舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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24時間目:マイシスター

「うぉー!!! スッゲー!!!」

 

 塔和シティ某所。霧切とヌケーター達が繰り広げている『ヌケゾンビVSモノクマ』と言う、三流映画めいた光景に目を輝かせていたのは、赤毛の少年『大門大(だいもん まさる)』だった。

 

「魔物はやっぱり魔物だったんだね。倒しても経験値低そうだけれど……。いつも思っていたんだけれど、最近のゾンビって綺麗だよね。汚くないよね」

 

 ボロ布のパッチワークで作られた目出し帽を被った少年『煙 蛇太郎(けむり じゃたろう)が感想と共に脈絡のないことを言い、桃色ツインテールの少女『空木言子(うつぎ ことこ)はぷりぷりと怒っていた。

 

「ちゃんと倒した後に、灯油とライターを使わないと駄目な奴ですね! 移動が滅茶苦茶早くなって攻撃力が上がっている所も、正にってカンジです! ねー、モナカちゃん?」

「燃えても動きそうな気がするー」

 

 女子らしい集団でのポジションを意識した共感にやんわりと同意しているのは、希望ヶ峰学園で行われたコロシアイ学園生活で江ノ島と連絡を取り合っていた緑髪の少女『モナカ』だった。彼女が視線を投げた先には、玉座の様な場所に座っているモノクマが居た。

 ただし、カラーリングは白と黒のツートンカラーではなく、黒に近いグレーと黒で構成された、ほぼ真っ黒なモノクマだった。

 葉巻らしき物を咥え、ネックレスの様なチェーンを首に巻き、眼帯を付けて、マフィアハットを装着していることから悪な感じが前面に押し出されていた。

 

「ゾンビでスケーターって言えば、もう。スリルある展開しか待ってねぇよ! でも、そういった物を有難がる所が最高にオトナだよな! これからのランキングを席捲するのはクールでイカしたJ-POPとアニソンだよ! 意味も分からねぇ英語の歌詞を得意げに聞いているオトナ共をまとめて溶かして、アイツらの大好きなレコードに作り替えて……」

「クロクマ。うるさい」

 

 モナカが何かしらの設定をしたのか、クロクマと呼ばれたタイプのモノクマは一切の音声を出せなくなっていた。

 彼女達がモニタの映像を見てはしゃいでいる中、比較的お利口そうな水色髪の少年『新月 渚(しんげつ なぎさ)』だけが冷や汗をかいていた。

 

「なにあれ?」

 

~~

 

 ヌケゾンビVSモノクマの戦いはゾンビ連合の勝利に終わった。というか、モノクマが攻撃をしたら勝手に自滅するので、どっちが勝つのかは分かり切っていた。

 まるで、勝利を祝う様にして全員がスケボーを掲げていた。ゾンビっぽく見えて、意識らしい何かはあるのかもしれない。

 

「あの、助かったのは良いんだけれど。彼らは一体?」

 

 この頭から血を流していたり、背中にスケボーを背負った彼らは何者かと。

 極一般的な感性を持つ不二咲太市としては尋ねずにはいられなかった。霧切はようやく常識人に出会えた気がした。だが、説明をすれば自身の常識を疑わざるを得ないので、大神に目を遣った。

 

「苗木達は特殊な能力を持ったスケーター達なのだ。我らはスケーターを超えた存在として、ヌケーターと呼んでいる」

「テニスがテニヌって呼ばれる感じかな。ハハハ……」

 

 普通に引いていた。霧切は感動に打ち震えていた。常識人がいると。

 

「太市さん。誰でも普通はそうなると思うわ。助けられたからって、染まる必要はない。おかしなものはおかしなままとして認識して良いのよ」

「だよね。うん」

 

 他人を支えるフリをしつつ、自分の正気を肯定する言葉を吐いていた。

 茶番は程々に、この塔和シティを先んじて攻略しているペニー達と合流出来たのだから、彼らに今後の目的を聞いた。

 

「囚われた人々を解放して、街から脱出させること。そして、現状を作っている者達の排除。と言った所でしょうか」

「相手が何者かは分からないけれどね」

 

 誰が何の為にこんなことをしているのか。希望ヶ峰学園の時と違い、ルールなどの法則性は見当たらない。霧切達はトラックに乗り込み、ヌケゾンビを引き連れて移動することにした。

 

~~

 

 トラックに率いられたヌケゾンビ集団。なんて百鬼夜行が目に付かない訳が無い。モノクマ達の情報も更新されたのか、近付く様な真似はしなかった。

 飛び道具を持っている者達は消極的に攻撃を仕掛けていたが、攻撃を受けた相手があらぬ方向に吹っ飛んで激突してくる可能性もあったので、やがて飛び道具の攻撃も止んだ。

 

