舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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32時間目:ディア

 塔和シティを未曽有の混乱へと陥れた首謀者達が確保されながらも、何一つ混乱が収まってはいなかったが、ひと先ず命の危険が遠ざけられたと言う事で未来機関は撤退することにした。

 

「あの。何一つ、騒ぎが収まっていないんだけれど」

 

 シロクマが見渡す限り、確かにモノクマが誰かを殺したりするようなバイオレンスな光景は無くなったが、ヌケゾンビ達が徘徊し、モノクマキッズと一緒に遊んでいる様子は、この世の終わりぶりを端的に表していた。

 霧切としては薄情な話ではあるが、早い所。五月雨結のことを治療したいので去りたかったのだが、放っておくのも寝覚めが悪かったので苗木に尋ねた。

 

「苗木君。どうにか出来ない?」

『する必要ある?』

「問題しかないよ!?」

 

 大人も子供も一緒に手を取り合い、遊んでいる光景に水を差す必要があるのか? と、言いたげそうな表情だった。

 ただ、シロクマ的にも文化的で最低限の生活を送れていないことは問題視していた。苗木は更にお絵描きボードに書き込んでいた。

 

『文化と格差は差別を生み、憎悪を作り出す』

「急に社会派めいたこと言われても……」

 

 だから、このまま差別も憎悪も無い状態が一番だとは思わないか? と、どう足掻いてもこの状況を直したくないらしい。

 シロクマが困っていると、塔和灰慈の方に目を向けた。彼ならばきっと、塔和シティの長として反対してくれるはずだと。

 

「なぁ、俺も未来機関の方に行かせてくれないか? 皆、上手くやっているんだ。今更、オレなんて必要ねぇだろ」

「灰慈クン!?」

 

 あまりの薄情ぶりにシロクマが愕然としていたが、霧切達は渋い顔をしていた。

 コイツ、今回の騒動で何かしていたっけ? 声が良いだけの葉隠レベルにしか思っていなかったので、非常に渋っていた。

 

「保護プログラムの一環として、貴方を受け入れるつもりはあるけれど」

「なら、それでいい。こんなヌケボーだらけの島とはとっととオサラバしたかったんだ!」

 

 セリフに三下感が滲み出ていた。いよいよ、シロクマはこの塔和シティを誰も保護する気が無いことを認めざるを得なかった。

 

「あの、もしかしてだけど。未来機関としてはここをヌケボー・アサイラムみたいにするつもり?」

「私の一存では何とも言えないけれどね。一先ず、無事な人を保護する為に帰還する予定」

 

 本当に戻って来るんだろうか? シロクマの表情に不安が浮かぶが、霧切の言う通り帰還する必要があるのは本当だった。

 

「わ、分かった。それまでボクが管理しておくから、戻って来てね?」

「えぇ。戻ってこれたら、戻って来るわ」

 

 やらない奴の定型文だった。未来機関の迎えが来るまでの間に、入手したアップデートパーツをカプセルに取り付ける。

 最初はケンイチロウの方で実験が行われ、内部では細かくアームなどが動いている。外科医でない自分達には何が行われているかは理解できずに太市の方を見た。

 

「数値的にはかなり改善されている。もう少し、見守っていよう」

 

 頻りにカプセル内でアームが動き、何やら色々な処置が行われている……数日は掛かるかと思いきや、意外と1時間ほどで済んでしまった。

 表に出たケンイチロウはよろめいており、大神に受け止められていたが、彼の顔は穏やかな物だった。

 

「さくら、待たせた」

「まだリハビリは必要と言った所か」

 

 彼女は確信していた。病魔に蝕まれて衰弱していたが、目の前の男は死の淵から蘇って来たのだと。その証拠に覚束なかった足取りは、しっかりと地面を踏みしめていた。

 

「大神さん。良かったわね」

「うむ。殆ど、我は何もしていなかった気がするが」

 

