舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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 黄桜から聞かされた話は信じられないことばかりだった。

 自分が希望ヶ峰学園に入学してから2年以上の月日が経過しており、78期生は仲の良いクラスメイトだったこと。そして、自分達は学園に閉じこもる道を選んだということ。

 

「すっかり記憶が消されているってことか。仲の良さで有名だったのに、えぐいことしやがる。内部に第三者が潜んでいた……って可能性は低いのか。じゃあ、予め悪意を持った人間がいたってことか? 誰か心当たりはあるか?」

 

 黄桜が思考を働かせる中、外では変わらず轟音が鳴り響いている。敵側の攻勢が強まっている様だった。

 

『江ノ島さん。モノクマ動かしていた』

「超高校級のギャルが? 万が一、生徒全員が救出された際には役に立つ情報だが……」

 

 現状では、黄桜達からのアプローチ方法が無かった。学園側の近付かせまいとする防衛力が強すぎる為だ。

 生徒全員が無事だったこと、彼らがどういった状況に置かれているかということ。救出対象の状況が知れたことは、黄桜にとっても大きな成果だった。

 

「よし。苗木君、君達の身柄は一旦、こちらで保護させて貰う。後は俺達に任せてくれ。ここまでよくやって来てくれた」

 

 あんな危険地帯を突破した情報を報せてくれたことは喜ばしい。

 勿論、全てを信じた訳ではない。偽の情報を掴まされている可能性もあるし、こちらを焦らせる為に絶望側が送って来た工作員かもしれない。

 情報を精査する必要はあるが、一つも手掛かりがない現状では情報源として有難く……教員として生徒の無事を喜ばしく思っていた。苗木がペンを走らせた。

 

『いえ、僕は戻ります』

 

 彼の決断に、黄桜達は小さく息を飲んでいた。だが、理由は分かる。

 78期生と言えば、歴代希望ヶ峰学園の中でも特にクラスメイトの仲が良かったことで有名だったからだ。堪らず、女性の同僚が叫んだ。

 

「無茶よ!? 私達でさえ近付けない学園に!? こうして、貴方が今ここにいるのも奇跡みたいな物なのよ!?」

 

 正論だった。自分のことを本気で心配してくれている様子も伝わって来た。

 自分が誰かに思われていることは嬉しくはあった。だからこそ、自分はあの学園に戻る必要があると考えていた。

 

『ボクでないと。出来ません。皆に希望を持って行かないと』

 

 この内容を見た黄桜は溜息を吐いていた。まるで、彼ならこう言うのではないのだろうかと想像していた様に。

 

「仁が言うだけあるよ。ただ、一つ確認するぞ。戻れるんだな?」

『できる』

 

 一介の少年にしか過ぎない彼が、あの殺意の奔流を潜り抜けられるなんて思わなかった。だが、実際に自分達の下へとやって来たのは事実だ。

 

「分かった。記憶が消されているって言うなら、かなりショックな話だろう。真実を話せば動揺したり、江ノ島が何かしらのアクションを起こすかもしれない。それと、これを持って行け」

 

 筆談に使っていたメモ帳とペンを渡された。言葉を話せない苗木にとっては、他者とコミュニケーションを図る上で非常に重要な物だった。彼らに感謝する様にお辞儀をしてみせた。

 

「これ位で済むなら安い物だよ。もしもの時の為に無くして良いダミー用と本命を持たせておく。皆を頼んだぞ」

 

 ダミー用は、苗木のパーカーのポケットやポシェットに入れ、本命は彼のパーカーの内側に縫い付けていた。そして、もう一つは本人経っての希望でスケートボードの裏側に貼り付けていた。

 テントの外に出る。どんどん爆撃音が近付いてきている。多くの時間は残されていない。ボードに全身を預け、地面をプッシュする。

 頭上を見れば、モノクマの意匠が取り込まれた爆撃機が迫っていた。機体下部が開き、大量の爆弾が投下された。殺意の爆炎が渦巻く中、苗木は背後を振り返らずに再び希望ヶ峰学園に向かった。

 

~~

 

「苗木君、無事でしょうか?」

 

 舞園が不安そうに声を上げた。一旦、全員で食堂に戻って彼の帰還を待っていたが、中々に帰って来ない。何時間も経っている訳ではないにしても、彼への期待が時間の感覚を狂わせていた。

 

「もしも、彼が帰還できなかった場合も考えておかないとね」

「意外と酷薄だな。だが、霧切の言う通り。アレが帰還できない場合は、そもそも外の世界の方に何かが起きている可能性が高い」

 

 最悪のパターンを霧切が淡々と言い、同じ様に十神もそこから続く推論を述べた。これに声を上げたのは大和だった。

 

「テメェら、聞いていれば薄情なことばっかり言いやがって! アイツのことが心配じゃねぇのか!?」

「え? 大和田殿が言うのですか?」

 

 山田の記憶にある限りでは、苗木に唯一直接的な暴力を振るった人間が大和田だったのだが、本人は忘れているのだろうか。

 

「心配だから、彼の勇気が無駄になってしまわない為に思考しているのよ」

「霧切っち。あんまり嫌なことを言わないで欲しいんだべ……」

 

 彼が外から何かしらの情報を持って帰って来ることをアテにしていた葉隠としては、そんな最悪のパターンは何としても避けたい所だった。

 針が進む音さえ苦痛に感じていると、別の音が混じって来た。ガーガーとローラーが床を擦る音。舞園が立ち上がった。

 

「苗木君!?」

「ぶっぶー。僕です!」

 

 やって来たのはモノクマだった。嫌がらせのタイミングとしては最高に最悪だった。皆に見せつける様にして、スケートボードで滑っていた。霧切が尋ねた。

 