「ちなみに、このトラックは防弾、防爆など。シェルター並の強度を持っています。タイヤはダイヤモンドカッターでも切れません」

 

 動く要塞と言った所だろうか。要救助民を保護するには打って付けの場所だった。トラックの周囲を歩いている苗木達が、道端に転がっている死体にスケボーを添える度に起き上がり、百鬼夜行に参加するヌケゾンビは数を増やしていた。

 

「あの。なんで、苗木君? は、こんなことを?」

「死んでもスケボーを楽しんで欲しいのかもしれんな」

 

 太市からの疑問を、大神は至極真面目に答えていた。人命に対する冒涜感が半端ないにしても、自分達が生存する上では役に立っているのだから文句を言う気は無かった。……思うことはあるにせよ。

 今の霧切にはそんなことよりも気にしなければならないことがある。カプセルに眠る五月雨結についてだ。

 

「ペニーさん。結姉さまはどういった状態で?」

「よろしくはありません。今はカプセルのお陰で延命できていますが、何が起きるかは分かりません。容体が急変することだって大いにあり得ます。早急な脱出が求められます」

 

 カプセルから取り出して、彼女だけ外に向かわせる。なんて真似も出来ない。

 そもそも、このトラックが通れるほどの余裕が無いと脱出も叶わないのだ。それでも、生きていてくれたことは嬉しかった。

 

「……霧切よ。舞園達には話していたようだが、彼女が何者か。我らにも教えて貰えぬか? 今は出来ることも少ない」

 

 外にいるのはヌケーターやヌケゾンビ達に任せるとして。ここに来るまでのスケジュールもかなりタイトな物であったのだから、体を休める上でも必要なことだった。先日、舞園達にした説明をもう一度する。

 

~~

 

「当時は『犯罪被害者救済委員会』という組織が存在していたの。彼らが起こす事件の中で、私達は出会った」

「組織名からして、概要が分かりそうなものだな。……復讐の為の組織か?」

 

 大神の予想通りだったので、霧切は頷いた。

 『犯罪被害者救済委員会』。罪を犯しながらも裁きを受けることもない者達に報復を行う為の組織である。協力を持ち掛けられるのは、該当事件の被害者の遺族や仲の良かった、報復をも厭わない者達だ。

 

「組織が行う復讐にはルールがあった。復讐を行う際には探偵を呼ぶこと。犯行に使う凶器やトリックの種類を明示すること」

「そんな物を明記したら、直ぐに犯人も分かっちゃうんじゃ? というか、復讐をするならもっと。大人しくやればバレなさそうなのに」

 

 太市が口を挟んだ。凶器やトリックなんて物を記せば犯人は見つかり易くなるだろうし、そもそも犯行予告を出す時点で合理的とは思えない。

 

「彼らはそれを『試練』と呼んでいた。真実を暴く探偵と言う困難を乗り越えて、始めて救済されるのだと。この一連の流れを『黒の挑戦』と呼んでいた」

「どうだか。復讐心に端を発した残虐ショーが見たいだけでは?」

「そういった一面もあったのは事実ね。だけれど、組織自体の理念が被害者遺族を救済する。と言う事も本当だった」

 

 大神は切って捨てたが、太市は暫し考えた。もしも、自分の大事な息子が無残な死を遂げたとして、犯人が裁きを受けてもいなかったら。自分は、彼女の言う組織を頼らずにはいられるだろうか?

 

「彼らの起こした事件に私達は巻き込まれた。最初の事件については、上手く行っていたら。私と結姉さま以外は、バラバラ死体になっていたんでしょうね」

「随分と物騒な話だな。だが、そうはならなかったのだろう? 事件を未然に防いだのか?」

「そうね。二つの幸運があったの」

 

 1つ。犯人であり復讐者の男が、ターゲット以外の犠牲を好まなかった。故に、無関係の探偵を殺す真似はせず、拉致監禁に留めていた。

 2つ。犯行の為に探偵達を気絶させようとしたが、結が咄嗟に窓を叩き割った為、薬品の効果が十分に発揮されずに犯人がバレてしまったこと。

 

「お姉さま曰く『ビックリして窓を割っていた』ってことらしかったんだけれど」

「だとしたら、素晴らしい判断力だったな。天性の資質があったのやもしれん」

「でも、それだと犯行が未然に防がれてしまったんだよね? 犯人が強硬手段に走ったりとかは……」

 

 大神は笑っていたが、太市の中には疑問が残っていた。犯行が台無しになったら、破れかぶれになってしまうのではないかと。

 

