舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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30時間目:ダスター

「フフフ。召使の兄ちゃんもいい考えを思い浮かぶよね」

「狛枝の野郎。アレでも頭が回りやがるからな」

 

 蛇太郎と左右田は対ヌケーター用の兵器の開発を進めていた。

 先の放送はヌケーター達の足を止めて、攻略を遅らせるという目的があった。あの映像を流す様に促したのは、召使の少年こと狛枝凪斗だった。

 

「で、でも。都合よくアップデートパーツなんてよく転がっていたよね」

「塔和シティって言ったら、科学の最先端を行く街だからな。アレ位のものは開発していたってことだろ」

 

 現在は外の世界がそれ所ではないので、お蔵入りになってしまっていたが世に出る予定はあったのだろう。自分達からすれば価値の無い物であるが、あんなもので選択を狭められるなら儲け物だ。

 蛇太郎は自らに宛がわれた僧侶ロボット『ドクトルボンゲロ』が急ピッチで改造されて行く中、作業場に姿を現したのは件の狛枝凪斗だった。

 

「やぁ。作業の方は進んでいる?」

「なんとかな。一応、今の時点で出撃はさせられるけれどよ」

「良かったぁ。手遅れじゃなかった」

 

 なんか、今すっごい不穏な発言が聞こえて来た。手遅れじゃなかった。と言う事は、早速こちらに向かって来ているのだろうか?

 蛇太郎と左右田が抱いた疑問の答え合わせをする様に、このドクトルボンゲロが待機しているコロシアム付近の映像がモニターに映し出された。

 

『あー! 見て下さい! 燕尾さん! こうやって手勢を引き連れるって結構気分が良いですね! なんだか、王になった気分です!』

『気のせいだ』

 

 ヌケボーを背負ったヌケゾンビ達が列をなして向かって来ていた。先頭には大和田とヌケーターと化した雪丸、仲島の肩を抱く桑田に筋肉質の探偵である燕尾に自らの興奮をぶちまけるスーツ姿の探偵、網野が列をなして向かって来ていた。

 これには蛇太郎達も絶句していた。分散までは予想できた。その場合は、この『ドクトルボンゲロ・ダスター』によって追い返すつもりだったが、数で攻められるとは思わなかった。

 

「左右田の兄ちゃん。魔物ってクソだね」

「信じられねぇ。まさか、ヌケゾンビの力まで使いやがるとは」

「ヌケゾンビってなに?」

 

 蛇太郎と左右田が悪態を吐く中、狛枝だけは他人事のように尋ねて来た。ヌケゾンビなんて単語、聞いたことが無いからだ。

 

「ヌケーターの能力の一つだよ。肉体的には死んでいても、離れかけた魂をスケートボードで繋ぎ止める技だよ」

「急にラノベとかアメコミみたいな話になっていない?」

「知るかよ! 出来ているんだから認めるしかねーだろ!!」

 

 簡単に死と言う概念をひっくり返して来る存在にドン引きはすれど、狛枝は若干興奮していた。

 

「だけど、凄いよ! 死なんて言う絶対的な絶望をひっくり返すなんて! この光景は間違いなく希望に繋がっているよ!」

「繋がっているのはヌケ望じゃねぇかな」

 

 左右田が冷めた意見をぶっこむが、こうも大挙してこられては悠長に改造している暇はない。少なくとも実戦に出せる段階であるなら、引っ張り出さずにはいられなかった。

 

「左右田の兄ちゃん。コレ、行けるかな?」

「やるしかねぇだろ! いざとなったら、俺もやる!!」

 

 スーツの各所に鉄板が付けられたエンジニアスーツのフェイス部分を閉じた。手には未来を先取りしたかのようなレーザー技術を用いた切断道具。コレを使えばヌケーター達の原動力であるスケボーの切断も出来るが。

 

