舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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21時間目:ハンゲキ

 以前来た時は、彼から貰った紙やペンは爆撃で吹っ飛ばされてしまったが、今回は違う。メッセージボードとして使い終えた鉄板と鉄板の間にメモ帳とペンを挟み込んで、四方をダクトテープで固定する。

 

「なるほど。帰り際には即席の防御壁になるのか」

 

 行きと帰りを考えた合理的な作戦に黄桜は感心していた。何重にも挟み込んで、両腕に抱える。もしも、持ち帰ればコミュニケーションツールとして、この上ない力を発揮してくれるだろう。

 苗木以外の3人も同じ様にして鉄板の間にメモ帳とペンを挟み込んだ物を抱えていた。今回の会合はお互いに得る物が大きかった。

 

「苗木。霧切に会ったらよろしく頼む」

「黄桜さん! 貴方で最後です! 早くトラックに!」

 

 黄桜に対してサムズアップで返した。既に撤収の準備をしていたトラックに乗り込み、黄桜達は颯爽と去っていく。頭上のドローン達の狙いは苗木達に絞られていた。

 紙とペン。ヌケーター達と円滑なコミュニケーションを行うツールは黒幕からすれば、この上が無い程の脅威であった。大量の爆弾が落とされる中、苗木達は地面をプッシュした。

 

~~

 

 食堂の方では、関係者達のモニタリングが続いていた。彼らは抵抗の為の手段を持たされていないらしく、逃げ回る外なかった。そんな彼らを嘲笑う様にして、モノクマを模したヘルメットを装着した少年少女達が手を叩いていた。

 

『殺してやる。アイツら、殺してやる……』

『やめとけ。アイツらの周囲には常に1体以上、モノクマが付いている。今、出て行っても無駄死にするだけだ』

 

 桑田の従妹である仲島花音が感情のまま行動しようとした所を、大和田の後輩である雪丸竹道が制止を掛けていた。大和田と話していた時とは打って変わって、言動も行動も冷静だった。

 

『なんで、そんなに冷静でいられるのよ……!』

『生きてここから出る為だ。お前はレオン兄ちゃん。オレは総長。だから、今は自分の為じゃない。大切な人達の為に行動するんだ』

 

 暫く、モノクマを引き連れた子供達は周囲を探索していたがターゲットが居ないと分かるや、移動を始めた。慎重に辺りを見回し、誰かが待ち伏せしていないか、雪丸が身を乗り出した瞬間である。影が落ちた。

 

『危ない!』

 

 花音が悲鳴を上げる。頭上から、小型のジェットパックを背負ったモノクマが現れた。フェイス部分はガスマスクの様な物で覆われており、手には小銃の様な物が握られていた。彼らの爪がトリガー部分に掛けられようとした。

 

『壊れろ!!』

 

 大声と共にモノクマが吹っ飛び、爆散した。声のした方を見ればメイド服姿の女性が1人。黒髪のショートヘアの前ぱっつんの女性の手には、拡声器の様な物が握られていた。

 彼女の隣に立っていたサングラスを掛けたスーツの男が、腰を抜かしていた雪丸へと手を差し伸べた。

 

『大丈夫ですか?』

『アンタ達は?』

『説明は後! チャバ! そっちの子をお願い!』

 

 どうやら、今の引っ掛けを塞がれたことに苛立ったのか、モノクマキッズとでも称する子供達は従えていたモノクマ達を差し向けた。

 チャバと呼ばれた男性は、懐から新たに取り出した拡声器の様な物を雪丸に渡していた。そして、手本を示す様にして使って見せた。

 

『壊れろ!!』

 

 拡声器を通して放たれた命令がモノクマへとぶつかると、彼らは自壊した。瞬間、雪丸はコレが何なのかを感覚で理解した。

 

『壊れろ!!』

 

 今まで逃げ惑うしかなかったモノクマへと対抗できている。雪丸とチャバと呼ばれた男性が応戦している間、メイド服の女性は花音を抱え上げていた。

 

『暫く、ボクに身を預けていて。大丈夫、安全な所に届けるから』

『……はい』

 

 花音は震えていた。今、自分達は本物の殺意に曝されている。

 もしも、このメイド服の女性たちがいなかったらどうなっていたか。それに比べたら、自分が抱いていた殺意など可愛い物だった。

 