「私が叩きのめした。……問題はその後だったけれどね。復讐者の真相告白で、また一悶着あったのよ」

「『黒の挑戦』には復讐相手がいるんだよね? 犯人は誰だったんだい?」

「……私達と同じ探偵よ。探偵は解決した事件の数だけランクが上がって行く。ソレを上げたいために自作自演で犯罪を起こしていた奴がいたのよ」

 

 太市はショックを受けていた。事件を解き明かすべき探偵の中に、自ら事件を起こす者がいたとは。

 

「私達は以後も『黒の挑戦』で狙い撃ちにされてね。……でも、不思議なことに。結姉さまと行くと、復讐対象者以外の犠牲は出なかったの」

「罪を犯したからと言って、殺して良い訳ではないが」

 

 大神の言う事は最もで。心理的に同情できる部分はあるが、自力救済は法律的には禁じられている。……だからと言って、感情が許すかもまた別問題ではあるが。

 

「でも、2人で協力して解決し続けたんだろう? 凄いじゃないか。五月雨君もやはり凄かったのかい?」

「えぇ。私に持っていない物を沢山持っていた。私を妹の様に可愛がってくれた」

 

 普段はクールを保っている彼女だが、当時を思い出したのか年頃の少女の様に優しく微笑んでいた。きっと、本当に大切な思い出だったのだろう。大神が問うた。

 

「二人は何故探偵を?」

「私は大神さんと一緒。家が代々続く、探偵の家系なの。あのステーキは嫌で逃げ出したみたいだけれど。それでよかったと思っている。私達の系譜に肉の写真が並ぶのは嫌だし」

「ステーキ……?」

 

 家業を放り出したことに思うこともあるし、ステーキになったことについてはもっと思うことがあった。太市だけは言葉の意味が分からず、首を傾げていたが、悩んでも無駄と切り捨てて、続きを促した。

 

「五月雨君は?」

「幼い頃に妹が拉致され、殺されてしまった後悔。それと、警察も諦めた捜査を探偵達だけが行ってくれたことに対する憧れから。だそうよ」

 

 新聞やネットのニュースでは文字と言う情報でしかないが、自分達が日常を過ごしている裏では悲劇が起きている。遺族の人生をも狂わせるような冷たく悲しい事件が。

 ……だからこそ、話を聞いていた2人は何か引っかかった。予感がしたと言っても良い。

 

「彼女がああなったのは、最後の黒の挑戦での話。いつもはお姉さまが召喚される探偵だったけれど、今回は私だった。……そこで起きた事件は、妹を誘拐し、殺害した犯人へ復讐をする為の物だったの」

 

 誰が犯人だったか。カプセルの中で寝ている少女は事件に巻き込まれたのか。……あるいは、彼女が事件を起こした側だったのか。

 

「霧切。お前が信じた姉貴分は、復讐に手を染める人間だったか?」

「昔の私ならきっと。認めたくない、って感情を否定する為に犯人だと思っていたでしょうね。でも、今は違う。姉さまは犯人じゃないと言える。……真相を聞く前に、こんなことになってしまったけれど」

 

 これだけの大怪我をする事件に巻き込まれていた。とすれば、霧切が無事でいるのも結が庇ったのかもしれないと想像していた。

 

「だとしたら、全てを知る為にも。必ずや皆を助けねばな」

 

 キィっとトラックが止まる。表の映像がモニタに映し出された。

 前方からスケボーに乗った少女がやって来た。彼女に引き連れられた中年の男性は困惑していたが、トラック周りにいたヌケーターズを見て声を上げた。

 

「清多夏! お前、どうしてこんな所に……!」

 

 駆け寄って来た高秋は石丸を抱きしめていた。真顔になるのがデフォルトのヌケーターでも、親子の再会は来る物があったのか。石丸も目じりに涙を浮かべていた。

 彼を引き連れていた羽山あやかは苗木に近付いたかと思えば、手を差し出していた。彼もまた応えるようにして握り返していた。

 

「とりあえず、高秋さんには後ろに乗り込んで貰う様にしようか」

 

 高秋をトラックの荷台へと招き入れ、事情を説明した。信じ難いことばかりだったので、彼も頭を抱えていた。

 

「意味が分からん」

「そうね。それが普通よ」

 

 彼が苦々しい表情を浮かべるのとは裏腹に霧切の表情には余裕が蓄積された。ほら見ろ、コレが普通だと言わんばかりに。

 ただし、トラック周辺の様子が映し出されたモニタには羽山あやかという、新たなヌケーターを加えた喜びで、地面に埋まっている苗木が居たので無視することにした。

 

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