「何の用?」

「酷い。僕は可愛いオマエらの様子を見に来ただけなのに。一応、初日の特典として何か分からないことを聞き取りに来てやったんだ。これは大サービスだよ! まぁ、お前達が知りたがっていることは殆ど教えないけど」

 

 彼らが共通して抱いている疑問はデスゲームの進行に関わることだから、聞いた所で無駄だろうと。そもそも、この挑発的な振る舞いを相手にするのも面倒臭いと考える中、遠慮がちに舞園が手を上げていた。

 

「あの。苗木君って何者なんですか?」

「うーん、実は僕もよく分からないんだよね。いや、現実的に考えてアレおかしくない? むしろ、この中で一番苗木君のことを知っているのは君だと思うよ?」

「そうなの?」

 

 思わぬ所から出て来た情報に霧切も興味を持ったようだ。モノクマに喋らせるよりかはマシだということで、他の生徒達も気にしている。

 と言っても、持っている内容は大したことではないのでザックリと話した。同じ中学に通っていたこと、学校に迷い込んだツルを助けたということ。

 

「そこから先は芸能活動とかも忙しくなったりして、交流は殆ど無くなったんですけれどね。でも、当時の苗木君は普通の男子でした。スケートボードに乗っている所とかも見たことが無かったです」

「あなたの知らない中学時代。あるいは、希望ヶ峰学園に入学するまでの間に何かあったのかしら? 希望ヶ峰学園は普通の高校とは違うから」

 

 霧切がザックリと可能性を上げた。希望ヶ峰学園はスカウト制になっている為、入学時期についても生徒ごとに違う場合もある。セレスも続いて声を上げた。

 

「モノクマさん。私達が希望ヶ峰学園に勧誘されたのは才能を見出されてのことですが。苗木君も勧誘される程の結果を残していたということですよね? それはいつ頃で?」

「あ、すいません。生徒のプライバシーは軽々に公表できないので」

「一番、僕達のプライバシーを侵害している奴が何か言っていますね」

 

 山田の言う通り、監禁しているモノクマに言えた義理は無いと思ったが、それはそれとして別問題なのだろう。学園長として生徒の個人情報を守るつもりはあるらしい。

 彼の素性調査に行き詰った所で、再びローラーが床を舐め上げる音が聞こえて来た。今度は疑う必要も無いだろう。

 

「おぉ! 苗木君!!」

 

 石丸が声を張り上げた。そこには衣服をボロボロにした状態の苗木が居た。

 皆からも歓声が上がる中、彼はポケットやポシェット。更にはスケートボードの裏を調べていた。ボロボロの紙屑と木っ端みじんになった部品が出て来るだけだった。彼はしゃがみ込んで、頭を抱えていた。

 

「苗木よ。何故、お前はそこまでボロボロになっているのだ?」

 

 大神が抱いた疑問は誰しもが抱いたことだろう。外には見慣れた世界が広がっているハズではないのか? ボロボロになる程の環境が広がっているのかと。

 どの様にして伝えるべきかと苗木が頭を抱えていると、霧切が彼に近付いて来た。そして、ボロボロになった紙くずや部品を拾い上げた。

 

「これはペンの部品ね。火薬の臭いもしている。……貴方が喋れないなら、私達からの質問形式にするから。ジェスチャーで答えて」

 

 苗木が頷いた。彼が持ち帰って来た品から、ある程度外の状況に予測が付いた霧切は真剣な面持ちをしていた。自分達が想像以上に悪い状況に置かれていることを察したらしい。

 

「何々? 僕にも聞かせてよ!」

「聞くなって言いたいが、無駄なんだろうな」

 

 この学園の状況を把握しているモノクマを遠ざけるのは現状不可能だという、十神の考えは殆ど正解だった。聞かれるのも承知の上で霧切から質問が始まった。

 

「苗木君。外は安全な状況だった?」

 

 首を横に振った。全員の顔に緊張が走るが、霧切に動揺は少なかった。彼が持ち帰った品からある程度推察出来ていたこともあったのだろう。

 

「ペンを貰ったということは人はいたのよね? その人は貴方に協力的だった?」

 

 頷いた。皆の緊張が少し解れた様に思えた。自分達を助けようとしてくれる人間はいる。何とかしてくれるかもしれないと。だから、次の質問は彼らに現実を突きつけることになった。

 

「その人達は私達を救助、あるいはこの状況をどうにか出来そうだった?」

 

 苗木はピタリと止まって、皆の顔を見た。不安そうにしているし、首を縦に振って欲しいという期待が見て取れた。

 

「嘘はつかないで」

 

 彼らを安心させてやりたいという気持ちは見透かされていたのか。苗木は自分の見て来た光景から判断して……首を横に振らざるを得なかった。全員の表情が曇る中、モノクマの表情だけが喜色に満ちていた。

 

「いやぁ、希望を持って出かけた君が皆に現実を押し付けるとはねぇ。中々、乙なモンだよ! ぶひゃひゃひゃ!」

 

 耳障りな笑い声に全員の堪忍袋の緒が刺激されたが、暴行を加えたら何が起きるか。ということを目の当たりにしていたので、誰も手を出せずにいた。

 暫くの間、霧切からの質問攻めが続いていたが、その様子を見た舞園はふとした疑問を思い浮かべた。

 

「(霧切さん。どうして、こんなに尋問になれているんでしょうか?)」

 

 ひょっとして、超高校級の尋問官。あるいは刑事だったのか? それに近しい才能となったら数は多くない。彼女が持つ推察力も含めて、舞園は霧切が持つ才能を推測していた。

 

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