」
黄桜が良いことを言っているのだが、同僚の女性は眉を顰めようとして何とか笑顔を浮かべていた。何かを言いたいような、そんな感じだった。
『これから僕達は何を?』
「出来ることなら、黒幕である江ノ島盾子を捕えたいんだが」
苗木の隣に立っている江ノ島は拘束されていた。そして、ウィッグを脱がされていた。現れたのは黒髪おかっぱの少女、戦刃むくろだった。
最初は少しばかり驚いていた苗木だったが、次第に納得していた。同じ人間が2人も居る訳がないからだ。
「変装していた。ってことは、江ノ島の協力者として見ていいな? 何故、裏切った? それとも。これも作戦の内か?」
苗木は戦刃にペンと紙を渡した。彼女ならばペン一つで人を容易に殺せるが、大人しくメモ帳に書き込むだけだった。
『苗木君とスケボーの方を取りました』
「ほぅー、想い人を優先して身内を売った訳か。並列的に書かれているスケボーが気になるけれど、一旦置いとくとして」
黄桜の記憶にある限りでは、戦刃むくろの妹に対する偏愛と執着はすさまじい物だったはずだ。果たして、1人の男子の為だけに裏切れるのだろうか? それともまさか、本気でスケボーの為に裏切ったのか。
「(そんな訳無いか)」
世界を揺るがす程の野望なのだ。たかが、板切れ1枚の為に全てを擲つ訳が無い。だが、黄桜の邪な考えが伝わったのか、苗木はスケボーを差し出していた。世界を揺るがすスケボーの魅力を体感してみなさい。と言わんばかりだった。
「俺は遠慮しておくよ。こっちから伝えられる情報としては、塔和シティに向けられた援軍のこと位か。それと、もう一つ、調べて欲しいことがある。実は、本物の学園長である霧切仁が見つかっていないんだ。俺達は学園内に監禁されていると睨んでいる」
『その苗字。もしかして』
「霧切響子の父だ。だが、関係はかなり複雑だ。俺のメッセージにする」
取り出したナイフで、彼も鉄板にメッセージを刻んだ。と言っても、今は苗木達もメッセージを残せるので、伝言は出来るが。
「よし、出来た。出来ることなら黒幕を捕縛して、全員で生きて脱出して来て欲しい。その代わり、俺達も皆の大切な人達を守る為に動く」
頷いた。どちらにせよ、自分達は希望ヶ峰学園から遠く離れることは出来ないのだから。攻勢が強くなって来たので、未来機関のメンバーも撤退の準備を始めていた。潮時だ。
「それじゃあ。頼んだぜ!」
新たな使命を受け取り、苗木達がスケボーに乗って再び希望ヶ峰学園に戻って行く中、黄桜の同僚教師はタブレットを見た。
苗木達の活躍は全国に放送されていて、彼らの結束力が勇気を与えている。と言う事に嘘は無かった。ただ、それよりも大きな声があった。それは。
『俺もヌケーターになりたい』
『ヌケーターになれば全てが救われる。苦しみからも絶望からも』
『希望に囃し立てられる必要もない。全てはヌケーターになるべきなんだ』
一種のカルトめいた何かが発生している不気味さがあった。まるで、絶望を踏み台にして、苗木を始めとしたヌケーター達がイコンになろうとしている様だった。
「(私も彼らを否定できない)」
絶望との戦いにつかれ、希望を見続けることにも疲れて行く中。どんな理不尽をも滑り抜けて行く彼らのことを羨ましく思ったこともあった。
だが、彼女は胸の内に秘めておくことにした。私だけがヌケーターになる訳には行かないのだからと。彼女は設置されていたゴミ箱を抱えて、トラックに乗り込んだ。