舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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26時間目:タノシイナ

「行くぞ!!」

 

 八鬼はシャッター前に転がしたモノクマの残骸に対して、拡声器型ハッキングガンを打ち込んだ。すると、残骸に残っていた爆弾に反応した。周囲に衝撃が走る。煙が晴れると、シャッターが破壊されていた。

 

「八鬼さん。もしも、コレで周囲の建造物が崩れて居たらどうするつもりだったんですか?」

「その時は、また新しいモノクマを持って来て更に吹っ飛ばすだけだ。だけど、俺は運が良い。シャッターが潰れただけで済んだからな」

 

 結果的には何とかなったが、あまりの考えなしに悠太は肝を冷やしていた。

 地下通路にはモノクマの姿は見当たらず、暫く1本道を歩き続けていると扉があった。ゆっくりと押し開くと、開けた場所に出た。モノクマキッズ達の歓声が彼らを迎えていた。

 

「……え?」

 

 目の前には闘技場の様なフィールドが広がっていた。悠太もテレビなどの浅い知識でしか知らないが、湾曲した壁面や階段を模した設置物など。スケボーで使われていそうな用品が並べられていた。

 これらを華麗なトリックで駆け抜けていく二人がいた。片方は小学生ほどの小柄な少年であり、やんちゃな見た目に相応しい荒々しくも躍動感を感じさせる動きで、観客を魅せていた。

 対する、こまるの動きは洗練された動きでありながらも、観客を虜にする魅せ方を披露していた。

 

「すげぇ」

 

 八鬼はポロリと感想をこぼしていた。悠太の感想も全く同じだったし、周りで湧いている得体のしれないキッズ達も同じ感想を抱いていたことだろう。

 丁度、決着が着いた所だったのか。滑り終えた後を2人に挟まれたモノクマキッズは……こまるの腕を上げていた。

 

「ぐっ…うっ……」

 

 対する少年、大門大は言葉を詰まらせていた。

 コレが大人達の汚い謀略などで絡め取られたなら幾らでも抗議するつもりだった。だが、相対した少女は自分と同じ目線で自分と同じ舞台で戦った。

 負けたことは本当に悔しかった。でも、抗議をする気は起きなかった。競技中は最高のパフォーマンスを発揮できていたし、ここまで透き通った気持ちで何かに集中できたのは久しぶりだったからだ。――あの時間を、最も楽しんでいたのは間違いなく自分だった。

 言葉に出来ない感情が涙となって溢れた。誰かに虐げられた際に流れる苦痛を伴った物ではなく、非常に心地良い不思議な涙だった。

 

「大門君。楽しかったよ」

 

 スッと。こまるが彼に視線を合わすようにしゃがみ込んだ。普段ならば憎まれ口の一つでも出て来る所だが、涙を堪えるのに必死で何も言えなかった。

 彼は無言で入り口の向かい側にあった扉を開けた。スケボーを抱えたまま、こまる達が入場して来た入り口から去って行こうとした際に、悠太がポツリと呟いた。

 

「次は、勝てると良いな」

「うるせー! 馬鹿!!」

 

 ようやく憎まれ口を叩ける位にはなったらしい。こんな異常な状況下だというのに、勝負に負けた男子の気持ちが悠太には痛いほど分かっていた。

 モノクマキッズ達は騒ぎ疲れたのか、観客席で横になったりお喋りらしきことを始めていたので、悠太達はこまると合流して先に進むことにした。

 

~~

 

 百鬼夜行と化した集団はモノクマキッズ達からも避けられるようになり、塔和シティがロクでもない様相を繰り広げている中、霧切達を乗せたトラックはとある場所で停まっていた。太市が積まれた機器を操作している。

 

「この下に空間が広がっているね。エレベーターとか搬入口は無さそうだし……」

 