 来た時は色々と動いていた気がするが、最終的にヌケゾンビVSモノクマの様な構図になっていたので、傍観者の立場になっていたが恩恵にはあずかりたい。

 霧切が太市の方を見て頷いた。間もなくして、五月雨結が収められたカプセルの方でも治療が始まった。

 彼女が固唾を飲んで見守っている間に未来機関のヘリが到着し、今回の騒動で問題となった人物達が連行されて行く。モナカと大門を除く希望の戦士達に左右田と狛枝。ついでにクロクマの残骸……。

 

「僕達は何処に連れて行かれるんでしょうか?」

「然るべき処置を受けて貰う」

 

 狛枝の質問に対し、未来機関の構成員はそれしか言わなかった。処刑される可能性も無くはないが、狛枝は自分が死ぬとは露ほども思っていなかった。

 未だにカプセル前で祈る様にしゃがみ込んでいる霧切の方を一瞥しながら、彼はヘリに乗り込み……本土の方へと送られて行った。

 救助された者達も別のヘリへと乗り込んで本土へと送られて行く中、霧切と探偵達。ペニーと太市。苗木と大神だけは残っていた。

 

「苗木君。貴方は妹さんと先に帰っても良かったのよ?」

『最後まで見る』

 

 スケート以外に彼が興味を持つというのも珍しい話だった。これでも自分達のことを気にしてくれる優しさを持っていると言う事は霧切も知っている。

 カプセル内で動くアームの動きがやがて緩やかになって行き、施術を終了したかのように動きが止んだ。眠っている結の目が、ゆっくりと開いて行く。

 

「結姉さま……」

 

 そっとカプセルに近付く。結はカプセル内で口を開こうとする動作をしていたが、声の方は出ていなかった。

 

「無理をするな。人間は喋らずにいると、喋ることが出来なくなる」

「大神様のおっしゃる通りです」

 

 医療の方にも心得があるのか大神が短く告げた内容にペニーが同意していた。彼女はどれだけ眠っていたのだろうか、カプセル内でも自分が置かれた状況が分からずに困惑している様だった。

 

「結姉さま。目を覚ましたなら、ゆっくりと休んで。そしたら、眠っていた間の話をたくさんするから。皆と一緒に」

 

 言葉は喋れない相手に意思疎通をすることにはすっかりと慣れていた。優しく語り掛けるように言うと、カプセル内にいる結も柔らかい笑顔を浮かべていた。

 彼らを乗せたトラックが本土へと戻って行く。激闘の後だというのに、荷台の中は優しい空気に包まれていた。

 

~~

 

 全てが去った後の塔和シティ。ヌケゾンビとモノクマキッズによる混沌が勝手に収まる訳もなく、無法地帯となっている中。1人の少年が廃墟と化した街を練り歩いていた。隣には、ヌケーターと化した大門大を連れていた。

 

「素晴らしい。この街は僕が理想とした姿です」

 

 大門に聞かせるようにして、実際には誰にも聞かせる気の無い独白だった。

 無造作に延びた髪は地面に着きそうな程に長く、深紅の瞳が見つめる先には、ヌケボーを貪るヌケゾンビ達が居た。

 

「遅かったじゃん」

 

 少年が向かった先にはシロクマが居た。ただし、その声色は灰慈や皆に接していた時の様に優しい物ではなく、何処か気まぐれで移り気な物を感じる軽薄な物になっていた。

 

「少し、街を見て回っていました。恐怖も不安も希望も絶望も無い。誰もがヌケーターと化した世界。ここまでは予想通りでツマラナイ範囲ですが」

「あくまでアンタにとっちゃ仮定だもんね。仕上げはどうするつもりで?」

「僕も未来機関に出頭することにします。彼らが希望校正プログラムを組み上げていることは知っていますから。プログラムを内側から食い破るのは、僕らの得意としていることです」

 

 彼は無造作に延びた髪に手を突っ込み、スケボーを取り出していた。

 まるで、トーストの上にバターが乗っている様に。白飯の上に明太子が乗っている様に。彼がスケボーに乗っているのは世界の理であり常識であるが如く自然であり、極上の相性を体現していた。

 

「そっかぁ。私のオリジナルはポンコツになっていたし、アンタが向こうで何をするか期待しておくよ。超高校級の希望……いや、ヌケーター。カムクライズルさん?」

 