「焼け石に水だよね」

「うるせぇ! こんな時に日向の奴は来ねぇしよ! お前、何か知らねぇか!?」

「あ。彼なら、今回の騒動に関わらないってさ」

「ふざけんなよ!」

 

 超高校級の絶望の矛先は身内にも向かうらしい。前門のヌケーター、後門は一抜けたー。……正直に言うと詰んでいた。

 

「もうダメダメな感じだよね。でも、何処までやれるかだけ。ちょっと気になるんだよね。案外勝てるかも」

 

 とても不思議な話だが、何もかもがダメダメになった所で逆に蛇太郎のやる気は湧いていた。諦観とも自暴自棄とも言えるが、こんな状況下だからこそ目的の為に動こうとするスタンスに左右田は感心していた。

 

「だよな。俺達でこんな窮状、切り抜けてやるぞ!」

「素晴らしいよ! 現実ってクソゲーに抗おうとしている!」

 

 現実は自分達の想像をはるかに超えて理不尽だが左右田と蛇太郎は戦おうとしていた。この希望溢れる姿を祝福せずにはいられない、狛枝は褒めるだけ褒めていたが、間もなくして一団がコロシアムに入場して来た。

 

~~

 

 コロシアムの様相は異常だった。観客のモノクマキッズ達は揃ってゴミ箱を抱えており、コロシアム内も隅の方には大量のゴミ箱が設置されていた。さながら儀式のようなありさまだった。

 

「何ですかコレ?」

 

 網野が疑問を思い浮かべる中、大和田と桑田が慄いていた。彼らがビビる様子を見に来たのか、奥の方から蛇太郎とエンジニアスーツに身を固めた左右田が現れた。

 

「驚いた。ヌケーター達がゴミ箱を苦手としているのは、とっくに把握しているんだよね」

 

 2本のレバーしかないシンプルなコントローラーを手にした彼が、起動ボタンを押すと、コロシアムの地面から巨大な質量が飛び出して来た。

 ただし、見た目は人型ではない。まるでドラム缶の様な寸胴な見た目に、シンプルな4本の手足が生えただけの。本当に子どもがデザインしたかのような簡素なロボットだった。頭部の蓋のような部分がパカリと開くと、大量のごみを撒き散らしていた。

 

「うわ! 汚い!」

 

 スーツが汚れるのを嫌った網野が下がり、観客席にいたモノクマキッズ達やヌケーターとヌケゾンビ達に大量のごみが降り掛かる。概ねのゴミが紙だったのは、せめてもの良心だろうか。

 

「食らえ!!」

 

 ドクトルボンゲロ・ダスターはゴミを撒き散らすゴミ箱と化していた。コロシアムのリングに入って来たヌケゾンビやヌケーター達にゴミをぶつけ、フィールド内に設置されているゴミ箱を投げつけて来た。

 これにはヌケゾンビ達も堪らず吹っ飛び、会場内をバウンドしまくり。モノクマキッズやヌケゾンビ達を巻き混んで迷惑を撒き散らしていた。

 

「うぉおお! 効いている!!」

 

 蛇太郎の興奮を他所にヌケゾンビ達はまるで恐れを知らず突っ込んで来た。次々にゴミ箱を投げ捨て、時にはモノクマキッズ達からゴミ箱を受け取っては投げつけていた。

 アレほどいたヌケゾンビ達が次々と吹っ飛ばされ、あるいは地面に埋まって行く様には恐怖を覚えた。中にはゴミ箱の内部めり込んでいる者すらいた。

 このままではヌケーター達ですら押し切られる。危機感を抱いた大和田達がスケボーにライドした所で、蛇太郎の傍に立っていた左右田も同じくスケボーに乗って、フィールドに降りて来た。

 

「やらせねぇよ!」

 

 自身もゴミ箱をぶつけられ、首をガクンガクンさせながら相対している様子はホラーめいていたが、ドクトルボンゲロ・ダスターに近付けさせまいとする左右田の攻撃は殺傷能力も含んだ物だった。