~~

 

 また、別の場所ではポテポテと太った体を揺らして走る女性がいた。彼女の跡を付けるのはモノクマ……ではなく、モノクマキッズ達だった。手には『たら☆すぱ!』のコミック。

 

『富士子さん! 頑張って走るんだべ!』

『運動は作家にとって最も苦手な物なの!』

 

 そんな彼女にエールを送っているのは、葉隠浩子だった。

 モノクマを引き連れ生存者を殺害しようとするキッズ達は恐るべき存在であったが、同時に子供でもあった。彼らにとって面白いマンガを描いてくれる富士子は殺傷ではなく、捕縛対象になっていた。……ついでに言うと足も遅い。

 

『折角だから、サインとかしたら止まるんじゃねーべ?』

『駄目よ! 子供の欲望には上限が無いの! サインしたら、次は絵を描いてくれ! 絵を描いたら、次は漫画を描いてくれ! 僕を登場させてくれ! になるのよ! 知っているんだからね!!』

 

 実感を伴った切実な叫びだった。ただ、生死が掛かっている訳ではないので、何処か間抜けな感じはあった。捕まったら、終わりなことには変わりないが。

 普段の不摂生が災いして、毬みたいな体がよろけてこけた。獲物に群がるハイエナの様に子供達が集ろうとした瞬間、彼らの前にスーツを着た男性が現れた。手にはモノクマが印刷された銀色のカードと金色のカード。

 

『さぁ、ちびっこの皆。お待たせしました! 実はね。この周辺にコレと同じカードを14枚ばら撒いて来たんだ。銀色なら5枚。金色なら2枚集めて持って来れた子にはね。何と! 漫画に出演できちゃうんです! 早い者勝ちだよ!』

 

 ピタリと皆の動きが止まった。こういった時に全員出せ! と抗議するのではなく、自分さえよければいい。と言わんばかりに、お互いを牽制し合う姿は実に子供らしい物だった。

 そして、モノクマキッズの1人が銀のカードを見つけるや、全員が一斉に動き出した。先に漫画に出して貰うのは俺or私と言わんばかりに。

 

『流石、産業スパイ。人の心をくすぐる話術に長けている』

 

 転んでいた富士子に手を差し伸べたのは、精悍な体つきをした短髪の男だった。タンクトップから除く筋肉質な肉体がチラリと覗いていた。

 

『ヤダ、リアルイケメン……』

『立てるか?』

 

 彼の手を取り起き上がる。子供達がカード探しに夢中になっている間、スーツ姿の男も合流していた。

 

『燕尾君、早く逃げよう。実は銀のカードは4枚、金のカードは1枚しかばら撒いていないんだ』

『なんて奴だべ! そんな、詐欺みたいなことするんじゃねーべ!』

 

 浩子はスーツ姿の男を叱りつけていた。実際に、該当枚数を用意してしまったら、足止めが意味をなさなくなるので妥当な行動ではあったが。

 

『網野。例の地点に向かうぞ。既に、辿り着いている生存者もいるらしい』

『随分、足の速い奴らも居るもんだ。どんな奴らだ?』

『触るだけでモノクマが爆発した。壁を抜けた。大型トラックで撥ね飛ばしていた。とか、色々と聞くな』

 

 そんなバカな。と言いつつ、網野が走り出す。続いて燕尾が走り出した所を富士子と浩子も追いかける。子供達はカード探しに夢中なままだった。

 

~~

 

 食堂で映像を見ていた者達は安堵に胸を撫で下ろしていた。こまる達は言わずもがな無事だろうし、抗う術を持たない者達に対しても救いの手が差し伸べられている。一体、彼らは誰だろう? と考えていると、霧切が口元を抑えていた。彼女から話を聞いていた舞園は直ぐに察した。

 

「この人達って、霧切さんが一緒に仕事をしたって言う」

「探偵達よ」

「アレ? 霧切っちって、探偵だったんだべ?」

 

 サラリと述べられた事実に驚いていたのは、葉隠だけだった。皆、何となくだが察していたらしい。

 

「爺やの件もそうだが、今回の黒幕は準備が足りなかったようだな。いや、正確には手を早めざるを得なかったんだろうな。苗木達のせいで」

 