 シロクマに一切の返事をせずにカムクライズルはスケボーに乗って進んで行く。

 大門も共に並走していたが、あまりにカムクラのスピードが速く付いていけない。やがて、塔和シティの端に辿り着いた。

 本土までは相当に距離が開いており、船か何かを使わなければ渡れず、こまるや苗木でさえ沈んでしまう鬼門であったが、彼は違った。

 

「ツマラナイ」

 

 彼を乗せたスケボーは水切りの様にして水面を跳んでいた。

 文字通り、進むことが詰まる。という事態は一切起きないまま、彼は塔和シティから本土の方へと向かっていた。

 

~~

 

 塔和シティでの騒ぎを収めてから数日後。78期生は功績を認められ、正式に未来機関の構成員になっていた。

 

「私が眠っている間に、そんなに世界が色々と動いていたんだ」

 

 五月雨結が乗った車椅子を手押ししながら、霧切は改めて世界情勢を説明していた。彼女は5年以上も眠っていたのだ。加えて、治療を終えたとしても彼女の足は完治することは無かったので、義足へと置き換わっていた。

 

「私も途中の2年位の記憶は抜けているから、合っているかどうかは情報でしか知らないけれど」

「新仙帝が言っていたのは、この事態に向けてのことだったのかな」

「彼が結姉さまに何かを?」

 

 当人達しか知ることのない事情を話している中、未来機関内では78期生達がパタパタと動き回っていた。今、彼女達の目の前を横切ったのは不二咲だ。すっ転んでいた。

 

「不二咲君。大丈夫?」

「あ、ごめん。ちょっと急いでいて」

 

 落した書類を共に拾い集めていると『希望校正プログラム』という文字が目に入った。そう言えば、彼は超高校級の絶望と呼ばれる者達の治療を担当していたと記憶している。

 

「もう少しでプログラムの方が運用されるのよね?」

「うん。まさか、最後の1人が自分から出頭して来るとは思っても居なくて。計画が少し前倒しになったからね」

 

 先日、塔和シティで捕縛してから僅か数日後に77期生最後の1人が出頭して来たのだ。彼は抵抗も何もなく従順に従ったというのが、奇妙な話だった。

 

「実は全員が集まるのを待っていた。とか?」

 

 車椅子に座りながら色々な可能性を巡らせる結の目には、かつての探偵としての活力が宿っている様に見えた。釣られて、霧切も不二咲に尋ねていた。

 

「不二咲君。出頭して来た最後の1人は何者なの?」

「カムクライズル。だって」

 

 霧切の呼吸がピタリと止まった気がした。まさか、ここでそんな名前を聞くことになるとは思わなかった。塔和シティの一件と言い、最近は過去の出来事が付き纏って来るようだ。

 

「霧切ちゃん。知っているの?」

「色々とね。かつて、調べていたことがあったのよ。今はステーキと化したアレに頼まれてね」

 

 施設内ではビタンビタンとステーキが跳ね回っていた。一体、アレに何の仕事があるというのだろうか? と言うのは疑問として付き纏っていた。

 

「こ、個性的な肉だね……」

「無理しなくても良いと思う。あ、ごめん。もう行かないと!」

 

 不二咲としてもアレに人間的なパーソナリティを求めるのは無理があると考えていたらしい。自分が急いでいたことを思い出して、彼も足早に去って行った。

 暫く、車椅子を押していると人気のない場所。いや、霧切に宛がわれた個室へと辿り着いていた。

 話したいことは沢山あった。謝りたいことも。言いたかったことも。普段は冷静沈着な彼女の中でも整理しきれない程の言葉の奔流があった。

 

「霧切ちゃん。ゆっくりとで良いから、貴方の想い。聞かせて?」

「……はい」

 

 世界には悲しみと絶望が堆く積もっている。だが、今この瞬間だけ。この空間では分厚く積み重なった後悔が溶けようとしていた。あの日、伝えきれなかった想いを小さく、小さく吐き出していた。

 

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