 3本のレーザーサイトがヌケーター達のスケボーを捕え、プラズマカッターが飛んでいく。ギリギリで避けているが、避けた先にあったゴミ箱は鎔断されていた。

 

「網野。行くぞ」

「え?」

 

 フィールドから観客席には簡単に侵入できないような構造になっていたが、今は吹っ飛ばされたヌケゾンビ達による足場が出来ていた。また、防御フェンスにもヌケゾンビ達が突き刺さっている為、人が通るだけの穴も開いていた。

 

「私も!」

 

 自分の兄(従兄)が戦っているのに何もしない訳にはいかない。仲島もまた燕尾達と行動を始めていた。小柄な彼女はヌケゾンビ達が空けた穴を通り抜けようと上半身を通した所で、モノクマキッズ達に押し返されようとしていた。

 男子も女子も同じ様にグイグイと追い返されようとした所で、彼女は叫んでいた。

 

「えっち!!」

 

 ピタリと男子モノクマキッズの手が止まった。女子モノクマキッズ達が咎めるような視線を彼らに向けていた。幾らモノクマ仮面を被っていても許容できないラインは存在しているらしい。

 そんなことをされている間に仲島は開いた穴を通り、更に穴を広げて燕尾達も通れるスペースを作っていた。

 

「上出来だ」

「やりますね!」

 

 網野が惜しみない称賛を送った所で、キッズ達の視線がギョロリと彼の方を向いた。まさか、今の一言で存在がバレてしまったのか?

 キッズ達がスッと何かを掲げた。以前、網野がモノクマキッズ達を撒く際に使った銀のカードと金のカードである。指定枚数にはそれぞれ1枚足りない。

 

「あ。アハハ。もっとよく探さないとホラ」

 

 キッズ達の仮面越しに怒りが伝わって来た。汚い大人の見本だ! 幸い、モノクマを連れて来てはいないのでキッズ達に囲まれてボコボコにされる程度に収まっている中、燕尾と仲島は蛇太郎の下に辿り着いていた。

 

「アレ!? なんでここに!?」

「遊びは終わりだ」

 

 子供の膂力で大人に対抗できる訳がなく、瞬く間に蛇太郎は組み伏せられた。コントローラーは仲島が取り上げていた。

 

「素顔の方を確認させて貰うぞ」

「あ! 止めて! ボクの顔を見たら目が腐っちゃうよ! ホントだからね!」

 

 子供の戯言と切り捨て、燕尾が彼のマスクを剥ぎ取った所。現れたのは……非常に端正な顔立ちをした、美少年と言っても差支えの無い子供だった。

 

「え。可愛い……」

 

 今まで、散々な目に遭わされてきた仲島でさえ漏らしてしまう程の顔だった。

 コントローラーを取り上げられたことにより・ドクトルボンゲロ・ダスターは動きを停止したが、直ぐに左右田が壁を伝って機体の頭頂部に昇ると同時にハッチを開いて、機体に乗り込んだ。

 

「ボンゲロ・ダスターは終わらねぇ!!」

 

 フィールド内のゴミ箱は粗方投げ終えて、ダスター内のごみも殆ど無くなっていた。あっちこっちにゴミが散乱し、ヌケゾンビ達が横たわる惨憺たる有様だったが、大和田や桑田、雪丸達の瞳から闘志は消えていなかった。

 だが、投擲するだけのゴミもゴミ箱も無い。左右田はボンゲロ・ダスターを寝かせた後、手足を引っ込めさせた。

 

「俺自身が! ゴミ箱になることだ!!」

 