 十神は勝ち誇った顔をしていた。恐らく、時間があれば探偵などの外部勢力を入れないような工作も進んでいただろうし、モノクマなどの性能もバージョンアップされていたことだろう。

 ただ、予定を早めてしまった為、外部勢力が介入する隙間を生んでしまった。自分達の不安を煽る為の手段は、むしろ関係者達の健壮ぶりと外部の協力者の有能さを示すだけになっていた。

 

「その本人達も帰還した様だ」

 

 大神が入り口の方へと視線を向けた。今回はウィール音が無く、4人がスケボーを担いで入って来た。もう片方の腕にはダクトテープで固定された鉄板が抱えられていた。

 一同は、苗木達に駆け寄って鉄板を固定していたダクトテープを剥がした。中からは外部の人間が書き込んだと思しき文章が刻まれた鉄板が2枚。それに挟み込まれるようにして……ペンとメモ帳。更には1枚のボードがあった。朝日奈が手に取った。

 

「これって。お絵描きボードだよね? ペンで書いても直ぐに消せるアレ」

 

 メモ帳では限りがあると見越して用意してくれたのだろう。鉄板に書くのとは訳が違い、苗木はスラスラと書き込んでいた。

 

『これで、皆と会話も出来るかも』

 

 見せつける様にして、ボードに書いた文字を消した。彼がドヤ顔をしている横で、霧切は鉄板に刻まれた文章に目をやっていた。そして、直ぐに江ノ島へと視線を向けた。

 

「江ノ島さん。貴方、黒幕と繋がっていたの?」

 

 ピタリと皆の動きが止まった。苗木も話せるようになった以上、隠す必要もないと判断したのか、江ノ島こと戦刃はウィッグを取った。

 

「髪をセットするのが面倒だった訳じゃないんだ……」

『不二咲君。結構、引っ張るよね』

「あ、ゴメン」

 

 戦刃は苗木から借りたお絵描きボードに書き込んでいた。流石にデリカシーが無いことを言ったのを自覚してか、ションボリしていた。

 

「だったら、聞かせて。貴方と黒幕はどうしてこんなことをしたの?」

 

 霧切の問いかけに対する答えを、戦刃はお絵描きボードに書き込んでいた。皆が固唾を飲んで見守っていた。

 

『盾子ちゃんを絶望させる為』

 

 もしも、この場に演出家が居たら彼女に恍惚とした表情を浮かべさせていたかもしれない。だが、戦刃は真顔だった。笑う所ではないのに、ギャップで葉隠が噴出していた。

 

~~

 

「思ったよりも早めに終わらされそうですね」

 

 持ち前の分析能力を用いれば、彼らがここまで踏み込んで来るのは時間の問題だった。もう、動機とかシャッターなんかは関係ないだろう。

 モナカ達も協力してくれているが、投入された探偵や未来機関の戦力を考えれば、押し切られるのは目に見えている。

 

「はぁ。結局予定調和かよ」

 

 悪い魔王に対して立ち上った勇者達は愛と勇気で悪を滅ぼした。

 欠伸が出るほど退屈で見飽きて来た展開だ。最初の内はヌケーター達の予測不能な挙動に一喜一憂していたが、結局。結末はいつもので収まる。

 

「んじゃ、最後の準備をしとかないとね」

 

 塔和シティの方には目もくれず、彼女は学園内の映像を映し出した。

 とある一室、男性が監禁されていた。髪は伸び放題で無精髭が生え、頬はこけている。ブツブツと何かを呟いており、精神的な均衡も欠いている様だった。

 江ノ島はモノクマを派遣した。うつろな目で見上げる男に対して、モノクマを通して告げる。

 

「学園長。お宅の娘さん、そろそろそっちまで来るかもね」

『……響子』

 

 虚ろな目に光が宿る。これこそ、江ノ島が最も望んでいた物だった。周囲の機器が稼働して、彼を拘束した。

 

「負け惜しみみたいだけれど。最後の一泡位吹かせてやりますか。は~、こっすい!!」

 

 周囲にペッパーミルとソルトミルを模したオブジェクトが出現した。準備はバッチリだ。江ノ島は盛大に溜息を吐きながら、4階へと続くシャッターを通過して来る苗木達をモニタリングしていた。

 

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