舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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25時間目:KBF

 霧切達が塔和シティに向かった後、希望ヶ峰学園は未来機関の新たな拠点となっていた。学園に残っていた設備や資源が有用だったこともあったのだろう。

 不二咲や十神達が彼らの活動を手助けしている中、朝日奈、セレス、葉隠は食堂で退屈を持て余していた。

 

「十神はあっと言う間に馴染んでいるし、不二咲ちゃんはなんか難しいプログラムを組んでいるらしいし、舞園ちゃんは世界中の皆を元気にするために広報活動をしているし、山田と腐川ちゃんは文化の復興支援とか言って連れていかれるし……」

「サボれる時にサボっておくのも役目だべ!!」

「そうですわ。むしろ、余計なことをして手を煩わせないことも立派な仕事で無くて?」

 

 皆が働いている時に何もせずにいるのは申し訳なさが先立つが、2人のヤスヒロはサボタージュを謳歌していた。

 セレスの言う通り、勝手の分かっていない自分が何かをした所で役に立つどころか迷惑でしかない。というのも理屈の上では納得できるが、感情がそうはいかなかった。

 

「暇だから、皆の様子を見て来るね!」

 

 椅子から立ち上がり、ピュ~っと駆けて行く。彼女は止まっていられない人間なのだと納得して、葉隠は漫画を見る傍ら、セレスは横目でモニター越しに塔和シティの様子を観測していた。

 

~~

 

 羽山あやかと高秋を加えた一行が百鬼夜行を敢行している中、要救助者達は思い思いに行動をしていた。

 

「うぉー! 早ェー!!」

 

 頭に猫を乗せ、腕にカメムシ入りの虫かごを抱え、自身はスケボーにライドした装飾過多の少女、苗木こまるは道中で色黒の少年と遭遇していた。彼は自らを『朝日奈悠太』と名乗っていた。

 彼女が通り過ぎた後には跳ね飛ばされたモノクマの残骸が転がり、ダンシモノクマキッズはブーイングを飛ばし、女子は泣きべそを掻いていた。

 

「ぶいにゃ」

 

 どうだね、少年。これが私の下僕だ。と言わんばかりに、グランボアはフンスと鼻を鳴らし、カメムシはケージ内でジッとしていた。

 当の本人はと言えば、スケボーを降りた後、まるで何かのデータを読み込むかのように暫く棒立ちしていたと思えば、表情をころりと変えた。

 

「助けが来てくれそうな雰囲気はあるんだけれど……」

「うわぁ。急に普通に戻った!」

 

 先程まで真顔でスケボーにライドしていた少女が普通になったので、悠太はたまげていた。こまるは少し照れ臭そうにしていた。

 

「ウチの特徴でね。スケボーを手にすると人が変わるんだ。私は、変化幅が少ないらしいけれど」

「人が変わるってレベルで済むのか?」

 

 性格的な問題ではなく、人体的なスペックから変わっていた気もする。ただ、頼もしかったことは間違いない。おかげで、彼らは大橋に辿り着けたのだから。

 塔和シティの外周部分。外へと続く架け橋であり、こんな悪夢から脱出できる可能性がある場所だ。

 

「じゃあ、ここを超えて助けを求めに行こう!」

 

 きっと、自分達と同じ様な境遇に遭っている者達もいる筈だ。

 希望ヶ峰学園には自分の身内以外にも沢山の生徒がいたのだから、彼らを助けられるのは自分達しかいない。一歩踏み出そうとした彼らを遠巻きに眺めている、モノクマキッズ達がいた。彼らはケタケタと笑いながら、ポケットから取り出したボタンの様な物を押し込んだ。

 

「え?」

 

 こまる達の遥か前方。大橋の先端が爆破され、次々と連鎖的に破壊が起きて行く。爆発に巻き込まれない様に悠太と共に全力で下がった甲斐もあって、無事には済んだが。

 

「橋が……」

 

 外へと繋がる道は完全に途絶えた。一瞬だが、抱いていた淡い期待は打ち砕かれた。……ただ、悠太は諦められないのかチラリとこまるを見ていた。

 

「こまるのスケボーテクで水切りみたいな感じで、外に出ることは出来ない?」

「無理だよ……。私、水には入れるけれど水切りは出来ないんだ」

 

 その言い方だと、君の系譜は水に入れないのかね? と、言いたそうにグランボアはこまるを見ていた。

 今から来た道を引き返すしかない。ただ、目の前に見えていた脱出口を諦めるのはあまりに惜しい。悠太が何かしらの決意をする様に両手で自分の両頬を叩いた。

 