 それなりに広大な空間があるらしく、中には生活スペースと思しき建物の形等も確認できた。噂による、避難民達が集う場所なのかもしれない。

 だが、どうやって向かえば良いのかと考えた時、大神は苗木達へと視線を向けた。

 

「すまぬ。先に沈んで空間に到達後、中に居る者達に事情を説明してはくれぬか?」

「大神さん?」

 

 格闘家ともなれば状況に応じる力の方が重要であり、常識は一旦脇においておけるだけのフレキシブルさがあるのかもしれない。

 苗木達は頷いた。最近、周りの皆がヌケゾンビだらけで新規開拓する場所が欲しかったんだよね。と言わんばかりに、全員がスケボーに乗る様な挙動を見せて地面に沈み込んで行った。

 

「え? え???」

 

 息子が異形となったことを認めざるを得なかった高秋は口をあんぐりと開けていた。彼の肩を霧切がポンポンと叩いていた。

 

「悪い夢よ。多分」

「いや、現実じゃないかな」

 

 太市は薄々と分かっていた。霧切と言う少女はこのおかしな事態を認める訳にはいかないと、理性と状況の狭間で戦っているのだと。……まぁ、ヌケーターズ達が便利なのは確かだったのだが。

 

~~

 

 塔和シティの建設が始まった時以来から存在している、古い貯水庫。

 今は、モノクマ達から難を逃れた者達の避難場所として機能しているが、天井からニュルリと落ちて来る者達が複数。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 避難民達はモノクマがやって来たのではないかと戦々恐々としていたが、彼らを落ち着かせようとする者が1人。いや、1体と言った方が良かった。

 

「み、みんな! 落ち着いて! ほら、アレは人間だよ!」

 

 モノクマの様なシルエットであったが、右半分は真っ白。左半分は白の色合いが強く、彼らの凶暴なフェイス部分は包帯で覆い隠されていた。有体に言えば、真っ白のモノクマだった。

 

「人間が天井抜けて来る訳ねぇだろ!!」

 

 彼か彼女に抗議をしているのは、右腕にギブスを巻いた青年だった。

 全く以ってその通りなのだが、彼らはこの空間に存在する疑念や困惑の全てを振り払って降りて来た。敵対する意思も無さそうだったので、恐る恐る真っ白なモノクマが近付いて行く。

 

「こんにちは。僕はシロクマ。君達は? 何しに来たの?」

『こんにちは。苗木です。皆さんを助けに来ました』

 

 お絵描きボードに書き込まれた内容に皆が騒めいた。

 だが、彼らの存在を不審がる者の方が多かった。なにせ、あまりにも怪しかったから。

 

「気持ちは嬉しいんだけれど……」

 

 信じられる要素があまりにも少なすぎる。シロクマとしても怪しいと評価する以外に無かった。周りの者達も距離を取る中、駆け寄って来る2人の女性がいた。

 

「あら。アンタらは希望ヶ峰学園の」

「一二三の友達?」

 

 スカジャンを着た、何処となくヤニ臭い女性――葉隠浩子と丸々と太った女性――山田富士子だった。短いながらも通信した時のことを覚えていたのか、彼女らには直ぐに分かったようだ。

 

「あ。燕尾さんの言っていた人って、君達のことだったんだ! じゃあ、本当に助けに来てくれたんだね!」

 

 シロクマの中の疑念を消すには十分な肩書だったらしい。すると、周囲の空気も一斉に変わった。

 

「おい、まさか。本当に、俺達は助かるんじゃ」

「そうよ。燕尾さん達が言っていた救援って言うのが来ているのよ!」

 

 どうやら事前に話を進めてくれていた人間がいたらしい。ならば、話も早いと苗木は地上に居る者達を招き入れたい。という旨を伝えた。

 

「うん! 大歓迎だよ! 搬入用のエレベーターはね……」

 

 シロクマに教えて貰い、共に地上に出た。かなり長い時間乗っていたのは、相当な距離がある為だろう。救援に来てくれた人達を歓迎しようと、エレベーターの扉を開いたシロクマが見た物と言えば。