 コックピット内で左右田はエンジニアスーツを脱いだ。するとヌケーターとしての能力が干渉したのか、ボンゲロ・ダスターは高速で回転を始めた。

 こんなことをしたら内部のパイロットはGでブラックアウト物だが、彼は機体内に体が埋まる程度で済んでいた。

 触れる物全てを吹き飛ばす嵐と化したボンゲロ・ダスターは荒れ狂い、ヌケゾンビを始めて、ヌケーター達すら吹っ飛ばしていた。

 相手が機械であるならヌケーターとしての能力で処理できるが、ゴミ箱が相手ならば一方的に打ちのめされるだけ。誰もが膝を着きそうになった時、仲島は手にしたコントローラーを見ていた。

 

「……えいっ」

 

 2本のレバー以外に付いている起動ボタンと思しき赤いスイッチを押し込むと、ボンゲロ・ダスターは姿勢を正して、棒立ちになっていた。多分、初期化のボタンだった。

 

「でかした!!」

 

 すると、燕尾はいつの間にか網野から奪い取っていた拡声器型ハッキングガンと自前の物を構えて、ダブルトリガーで引き金を引いていた。

 頭頂部に露出した赤いコア部分には薄っすらとモノクマのフェイス部分が浮かんでおり、そこに大量のハッキング弾が突き刺さった。内部に自壊する為のコードが走り、機体の各所で爆発が起きる。

 

「……」

 

 エンジニアスーツを脱いだことで喋れなくなった左右田は必死に機体を持ち直そうとしたが、動かない。

 

「壊れろ! 壊れろ!!」

「止めてー!」

 

 蛇太郎の悲痛な叫びも無視して、燕尾は引き金を引き続けた。許容を超えた自壊命令により、ボンゲロ・ダスターは限界を迎えた。

 機体の各所から火が噴出し、ゴミ箱のような増加装甲が剥がれたと思ったら普通の人型機体が現れた。しかし、活躍することも無く吹き飛んでいた。

 その折、内部でパイロットをしていた左右田が弾き出されていた。爆発の影響でか、黄色いツナギは殆ど焼け落ち、周囲には奇妙なエンジニアスーツが転がっているばかりだった。

 

「……終わった?」

 

 仲島が不安げに呟いた。モノクマキッズ達は逃走を始め、ヌケゾンビ達もムクリと起き上がり、スケボーを掲げていた。

 

「終わった様ですね……」

 

 顔面に引っかき傷や青あざを作った網野がヘロヘロになりながら駆け寄って来た。拠点を制圧した後、燕尾は蛇太郎を捉えたまま、奥へと進んで行く。

 

「アップデートパーツは何処だ?」

「奥を進んだ所にあるよ。ねぇ、早く。マスク被せてよぉ、落ち着かないんだ」

「駄目。可愛いから」

 

 精神的な余裕が出て来たのか、仲島はちょっとしたSっ気を発揮していた。

 彼の言う通り、奥へと進んだ先にアップデートパーツはあった。大人でも運ぶのは少し苦しいサイズだった。

 

「ヌケーターやヌケゾンビ達は運べないから、俺達で運ぶしかねぇか」

「えぇ……」

 

 網野と仲島が顔をしかめるが、そうすることでしか運べないのだ。敵を倒した後に待ち受けている更なる労働に辟易しながら、残された数少ない一般人である彼らは運搬任務をさせられる羽目になった。

 ただ、2つもある為、片方は燕尾と網野で運べたとしても、もう一方は仲島の手で運ぶことは出来ない。2往復することになるかとも思っていたが、彼女達の目の前に例のエンジニアスーツを着た人間が現れた。

 

「誰!?」

「落ち着けって! 俺だよ、花音!」

「お兄ちゃん!?」

 

 その声は電子音混じりではあったが、確かに桑田怜恩の物であった。何故、彼が喋れているのかは全く分からなかったが、彼はひょいとパーツを持ち上げていた。

 

「悪ぃ、花音。前方の案内を任せた」

「分かった! 任せて!」

 

 正に有頂天と言った感じで彼女が案内をしている傍ら、蛇太郎と左右田はヌケゾンビに預けられ、拠点へと戻る準備が進んでいた。

 

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