「じゃあ、俺が行くしかねーか」

「え? 朝日奈君。泳げるの?」

「陸上は得意だけれど、泳ぎの方はな。でも、やるっきゃねぇんだ」

 

 着ていた上着を脱いだ、水に入る前の準備運動はまるで誰かの物を真似している様だった。その際、左腕に装着されていた白と黒のバングルが邪魔そうだった。こまるの腕の中にあるゲージ内では、カメムシのカメコが激しく動いていた。

 

「(アレ? どうしたんだろう?)」

「行って来る! 向こう岸に着いたら、真っ先に迎えに来て貰うから!」

 

 壊れた大橋から飛び降り、着水した。陸上選手だと言っていたが、競泳選手としても十分に通じそうな整ったフォームだった。

 水を掻き分け、ぐんぐん進んで行く。閉ざされた牢獄から脱出していく様子を見ているというのに、胸騒ぎが収まらない。グランボアとカメムシを下ろして、スケボーに乗り、助走を付けた。

 

「(行ける!)」

 

 悠太の中には確信があった。水を掻き分ける音に混じって、何か一定間隔で音が鳴っている気もしたが、気にしなかった。

 やがて、間隔は短くなっていき、まるで目覚まし時計の様に途切れることなく音が鳴り始めた頃、背後に気配を感じた。振り返ってみれば、スケボーに乗ったこまるが水切りをしながら近付いていた。

 

「うわ!?」

 

 なんで? と思ったのも束の間。スケボーから降りて、悠太に跳びついた彼女は、彼の左腕に装着されていたバングルに触れた。

 すると、不思議なことに彼の骨格やサイズを無視して擦り抜けたのだ。彼女がそれを遠くに放り投げた、直後のことである。バングルが大爆発を起こした。爆風と爆音が彼らに襲い掛かる。

「――」

「こまる!?」

 

 スケボーから落ちた彼女は、先程までの頼もしさが嘘の様に溺れていた。音も立てずに静かに沈んで行く。

 直ぐに助けなければ。と考えたが、ふと悠太の中に姉の言葉が思い浮かんだ。溺れている人を見つけても訓練もなしでは助けられないと。何か浮く物を投げた方が良いと。……近くに、そんな物はなかった。

 

「(でも、俺がやらないと!)」

 

 悠太はこまるへと駆け寄った。しかし、不思議なことに体が全く浮かない。

 既に相手が浮力を失っているのだ。自分も共に溺れるしかないのか。何とかして持ち堪えていると、バシャバシャと水を掻き分けて来る音が聞こえた。

 

「おめーら! もうちょっと持ちこたえろ!!」

 

 アロハシャツを着たリーゼントの男性だ。悠太からしても全く知らない相手だが、近場にあったホテルからかっぱらって来たと思しきクーラーボックスをビート版代わりの様に用いて、近付いて来た。

 こまるを抱えた悠太はクーラーボックスへとしがみ付いた。何とかして九死に一生を得たが、目の前の男性は何者か。

 

「まず、陸に上がろうぜ。落ち着いて話も出来ねぇ」

 

 言われた通り、悠太はクーラーボックスを浮き具に使って、近くへと上陸した。

 溺れそうにはなっていたが、意識はあるようだし呼吸も問題は無かった。間もなくして、ムクリと起き上がって悠太に抱き着いた。

 

「死ぬかと思った!!」

 

 こまるが泣きながら言っていた。悠太も時間を置いて、ジンワリと恐怖が滲んで来た。

 もしも、彼女が助けに来てくれなければ自分はどうなっていたのかと。そして、謎の男性が助けに来てくれなければ、2人揃って溺死していたのではないかと。内に湧いた恐怖を誤魔化す様にして、男性に話しかけた。

 

「助けてくれて、ありがとうございます。貴方は?」

「俺は八鬼 弾(やき はじき)ってモンだ。お前らを助ける為に来たんだが、この状況を作った奴らはイカれてやがる」

 

 見た目はチンピラだが、これでも自分達を助けに来てくれた人間であるらしい。だが、彼はどうやって自分達を見つけたのだろうか? と考えていると、少し離れた場所から虫かごを頭に乗せたグランボアがやって来た。

 

「ブニャァ」

「お前らコイツに感謝しろよ。近くにいた俺を呼んでくれたのはコイツらだったんだからな」

 

 八鬼はガシガシとグランボアの頭を撫でていた。止めたまへ、と言わんばかりにグランボアは彼の手を引っ搔いていた。ふてぶてしい猫ではあるが、自分達の命の恩猫でもあった。

 

「グランボア。ありがと~」

 

 何、僕を助けるのも主の務め。と言わんばかりに鼻を鳴らした後、こまるの頭に乗った。彼のお気に入りの場所であるらしい。

 脱出の手立てを失うどころか命の危機に晒されただけに終わった。だが、誰も死んではいなかった。八鬼が歩き出す。

 

「行くぞ。仲間達が待っている」

「何処に行くんですか?」

 

 歩き出した彼の後を付きながら、こまるが尋ねた。自分達と同じ様に難を逃れた者達がいるのだろうか?