 

「ギャアアッ!!」

 

 トラックはまだいい。問題は周りにいるスケボーを掲げた人間達だ。いつの間にか血は止まっていたようだが、衣服やスーツなどには乾いた跡があった。

 彼らの顔は土気色と言う訳でもないが、揃いも揃って真顔だったり多少のあざがあったりという統一感が不気味の谷を感じさせた。

 

『貴方が案内人ですね?』

 

 トラックから老人の声が聞こえた。彼はまるで異常事態とも思っていない位に平静な声をしていたので、シロクマは自らの思考を疑っていた。

 

「(そうだ。彼らはここまで来るのにきっと辛い思いをしたんだ。そんな人達を見た目で判断するなんて。僕はとんでもない過ちを犯す所だったよ!)」

 

 心がピュアな彼は考えを改めていた。トラックと共にヌケゾンビ達も招き入れて、再びエレベーターに乗って貯水庫に戻って来た。

 最初は避難民達も感激していた。トラックを見て、本当に助けが来たと思ったからだ。だが、やがて彼らは声を失うことになる。何故なら、周囲には大量のヌケゾンビがいたからだ。

 

「え? 何アレ?」

 

 悲鳴を上げる訳でもない。兎も角、困惑していた。なんで、この非常事態にスケボーを抱えているんだ? という疑問があった。だが、数名は堪らず彼らに駆け寄っていた。

 

「アンタ! 無事だったんだね!」

 

 ある老婆は老人に抱き着いていた。また、ある女性は年配の男性に抱き着いていた。こんな異常な状況下における別離は、永遠の別れにもなると思っていただけに、思いもせぬ再会に彼らは涙を流していた。

 各所で感動的なシーンが繰り広げられている中、苗木達はそっとスケートボードを差し出していた。シチュエーション的に意味が分からない行為ではあるが、感動の前には些細なことだった。

 

「なんか良く分からんけれど、ありがとうよ」

 

 老婆がスケボーを受け取りながら感動していると。不意に、抱き着いていた相手がスケボーに乗ってみせた。ほら、こんなことも出来る位に元気だぞ。と言わんばかりに。

 

「やだねぇ。年甲斐もなく燥いじゃって。こうやって、乗るのかい?」

 

 この老婆も緊張感による虚脱レベルの安堵で精神状態が弛緩していた。有体に言えば、判断力が落ちていた。長年連れ添っていた夫の真似をしてみると、スイスイと乗れた。

 こんな緊張状態の中、再会できた相手と興じられる娯楽にうつつを抜かしても良いではないか。こんな状況が周囲の至る所で発生していた。閑静だった貯水庫は、ジャージャーと言う音が響き始めていた。流石に、この異常事態には霧切も気が付いた。

 

「ちょっと、苗木君。何をやっているの?」

 

 こんなストレスの貯まる環境では心を解き放つ娯楽が必要なんだ。スケボーは正に打って付けと言わんばかりにスケボーを差し出していたが、霧切は冷たく払い除けていた。

 

「冗談はやめて。弱った人の心に付け込むような真似は止めなさい」

 

 普段はシュンとする所だが、今回ばかりは苗木も抗議する様に立ちはだかっていた。こんな弱った人達の力になれずに、ヌケーターは名乗れない。非常に強い決意が込められていた。

 が、ヌケーターは苗木1人ではないので霧切が彼を捕まえて、説教した所で避難民達に爆発的に感染していく。

 

「なんだか、皆も明るくなったし。いいのかな?」

「良くは無いだろう。多分……」

 

 高秋は外の状況を知っているので、現実逃避をしてしまう側の気持ちは分からなくはなかったが、石丸の父親と言う事でもあることからクソ真面目に事態に向き合っていた。

 避難所を占めていた陰気な空気は、ウィールが床を舐める音に置き換わりつつあった。

 

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