 

「協力者達が集まる場所があるんだ。表には無いんだけれどよ」

 

 現在、表の道はモノクマ達が暴れた影響で塞がっている場所も多い。

 だが、地下となれば話は別だ。行く手を阻むモノクマは八鬼が活躍する間もなく、こまるがスケボーで撥ね飛ばし、引き潰していた。

 

「……コレ。俺の助けが無くても脱出できるんじゃねぇの?」

「でも、八鬼さんがいなかったら溺れていました」

 

 もっとも。彼女が海へと飛び込んだのは自分の行いが原因でもあるので、悠太は目を伏せていた。

 やがて進んだ先には地下へと続く階段があったのだが、途中でシャッターが降りていた。八鬼と悠太が一緒に持ち上げようとしたり、蹴ったりしたが開く気配が無かった。

 

「駄目だな。こりゃ、遠回りするか。近くにシャッターを開くカギが無いか」

 

 と言っている横で、スケボーにライドしたこまるが単身シャッターを擦り抜けていた。暗がりが続いた後、開けた場所に出た。

 円形のフェンスに囲われた闘技場の様なステージだった。観客には多数のモノクマキッズがいたが、彼らは首を傾げていた。『来るの早くね?』と。慌てて1人の少年が降りて来た。

 

「おい! ブス!! 来るの早いんだよ!! まだ準備中だったんだゾ! 折角、病院とか色々と準備していたのに!」

 

 赤毛の少年。大門大(だいもん まさる)は御立腹だった。本当に慌てて出て来た為か、手には2本のレバーと赤いボタンが付いた装置が握られていた。

 

「お前ら魔物は何時だってそうだ! 何でもかんでもコーリツ、コーリツ……。そんなにコーリツが好きなら、結婚してろバーカ!!」

 

 実に小学生らしい感性と煽りだった。どうやら、結構頑張って準備してくれた何かをスルーしていたらしい。悪い悪いと言わんばかりに、こまるは頭の上で両手を合わせていたが、却って相手を煽っていた。

 

「もう許さないゾ! ギッタンギッタンにしてやる!!」

 

 大門が赤いボタンを押し込もうとした、正にその時。こまるは抱えていたスケートボードをまるで十字手裏剣の様に投げ飛ばしていた。

 投擲されたスケボーは大門が抱えていたコントローラーに接触した。すると、細かく上下に震え出したかと思えば、やがて彼の手を離れて円形の闘技場を自由自在にぶっ飛び始めた。最終的には天井へと突き刺さっていた。モノクマキッズを含め、全員が天井を見ていた。こまるだけがサムズアップしていた。

 

「ふざけんなよ!!! 取って来いよ!!」

 

 子供ではどう足掻いても届かない場所にあった。出撃準備をしていた何かが、地面からチョコンと頭を出していた。このままでは為す術がない。

 

「(また、俺っちは魔物に好き勝手にされるのか…?)」

 

 大門の表情が歪む。モノクマや渡された秘密兵器を使えば、オトナと言う魔物達を一方的に葬れるが、そうでなければ自分はコドモに過ぎない。

 対抗手段は無いかと周りを見た時、近くにスケボーが転がっていた。自分のコントローラーを吹っ飛ばした憎き道具だが、彼は本能的に手を取った。

 

「へっ。オレっちを超小学生級の体育の時間と知らなかったみたいだな! オレっちなら! お前より上手にスケボーに乗れるんだぜ!」

 

 スケボーを手にした大門は、司会席の様な場所からスケボーと共に飛び降りた。昨今は某少年探偵のこともあって、小学生の間でもスケボーは大人気だ。

 こまるの前に降り立った際のスケボーのテクニックは見事な物だった。どんなモノクマや脅威を見ても動じなかった、こまるに大きな動揺が走った。

 

「よし。じゃあ、オレっちとスケボー勝負だ!! オマエが負けたんなら、一生ドレイだからな!!」

 

 冷や汗がタラリと垂れた。スケーターたる者、理不尽は大した物ではないが、正々堂々としたスケボー勝負は命を懸けるレベルの物だ。

 だが、逃げる訳にはいかない。こまるはスケートボードを突き出していた。いざ、尋常にと言わんばかりの佇まいだった。かくして、塔和シティの地下闘技場においてスケーター勝負が始まろうとしていた。

 

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